【テンプレートあり】残業代請求書(内容証明)の書き方・送付方法を解説!
「内容証明で残業代を請求するには?」
「内容証明の書き方は?」
未払い残業代の請求手段として挙げられる内容証明郵便ですが、具体的な利用方法、書くべき内容がわからない方も多いのではないでしょうか。
内容証明は郵便局が行っているサービスの1つであり、残業代請求のための制度というわけではありません。
そのため、内容証明を残業代請求で利用する場合には、ちょっとしたコツを押さえる必要があります。
この記事では、内容証明を利用した残業代請求をお考えの方に向けて、内容証明の書き方や内容証明を利用するメリットを解説します。
目次
残業代請求で内容証明を利用するメリット
内容証明がどんなサービスなのかをみたうえで、残業代請求に内容証明を用いるメリットについて解説します。
内容証明は郵便局が郵便の内容を証明してくれるサービス
内容証明は、送った郵便について、①郵送日時、②差出人・宛先人、③記載内容について、郵便局が証明してくれるサービスです。
通常、郵便局は郵便を配達するだけであり、①〜③のどれも証明してもらえません。そもそも封筒に入った文書については郵便局が内容を見ることもありません。
内容証明は通常の郵便物とは異なり、郵便局が内容を確認します。
確認は、相手に送ろうとしている文書の全部を写した書面(謄本)を郵便局に持参することで行います。
謄本は相手に送った文書と全く同じ内容ですので、この確認によって、①・②に加えて③も郵便局が証明してくれるというわけです。
残業代請求で内容証明を利用するメリット①|時効の完成が猶予される
内容証明を利用することの最大のメリットは、時効の完成をストップすることにあります。
残業代を含む未払賃金の時効期間は3年です。
つまり、残業代請求が認められるのは最大で3年間分であり、それより前の分を請求しても「時効で消滅している」と会社から主張されてしまうでしょう。
残業代請求の時効は、基本的に毎月の給料日を基準に進んでいきます。
たとえば、給料日が毎月末日だとすると、2023年10月分の未払い残業代は、2026年10月末日までに請求しなければなりません。
いったん会社に対して支払いを請求すると、時効の完成が6か月間猶予され、猶予期間中は時効が完成しなくなります。この請求を「催告」と呼びます。
催告は口頭でも構わないのですが、口頭だと、会社から「支払いの請求はされていない」と言われた場合に、明確な反論が難しくなってしまいます。
時効との関係では「いつ支払いを求めたか」が重要なわけですが、口頭でこれを証明することは非常に困難というわけです。
一方、内容証明を利用すれば、催告を行ったことや行った日付を客観的に証明できます。
そのため、時効との関係で内容証明を利用するメリットが大きいわけです。
残業代請求で内容証明を利用するメリット②|請求の意思が伝わる
内容証明を利用するもう一つのメリットは、「残業代請求の強い意思」を会社に伝えることができるという点です。
内容証明は郵便局のサービスなので、基本的に、特別な効力があるわけではありません。
口頭で残業代を請求をしても内容証明でも、「未払いの残業代の請求」という点では法律上の扱いは変わらないということです。
しかし、実際には、口頭で請求してもあしらわれてしまったり、うまく理由をつけて丸め込まれてしまったりといったことがあります。
内容証明は後で見るように、利用に費用もかかりますし、様式にもルールがあります。
わざわざそういった制度を利用して請求することで、請求に対して本気であるという姿勢をアピールでき、会社側の真摯な対応を引き出せる可能性が高まります。
従業員との関係に絞っても、会社は日々多くの業務に対応しています。対応の優先順位を上げるという意味でも、内容証明による請求は効果的といえるでしょう。
残業代請求書の内容証明の文例・テンプレート
請求書
〇〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇区〇丁目〇番〇号
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇殿
〇〇県〇〇市〇〇区〇丁目〇番〇号
鈴木 太郎 印
