肩鎖関節脱臼の後遺症と後遺障害等級。慰謝料の相場額も紹介

更新日:
岡野武志弁護士

監修者:アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

肩鎖関節脱臼

交通事故で肩を直接打ち付けたり、肩に体重がかかるような体勢を取ったりすると、肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)となってしまう場合があります。

肩鎖関節脱臼は、ときに痛みや変形、肩の曲げづらさなどの後遺症が残ってしまうこともある重大なケガです。

この記事では肩鎖関節脱臼の症状や治療の基本に加えて、どんな後遺症が残り、後遺障害認定を受けられる可能性があるのかについて解説します。

慰謝料相場もまとめていますので、示談前に必ず最後までお読みいただき、弁護士相談も検討してみてください。

交通事故で肩が痛い方へ

この記事は、交通事故による肩鎖関節脱臼で肩が痛い方に向けた解説記事です。肩に痛みを感じる場合、腕神経叢損傷胸郭出口症候群、あるいはむちうち腕を骨折している場合もあります。肩の痛みの原因ごとに対処が異なるので、まずは整形外科で診察を受けましょう。

肩鎖関節脱臼とは?原因・症状・治療を解説

肩鎖関節脱臼の症状

肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)とは、肩甲骨と鎖骨をつないでいる「肩鎖関節」がずれてしまうことです。

肩鎖関節は、周りにある肩鎖靭帯や鳥口鎖骨靭帯といった靭帯や筋肉によって支えられています。

肩鎖関節を支えるこれらの靭帯や筋肉が損傷すると、肩鎖関節にずれが生じてしまいます。これが、肩鎖関節脱臼です。

なお、肩鎖関節のずれの程度には6つの分類があり、分類ごとの具体的な特徴は以下の通りです。

分類特徴
捻挫肩鎖靱帯の一部が損傷
亜脱臼肩鎖靱帯が断裂している
脱臼肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯がともに断裂
鎖骨遠位端が少し上にずれている
後方脱臼肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯がともに断裂
鎖骨遠位端が後ろにずれている
高度脱臼鎖骨遠位端、烏口鎖骨靱帯がともに断裂
三角筋・僧帽筋が鎖骨外側3分の1より外れている
下方脱臼鎖骨の端が下にずれている脱臼

では、交通事故でなぜ肩鎖関節脱臼が発生するのか、どのような症状があり、どのような治療をしていくのかについてみていきましょう。

肩のケガに関する関連記事

交通事故で肩鎖関節脱臼が発生する原因

交通事故で肩鎖関節脱臼が起こる主な原因は、接触時の転倒や外力があげられます。具体例は以下の通りです。

  • バイク乗車中の事故で転倒して肩付近を打ち付けた
  • 交通事故で物と物の間に挟まれるようにして肩に衝撃を受けた
  • 自転車に乗っていて車と接触し、地面に手を突いた時の衝撃で間接的に受傷した

直接的に肩鎖関節付近を打ち付けた場合だけでなく、事故で転倒し地面に手をついた場合も、衝撃によって肩鎖関節周りの靭帯や筋肉が傷つくことがあります。

肩鎖関節脱臼で生じる症状

肩鎖関節脱臼では、肩の激しい痛み、肩周囲の腫れ、肩を動かせる範囲が狭くなるなどの症状がみられます。

そのため、重いものを持ち上げられなくなったり、ちょっとした動作でも苦痛を感じたりして、仕事や家事に影響が出ることもあるでしょう。

重症の場合は神経や血管が損傷してしまったり、肩ではなく胸部にまで何らかの症状が出現する場合もあります。

症状が落ち着くまで仕事や家事を休んで対応するケースもありますが、後遺症が残ればこうした支障は今後も長く発生します。

いずれにしても、肩鎖関節脱臼のせいで仕事や家事に影響が出る場合は、適切な賠償請求が必要です。

肩鎖関節脱臼の治療方法

肩鎖関節脱臼は、レントゲン検査やMRI検査で診断されます。

治療法は脱臼の程度によって異なり、軽症の場合は保存的治療が行われることが多いです。

痛みが強い急性期のうちは、数週間スリングで固定し、少しずつ関節を動かすリハビリを開始することになるでしょう。

一方で、重症の場合は手術が必要になることもあります。

なお、リハビリ期間も、症状固定前であれば治療費や通院交通費、入通院慰謝料などの対象となります。

肩鎖関節脱臼の後遺症は?認定されうる等級も解説

肩鎖関節脱臼では、以下のような後遺症が残る場合があります。

  • 神経症状:痛みが残る
  • 機能障害:肩の可動域の制限
  • 変形障害:鎖骨の突出といった骨の変形

これらの後遺症に対して「後遺障害等級」が認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金を請求できるようになります。

それぞれの後遺症がどのようなものか、認定されうる後遺障害等級は何級で、認定基準は何かを見ていきましょう。

肩鎖関節脱臼による神経症状(痛み)

