未払い残業代の遅延損害金はいくら?付加金についても解説
残業代の未払いについては遅延損害金が発生し、在職中の遅延損害金の利率は年3%です。
ただ、遅延損害金の請求方法を知らずに、請求を失念してしまうケースも多いです。
残業代として受け取れる額を増額できたにもかかわらず、請求を失念してしまうと損した気分になるでしょう。
この記事では、遅延損害金を正確に受け取りたい方に向けて、遅延損害金の概要や計算方法、遅延損害金以外に請求できる付加金について詳しく解説します。
目次
残業代の未払いには遅延損害金を請求できる
残業代の未払いに対しては、残業代額そのものに加え、遅延損害金というお金を請求することができます。
遅延損害金という言葉は、一般的に使われるものではないため、まずは内容を解説します。
残業代の未払いってどういう状態?
遅延損害金は、残業代の未払いに対して追加で請求できるお金です。
残業代の未払いは、本来支払われなければならない給料日に、残業代が支払われていない状態を意味します。
これは、法的には「残業代の支払いが遅れている状態」と捉えることになります。
したがって、将来的に支払われるかどうかに関係なく、1日でも遅れれば遅延損害金の請求が可能となります。
結果として未払い残業代が支払われたのだとしても、その支払いが遅れたのであれば、遅れた期間に応じた分の遅延損害金を請求できるのです。
遅延損害金は支払いの遅れによって生じた損害を賠償するためのもの
では、支払いが遅れることは、法的にどのような意味を持っているのでしょうか。
労働者は使用者に対して残業代を請求する権利を持っており、反対に、使用者は労働者に対して支払う義務を負っています。
この使用者に対して残業代を請求する権利を「債権」といい、使用者は労働者に対して支払う義務を「債務」といいます。
残業代を支払う債務は、お金の支払いを内容としているため、支払いが遅れると「支払ってもらえるはずだったお金を利用できない」という損害が発生します。
このような損害は、支払いを遅らせた側、つまり使用者の責任によって賠償されなければなりません。
そのため、支払いが遅れている側、つまり労働者には、この損害を賠償してもらう権利が生じます(民法415条1項)。
この賠償金のことを、支払いが「遅延」した「損害」を賠償する「お金」ということで、遅延損害金と呼んでいるのです。
遅延損害金の利率
在職中の遅延損害金の利率は年3%
未払い残業における在職中の遅延損害金の利率は、年3%です。これは法定利率と呼ばれるもので、金銭債務の支払いが遅れた場合に適用される利率です。
この法定利率は、現在年3%に設定されています(民法404条2項)。
法定利率は、2020年4月から3年ごと定期的に見直されています。
以前は5%が適用されていた期間もありましたが、2023年4月1日~2026年3月31日までの期間は3%です。
退職後の遅延損害金の利率は年14.6%
遅延損害金の利率は基本的に年3%ですが、退職日までに支払われていない賃金に関しては年14.6%となります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。
これは金銭債務一般にはない賃金だけの特徴です。
賃金という生活に密接に結びついたお金を会社に確実に支払わせるため、法定利率よりはるかに高い利率が設定されているのです。
残業代も賃金ですから、もちろん対象となります。
退職時まで残業代の未払いがあるケースは未払い額が高額であることも多いため、全体の請求額も高くなる傾向にあると言えるでしょう。
残業代の遅延損害金の計算方法
では、実際の遅延損害金はいくらになるのでしょうか。例を使いながら計算方法を解説します。
残業代の遅延損害金の計算式
遅延損害金を計算するための要素は、次の3つです。
遅延損害金の計算のための要素
- 支払いが遅れている残業代の金額
- 遅延損害金の率(年率)
- 本来の支払日から何日遅れているか
この3つの要素を使い、計算式としては、以下のようになります。
遅延損害金=支払いが遅れている金額×遅延損害金の率(3%)×遅れた日数/365日
なお、うるう年の場合は365日ではなく366日となります。
残業代の遅延損害金の計算例
残業代の未払いを仮定し、実際に計算してみます。以下のケースを見てみましょう。
【在職中】給与が毎月15日締め25日払いで、5月15日までの給与が5月25日に振り込まれるという場合
- 5月15日までの分の残業代として基本給とは別に5万円が支払われるはずだったが、残業代は振り込まれていなかった
- 会社と交渉し、最終的に残業代は6月15日に振り込まれることになった
このとき、遅延損害金は、5万円×3%×(21日/365日)≒86円となります。
また、上記の例を退職後と仮定した場合には、年14.6%の利率となります。
