住宅ローンの生前贈与・肩代わりは贈与税に注意|非課税制度の活用術

子供の生活のためにローンが残っている住宅を生前贈与したり、子供の住宅ローンの返済を肩代わりすると、高額な贈与税が課される恐れがあります。
しかし、子供の将来や生活を助けてあげたいという親心から、支援を考える方は少なくありません。
高額な贈与税を避けるためには、税法上で認められているさまざまな非課税制度を利用することが必要となります。
この記事では、住宅ローンの生前贈与や子供の住宅ローンの肩代わりにまつわるリスクと、損をしないための税法上の知識について、分かりやすく解説します。
住宅ローンの生前贈与・肩代わりを行う際の注意点
親が住宅ローンが残っている物件を生前贈与したり、子の住宅ローンを肩代わりすることは、たとえ「親子間の助け合い」であっても、税務上は贈与税の対象となります。
住宅ローン付き物件の贈与は課税額が高額化するおそれ
住宅ローンが残っている自宅を、子供に贈与して名義変更することを負担付贈与といいます。
負担付贈与を行う場合には、通常の贈与よりも贈与税が高額になるリスクがあるのです。
通常、不動産の贈与や相続では、時価よりも2〜3割ほど低い「相続税評価額(路線価など)」を使って税金を計算します。
しかし、ローンという負債(負担)と一緒に贈与する場合、評価方法は「時価」に切り替わります。
| 項目 | 通常の贈与(ローンなし) | 負担付贈与(ローンあり) |
|---|---|---|
| 評価基準 | 相続税評価額(時価の約8割) | 時価(市場価格) |
| 税負担 | 比較的軽い | 非常に重くなる可能性がある |
住宅ローンの生前贈与は銀行の許可を得てから|無断名義変更はリスクあり
住宅ローンが残っている物件を銀行に無断で名義変更することは、多くのローン契約で契約違反とされています。
発覚した場合、残債の一括返済を求められるリスクがあるため、必ず事前に金融機関へ相談しましょう。
相続まで待つという選択肢|債務控除との比較
負担付贈与で住宅を贈与するよりも、自宅を相続させるという方法についても検討を行いましょう。
税務上のメリットを最大化するには、あえてローンを残したまま相続を迎えるという選択肢との比較が欠かせません。
特に、以下のような点については検討が必要でしょう。
- 債務控除活用のメリット
- 負担付贈与のデメリット
- 基礎控除も含めた比較
債務控除活用のメリット
親が亡くなった際、住宅ローン(負債)が残っていれば、相続税の計算上、プラスの財産からその金額を「100%の額」で差し引ける可能性があります。
このような控除を債務控除というのです。
一方で、相続する不動産は、時価よりも低い「相続税評価額(時価の約8割)」で評価されます。
そのため、「低い評価額の資産」を受け継ぎつつ「高い評価(100%)で借金を引ける」ため、多くの場合で節税効果が認められるでしょう。
団信加入時は死亡時にローンが弁済されるため、債務控除が使えない点には注意が必要です。
負担付贈与のデメリット
前述のとおり、ローン付きのまま贈与すると時価で課税されるため、相続時より税負担が重くなる可能性があります。
負担付贈与のリスクに関して詳しく知りたい方は『負担付き贈与とは?住宅ローン付きの家を贈与するリスクを解説』の記事をご覧ください。
基礎控除も含めた検討
相続税では、法定相続人の人数に応じて基礎控除による相続税額の減額が可能です。
具体的には、「3,000万円+600万円×法定相続人数」の金額となります。
基礎控除がなされても、将来相続税がかかる可能性が高い資産規模のご家庭では、「ローンはあえて返さず、相続時に債務として処理する」方がトータルの税負担を抑えられる可能性があります。
住宅ローンの肩代わりは「贈与」とみなされる
子供のローン引き落とし口座に親が勝手にお金を入れたり、親の資金で一括返済するといったローンの肩代わりを行うと、子供に贈与税が発生します。
子供は「借金が消える」という経済的利益を受けたと判断されるためです。
贈与税の基礎知識
贈与税は、1年間に受け取った合計額が110万円を超えると発生します 。
- 基礎控除額: 年間110万円
- 申告時期: 贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日まで
例えば、500万円のローン残債を一括返済してあげた場合、子供には約48.5万円(特別贈与財産として計算)の贈与税が課せられる可能性があります。
住宅ローンに関する贈与税を抑えるための方法
住宅ローンに関して贈与税の負担を抑えつつ支援する方法には、以下のようなものがあります。
- 住宅取得等資金贈与の非課税措置
- 相続時精算課税制度
- 暦年贈与による資金援助
- 贈与でなく親からお金を借りる
①住宅取得等資金贈与の非課税措置
住宅取得等資金贈与の非課税措置は、父母や祖父母(直系尊属)から住宅購入資金の支援を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
これから住宅を購入する、あるいは新築・リフォームする子供を助ける場合に有効です。
- 非課税枠:最大1,000万円(省エネ等住宅)または500万円(その他の住宅)
- 他の制度との併用: 年間110万円の基礎控除と併用可能
- 注意点:必ず期限内に贈与税の申告が必要です。1円も税金がかからない場合でも、申告を忘れると特例が受けられません 。
※非課税枠は2026年末以降に改正される可能性あり
省エネ等住宅といえるためには、断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上などの要件を満たしていることが必要です。
この制度を利用するための要件は、贈与の相手が18歳以上であること、贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下であるなどと複雑です。
利用できるかどうかは専門家である税理士に相談して確認しましょう。
住宅取得等資金贈与の非課税措置によるメリットや要件を詳しく知りたい方は『【2026年末まで】住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置とは?|親からの資金援助を活用』の記事をご覧ください。
