残業代が出ないのは違法?職種や勤務形態ごとに残業代が支払われるか解説
「残業代がもらえない」
「会社が残業代をくれないけど違法じゃないの?」
労働基準法には法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)が定められており、法定労働時間を超えて労働すると残業代が発生します。
会社からサービス残業を強いられている方の多くは、残業代が出ないことに疑問を感じているでしょう。
残業代が出ないことは、違法である可能性が高いです。しかし、例外的に職種や勤務形態によっては残業代が出ないこともあります。
今回の記事は、職種・勤務形態ごとの残業代の取り扱いや会社に残業代請求する際のポイントについて解説します。
残業代が出ない職種は?
労働基準法で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されない職種もあります。主に基準法第41条に定める「41条該当者」と呼ばれる人たちや公立学校の教員などです。
農業・畜産・水産業などの職種
農業・畜産・水産業などの職種は、労働基準法第41条の第1号に該当し原則、残業代が出ません。季節や天候などの自然環境に大きく左右されるために労働時間を一律に定めることが難しいからです。
ただし、次のケースでは残業代が出るので覚えておきましょう。
農業・畜産・水産業などの職種で残業代が出るケース
- 深夜労働(午後10時から午前5時まで) した場合
- 労働契約で残業代の定めがある場合
第1号に該当するのは農業や畜産業、水産業だけで林業は該当しません。
秘書などの「機密事務取扱者」
秘書は、労働基準法第41条の第2号に該当します。第2号には秘書を含め次が該当します。
41条2号に該当する者
- 監督若しくは管理の地位にある者
- 機密の事務を取り扱う者
秘書などの「機密事務取扱者」は、労働時間の管理になじまない経営者などの活動と「一体不可分」な活動を求められるため、労働時間に関する規定が適用されません。
ただし、深夜労働については割増賃金がもらえます。
また、法律上の労働時間に関する規定は適用されませんが、会社の就業規則や労働契約で残業代の支払いが規定されているのが一般的です。
警備員・管理人などの「監視又は断続的に労働に従事する者」
警備員・管理人は、労働基準法第41条の第3号に該当します。
労働基準法では、「監視又は断続的に労働に従事する者」とされていますが、労働基準監督署長の許可が必要です。
特別な事態が発生しない限り、身体疲労や精神的緊張が比較的少ない業務であるとの理由で、残業代は法定されていません。
深夜労働や就業規則に残業代の定めがある場合などは、残業代が出ることもあります。
公立学校の教員
公立学校の教務教員(校長、教頭、教諭など)は、残業代が出ません。
公立学校の教員の給与は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」によって定められており、同法第3条第2項において、「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」と規定されているためです。
同居の親族のみを使用する事業
「同居の親族のみを使用する事業」で働く親族は、労働者とはみなされないため原則、残業代は出ません(労働基準法116条2項)。
ここで言う労働者とは、労働基準法第9条で定める労働者、つまり、労働基準法が適用される人のことです。
「同居の親族のみを使用する事業」で働く親族には労働基準法が適用されないため、「労働基準法41条該当者」に適用される深夜労働に対する手当についても保障はありません。
また、同居の親族以外の労働者がいる場合でも、原則、同居親族は労働者とみなされません。労働者とみなされるのは、次の3要件をすべて満たしている場合だけです。
労働者とみなされる3要件
- 常時同居の親族以外の労働者がいる
- 事業主の指揮・命令で仕事をしていることが明確である
- 賃金を含めて就労の実態がほかの労働者と同様である
家事使用人
家事使用人とは、いわゆる家政婦のことです。
家事使用人は、労働基準法が適用される労働者ではないため残業代は法定されていませんが、全ての家政婦が家事使用人に該当するわけではありません。
顧客と個人で契約している家政婦は家事使用人ですが、家事代行会社などに勤務する家政婦は家事使用人には該当しません。
この場合の家政婦はあくまで、家事代行会社に勤める労働者として扱われます。そのため、一般の労働者と同様に労働基準法が適用されます。
家政婦の残業代が法律で保障されているかどうかは、勤務実態で判断することになります。
残業代が出ない勤務形態は?
職種による残業代の有無について解説しましたが、そのほかにも勤務形態などによって残業代が出ないケースもあります。具体的なケースを詳しくみていきましょう。
管理職だから残業代は出ない?
「管理職だから残業代は出ない」と言われますが、正確ではありません。法律上、会社が残業代を支払わなくても違法にならないのは、管理職ではなく管理監督者にあたる人物です。
管理監督者は、部長・課長などの役職ではなく、職務内容や責任があるかなどの実態から判断されます。
責任のある役職を担っていることから、管理職であることで管理監督者に該当する人がいることも確かです。
しかし、「名ばかり管理職」と呼ばれる管理監督者の実態に伴わないにもかかわらず、残業代が支払われていないケースも存在します。
管理監督者に該当しない場合は、一般労働者と同様に残業代をもらう権利があります。
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固定残業代制度(みなし残業制度)だから残業代は出ない?
