タイムカードがなくても残業代の請求は可能!収集すべき証拠とは?
「タイムカードがなくても残業代請求できる?」
「タイムカードがない場合の具体的な請求方法を知りたい」
時間を犠牲にして従事しなければならない残業。大変な残業の賃金を請求する証拠がないと不安になってしまいますよね。
タイムカードがなくても勤怠記録やPCのログインデータがあれば残業代の請求は可能です。
ただし、残業記録があっても、請求が認められないケースもあります。
この記事では、残業代請求を適切に行いたいという方に向け、タイムカードがない場合の請求や、タイムカードの代わりになる証拠、残業が認められないケースについて詳しく解説していきます。
残業代請求の証拠については、『残業代請求で必要となる証拠を徹底解説!証拠がない場合の対処法は?』の記事でさらに詳しく解説しています。
目次
タイムカードがない場合は別の証拠が必要
タイムカードは有力な証拠になる
残業代の証拠と聞いて、タイムカードを思い浮かべる方は多いと思います。
タイムカードは、残業を行ったことを明確に確認できる有力な証拠になります。
タイムカードは、労働者の出勤および退勤を管理するものであるため、労働者の残業時間を証明することが可能です。
しかし、残業を行った証拠となるのは、タイムカードだけではありません。タイムカードがない場合でも、残業を行ったことを別の証拠で証明できれば残業代の請求は可能です。
会社にタイムカードがなくても違法ではない
会社にタイムカードがなくても違法ではありません。
労働安全衛生法の改正により、使用者は労働時間の把握義務を課せられています(労働安全衛生法第66条の8の3)。
しかし、従業員の勤怠時間を確認できるものはタイムカードだけではなく、勤怠管理システムやICカードなどでも勤怠時間は把握できます。
労働者の労働時間の状況を把握するための、厚生労働省が定める方法は以下の3つです(労働安全衛生規則第52条の7の3第1項)。
労働者の労働時間の状況を把握する方法
- タイムカードによる記録
- パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法
- その他の適切な方法
勤怠時間を把握する方法はタイムカードである必要はないので、タイムカードが企業になくとも違法ではありません。
タイムカードと労働時間が一致していない場合
タイムカードと労働時間が一致していない場合でも、残業代の請求は可能です。
残業代はタイムカードに書かれた時間だけでなく、さまざまな証拠により残業時間を判断するからです。
退勤時間になったらタイムカードを押して、その後に残業するように指示された場合、タイムカードには残業時間が記録されていないことになります。
このような場合には、残業を指示された別の証拠を残しておきましょう。残業が指示されたものであること、残業した時間が明確に分かることが証拠として重要です。
未払い残業代の請求期限は過去3年分
現在、未払い残業代の請求期限は3年となっており、それ以上さかのぼって残業代を請求することはできません。
しかし、3年分の証拠が必要になるわけではなく、直近1年分の証拠があればその値を3倍するといった形で請求できる場合があります。いずれにせよ、できるだけ長い期間の証拠を集めることが重要です。
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残業代請求でタイムカードの代わりになる証拠
残業代請求において、タイムカードは残業した時間を証明する証拠です。
残業をしていたという事実だけでなく、正確な残業時間も確認できるため、裁判においても重視されています。また、勤務時間を過ぎてタイムカードを押していることが、黙示の指示を裏付ける要素となる可能性もあります。
タイムカードがない場合には、以下のような記録をタイムカードの代わりに証拠として集めておきましょう。
タイムカードの代わりとなる証拠
- 残業時間が把握できる客観的な記録
- 残業していたことを示す記録
- 残業を明示的あるいは黙示的に指示された記録
どのようなものがタイムカードの代わりの証拠となるのかを具体的に解説します。
残業時間が把握できる客観的な記録
残業時間が把握できる客観的な記録には、以下のようなものがあります。
残業代把握のための客観的な記録
- 勤怠データ
- オフィスや建物の退館データ
- 業務日誌
