テレワークでも残業代は出る?在宅勤務で残業代が出ない場合の違法性は?

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テレワークの残業代

「テレワークでも残業代は出る?」
「在宅勤務の日は残業禁止と言われた」

テレワークが導入されている企業で勤めている方は、テレワークの残業でお悩みの方は多いのではないでしょうか。

テレワークは労働時間を正確に把握することが難しく、業務量が増加しやすい傾向にあり、残業トラブルが生じやすいです。

この記事では、テレワークにおける残業について詳しく知りたい方に向け、テレワークの残業ルールや出社する場合との違いを詳しく解説します。

テレワークの残業ルール|基本は出社と変わらない

テレワークの場合、自分の仕事の様子が実際に上司に見られているわけではありません。

この点が出社して働く場合との一番の違いであるため、まずはそれが残業にどう影響するのかを解説します。

テレワークでも残業の仕組みを含めて労働基準法が適用される

テレワークというのは、情報通信技術(ICT)を利用した働き方の総称です。

実は、テレワークについて定めた法律は存在しないため、テレワークでも出社して働く場合と法律の決まりは同じです。

以下のような残業に関する基本ルールは、テレワークでも変わりません。

残業代に関する基本ルール

  • 会社は各労働者の毎日の労働時間を把握しなければならない
  • 会社が残業を命じるには根拠が必要
  • 残業の中でも、時間外労働をさせるには36協定が必要
  • 残業には残業代の支払いが必要
  • 時間外労働には割増賃金の支払いが必要

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テレワークの特徴|残業のルールは会社次第

テレワークには、「社屋や工場に出社しない」ことによって、以下のような特徴があります。

テレワークの特徴

  • タイムカードなどの出社を必要とする勤怠管理の仕組みが使えない
  • 仕事の様子を他人(主に上司)が確認できない
  • 報告・連絡・相談に通信手段を使わなければならない
  • 仕事をする環境・設備が通常時と異なる
  • プライベートとの境界があいまいになる

テレワークは、出社して働く場合に比べると、会社が労働者の労働時間を正確に把握することが難しくなる傾向にあります。

また、上司が部下の仕事量を把握しにくいため、業務量が増加しやすくなります。

以上のように、テレワークには残業を生じやすくさせる原因がいくつかあります。

ただし、法律上の残業の扱いは出社でもテレワークでも変わりません。

そのため、会社がどれだけ残業を生じさせやすくする原因に対処をとっているかによって、従わなければならないルールや注意点が変わってきます。

残業のルールがテレワークと出社とで変わるパターン

テレワークの運用は会社次第のため、残業に関するルールも会社によってまちまちです。

ただ、出社時と異なるルールとなる典型的なパターンがいくつかあります。

そこで、次に、そのパターンについて解説します。

テレワークの場合に残業が禁止されている

テレワーク時に労働時間の把握が難しくなることを見越して、会社からあらかじめ残業が禁止される場合があります。

会社のルールではありますが、勝手に残業をすると、業務命令違反を理由に懲戒処分を受ける可能性もゼロではありません。

テレワークで残業が禁止されているにもかかわらず、どうしても残業が必要となれば、上司に確認するなど慎重な対応が求められます。

テレワーク時に残業するには許可が必要とされている

残業は禁止されていないものの、会社の許可を得なければ残業ができない場合もあります。

残業が禁止されているとき同様に、許可を得ずに残業をしてしまうと懲戒処分の可能性があります。

ただ、仕事の状況を上司が把握しにくいテレワークでは、許可の基準があいまいになったり、反対に丁寧な説明を求められたりと、許可を申請する側にとって支障となる事情が生じることがあります。

許可を求める相手に、いつまでに・どのような方法で・どのような内容を示して許可を得るのか、十分に確認しておくことが重要です。

テレワークに事業場外みなし労働時間制が適用されている

また、残業のルールを直接決めるものではありませんが、テレワークに「事業場外みなし労働時間制」が適用される場合もあります。

これは、通常の社屋や工場の「外」で働く場合で、「実際の労働時間を算定することが難しい」場合に、実際に労働した時間に関わらず一定時間働いたものと「みなす」制度です(労働基準法38条の2第1項)。

基本的には、会社の始業から終業までの休憩時間を除いた時間がみなし労働時間となります。

なお、事業場外みなし労働時間制は「実際の労働時間を算定することが難しい」場合に限り適用される制度です。テレワークで導入するためには、以下のような条件を満たす必要があります。

労働時間の算定が難しいとされる条件

  • 情報通信機器が常時接続されていないこと
  • 会社(上司)からの随時の指示で業務を行なっていないこと

たとえば、仕事の様子を監視するモニターが接続されていても、仕事は自分のペースとやり方で進められ、離席することも認められているような場合はこの条件をクリアしていると言えるでしょう。

会社側から「事業場外みなし労働時間制」の採用を通知されている方は、ご自身の労働条件をあらためて確認し、適正なのかどうかを確認すべきです。

テレワークの残業代が請求できるケースは?

