残業代未払いは労基署に相談できる?弁護士との役割の違い
肉体的・精神的に大きな負担となる残業ですが、残業問題を解決したくても、最適な相談先がわからないと困ってしまいますよね。
労働基準監督署(労基署)は会社の労働基準法違反の確認と、違法状態の解消を行う組織です。労働問題に関する相談も受け付けているため、残業代未払いに関する相談も可能です。
しかし、労基署の役割を理解していないと、労基署に相談してもお悩みが解決せずに、他の相談窓口を探すことが必要になるかもしれません。
この記事では、残業代未払いの相談を適切に行いたいという方に向けて、 労基署の役割や具体的にしてくれること、残業の相談が可能な窓口について解説します。
目次
労基署は是正勧告等で違法な会社の対応を正す公的機関
労働基準監督署の役割は、以下の5つです。
労基署の役割
- 申告・相談の受付
- 労働基準法に基づいた事業場への監督指導
- 重大・悪質な事案に対する任意捜査や強制捜査
- 労働安全衛生法に基づいた事業場への指導
- 労働者災害補償保険法に基づいた調査や保険給付
監督課・安全衛生課・労災課が上記の業務を行っています。
特に残業代について問題となるのは1,2,3です。
1.申告・相談の受付
監督課では、労働条件や労働問題などの労働者からの相談を受け付けています。
受け付けている相談の範囲は、未払い等の賃金に関する相談のほか、解雇、雇い止め、配置転換、いじめやパワハラ等など広範にわたります。もちろん、残業代についての相談も受け付けています。
また相談者の勤務している企業が労働基準法に違反しているような場合、これに対する行政指導を求める申告も受け付けています。
2.労働基準法に基づいた事業場への監督指導
労働基準監督所は労働者からの相談があったとき、事業場への立ち入り、設備や帳簿の検査、労働条件の確認などを行います。
調査の結果、労働基準法違反が認められた場合には、事業主に対して是正指導を行います。危険性の高い設備がある場合には、その場で使用停止などを命ずる行政指導を行うこともあります。
労働基準監督署が行う監督指導としては「代表者の呼び出し」「立ち入り調査」「是正勧告」があります。
監督指導の流れ① 代表者の呼び出し
労働者からの相談を受けた労働基準監督署は、聞き取りした内容に従って本当にその会社が労基法違反を犯しているのかどうか調査を開始します。
調査の方法としてはまず代表者の呼び出しがあります。
労働基準監督署から呼び出された代表者は、以下のような書類を準備するように指示され、労働基準監督署へ出頭します。
- 就業規則
- 時間外労働・休日労働・労使協定に関する書類
- 労働時間が確認できる書類
- 健康診断表
- 衛生委員会の議事録 など
監督指導の流れ② 立ち入り調査
代表者の呼び出しで違法行為の疑いがあった場合には、会社に立ち入り調査を行います。
立ち入り調査では、会社の設備や帳簿、書類などを確認したり、従業員に尋問を行ったり、労基法違反を犯していないかの調査が行われます(労働基準法101条)。
違法な残業や残業未払いが疑われる場合には、代表者に対してタイムカードやパソコンのログイン情報の提出を求めたり、実際に働いている労働者の方に質問したりもします。
なおこの立ち入り調査は予告なし行われることもあります。そのような場合には代表者の呼び出しは行われません。
労働基準監督署の職員(労働基準監督官)が事前連絡なしで訪問し、上記の調査を行うのです。
会社側はこの立ち入り調査を拒むことができません。立ち入り調査を拒んだり妨げたりした場合には、刑事罰を科される場合もあります(労働基準法120条)。
監督指導の流れ③ 是正勧告
立ち入り調査の結果、労働基準法に違反する行為が確認された場合は、問題を是正するように代表者へ指導し、是正勧告書が交付されます。
是正勧告書に書かれている内容は、指導内容や違法内容、是正期限などです。
代表者は、期限までに違法状態を改善し、是正報告書を提出する必要があります。
代表者が是正勧告書を提出し、労働基準監督官によって改善されたことが確認されれば調査は終了です。
しかし、十分に改善されていない、あるいは改善されていないと判断された場合には、再度調査が行われます。
3.重大・悪質な事案に対する任意捜査や強制捜査
労働基準法違反に対する指導を繰り返し行っても是正措置を取らないなど、重大・悪質な事案に対しては、労働基準監督署は刑事事件として任意捜査や強制捜査を行い、検察庁に送致を行うこともあります。
つまり、警察と同じように刑事事件として捜査を行うことがあるという事です。
実は労働基準監督官は労働関係の法律違反について、「司法警察官の職務を行う」とされています(労働基準法102条)。
もっとも、実務上は労働問題について労基署が刑事事件として捜査を開始するケースというのは稀です。
残業代トラブルについてお悩みの方の中には「会社を刑事的に処罰してほしい!」とお考えの方もいるかもしれません。
しかし、労働問題が刑事事件化するケースというのは少ないので、その点については期待しすぎないほうが良いと言えるでしょう。
労基署に残業について相談できる部署はある?