固定残業代制度(みなし残業制度)では、実際の残業が「みなし残業時間」の範囲内なら残業代は出ません。
事前に残業を見越して残業分の賃金をみなし残業代として支払われているからです。
しかし、「みなし残業時間」を超過して残業した場合は、超過分に対して残業代を請求できます。残業代の支払いを少なくするため「残業代は固定だから追加はない」という会社があれば、違法行為に該当する可能性があります。
また、追加の残業代請求がないように「みなし残業時間」を明確にしていないケースもあるので注意が必要です。固定残業代制度で働くなら契約時に確認しましょう。
フレックスタイム制だから残業代は出ない?
フレックスタイム制では、労使協定で定めた「清算期間内の総労働時間」と実際の労働時間との比較により、残業代の有無が決まります。
「清算期間1週間、総労働時間40時間」の場合、清算期間内の実際の労働時間が40時間以内なら残業代は発生しませんが、40時間を超過するとその分の残業代は請求できます。
「1日8時間を超えると残業代」ではなく、「清算期間内に総労働時間を超えると残業代」です。フレックス制だから残業代は出ないというのは間違いです。
歩合制だから残業代は出ない?
歩合制は成果に応じて給与が支払われるので、成果がなければ給与がないこともあると思われるかもしれませんが違います。
労働基準法第27条では、歩合制の賃金について「使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めています。つまり、実際の労働に対して最低保障があるということです。
時間あたりの賃金は最賃法に定める最低賃金以上、法定労働時間の超過分に対しては割増賃金が原則です。
年俸制だから残業代は出ない?
年俸制でも月給制でも、労働基準法で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は同じように適用されます。つまり、残業代は出るということです。
ただし、実際には年俸制で残業代が出ない人もたくさんいます。理由の1つは、年俸制だからではなく、管理監督者が年俸制を採用しているケースが多いことです。
また、年俸制年俸と固定残業代制度を併用していて、「みなし残業時間」を超過する残業が発生しないケースも考えられます。
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裁量労働制だから残業代は出ない?
裁量労働制では、あらかじめ「みなし労働時間」を設定し、実際の労働時間が「みなし労働時間」を下回っても超過しても「みなし労働時間」を働いたことになります。
そのため、労働時間が予定より長くなっても残業代は出ません。
ただし、深夜労働をした場合と休日出勤をした場合には、労働基準法第37条に定める「休日及び深夜の割増賃金」の規定が適用されます。
残業代が発生しない契約だから残業代は出ない?
労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させると残業代の支払いを使用者に義務付けています。
これまで説明した例外などを除き、この義務に違反した契約は違法である可能性が高いと言えます。違法な契約は無効なので、残業代は請求できます。
会社が法律違反であることを認識した上で、残業代の支払いを避けている可能性も考えられます。
会社からの「〇〇だから残業代は出ない」に要注意!
これまで解説したように職種や勤務形態によっては、残業代がでないこともあります。
しかし、会社から残業代が出ない理由として告げられる「〇〇だから残業代出ない」は要注意です。本当は残業代が発生しているのに支払われていないケースもあります。
残業代が支払われていないケース
- 労働基準法を誤って理解して残業代が支払われていないケース
- 原則、残業代のない職種・勤務形態だが所定の要件を満たして残業代の出るケース
- 人件費を抑えるために会社が意図的、違法に残業代を支払わないケース
在宅勤務中は残業代が出ない、残業するときはタイムカードを打刻するなどの会社独自のルールが定められている場合でも、違法である可能性はあります。
会社独自のルールを鵜呑みするのではなく、違法性があると考えられる場合には、会社に残業代請求する際のポイントを押さえておきましょう。
会社に残業代請求する際のポイント
残業代請求には証拠が重要
残業代請求には、未払い残業代があることを明らかにする証拠の収集が重要です。
残業代の証拠には以下のものがあります。
残業代請求に必要な証拠
- 労働条件の証拠:就業規則や労働契約書
- 残業代の証拠:給与明細
- 残業時間の証拠:タイムカードや勤怠管理システムの記録
残業代の証拠は多ければ多いほどいいです。未払い残業を主張しても、証拠がないと応じてもらえない可能性が高いため、できる限り証拠を収集しておきましょう。
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残業代が出ないときは弁護士・労基署に相談
残業代が出ないときは、弁護士や労働基準監督署(労基署)などに相談しましょう。
弁護士
残業代が出るかどうかわからない、会社に直接請求するのは気が引けるなどの場合は、弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士であれば、残業代が支払われない状況を把握し、客観的に違法かどうかの判断が可能です。
また、労働者だけで交渉しても会社側が真摯に応じない可能性もありますが、弁護士が交渉をするだけで会社側が支払いに応じる場合もあります。
加えて弁護士であれば、会社との交渉がうまくいかなかった場合でも労働審判や民事裁判にもワンストップで対応できます。会社に対して徹底的に未払い残業代を請求することが可能です。
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労働基準監督署
会社が残業代の支払いに応じてくれない場合、労働基準監督署に相談するという方法もあります。
労働基準監督署は企業が労働基準法を遵守しているか管理・監督していて、残業代の未払いなど違反している会社に是正勧告などをしてくれます。
ただし、労働基準監督署は企業の違反行為に対して勧告しても、個別の残業代請求の支払いを命じるわけではありません。
労働基準監督署の勧告などにより会社が残業代を支払ってくれれば問題は解決しますが、そうでない場合は訴訟などが必要になります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了