年俸制でも残業代は出る!例外や請求方法について解説

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年俸制の残業代

「年俸制なので残業代は出ないと言われた」
「1年間の給料とは別に残業代を請求できる?」

年俸制で働いている方の中には、残業をしているにもかかわらず残業代が出ないと不満を抱えている方もいるかもしれません。

年俸制は年額で給与を決定するため、それ以上の給与は発生しないと考える会社も少なくありませんが、年俸制であっても、基本的には残業代を請求できます。

今回は、年俸制における残業代や例外として残業代が出ないケース、請求方法について解説します。

年俸制でも残業代は支払われる

年俸制はあらかじめその年の給料を決めておく制度

年俸制は、従業員の成績や能力を参考にして、あらかじめその年の年間給与額を決定しておく制度です。

給与の総額を12等分や16等分などに分割して、月額に換算したものを月に1回支給する仕組みとなっています。(労働基準法24条)。

月給制とは、基本給や手当を1か月単位で決める点で異なります。

年俸制でも残業代は発生する

年俸制はあくまで給与額の決め方が月給制とは異なるだけにすぎません。

したがって、年俸制であっても残業代をもらう権利が消えることはありません。

年俸制であっても、法定労働時間を超えて働いた場合は、残業代を請求できます。

年俸制で例外的に残業代が出ない場合

年俸制であっても残業代は請求できますが、会社で採用されている制度や勤務形態によっては、例外的に残業代を請求できないケースがあります。

残業代を請求できないケースとして、以下のようなものが挙げられます。

例外的に残業代が請求できないケース

  • みなし残業制が採用されている
  • 裁量労働制が採用されている
  • 管理監督者にあたる
  • 業務委託契約を結んでいる

みなし残業が採用されている

みなし残業(固定残業)とは、実際の残業時間にかからわず、あらかじめ決められた一定時間の残業代を給与に含めて支払う制度です。

みなし残業制においては、実際に残業した時間が、みなし残業時間内に収まっていた場合、別途の残業代は支払われないことになります。

ただし、実際に残業した時間が、みなし残業時間を超えるという場合は、超えた時間分の残業代を請求することが可能です。

また、「固定残業費が最低賃金を下回っている」「どの分が時間外手当、深夜手当、休日手当に該当するか就業規則からはわからない」といった場合には、みなし残業制自体が無効になります。

