M&Aで従業員はどうなる?会社売却後の社員の雇用について解説

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M&Aで会社売却を行った場合、自社の従業員・社員はどうなるのでしょうか。

後継者が不在でもう経営を続けられない場合などに、M&A・会社売却が利用される場面が増えてきました。

経営者としては、長年一緒に仕事をしてきた仲間だった従業員・社員に対する会社売却の影響が気になるかもしれません。

この記事では、会社売却をした後の従業員・社員の雇用、給与、待遇などについて解説します。会社売却後の社員のモチベーションを下げないためのポイントも紹介していますので、これから会社売却を考えている経営者の方はぜひ参考にしてください。

M&A・会社売却後も雇用は維持されるのか?

会社売却に伴う従業員の雇用状況は、売却スキームや買収企業の事業計画によって変わります。原則として、会社売却の後も従業員の雇用契約は継続されます。

ここでは、M&A・会社売却の代表的手法である株式譲渡と事業譲渡にそれぞれ分けて説明していきます。

株式譲渡とは、発行済みの株式を第三者に売り渡すことで、経営権を譲渡する方式です。売主側は、売却後に経営にかかわることは原則ありません。

事業譲渡は、事業の一部もしくは全部を切り出した会社売却の方式です。株式譲渡と異なり、売却した後でも、自身の経営権が手元に残ります。

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株式譲渡の場合

株式譲渡によって会社売却を行ったとしても、従業員・社員が解雇されることはありません。

理由としては、「労働法により解雇が難しい」「従業員・社員を含めて企業価値が評価されている」「譲渡契約に雇用の維持が条件と定められている」などが挙げられます。

労働法により解雇が難しい

株式譲渡では、経営者が入れ替わるだけで、会社と従業員の間の雇用契約は維持されたままになります。労働法上、会社が労働者を解雇するためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法16条)。

そのため、解雇できるケースがかなり限定されているのです。

従業員・社員を含めて企業価値が評価されている

M&Aで買収を行う多くの会社は、従業員を含めた売り手企業の資産を評価した上で、株式譲受を決めています。

そのため、わざわざ元の企業の従業員を解雇してまで新しい人材を登用するケースはほとんどありません

譲渡契約に雇用の維持が条件と定められている

売り手企業の経営者は、会社売却後も自社の従業員が雇用されたままの状態であることを希望するものです。

株式譲渡契約を締結する際に予め雇用維持を条件にしておけば、経営から離れた途端、一緒に働いてきた従業員・社員が解雇される事態を防ぐことができます

ただし、買い手企業の事業計画や経営方針の変更によって、従業員の雇用に影響が生じる可能性はあります。

例えば、買収企業が事業の再編や人員削減を行う場合、解雇されずとも退職を促されるような事態がありえますが、上記の理由によりほとんどあり得ないケースといえるでしょう。

事業譲渡の場合

事業譲渡による会社売却の場合、従業員は、買い手企業に転籍することになります。

転籍による場合、従業員はいったん売り手企業を退職し、買い手企業と改めて雇用契約を結びます。

転籍に従業員が同意した場合、雇用は維持されることになります。

「事業譲渡先の企業は好きではない」「事業譲渡されるなら転職したい」など、従業員が転籍に同意しない場合には、雇用は維持されません

また、譲受企業側が「自社の勤務条件に同意する者だけを雇用する」という対応をすることも許されています。

そのため、転籍先の給与や待遇に納得がいかずに同意できないという場合には、雇用は維持されないことになるでしょう。

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会社売却の基本的な流れ

M&A・会社売却の基本的な流れは以下の通りです。

会社売却の流れ

買い手企業の選定では、M&Aアドバイザーの助言を受けながら、自社の事業や経営状況に合った候補企業を探します。

交渉段階では、売却価格や条件などについて相手方と交渉を行います。買い手企業と売却企業の間で、雇用契約の継続や給与・待遇の変更などについて、合意する必要があるでしょう。