②相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、累計2,500万円までの贈与にかかる贈与税が非課税になる一方、贈与者が死亡した際に、贈与された財産を相続財産に足し合わせて、相続税の課税対象とする制度です。
子供が住宅を購入する費用を援助する際や、住宅ローン付きの自宅について子供へ負担付贈与する場合に利用すると効果的です。
- 2024年からの改正:従来の2,500万円枠に加え、毎年110万円の基礎控除が新設され、使い勝手が大幅に向上しました。
- メリット:値上がりが予想される物件の場合、贈与時の価格で将来の相続税が計算されるため、節税になります。
- デメリット:相続時に値下がりが生じていると損となるおそれがある。登録免許税や不動産取得税の負担が重い。
登録免許税については、相続では固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与では2%となります。
固定資産税評価額が2,000万円なら、相続で8万円、贈与で40万円となるので、負担金額の違いは大きいといえるでしょう。
メリットだけでなく様々なデメリットもあるので、利用すべきかどうかは税理士と相談の上で決めることをおすすめします。
相続時精算課税制度のメリットやデメリットについては『【令和6年最新】相続時精算課税制度のデメリット7つとメリット5つ』の記事で確認可能です。
③暦年贈与による資金援助
暦年贈与とは、暦年課税(1年間の贈与額に対して課税を行う制度)の対象となる贈与をいいます。
暦年贈与では、年間110万円までは贈与税がかかりません。
一度に大きな金額を渡すと税負担が重くなりますが、毎年の返済に充てる少額の援助であれば税金を抑えることが可能です。
ただし、贈与契約書に「あらかじめ総額を決めて分割で渡す」といった記載があると定期贈与と判断され、多額の課税を招くリスクがあります。
適切な援助を行うためには、毎年贈与額を決定した上で個別に契約書を作成して、手続きを進めるべきでしょう。
④贈与でなく親からお金を借りる
親から贈与を受けるのではなく、資金を借り入れる方法も、有効な手段として考えられます。
借入れであれば贈与税はかからず、親子間であれば金利や返済期間も柔軟に設定することが可能です。
ただし、親の貸付金は将来の相続財産に含まれるため相続税に影響します。
また、返済の実態がない場合は税務署から贈与とみなされる恐れがあるため、借入額や返済方法を明記した借用書を必ず作成し、銀行振込などで定期的な返済実績を客観的に残すことが重要です。
住宅ローン控除との兼ね合いに注意
上述した方法などを利用して子供の住宅ローンに対して援助を行うと、子供が「住宅ローン控除」を受けている場合、結果的に子供の所得税(還付金)が減ってしまうことがあります。
住宅ローン控除は「年末のローン残高」に応じて税金が戻ってくる仕組みです。
親の援助で残高が大幅に減ると、その分控除できる金額も少なくなり、トータルの収支で損をすることがあります。
援助を行う前に、控除への影響について税理士に相談してシミュレーションすることをお勧めします。
シミュレーション例(控除率0.7%の場合)
- 援助前:住宅ローン年末残高 2,000万円 → 最大控除額年間14万円
- 援助後:親が1,000万円を肩代わり返済 → 年末残高1,000万円 → 最大控除額年間7万円
- 結果:所得税・住民税の還付金が年間約7万円減少。
親から贈与を受けることで贈与税が発生し、さらに子供のローン控除額まで減ってしまうと、二重の損失を被ることになります。
繰り上げ返済を検討する際は、返済利息の削減額と、失われる控除額のバランスを計算することが重要です。
住宅ローンの肩代わりは相続のトラブルまで考慮すべき
特定の子供にだけ高額なローン援助を行うと、将来、親が亡くなった際に他の兄弟姉妹と揉める原因になります。
住宅ローンの肩代わりにより遺産分割でもめる恐れ
子供が複数いる家庭では、特定の子供だけに高額な援助を行っていると、相続の際の遺産分割でもめる恐れがあります。
親から受けたローン援助は、相続時の分け前を計算する際に「特別受益(遺産の前渡し)」とみなされる可能性が高いでしょう。
また、援助を受けていない子供が不公平感を感じたり、援助の金額に関して明確な資料が残っていないことから援助額の認識ついて対立が起こることで、裁判に発展することもあります。
遺産分割でもめないための対策
遺産分割でもめることを防ぐためには、以下のような対策を取りましょう。
- 遺言書を作成し、援助の経緯や思いを書き留めておく。
- 他の子供にも公平な配分になるよう、資産全体(生命保険の受取人指定など)でバランスを調整する。
二次相続(配偶者の老後)についても考慮しておく
親から子へ過度な贈与を行うと、将来親のどちらがが亡くなった後の「配偶者」の生活資金を圧迫するリスクがあります。
相続税には「配偶者の税額軽減」という強力な制度があり、配偶者は1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで無税で相続できます。
そのため、このような減額を受けられる範囲で、配偶者のために財産を残しておくことも検討すべきでしょう。
目先の子供への贈与だけでなく、二次相続(残った配偶者も亡くなった時)まで含めた家族全体の資産シミュレーションが不可欠です 。
まとめ|損をしないための行動指針
住宅ローンの生前贈与や肩代わりは、非常にデリケートな問題です。
- 不動産を名義変更する際は、「負担付贈与」による税率アップと銀行への相談を忘れない。
- 贈与税の対象とならないよう、安易な口座入金は避ける。
- 「住宅取得等資金の特例」や「相続時精算課税」などの活用を検討する。
- 兄弟姉妹間の不公平をなくすため、遺言書などでフォローする。
これらは非常に複雑な判断を伴います。「わが家の場合はどうすれば一番お得か?」という具体的な疑問については、相続に強い税理士へ相談されることを強くお勧めします。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士