労基署で残業の相談ができるのは、労基署内に設置されている総合労働相談コーナーです。
解雇・労働条件・募集・採用・いじめ・嫌がらせ・セクシュアルハラスメントなど、労働問題に関するすべての分野の相談ができます。
専門の相談員に対する相談は、直接面談する以外に、電話でも受け付けています。
総合労働相談コーナーの相談窓口の受付時間は、午前9時から午後5時までです。総合労働相談員が不在の日や不在の時間があるので、事前に電話で確認しておきましょう。また、土・日・祝日・年末年始 (12月29日から1月3日)は休みです。
労基署に相談する際の注意点
労基署に相談する際の注意点についても確認しておきましょう。
以下の3点を抑えておけば、労基署への相談やその後の対応が非常にスムーズになります。
労基署に相談する際の注意点
- 証拠を持っていく必要がある
- 違法な状態でないと動いてくれない
- 交渉や請求自体はしてくれない
以下で具体的に解説していきます。
証拠を持っていく必要がある
違法な残業や残業未払いを労基署に相談する際には、証拠を持っていく必要があります。
証拠がなくても労働基準法に基づいて、個人としてどうすべきかのアドバイスはもらえます。
しかし会社に対する指導や是正勧告をお望みの場合には、証拠が必要になります。
違法な残業や残業未払いの証拠なしに、労働基準監督署が会社に対して指導をおこなうことはありません。
「労働条件」「残業代の支払いの有無」「残業時間」を証明する証拠を集めておきましょう。
残業代請求に必要な証拠
- 労働条件の証拠:就業規則や労働契約書
- 残業代証拠:給与明細
- 残業時間の証拠:タイムカードや勤怠管理システムの記録など
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・残業代請求で必要となる証拠を徹底解説!証拠がない場合の対処法は?
違法な状態でないと動いてくれない
労基署が会社に指導を行うのは、労働基準法に違反している場合です。
違法である可能性が低い、または違法行為が確認されない等の事情があれば、労基署は労働者から相談されてもすぐに動いてくれるとは限りません。
ただし、違法性が確認されていなくても、労基署は定期的に立ち入り調査を行っています。
労働者の相談があったかどうかは、立ち入り調査の対象の選定の際に参考とされる可能性があります。
交渉や請求自体をしてくれるわけではない
労基署が行うことは、労働基準法違反の改善です。会社が労働者に違法な残業を強要している場合は、会社に違法行為を行わないように指導します。
しかし、労基署が目的としているのはあくまで労働基準法違反の状態を改善することです。個人的な請求についてまでは行ってくれません。
つまり、未払いの残業代を支払うように交渉したり、残業代の請求を行ったりすることはなく、未払い残業代の回収という点についてはあまり期待できないということです。
労基署と弁護士の役割の違いとは?
労基署と弁護士は、どちらも「残業代未払いの相談が可能」という共通点はありますが、それぞれの役割が違います。
先述したように労基署の役割は、あくまで労働基準法違反の状態を改善することであり、労働者個人の残業代を請求することではありません。
一方で弁護士の役割は、依頼者である労働者個人のために、法律の専門家として残業代未払いを回収するための助言や代理人業務を行うことです。
つまり、労基署と弁護士との役割の違いは、代理人として労働者個人の問題を解決するか否かです。
労働者個人の正確な残業時間の計算や証拠の開示請求などは、弁護士にしかできません。
未払い残業代の請求なら弁護士への相談がおすすめ
これまでの未払い残業代を請求したいとお考えの場合などは、労基署ではなく弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に相談すれば、複雑な残業代の計算や会社との交渉を請け負ってくれる上、交渉が決裂した場合でも、労働審判や訴訟などの法的手続きへのスムーズな移行が可能です。
なお、労基署に相談しても、残業代未払い問題が解決する可能性はあります。
ただし、労基署の立ち入り調査や是正勧告などでは、会社の違法状態が改善されるまでには時間がかかります。そのため、すぐに違法な残業がなくなったり、未払いの残業代がすぐに支払われたりするとは限らないので注意してください。
労基署は無料で相談できるため、労基署へ相談後、弁護士に相談してみるのもいいでしょう。
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まとめ
未払い残業代を労基署に相談することについて詳しく解説しました。
労基署は、労働問題全般の相談が可能ですが、会社の労働基準法違反の確認と、違法状態の解消を行う組織であるため、個人的な残業代請求などは行ってくれません。
個人的な未払い残業代の請求なら弁護士への相談がおすすめです。
残業代請求の時効は3年です。時効が完成してしまうと請求が難しくなるため、早めに最適な窓口に相談しましょう。
残業代の時効については『残業代請求の時効は3年!将来は5年に?時効中止や請求の方法を解説』の記事をご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了