前略 私は、貴社で勤務していた〇〇と申します。
〇年〇月〇日から〇年〇月〇日にかけて合計〇時間の時間外労働をしました。
割増賃金率を含め残業代は〇円になりますが、〇円が未払いですので請求いたします。
未払い残業代の支払いについては、〇年〇月〇日までに給与振込口座へお振込みお願いします。
万一上記期間内にお支払いを確認できない場合、労働審判、訴訟等の手段により、残業代・遅延損害金を請求いたしますのでお含み頂けますと幸いです。
【振込先の口座】
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人 〇〇〇〇〇〇〇
草々
残業代請求における内容証明の書き方と送付方法
残業代請求における内容証明の書き方
次に残業代請求書の書き方をご説明します。
残業代請求書には、以下の事項を記載しましょう。
内容証明に記載すべき事項
- タイトル、宛名、請求者名、押印、日付を入れる
- 請求する残業代の金額、期間
- 相当期間内に支払うよう求める
- 支払いがない場合の対応を明確にする
- 振込先口座を記入する
タイトル、宛名、請求者名、押印、日付を入れる
タイトルにこだわる必要はあまりありませんが、「請求書」「催告書」など、一見して何かの請求だとわかる記載が望ましいでしょう。
次に宛先を書きます。会社の住所、会社名、代表取締役の名称を書きましょう。
その下に、差出人の情報を書きます。住所と氏名、必要に応じて電話番号やメールアドレスも記入しましょう。
差出人名の横には「押印」が必要です。認印でかまいません。
忘れずに「文書の作成日付(発送日付)」も書き入れましょう。
請求する残業代の金額、期間
内容としては、「未払いの残業代を請求する」ことが重要です。
残業をしていたのに支払われなかった期間、割増賃金の割合を明記するとより効果的です。
残業がいくら請求できるのか分からないという方に向けて、残業代の計算方法を『残業代の正しい計算方法とは?基本から応用的な計算まで徹底解説!』の記事の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
相当期間内に支払うよう求める
未払い残業代は、請求書到着後速やかに(相当期間内に)払うよう求めます。相当期間にルールはありませんが、1週間から10日くらいに設定すると良いでしょう。
支払いがない場合の対応を明確にする
末尾に、相当期間内に支払いがない場合の対処も付言しておくようおすすめします。会社へのプレッシャーとなるからです。
たとえば、労働基準監督署への通報や、労働審判や労働訴訟などの法的手続きへの移行の旨を記載することが挙げられます。
振込先口座を記入する
未払い残業代は、通常振込送金してもらいます。振込先の口座も忘れずに記入しましょう。金融機関名、支店名、預金の種別(ほとんどのケースでは普通預金)、口座番号、口座名義人の名称(カタカナ)を書いてください。
支店名が抜けたり口座番号が間違っていたりすると支払いを受けられないので、銀行通帳などをみて慎重に書き写しましょう。
内容証明郵便の送り方・利用方法
内容証明郵便には、以下の2種類の利用方法があります。
電子内容証明郵便を利用する
1つ目の方法は電子内容証明郵便です。これは、郵便局が提供している「ネットから内容証明郵便を発送できる」サービスです。
わざわざ郵便局に出向く必要はありませんし、内容証明の特殊な書式に従う必要もありません。
日頃忙しくしている方、パソコンを日常的に使っている方などは、電子内容証明郵便を利用すると便利でしょう。
なお電子内容証明郵便の場合「押印」は不要です。
郵便局から差し出す
内容証明郵便を取り扱っている郵便局へ文書を持参し、発送する方法です。
このとき、まったく同じ内容の文書を3通用意しなければなりません。
また内容証明郵便用の特殊な書式に従う必要もあります。書式を無視すると受け付けてもらえないので注意しましょう。
内容証明に用いる謄本は、下記の条件をクリアするように作成しなければなりません。
書き方 | 条件 |
---|---|
縦書き | 1行20字以内、1枚26行以内 |
横書き | ・1行20字以内、1枚26行以内 ・1行13字以内、1枚40行以内 ・1行26字以内、1枚20行以内(3つのうちいずれでも可) |