ここまで、テレワーク時の残業に関するルールを解説してきました。

テレワークにおける残業が禁止・許可制である場合に、禁止を破って残業した場合や許可を得ずに残業した場合、残業代はどうなるのでしょうか。

テレワーク時に残業が禁止・許可制となっている場合でも、以下のようなケースでは残業代を請求できる可能性があります。

黙示の残業命令があるケース

残業が禁止・許可制となっており、残業を直接命じられていなくても、黙示の残業命令があったと考えられる場合は、残業代を請求することが可能です。

たとえば、定時内に終わらせることのできない業務を与えられた場合や、残業をしていることを会社が把握していながら黙認している場合が挙げられます。

残業代は、残業をしている時間が会社からの指揮命令下にあると言えるならば、残業が禁止されていたり、許可を得ていなかったとしても支払われます。

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みなし労働時間制の適用が認められないケース

みなし労働時間制が採用されている会社でも、適用が認められないケースでは残業代が支払われる可能性があります。

事業場外みなし労働時間制が適用されると、極端に言えば、何時間働いたとしても所定労働時間数しか働いていないことになります。

たとえば、所定労働時間が8時間であれば、10時間働いたとしても8時間しか労働していないことになってしまいます。

つまり、所定労働時間より長く働いたと扱われることがないため、残業代も支払われません。

しかし、「労働時間の算定が難しい」と判断される条件は厳しいです。加えて労働時間の実態と所定労働時間がかけ離れてもいけないと考えられています。

そのため、在席を厳しく管理されている場合や日常的に残業が生じている場合などは、事業場外みなし労働時間制が適用されず、残業代が支払われる可能性があります。

これは、会社が「テレワークには事業場外みなし労働時間制を適用する」と決めていたとしても変わりません。

「事業場外みなし労働時間制を適用する」と告げられていたとしても、日々の業務時間を自身でも記録し、残業が多いようであれば上司に掛け合うなど、対策をしておきましょう。

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テレワークの残業トラブルの相談先

テレワークは、残業が禁止されていることもあるため、残業トラブルが発生しやすいと言えます。ここでは、テレワークの残業トラブルが発生した場合の相談先をご紹介します。

会社の労務担当者

単に会社が法令の把握ができていないだけの場合であれば、本来あるべき状態にしてもらうように会社の労務担当者に相談をしてみましょう。

在宅勤務については、会社の規定を整備したり、出勤時間の確認方法を整備したりする必要があります。

在宅勤務を初めて導入する会社では、急に在宅勤務の体制を整えようとして、労働基準法に違反していることに気付いていないこともあるでしょう。

また、自分の直轄の上司が違反をしているだけであって、会社としては労働基準法を守る体制をとっている場合もあります。

その場合には、相談したことによって、会社の労務担当者から上司に対して指導などの働きかけが期待できます。

労働基準監督署に相談する

労働基準法に違反すると、行政指導や刑事罰の対象となります。テレワークにおける残業代トラブルが発生している場合には、労働基準監督署に相談することも選択肢の一つです。

労働基準監督署は全国に設置されており、相談や通報を受けると、労働基準監督官が会社への立ち入り検査や、報告を求める・呼出をすることがあります。

そのため、労働基準法違反の状態である旨を労働基準監督署に相談・通報し、労働基準監督署から行政指導が入れば、労働基準法違反の状態が解消される可能性があるでしょう。

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弁護士に相談する

弁護士は法律の専門家です。未払い残業代も含めて包括的にトラブルを解決したいとお考えの方は、弁護士に相談しましょう。

テレワークにおける未払い残業代の請求では、会社側が「残業を命じた覚えはない」「事業場外みなし労働時間制を採用している」などと反論してくるケースもあります。

弁護士であれば、未払い残業代を請求するために、法的な根拠をもとに労働者の代理人として会社との交渉を行うことができます。

また、交渉によって解決しない場合でも、労働審判や訴訟といった法的な手続きにスムーズに移行できます。

相談する際には、出勤時間の打刻の記録や、業務に関するメールの送受信の記録などの証拠があるといいでしょう。

弁護士への相談にあたって、費用相場や流れ、メリットなどを知りたい方は『残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!』の記事をご覧ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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