- 勤怠時間を記入したメモ
残業代の請求において、裁判官を納得させるには証拠が客観的なものであることが重要です。
出勤時間と退勤時間が記録されている勤怠データがあれば、タイムカードと同様に残業時間が正確に把握できます。
ICカードなどのオフィスや建物の退館データも残業時間を把握できる客観的な証拠です。
業務日誌も証拠になりますが、何時から何時までどんな作業をしていたのかが具体的に書かれていることが必要になります。
勤務時間を記入するものが会社に用意されていない場合には、勤怠時間をメモなどに記入しておきましょう。
証拠としては弱いですが、毎日継続して勤務時間が書かれていれば他の証拠を補完することが期待できます。
残業していたことを示す記録
残業していたことを示す記録には、以下のようなものがあります。
残業を示す記録
- メール履歴
- PCログイン・ログアウトデータ
- GPS記録
- 家族へのメール
正確な残業時間を把握することは難しいですが、メールの送受信の時間やパソコンのログイン・ログアウト時間、GPS記録などの電子的なデータは、残業していたことを示す客観的な証拠として採用されやすいです。
残業を明示的あるいは黙示的に指示された記録
残業代の請求要件のひとつに、使用者の残業指示があります。
残業代を請求するためには、指示されていないのに勝手に残業した、あるいは必要のない残業を行っていたわけではないことを、証拠として示すことが必要です。
以下のような場合には、残業を明示的あるいは黙示的に指示された証拠として採用される場合があります。
残業を指示された証拠となり得るもの
- 勤務時間以外に上司とメールのやり取りを行った
- 勤務時間後にレポートを上司に提出した
証拠があっても残業代が認められないケース
残業をしていた証拠がある場合でも、残業代が認められないケースもあります。
残業が認められないケース
- 使用者が明確に残業を禁じていた
- 必要ない業務を自ら遂行していた
- 管理監督者に該当する労働者である
- 固定残業代(みなし残業代)の範囲内である
それぞれのケースにおいて、なぜ残業代が認められないのかを解説します。
使用者が明確に残業を禁じていた
使用者が明確に残業を禁じていた場合は、残業代が認められません。残業代の請求要件である「使用者の残業指示」を満たしていないからです。
ただし、形式的に残業を禁じられていても、事実上残業せざるを得ない業務を指示されていた場合は、残業代が認められる可能性があります。
必要ない業務を自ら遂行していた
必要ない業務を自ら遂行していた場合は、残業代が認められません。残業代の請求要件である「使用者の残業指示」を満たしていないからです。
上司からの指示がないのに、期限的に必須といえない業務を勝手に行っていた場合、残業代は認められません。
管理監督者に該当する労働者である
管理監督者に該当する労働者は、残業代が認められません。
労働基準法における管理監督者は、労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場にある人を指します。
一般的な労働者のように、労働基準法に定められた労働時間や休憩、休日の制限を受けない立場です。
労働者が管理監督者に該当するかは、役職名で決まるわけではなく、職務内容や責任、権限などによって判断されます。
ただし、企業内で管理職と呼ばれていたとしても、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合には、残業代を受け取れます。
固定残業代(みなし残業代)の範囲内である
残業を行っていた証拠があっても、固定残業代(みなし残業代)の範囲内である場合には、残業代は認められません。
ただし、あらかじめ決めている残業時間を超えて残業した場合は、超えた時間分の残業代を受け取れます。
タイムカードがなくても弁護士に相談を!
残業代請求の証拠でお悩みの方は、弁護士に相談してください。残業代請求には証拠が重要ですが、手元にタイムカードや勤怠データなどの証拠がなくても、諦める必要はありません。
弁護士に依頼して証拠開示請求という手続きを取ることで、証拠となるデータを会社に出させることが可能なケースもあります。
残業代の請求は、訴訟を背景とした交渉で解決することもあります。無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了