残業代請求は退職後でも可能!注意点や退職後の証拠の集め方を解説

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残業代請求退職後でもできる!

在職中はやむを得ずサービス残業をしていても、退職後に未払いだった残業代の請求を考える方は多いのではないでしょうか。

残業代を受け取るのは正当な権利です。自分が時間と労力を費やした残業の賃金が受け取れないのは納得いかないですよね。

法律上、退職後でも残業代請求は可能です。

しかし、辞めた会社に対する残業代請求は、証拠集めや時効など、いくつか注意しなければならない点もあります。

この記事では、退職後の残業代請求を失敗したくない方に向けて、退職後に残業代を請求するときのポイントや注意点を詳しく解説します。

退職後に残業代請求が可能な理由

退職後でも残業代請求の権利がある限り請求できる

退職後に残業代請求ができるということは、「残業代を請求する法的な権利が使える状態」を意味します。

この権利は、いったん発生すると、会社から残業代が支払われるまで基本的には消滅しません。

退職しても残業代請求の権利は持ち続けるため、その権利を使って辞めた会社に対し残業代請求ができるということです。

自主的な退職ではなく、たとえ解雇された場合でも、残業代は請求できます。

退職後に残業代請求する例は多い

退職後に残業代請求をする例は多いです。

在職中の残業代請求も可能ですが、会社ともめることや、残業代請求による嫌がらせや不利益を受けることも懸念されるため、退職後に行う人が多いようです。

ただ、退職後に請求する場合でも、「転職先に圧力をかけられたくない」といった不安をお持ちの方もいるかと思います。

しかし、そもそも会社が従業員の転職先を把握しているケースというのは稀です。自分で教えない限り、転職先が正確にわかることはほとんどないでしょう。

また、仮に圧力がかけられたとしても、転職先が残業代を適正に支払っている会社であれば、圧力をかける方が不当であると正しく判断してくれるはずです。

退職後の残業代請求は時効に注意

残業代請求の時効は3年

退職後、過去の残業代を何十年も遡って請求できるわけではありません。残業代請求の時効は3年です

つまり、残業代が支払われていない状態であっても、残業代請求が認められるのは最大で3年間分ということです。

時効で消滅する部分を出さないために、残業代の未払いが生じてから3年以内に請求するべきと言えるでしょう。

残業代請求をする場合の起算点

残業代の請求期限の起算点は「給料日の翌日」です。

残業代の請求期限の起算点とは、時効期間のカウントが始まる日付のことです。

通常は毎月の給料日ということになるため、その給料日から3年以内に請求しないと、支払われるはずだった残業代を支払ってもらえなくなるということになります。

請求しても「時効で消滅している」と会社から主張されてしまうでしょう。

たとえば、2023年の8月末で退職し、最後の給料が翌月の9月15日に支給されたとします。

起算点は給料日の翌日の9月16日になるため、2026年の9月15日までに残業代を請求しなければ、時効が完成してしまうということです。

実際には会社に対する請求が遅くなると、古い分から時効によって請求できなくなっていきます。

いったん会社に対して支払いを求めれば、時効の完成が6か月先送りされるというルールもあるため(民法150条1項)、退職後は迅速に残業代請求を行うことが重要といえるでしょう。

未払い残業代の請求の時効についてさらに詳しく知りたい方は、『残業代請求の時効は3年!将来は5年に?時効中止や請求の方法を解説』の記事をご覧ください。

退職後に残業代請求するためには証拠が重要

残業代請求を行うためには証拠を収集する

退職後に残業代請求を行うためには、残業代未払いの証拠を収集することが重要です。

在職中は、就業規則やタイムカードなど、残業代請求の証拠となる資料にアクセスしやすい環境にあります。

しかし、退職後は、基本的に会社に依頼しなければそういった資料が手に入らなくなります。

また、古い記録・資料は消去・廃棄されていくため、一般的に、時間が経つほど証拠の収集は困難になります

証拠がない場合はどうすればいい?

