退職代行を利用しても残業代は請求できる?【弁護士が解説】
「退職代行を利用して会社を辞めたいが、残業代も同時に請求できる?」
「退職代行を使って辞めると、残業代請求できなくなるのではないか」
日々の残業に悩まされながら退職代行の利用を検討している方の中には、そのようなお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
退職代行を利用しても、残業代を請求することは可能です。
しかし、退職代行を利用して残業代請求をしたい方は、退職代行事業者を慎重に選ぶ必要があります。
利用する退職代行事業者によっては、未払いになっている残業代を請求することが難しいケースもあるからです。
今回は、退職代行事業者の種類や退職代行を弁護士に依頼するメリット、残業代を請求する際のポイントについて詳しく解説します。
目次
退職代行事業者の種類は3つ!残業代請求ができるのは弁護士だけ
退職代行をおこなう事業者は、大きく以下の3種類に分けられます。
退職代行事業者の種類
- 一般の退職代行業者
- 退職代行ユニオン
- 弁護士
(1)一般の退職代行業者
弁護士などの国家資格をもたない、株式会社や個人事業主による代行業者です。
会社に退職する意思を伝えることはできますが、会社と法的な交渉をおこなうことは非弁行為(弁護士資格をもたない者が、報酬を目的に弁護士業務をおこなう違法行為)にあたるため、残業代の請求などといったアクションを起こすことはできません(弁護士法第72条)。
(2)退職代行ユニオン
退職代行ユニオンとは、退職代行サービスをおこなっている合同労働組合のことです。
合同労働組合とは、社内に労働組合がない企業の労働者などが加入できる団体のことで、正社員や派遣社員、パートなどといった雇用形態に関係なく加入できるという特徴があります。
労働組合には団体交渉権が認められている(日本国憲法第28条)ため、会社と交渉や話し合いをすることや、退職と同時に残業代を請求することはできます。
しかし、実際にユニオンが労働委員会の承認を受けているかどうかや、運営実態が明らかにされているかといった、確認するべき点があるところに注意が必要です。
また、退職代行ユニオンには訴訟など法律問題に発展した場合、対処が難しくなるというデメリットがあります。
(3)弁護士
弁護士であれば、勤務先に退職する意思を伝えてもらえるだけでなく、以下のような交渉を同時におこなってもらえます。
弁護士に退職代行を依頼するとできること
- 未払いになっている残業代や給与の支払い交渉
- 退職金の請求
- 離職票などといった退職書類の請求
- 勤務先からの損害賠償請求に対する交渉
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弁護士に退職代行を依頼することのメリット
残業代など未払いの給与を請求してもらえる
弁護士に退職代行を依頼することの大きなメリットとして、残業代などの未払いになっている給与を退職代行と同時に請求できるということが挙げられます。
在職中に残業代を請求することが心理的に難しかったり、規程通りに退職金が支給されなかったりした場合でも、弁護士に依頼すれば代理で請求してもらうことが可能です。
非弁行為のリスクがない
退職代行業者が代行できるのはあくまで「退職の意思を告げること」だけで、それ以上に何らかの法的な交渉をおこなうと、非弁行為に該当するリスクが大きくなります。
一方、弁護士であれば非弁行為に該当するリスクはなく、有給休暇の取得や退職日の調整といったさまざまな事情を代理で交渉してもらうことができます。
退職に失敗するおそれが小さい
一般の退職代行業者では、退職する意思を告げたときに勤務先側から反論を受けたり、退職を認められなかったりした場合、法的な対応をとることができないというリスクが考えられます。
場合によっては、勤務先から損害賠償を請求されてしまうこともあるかもしれません。
弁護士に依頼すれば、勤務先側と法的な交渉をおこなうことができるため、そういったリスクを考えることなくスムーズにトラブルに対応することができます。
弁護士に退職代行を依頼することのデメリット
弁護士に退職代行を依頼することのデメリットとして、費用が高くなってしまうことが挙げられます。
弁護士に退職代行を依頼する際には、最初に相談をするときに必要な法律相談料、退職代行を依頼するための手数料、事務的な作業について生じる実費などが必要となります。
退職代行と同時に残業代請求や未払い賃金の請求を依頼したい場合は、上記に加えて別途料金が必要になる場合もあります。
そのため、一般の退職代行業者や退職代行ユニオンと比べて費用がかさむというところがデメリットです。しかし、弁護士に依頼すれば、他のサービスと比べて圧倒的にスムーズな対応をすることができます。
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残業代請求をする際のポイント
残業の証拠を集めておく
残業代を請求するうえでは、自分がどれだけの時間働いたかを示す証拠が重要となります。
そこで、次のような証拠を集めておくことがポイントです。
残業代を請求する際の証拠
- 残業していたことの証明になる証拠……タイムカード、交通系ICカードの履歴など
- 残業代を計算するのに必要となる証拠……雇用契約書、就業規則など
- 残業代が未払いであることを示す証拠……給与明細、源泉徴収票など
残業代についての証拠を集めるときには、なるべく会社側にバレないように証拠を集めることが重要です。会社側としては、残業代の請求を逃れるために証拠を隠滅するおそれがあるからです。
また、多くの残業代を請求できるように、なるべく多くの証拠を集めておくことも重要です。
証拠が手元にない場合でも弁護士に相談し、弁護士から証拠の開示請求を行ってもらうと、勤務記録や就業規則といった証拠を得られやすくなるでしょう。
関連記事
・残業代請求で必要となる証拠を徹底解説!証拠がない場合の対処法は?
残業代請求の時効は3年
残業代を請求する上で気をつけておきたいポイントは、未払いになっている残業代を請求できる時効が3年であるという点です(労働基準法第115条)。
残業代請求の時効をストップさせるには、内容証明郵便を使用して、請求書を送るなどといった手段が挙げられます。
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退職前に証拠を揃えて退職後の残業代請求がおすすめ
残業代は在職中でも退職後でも請求ができますが、退職後の残業代請求がおすすめです。
在職中に請求する場合、残業代についての証拠が集めやすいという反面、請求をやめるよう説得されたり、請求後にパワハラ行為を受けるなどといった不当な扱いを受けたりするリスクがあるからです。
退職後であれば、そういった不当な扱いを受けるリスクがなくなります。
しかし、在職中で3年以上残業代が未払いであるという場合は、毎月古い残業代から時効になるため、できるだけ早く残業代を請求することをおすすめします。
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・残業代請求は退職後でも可能!注意点や退職後の証拠の集め方を解説
まとめ
弁護士に依頼すれば、退職代行と同時に残業代を請求することができます。
ほかの事業者と比較して退職代行の費用は高くなりますが、残業代請求をお考えの場合は弁護士に依頼することをおすすめします。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了