負担付き贈与とは?住宅ローン付きの家を贈与するリスクを解説

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負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負わせる贈与のことです。

この方法により、住宅ローンが残っている自宅を、存命のうちに子へ譲ることができます。

しかし、「ローンという『借金』も一緒に引き継ぐのだから、その分、贈与税も安くなるはず」などとお考えではありませんか?

実はここに、負担付贈与における最大の落とし穴が隠されています。

負担付贈与では、税務上の不動産の評価ルールがガラリと変わり、結果として通常の贈与よりも高い税金がかかってしまうケースが少なくありません。

今回は、相続専門の視点から、負担付き贈与の仕組みと、住宅ローンが残る物件を譲る際の注意点を分かりやすく解説します。

負担付き贈与とは?時価評価への切り替わりに注意

負担付き贈与とは、受贈者(もらう人)に一定の給付をなすべき義務を負わせる贈与のことです 。住宅ローンの残債がある不動産を「ローンを返済していくこと」を条件に譲るケースが代表的です。

最大の違いは、不動産の「評価額」の計算ルールにあります。

贈与の種類不動産の評価基準特徴
通常の贈与相続税評価額路線価や固定資産税評価額を用いる。時価の約7割〜8割程度が一般的。
負担付き贈与時価(通常の取引価額)市場で売買される価格。相続税評価額より高くなるのが一般的

負担付贈与が時価評価であることから損をしやすい理由

通常、土地の評価(路線価)は時価の約80%、建物の評価(固定資産税評価額)は時価の約70%程度に設定されています 。

しかし、負担付き贈与になると、この「割安な評価ルール」が使えなくなります。債務負担を軽減できるメリットよりも、評価額が「時価」に跳ね上がるデメリットの方が大きくなり、税額が高くなってしまうことがあるのです。

収益物件の贈与は負担付贈与となる可能性がある

アパートや賃貸マンションなどの収益物件を贈与する場合、負担付贈与とみなされる可能性があります。

一般的に収益物件を贈与すると入居者から預かっている敷金の返還義務という債務も受贈者が引き継ぐため、「負担付贈与」とみなされるのです。

負担付贈与と扱われないようにするためには、敷金分の現金を併せて贈与することが必要となります。

このような対策を取ることで、負担付贈与に該当する場合に比べて、結果的に贈与税の負担を大幅に軽減することが可能となるのです。

負担付き贈与のメリット・デメリット

負担付贈与(主に住宅ローンが残っている場合の負担付き贈与)によるメリットやデメリットを紹介します。

特に、税負担に関するデメリットが重要となるので、この点について詳しく解説を行います。

【メリット】親の負担軽減や早期の名義変更

  • 親の負担の軽減:債務の負担を子が引き継ぐことで、親の老後資金に余裕が生まれます。
  • 契約解除ができる:受贈者が負担を履行しない場合には贈与契約を解除できる可能性があるため、贈与自体をなかったことにできる。
  • 権利の早期確定:相続を待たずに今すぐ名義を変更できるため、将来の「誰が継ぐか」という争いを未然に防げる可能性があります。

【デメリット】想定外の重税と親族トラブル

  • 贈与税の跳ね上がり:時価評価が適用されるため、期待していた節税効果が得られないどころか、増税になるリスクがあります。
  • 「みなし譲渡」による所得税:あげる側(親)に所得税がかかる場合があります(詳細は後述)。
  • 小規模宅地等の特例が使えない:相続であれば土地の評価を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」が使えますが、贈与では適用されません。
  • 親族間の不公平感:特定の子供だけに有利な贈与を行うと、将来の遺産分割時に大きな火種となります。

負担付き贈与ではあげる側にも税金がかかるおそれ

負担付き贈与では、贈与した側(親など)に「譲渡所得税等」がかかる可能性があります。

具体的には、贈与財産を取得した際の価格より負担となる債務の金額が多い場合には、贈与した側に譲渡所得税が課されるのです。

「タダで譲ったのになぜ?」と思われるかもしれませんが、税法上、親は「子に債務(借金)を肩代わりしてもらうことで、借金が消えるという利益を得た」とみなされるため、課税対象となります。