その後、売買契約を締結し、売却金額を支払うことで、会社の譲渡は完了となります。

非上場企業で株式に譲渡制限がかかっている場合などは、最終譲渡前に株主総会や取締役会の承認を受けなければなりません。

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M&A・会社売却後の従業員の給与や待遇

会社売却後の給与・待遇

株式譲渡の場合

株式譲渡による会社売却の場合には、従業員の給与や待遇が変更されることは一般的にはありません。

しかし、買収企業の給与体系が年俸制である場合、売却企業の月給制の従業員は、年俸制に変更される可能性があります。

給与のほかにも退職金や福利厚生、勤務条件なども、会社売却によって変更される可能性があります。

ただし、労働契約法9条の「労働契約の合意」に基づいて、従業員の同意なしに、労働契約の内容を一方的に変更することはできません。

そのため、買収企業が従業員の給与や待遇を変更する場合は、従業員の同意を得る必要があります。

事業譲渡の場合

事業譲渡による会社売却の場合には、新たに譲渡先の企業と雇用契約を締結することになるため、給与や待遇が変更される可能性があります。

雇用を維持したい場合には、譲渡先の企業が示す条件に同意する必要があるので、最悪の場合、従来の給与水準よりも低くなってしまう恐れもあるでしょう。

しかし、転籍の条件に不満を持った従業員が大量に離職するなどの事態が発生すると、買い取った事業がうまく進まない問題が起きるでしょう。

そのため、最初は従来の水準に近い条件で契約を行い、時間をかけて待遇が変わっていくケースもあります。

買い手企業としては、事業を買い取った目的を達成するため、従業員・社員には大きな不満を持たずに働いてほしいと思うものです。そのため、従来の水準で契約したいと希望する従業員を即座に切り捨てることは珍しいでしょう。

会社売却後の退職金の扱い

株式譲渡の場合

株式譲渡による会社売却の場合には、雇用契約の内容は変更されていないため、元々所属していた企業の制度が原則として適用されます。

株式譲渡では、経営者が変わっていたとしても、契約自体は変更されていないからです。

しかし、退職金の積み立て・支払い方法の変更について、雇用契約の変更を依頼される場合はあるかもしれません。

買い手企業の退職金制度が従来の制度と異なる場合、退職金の支払い条件も変更される可能性があります。

事業譲渡の場合

事業譲渡による会社売却で、従業員が転籍に同意した場合、譲渡企業との雇用契約は消滅し、買い手企業と雇用契約を結びます。

この場合、従業員の退職金は次のいずれかのパターンで支払われることが多いです。

  1. 売り手企業が雇用契約消滅(退職)時に清算して、従業員に支払う
  2. 買い手企業が引き継ぐ

1の場合は、通常の自己退職による退職金の支払いと同じです。

2の場合は、売り手企業が従業員に退職金を直接支払うのではなく、買い手企業が引き継いで、買い手企業に転籍した後に定年を迎えたり転職したりする場合に支払う方法です。

売り手企業は事業譲渡時における退職金相当額を買い手企業に渡すか、事業譲渡の金額から該当する金額分を差し引いて対応します。

M&A・会社売却後の従業員のモチベーションを維持するために

M&A・会社売却の目的や意義の説明

会社売却は、経営陣にとって大きな決断であると同時に、従業員にとっても不安や疑問を抱きやすいものです。

会社売却によってモチベーションが下がり、従業員が離職してしまうような事態に陥ると、 売却後のスムーズな事業運営が難しくなります。

このような状況を防ぐためにも、なぜ会社売却という決断が下されたのか、その目的や意義を経営者から従業員に説明するべきでしょう。

早期に従業員に情報を共有する

M&A・会社売却の情報は、可能な限り早期に従業員に共有する必要があります。情報公開が遅れたり、不透明な状況が続いたりすると、従業員の不安や憶測が膨らみ、モチベーション低下に繋がる可能性があります。

もっとも、買い手との交渉段階では、情報漏洩の恐れがあるため、社内への公表は控えるべきです。しかし、M&Aが成約したのであれば、できるだけ早い段階で従業員に伝えるべきでしょう。

従業員の不安や疑問に丁寧に答える

M&A・会社売却は、従業員にとって大きな変化であり、様々な不安や疑問を抱くのは当然です。経営陣は、従業員からの質問や意見に対して丁寧に耳を傾け、誠実に答える必要があります。

M&A・会社売却後の従業員のモチベーション維持には、経営陣による丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

上記のポイントを参考に、従業員の不安や疑問に寄り添い、安心して働ける環境を整備しましょう。

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