在職中は仕事に追われており、証拠の収集ができないまま退職してしまった方もいるでしょう。

すでに退職しており、手元に残業をしていた証拠がなくても、泣き寝入りする必要はありません。

退職後でも、ご自身で収集できる証拠は以下のようなものがあります。

退職後に収集できる証拠

  • 交通ICカードの入退場履歴
  • 会社のアカウントからのメール履歴
  • 帰宅時間がわかる家族へのLINE など

交通ICカードの履歴は、利用した交通機関に問い合わせれば確認できます。場合によっては開示請求を行うことも可能です。

一定期間経過すると履歴が印字できないケースもあるため、自宅からの通勤で利用していた方は、早めに問い合わせておきましょう。

また、会社のアカウントからのメール履歴が自身の携帯に残っていた場合は、証拠になる可能性があります。

さらに、家族へ「今から帰るよ」といった帰宅時間を報告するLINEなどが証拠になる場合もあります。LINEを送る習慣があった方は、LINEの履歴から残業代の時間を計算してみてもいいでしょう。

残業代の証拠は多ければ多いほどいいです。これは証拠にならなそうと思ったものでも、証拠を補完する役割を果たすこともあります

履歴がなくなったり、請求期限があったりするものは、早めに収集しておきましょう。

弁護士による開示請求も可能

上記のような証拠がない場合でも、弁護士に依頼して会社に開示請求を行うことで、証拠を収集できる可能性もあります。

民事訴訟法の証拠保全の手続(民事訴訟法132条)を活用するという方法もありますが、弁護士からタイムカードなど勤務時間の分かる資料を請求すれば、多くの会社では開示に応じてくれます。

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タイムカードがなくても残業代の請求は可能!収集すべき証拠とは?

退職後の残業代請求のポイント

退職後の残業代請求は高額となりやすい

残業代請求は、未払いの残業代額そのものに加えて、遅延損害金も請求することが一般的です。

遅延損害金の額は基本的に法律で決まっており、原則は年3%(民法419条1項、404条2項)ですが、退職の日までに支払われていない賃金に関しては年14.6%となります賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。

残業代も賃金ですから、もちろん対象となります。

これは金銭債務一般にはない賃金だけの特徴であり、賃金という生活に密接に結びついたお金を確実に支払わせるため、法定利率よりはるかに高い利率が設定されているのです。

退職時まで残業代の未払いがあるケースは未払い額が高額であることも多いため、全体の請求額も高くなる傾向にあるといえるでしょう。

残業代請求の場合には付加金も検討

さらに、残業代の未払いには付加金という制度が設けられています(労働基準法114条)。

付加金とは、使用者が労働基準法上支払い義務がある一定のお金を支払わなかった場合、未払い分に加え、それと同額の支払いを裁判所が命じることのできる制度です。

単純に言えば、未払い残業代額の2倍の支払いを受けられるということであり、違反に対する経済的ペナルティとして設けられているものです。

退職後でも付加金の請求は可能であり、裁判で残業代を請求する場合には検討する必要があります。

もっとも、付加金の支払いを命じるのは裁判所ですので、裁判を起こさなければ請求はできません。たとえば、会社と直接交渉して支払いを受ける場合、付加金を得ることはできません。

さらに、付加金が支払われるかどうかは裁判所の判断に任せられていますので、請求したからといって必ず認められるわけでもありません

裁判所は、違反の程度(悪質性)や労働者が被った不利益の大きさなどを総合的に考慮して、付加金の支払いを命じるか否かを決定することになります。

退職後の残業代請求は弁護士に相談

退職後の残業代請求をお考えの方は、弁護士に相談しましょう。

残業代請求の時効は3年ですが、退職から時間が経ってしまうと、証拠の収集が難しくなってしまうため、可能な限り早めに動き出すことが大切です。

何から始めればいいのか分からないという方は、まず弁護士に相談し、必要となる証拠や、収集の仕方などのアドバイスをもらうといいでしょう。

加えて相談の際には、仕事内容や給与額、おおよその残業時間といった事情を整理しておくと、請求できる残業代を知ることができます。

ご自身の未払い残業代が、いくらになるか分からず、目安の残業代を計算したい方は、残業代計算ツールをご利用ください。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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