債務の金額から取得時の価格を差し引いた金額に対して、譲渡所得税や住民税などが課税されるのです。

負担付贈与の対象である家が古くなって価値が下がっている場合でも、購入当時の価格が不明だと「売却価格の5%」を取得費とするルールがあるため、多額の税金が発生する恐れがあります。

負担付贈与による4重苦に注意|発生するコストの全体像

負担付き贈与を行うと、以下の4つの税金が重なる「4重苦」の状態になることがあります。

  • 贈与税(受贈者):「不動産の時価 - 債務額 - 基礎控除110万円」に対して課税されます。
  • 譲渡所得税・住民税(贈与者:親など):借金を肩代わりしてもらった額が「売却収入」とみなされる(みなし譲渡)ため、親が取得した当時の価格より負担する債務額が多い場合、その利益に対して所得税が発生します。
  • 不動産取得税(受贈者:子など):不動産を無償・有償問わず取得した際にかかる地方税です。
  • 登録免許税(名義変更時):登記を書き換える際に国へ納める税金です。通常の相続(0.4%)に比べ、贈与(2.0%)は税率が5倍も高くなります。

負担付き贈与(住宅ローン付き贈与)の税金計算

「時価5,000万円、ローン残高2,000万円、相続税評価額3,500万円」の自宅を子に贈与する場合をシミュレーションしてみましょう。

【負担付き贈与の場合の数式】

贈与税の対象額 = 不動産の時価 - 住宅ローン残高 - 基礎控除額(110万円)

A. 負担付き贈与として譲った場合

  • 評価額:5,000万円(時価)
  • 差し引く負債:2,000万円
  • 差し引き後の金額:3,000万円
  • ここから贈与税が計算されます。

B. (比較)ローンを親が完済してから通常の贈与をした場合

  • 評価額:3,500万円(相続税評価額)
  • 差し引く負債:0円
  • 差し引き後の金額:3,500万円
  • ここから贈与税が計算されます。

この例では、ローンを子が引き継ぐ(A)ほうが対象額は小さくなりますが、もし時価がもっと高く、相続税評価額との差が激しい物件(タワーマンションなど)であれば、ローンを引いた後の金額が相続税評価額を大きく上回ってしまう逆転現象が起こります。

贈与税の計算方法について詳しく知りたい方は『贈与にかかる税金を計算|500万円を生前贈与するシミュレーションつき』の記事をご覧ください。

住宅ローンの負担付き贈与を行う流れや注意点

実際に、住宅ローンが残っている場合の負担付き贈与を行う際の手続きの流れや、注意すべき点について解説を行います。

住宅ローンの負担付き贈与における手続きの流れ:5つのステップ

親が子に対して住宅ローンが残っている場合の負担付き贈与を行う際には、以下のような流れで手続きを行います。

  1. 事前調査:ローンの正確な残高と、不動産の「時価」を不動産鑑定や査定で確認。
  2. 金融機関への相談・審査:銀行に債務引受の打診をし、子の審査を受ける。
  3. 贈与契約の締結:銀行の承諾後、負担の内容(ローン返済)を明記した贈与契約書を作成。
  4. 名義変更(登記):司法書士を通じて所有権移転登記と、必要に応じ抵当権の設定変更を行う。
  5. 税務申告:贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告を行う。