その結果として、未払い残業代が発生してしまっているケースも考えられます。

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裁量労働制が採用されている

裁量労働時間制とは、みなし時間をあらかじめ決めておき、実際に働いた時間がみなし時間より多くても少なくても「みなし時間分、働いた」とする制度です。

裁量労働制においては、労働時間はあらかじめ定めた労働時間となります。

ただし、みなし労働時間について、法定労働時間を超える時間が設定されているときは、超えた分に関して残業代が支給されます。

管理監督者にあたる

管理監督者とは、以下のような条件を満たす従業員のことをいいます。

管理監督者と判断される条件

  • 会社に対する重要な責任と権限がある
  • 労働時間について裁量権がある
  • 賃金などの待遇面で優遇されている

管理監督者の場合は、残業代の支払いをしなくてよいと定められています(労働基準法41条)。

ただし、「管理職ではあるが、とくに権限などはない」「給料などが優遇されていない」という場合には、管理監督者とは判断されず、残業代を請求できます。

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業務委託契約を結んでいる

業務委託契約とは、業務の一部を外部の企業や個人事業主に委任する契約のことです。

業務委託契約を結んでいるという場合は、通常の雇用契約とは異なり、労働基準法が適用されないため、会社に残業代を請求することはできません。

ただし、「会社から仕事の仕方について指示をされた」「残業を依頼された」といった場合には、雇用契約が発生していたと考えられることもあります。

そういったケースでは、残業代請求が可能である場合があります。

年俸制における残業代の計算方法

年俸制の残業代は、月給制の人と同様に以下の式を用いて計算します。

年俸制の残業代計算方法

残業代=残業した時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率

年俸制において1時間あたりの基礎賃金を計算するときは、年俸額を12で割って月額賃金を算出します。

次に、月額賃金を1か月の所定労働時間で割ることで1時間あたりの基礎賃金が求められます。

このとき、賞与やボーナスは含めませんが、年俸額に賞与も加算されている場合は支給額がすでに確定しているため賞与とはみなされません。

賞与にあたる金額も含めて「1時間あたりの基礎賃金」を算出します。

また、みなし残業制である場合には、みなし残業時間の分を差し引いて残業代を求めます。

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年俸制の労働者が残業代を請求する方法

残業した証拠を収集する

残業代を請求するときに重要となるのは、有効的な証拠を集めることです。

有効な証拠には、タイムカードやメールの送受信履歴などが挙げられます。

残業代の計算をする際、直近1か月分の証拠しかないという状態であれば、残業代をさかのぼって計算することが難しいです。

そのため、証拠を集めるときには、できるだけ長期間にわたってさまざまな種類の証拠を集めておくことがポイントです。

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会社に直接請求する

会社に直接請求する場合は、以下のような流れになります。

会社に直接請求する場合の流れ

  1. 有効的な証拠を準備する
  2. 会社に内容証明郵便で請求の通知書を送る
  3. 会社側と直接交渉する

自分一人で交渉しようとすると会社が交渉に応じてくれなかったり、不利な条件を突きつけられたりするおそれがあります。

できる限り交渉だけで解決させたいとお考えの場合は、交渉の段階から弁護士をつけるのが良いでしょう。

労働基準監督署に申告する

労働基準監督署に申告する際の流れは、以下のようになります。

労働基準監督署に申告する場合の流れ

  1. 適切な証拠を準備する
  2. 労働基準監督署に残業代未払いを訴える
  3. 労働基準監督署が調査
  4. 違反が認められれば、企業に支払い勧告が出される

労働基準監督署の勧告はあくまでも行政指導であるため、法的拘束力はありません。申告したからといって必ずしも企業が支払いに応じるとは限らないので注意しましょう。

労働審判をおこなう

労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名から構成される、労働審判委員会という組織を利用する制度です。

原則として3回以内の審理で結論を出すことになっているため、2〜3か月程度で問題を解決できる可能性があることが大きなメリットです。

労働審判をおこなう際の流れは以下のようになります。

労働審判をする場合の流れ

  1. 労働審判申立書や陳述書等の必要書類と、残業の証拠となりうるものをすべて裁判所に提出
  2. 40日以内に最初の期日が開かれ、会社側と双方の主張や事実関係の確認をおこなう
  3. 3回目の期日までに調停が成立しなければ、審判官と審判員が評議をおこない「審判」が下される
  4. 審判の内容に双方が合意すれば、労働審判は終了する

ただし、労働審判委員会の判断に異議があった場合には、訴訟となります。

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訴訟をおこなう

訴訟をおこなうときの流れは、以下のようになります。

訴訟をおこなう場合の流れ

  1. 会社の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所に訴状を提出
  2. 第1回期日は会社側が訴状に対する答弁書を提出
  3. 2回目以降の期日では双方が主張と証拠となる書類を提出し、具体的な答弁をおこなう
  4. 双方がすべての主張書面の提出を終えると弁論終結となり、その後判決が言い渡される

なお、労働者と相手(会社)が主張する回数には基本的に制限がないため、結論が出るまでに1年以上かかることもあります。

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残業代が支払われない場合は弁護士に相談を

年俸制であっても、基本的には残業代を請求できます。

早急に残業代を回収して解決したい場合は、弁護士への相談をおすすめします。

年俸制の従業員が残業代を請求する場合、証拠集めや未払い残業代の複雑な計算など、多くの手間と時間がかかってしまうかもしれません。

弁護士に依頼すれば、専門家として証拠の収集方法や残業代の計算方法についてアドバイスをもらうことができます。

会社とやり取りをする際も弁護士が代理人として仲介してくれるので、精神的ストレスの軽減が期待できます。

また、弁護士であればたとえ交渉が難航したときでも労働審判や訴訟へスムーズに移行ができるため、その後の手続きも安心して任せることができます。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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