肩鎖関節脱臼では、痛みが後遺症として残ることがあります。

痛みは「神経症状」として、後遺障害12級13号、後遺障害14級9号に認定される可能性があります。具体的な認定基準は以下のとおりです。

等級内容
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

12級13号と14級9号の認定ポイントは以下の通りです。

  • 12級13号は、レントゲンなどの画像検査で異常が確認でき、因果関係が医学的に証明できる場合に認定される
  • 14級9号は、画像検査で異常は見られずとも、事故態様や症状の一貫性などの状況、神経学的検査の結果から医学的に説明・推定ができる場合に認定される

痛みの原因は筋肉や靭帯など、肩鎖関節周辺の組織にあることがあります。この場合、レントゲン写真などを撮っても異常が分からないことが多いです。

そうした場合は、患部に刺激を与えたときの反応を見る「神経学的検査」の結果や治療経過などから、「画像検査で異常は見えないものの、後遺障害があると考えるのが妥当」と判断される必要があります。

関連記事『後遺障害12級13号とは?むちうちで12級に認定される条件』では後遺障害12級13号と14級9号の違いを知りたい人に向けて詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。

肩鎖関節脱臼による機能障害(動かしづらさ)

肩鎖関節は鎖骨と肩甲骨をつなぐ関節なので、脱臼すると肩の動きにも影響が出ることがあります。

肩鎖関節脱臼により肩関節の可動域が狭くなる後遺症は、後遺障害8級6号、10級10号、12級6号に認定される可能性があるでしょう。

等級内容
8級6号1上肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの
10級10号1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの

詳しい解説

  • 用を廃したもの(8級6号)
    =全く関節が動かない、あるいは負傷していない肩と比べて10%以下しか動かない
  • 著しい障害を残すもの(10級10号)
    =負傷していない肩と比べて2分の1以下しか動かない
  • 障害を残すもの(12級6号)
    =負傷していない肩と比べて4分の3以下しか動かない

肩関節の可動域がどの程度制限されているかは、肩鎖関節脱臼を負った側の肩と、負傷していない側の肩(健側)を比較して判断します。

後遺障害の申請をする際には、必ず可動域の検査結果と共に「どの程度動かないのか」を明らかにしておきましょう。

また、次に説明する変形障害も等級認定された場合には、後遺障害等級は併合され、併合9級、併合11級認定となる場合もあります。

併合によって等級が上がり、より高額な後遺障害慰謝料・逸失利益がもらえる場合もあるので、詳しくは弁護士まで相談することをおすすめします。

併合がない場合でも、後遺障害認定の可能性や各等級の認定基準・対策などについて相談可能です。

交通事故慰謝料
無料相談

肩鎖関節脱臼による変形障害(鎖骨の突出など)

肩鎖関節脱臼では、脱臼がうまく治らず、変形してしまうことがあります。例えば、鎖骨の端部分が突起のように飛び出して見える場合があるのです。

このような変形障害で認定されうるのは、後遺障害12級5号です。

等級内容
12級5号鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの

鎖骨の変形障害の等級認定ポイントは以下の通りです。

  • レントゲン上ではなく、裸体になった時の外見で変形がわかるもの
  • 上方に持ち上がった鎖骨を上から押すと、ピアノの鍵盤のように上下する「ピアノキーサイン」が陽性であること

変形障害と機能障害を併発しており、どちらも後遺障害認定を受ける場合には、より重い等級認定となる可能性があります。後遺障害申請前は弁護士に相談し、両方で等級認定を受けられるような対策を取りましょう。

肩鎖関節脱臼の慰謝料相場はいくら?

交通事故の慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2種類があります。およそ入通院慰謝料は治療期間をベースに考え、後遺障害慰謝料は後遺障害等級がベースとなって算定されるものです。

それぞれの慰謝料相場について説明します。

肩鎖関節脱臼の入通院慰謝料相場

入通院慰謝料とは、ケガの治療のために入院や通院を行ったことで生じる精神的苦痛に対する補償です。

肩鎖関節脱臼の入通院慰謝料を算定する時、弁護士は次のような「慰謝料算定表」を用います。慰謝料算定表には重傷用と軽傷用があり、ケガの内容によって使い分けされるものです。

肩鎖関節脱臼のほかのケガの兼ね合いもあるので、どちらの算定表を用いるのかは弁護士におたずねください。

重傷の慰謝料算定表
軽症・むちうちの慰謝料算定表

どちらの算定表も、横軸の入院月数と縦軸の通院月数が交差する部分が慰謝料相場を示します。仮に、入院なしの場合、通院月数ごとの入通院慰謝料相場は以下のとおりです。

入院なし、通勤月数ごとの入通院慰謝料相場

通院月数重傷軽傷
2ヶ月52万円36万円
3ヶ月73万円53万円
4ヶ月90万円67万円

なお、通院頻度が少ない場合には算定表通りの金額請求が難しいケースもあります。

しかし、肩鎖関節脱臼の治療として保存療法が選ばれ、医師の指示に基づく通院をきちんとしている場合には、通院日数の少なさを理由とした減額が不当である可能性があるのです。