どれにするか迷われる方は、「1行20字以内、1枚26行以内」「1行26字以内、1枚20行以内」のいずれかを選ぶといいでしょう。
用紙に決まりはないため、この形式を守っていれば、手書きでもパソコンで作成してプリントアウトしたものでも構いません。
すべての郵便局で内容証明郵便を受け付けているわけではないので、事前に発送できる郵便局を調べてから持ち込んでください。
また、残業代を請求する会社への郵送方法は、一般書留とする必要があります。
そのため、通常の郵便料金に加え、一般書留分を追加で支払う必要があります。
さらに配達証明をつけることで、会社が「受け取っていない」と弁解することを防ぐことができるでしょう。
なお、内容証明は謄本1枚だと440円の加算料金がかかります。以後は、1枚増えるごとに260円が追加されていきます。
内容証明の作成を弁護士に依頼すべき場合
最低限の記載項目を押さえていれば、残業代請求の内容証明を自分で作成することも可能ですが、いくつか注意点があります。
残業代請求書を自分で作成するにあたって、以下の場合には注意しなければいけません。
内容証明の利用で注意する場合
- 時効が迫っている場合
- 遅延損害金も請求する場合
- 会社が要求に応じない見込みが高い場合
上に挙げた要件に当てはまっている場合、弁護士に内容証明の作成を依頼すべきといえます。以下で具体的に見ていきましょう。
残業代請求の時効が迫っている場合
残業代請求の時効が迫っている場合、早急に弁護士に相談し、内容証明を作成して送付してもらうことが望ましいといえます。
自分で作成しようと検討しているうちに時効が完成してしまう可能性もありますし、送付した内容に不備があれば時効の完成が猶予されなくなってしまうこともあります。
弁護士に依頼して適切な内容証明を作ってもらえば、請求前に時効が完成する事態を回避することができます。
関連記事
・残業代請求の時効は3年!将来は5年に?時効中止や請求の方法を解説
遅延損害金もあわせて残業代請求をする場合
未払いの残業代を請求する際には、残業代の金額そのものに加え、遅延損害金も請求することができます。
遅延損害金は、支払いが遅れたことに対する損害賠償として支払われるものです。
未払いの残業代は、「給料日を過ぎても支払われていない残業代」ということであり、支払いが遅れていると捉えられるため、遅延損害金の対象となります。
遅延損害金の利率は、現在、基本的に年3%と設定されており(民法404条2項)、軽視できない額となることもあります。
また、退職後に未払いの残業代を請求する場合、退職日の翌日からの利率が年14.6%と大幅に高くなります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。
残業代請求の際には忘れずに加えておきたい請求ですが、遅延損害金を適切に計算して請求することはそこまで簡単ではありません。
適切に計算し内容証明に反映するためには、弁護士に相談すべきでしょう。
関連記事
残業代請求に会社が応じない見込みが高い場合
内容証明は口頭や通常の郵便に比べれば厳格な請求手段ですが、会社に対する法的な強制力があるわけではありません。
そのため、内容証明を送っても会社が応じないと思われるときには、弁護士に内容証明郵便の作成を依頼する方が効果的でしょう。
なお、弁護士に依頼した場合、内容証明を弁護士名で出すかそれとも自分の名前で出すかは、ケースバイケースです。
弁護士が入ることでより事態がこじれてしまいそうな場合は、あえて弁護士の名前を出さないこともあります。
もっとも、弁護士名で出した方が会社側の対応もより真剣になりますし、「弁護士名で内容証明がきた」というだけで残業代が支払われることもあります。
会社が支払わない見込みが高い場合には、弁護士名で内容証明を送る方が基本的には望ましいでしょう。
弁護士への相談にあたって、費用相場や流れ、メリットなどを知りたい方は『残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!』の記事をご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了