利率年14.6%で計算し直すと、「5万円×14.6%×(21日/365日)≒420円」と、高額になることがわかるでしょう。
残業代の未払いについてトラブルとなっている場合、多くは長期間にわたって未払いが続いています。
そのため、未払いの残業代額も累積して大きくなりますし、遅延損害金の額も高額となります。
残業代の計算方法について詳しく知りたい方は、『残業代の正しい計算方法とは?基本から応用的な計算まで徹底解説!』の記事もご覧ください。
遅延損害金以外に残業代未払いに付加されるお金
ここまで遅延損害金について解説してきましたが、それ以外にも、残業代の未払いに付随して請求できるお金があります。
これらは政策的なペナルティとも呼べるもので、賃金に特有の制度です。利用するか否かで請求額も大きく異なります。
未払い残業代の付加金
割増賃金の未払いには、付加金という制度が設けられています(労働基準法114条)。
付加金とは、割増賃金など、使用者が労働基準法上支払い義務がある一定のお金を支払わなかった場合、未払い分に加え、それと同額の支払いを裁判所が命じることのできる制度です。
単純に言えば、未払い残業代額の2倍の支払いを受けられるということであり、違反に対する経済的ペナルティとして設けられています。
裁判で残業代を請求する場合は付加金の請求が可能
付加金の支払いを命じるのは裁判所です。付加金は、裁判で残業代を請求する場合に限って請求が可能です。
裁判ではなく、会社との直接の交渉や労働審判で解決した場合には、付加金は支払われることはありません。
また、裁判で付加金を請求しても、支払われるかどうかは裁判所の判断に任せられおり、請求したからといって必ず認められるわけではないので注意してください。
裁判所は、違反の程度(悪質性)や労働者が被った不利益の大きさなどを総合的に考慮して、付加金の支払いを命じるか否かを決定することになります。
未払い残業代の遅延損害金を請求する方法
遅延損害金は、未払い残業代の元本と併せて請求するケースが多いです。
残業代請求の方法は、大きく以下の3種類があります。
残業代請求の方法
- 会社に直接請求する
- 労働審判を行う
- 訴訟を行う
会社に直接請求する
残業代の未払いがある場合は、会社に対して直接請求することができます。未払い残業代の請求は、内容証明郵便を利用すると、時効を延長させることができるうえ、後々のトラブルを防ぐことが可能です。
労働者もしくは労働者の代理人である弁護士が会社の役員などと話し合いの場を設け、交渉行うこととなるでしょう。
未払い残業代の元本と併せて遅延損害金を請求し、交渉を経て示談に達すれば、ここで問題を収束させることができます。
内容証明の書き方を知りたい方は、『【テンプレートあり】残業代請求書(内容証明)の書き方・送付方法を解説!』をご覧ください。
労働審判を行う
労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名から構成される、労働審判委員会という組織を利用する制度です。
原則として3回以内の審理で結論が出ます。2〜3か月程度で問題を解決できる可能性があることが大きなメリットです。
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・労働審判とは?制度の内容や手続きの流れを弁護士がわかりやすく解説
裁判を起こす
裁判は、基本的に原告と被告が交互に主張を重ねていき、最終的な結論(判決)を裁判所が下す手続きです。
労働者と相手(会社)が主張する回数には基本的に制限がないため、結論が出るまでに1年以上かかることもあります。
ただし、「付加金」を請求できるメリットもあります。
残業代請求の方法について詳しく知りたい方は、『残業代が支払われない!請求方法と流れを解説!』の記事をご覧ください。
未払いの残業代請求は弁護士に相談
これらのように、退職や裁判という状況になれば、通常の遅延損害金の額を大きく上回る請求ができる可能性があります。
もっとも、それらの状況になるということは、使用者との関係悪化が懸念されるのであり、「働き続ける」という利益を失ってしまうおそれもあります。
そのため、残業代の請求は、法的な視点と現在の自分の状況・要望の両面を適切に組み合せ、慎重に行うことが望ましいと言えるでしょう。
残業代請求の対応は弁護士が得意とする分野であり、残業代の未払いで悩んでいる場合には相談してみることをおすすめします。
また、付加金を請求するのであれば裁判を起こす必要がありますが、訴訟行為を代理できるのは基本的に弁護士のみです。
その意味でも、当初から弁護士に相談しておくとスムーズだと言えるでしょう。
無料の弁護士相談を受け付けている事務所もあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了