通院頻度に不安がある方も、まずは弁護士に相談をして、慰謝料の見積もりを依頼しましょう。

交通事故慰謝料
無料相談

肩鎖関節脱臼の後遺障害慰謝料相場

後遺障害慰謝料とは、後遺障害を負ったことで生じる精神的苦痛に対する補償です。

後遺障害慰謝料の相場額は認定された後遺障害等級に応じて決まります。

具体的な金額は、下表の通り、後遺障害8級で830万円、10級で550万円、12級で290万円、14級で110万円が相場です。

等級 金額(万円)
8級830
10級550
12級290
14級110

後遺障害慰謝料については、後遺障害等級認定を受けていないと請求が難しいものです。また、本来は8級認定なのに10級認定しかなされないと、十分な補償とは言い難いでしょう。

まずは後遺障害認定を受けること、そして納得のいく等級認定を受けることが重要です。

交通事故の取り扱いに長けている弁護士であれば、後遺障害認定の申請サポートや妥当な等級の獲得などについてのアドバイスが可能です。

肩鎖関節脱臼と診断されたら弁護士に相談を!

交通事故により肩鎖関節脱臼のケガを負った場合には、弁護士に相談・依頼を行い、損害賠償請求を行うべきです。

弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットを得られます。

  • 示談金額を相場額近くまで増額するよう交渉してもらえる
  • 適切な後遺障害等級の認定を受けられるようサポートしてもらえる
  • 手続きを弁護士に任せることで被害者の精神的負担を減らせる

示談金の増額交渉を任せられる

弁護士が示談交渉を行うことで、相場に近い金額まで増額したうえで示談できる可能性が高まります。

示談交渉においては、交渉相手となる保険会社が相場額よりも低水準の金額で提案をしてくることが多いでしょう。

そのため相手の保険会社の言い分だけをうのみにせず、本来もらえるはずの相場まで増額交渉することが重要といえます。

この増額交渉を弁護士がおこなうことで「裁判を起こされるかもしれない」と考えた保険会社は増額に応じやすくなるのです。

増額交渉(弁護士あり)

後遺障害認定のサポートを受けられる

弁護士に依頼することで、後遺障害等級認定を受けるための申請手続きについてサポートを受けることができます。

後遺障害認定を受けるための申請手続きは、相手の任意保険会社に任せることも可能です。
しかし、後遺障害認定を受けられる見込みが不確定だったり、より上の後遺障害等級認定を目指すならば、被害者自らで申請する方法をおすすめします。

この方法は「被害者請求」といい、様々な資料の収集と作成をご自身でしなくてはなりません。そこで弁護士を立てることで、弁護士が被害者の負担を大きく減らせるのです。

また、どんな資料が必要なのかを熟知しているので、書類の不足による申請のやり直しなどのリスクを下げつつ、適切な後遺障害等級の認定を受けやすくなるでしょう。

被害者の精神的負担の軽減

弁護士に依頼すれば、相手の保険会社との連絡窓口を弁護士に一本化することができます。

相手の保険会社との交渉においては、難しい専門用語を使われたり、ときに冷たく感じる言葉をかけられることもあるでしょう。

弁護士に依頼することで、保険会社と連絡を取ることによるストレスから解放され、日常生活への復帰に専念しやすくなるのです。

無料の法律相談予約を24時間体制で受付中

アトム法律事務所では、交通事故被害者に向けて無料の法律相談をおこなっています。

アトム法律事務所の無料相談は、下記のバナーより、電話またはLINEにてご予約をお取りください。

  • 相手方からの連絡がしつこくて困っている
  • 肩鎖関節脱臼の損害賠償額の目安が知りたい
  • 相手の提示額について判断してほしい

こうした疑問に加えて、弁護士費用も分かりやすく説明するので、気兼ねなくお問い合わせください。

交通事故慰謝料
無料相談

交通事故の弁護士費用について

無料の法律相談の段階で、弁護士費用についてもあらかじめご確認いただけます。

また、相談の際には、利用できる弁護士費用特約の有無を事前に確認しておいていただけるとスムーズです。

弁護士費用特約とは?

保険会社が弁護士費用の全部または一部を負担するというもの。事故における損害賠償請求においては弁護士による交渉で、慰謝料が増額することが多いため特約に加入している場合は利用した方がよいといえる。

大半の弁護士費用特約は、法律相談料10万円、弁護士費用300万円を補償上限としています。保険会社の約款によるので、ご自身で加入されている保険会社に確認してみましょう。

交通事故の弁護士費用は損害賠償請求額しだいで変わるので、請求額が数千万円にのぼらないかぎり、弁護士費用特約で全額支払えることも多いです。

多くのケースで被害者は自己負担金ゼロで弁護士を立てることができます。

繰り返しますが、アトム法律事務所の法律相談は無料です。正式に依頼するかどうかは、法律相談後にご検討ください。まずは今のお悩みを弁護士に相談してみませんか。

交通事故慰謝料
無料相談
岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

アトム法律事務所の相談窓口

事故の慰謝料を相談