住宅ローンの負担付き贈与では金融機関の審査が壁となる

住宅ローンが残っている場合の負担付き贈与を行う際に実務面で最も高いハードルとなるのが、住宅ローンを契約している銀行との交渉です。

具体的には、銀行との間で以下のような問題が生じます。

  1. 子の返済能力が問われる
  2. 勝手な名義変更は規約違反
  3. 抵当権はそのまま

子の返済能力が問われる

子がローンを引き継ぐには、銀行による再審査が必要です。

親の代わりに残った住宅ローンの返済が可能かどうかについて、銀行が審査を行います。

子の年収や勤続年数によっては、引き継ぎが認められないケースがあるのです。

勝手な名義変更は規約違反

銀行の許可を得ずに住宅ローンが残っている場合の負担付き贈与を行うと、規約違反になる可能性があります。

そのため、負担付贈与を行ったとして銀行に無断で名義を変えると、規約からローンの一括返済を求められるリスクがあるのです。

抵当権はそのまま

負担付贈与により名義を変えても、銀行の抵当権(家を担保にする権利)は残ります。

そのため、贈与を受けた子が住宅ローンの支払いを滞らせると、抵当権の行使により住宅を差し押さえられることとなるのです。

住宅ローン贈与で住宅ローン控除はどうなる?

子が住宅ローンを引き継いだ場合、住宅ローン控除を受けるのは困難です。

負担付贈与で不動産を取得した場合、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は
原則として適用されません。

国税庁が定める住宅ローン控除の適用要件には、以下の条件があります。

【適用除外となる取得方法】
①贈与により取得した住宅
②生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得

負担付贈与は、債務の引受けという負担があるものの、法的には贈与に
該当するため、上記①の要件により住宅ローン控除の対象外となります。

また、親子間での負担付贈与の場合、同居していたり仕送りをしていたりすると
生計を一にすると判断され、②の要件からも適用除外となるのです。

※生計を一にするとは、同居している場合だけでなく、別居していても
仕送りや生活費の共有がある場合を含みます。

親族間での売買や贈与に伴う債務引受は、一般的に住宅ローン控除の対象外となる要件が多いため、控除を前提にした資金計画は避けるべきです。

住宅ローン贈与は親族トラブルの火種|特別受益のリスク

特定の子供にローン付き物件を贈与すると、将来の相続時に「特別受益」として扱われる可能性があります。

「生前に多額の財産をもらった」と見なされると、他の兄弟姉妹から遺留分(最低限の取り分)を請求されたり、遺産分割協議が難航したりするリスクがあるのです。

贈与を行う際は、他の相続人にも納得感のある説明や対策が必要です。

負担付き贈与をせずに相続まで待つことも検討

「今すぐ名義を変えたい」という強い理由がない限り、生前に負担付き贈与を行うのではなく、将来の相続まで待つほうが圧倒的に有利になることが多いです。

具体的には、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」の活用といった方法による減税が考えられます。

「小規模宅地等の特例」の活用

相続であれば、亡くなった方が住んでいた自宅の土地(330㎡まで)の評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例が使える可能性があります。

特例を使うことができれば、5,000万円の土地が1,000万円の評価で済むといったメリットを受けられるのです。

この特例は生前贈与では使えません。

小規模宅地等の特例について詳しく知りたい方は『小規模宅地等の特例の要件をわかりやすく解説。計算方法や注意点もわかる』の記事をご覧ください。

「配偶者の税額軽減」の活用

もし配偶者が相続する場合、1億6,000万円(または法定相続分)までは相続税がかかりません。

相続税の配偶者控除について詳しく知りたい方は『相続税の配偶者控除とは?適用の要件は?計算方法を具体例付きで解説』の記事をご覧ください。

まとめ|負担付き贈与を検討する際のチェックリスト

負担付き贈与は、安易に行うと「税額の跳ね上がり」や「所得税の発生」を招く諸刃の剣です。以下のポイントを事前に確認しましょう。

  • 不動産の時価相続税評価額の差を把握しているか?
  • 譲渡した側(親)に譲渡所得税が発生しないか?
  • 金融機関からローンの引き継ぎ(免責的債務引受)の承諾を得られるか?
  • 相続まで待って「小規模宅地等の特例」を使ったほうが得ではないか?
  • 子が将来亡くなった際、時価で取得した物件が相続財産となり、二次相続の税負担が増える可能性はないか?

住宅ローンが残っている場合の負担付き贈与は、贈与税だけでなく所得税や登録免許税、さらには将来その物件を売却する際の「取得費」の問題まで絡む複雑な論点です。

まずは現在の住宅ローン残高と、物件の概算時価を整理した上で、一度税理士にシミュレーションを依頼することをお勧めします。

高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

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