固定残業代とは?制度のメリット・デメリットや残業代未払いの対処法

更新日:
固定残業代とは?

「固定残業代制とはどういう制度?」
「固定残業時間を超過した残業代が支払われない」

固定残業代制とは、毎月払われる給与の中に、あらかじめ一定時間の残業代を含んで支給する制度です。

固定残業代制は労働者にとってもメリットがある制度ですが、長時間労働の温床となり残業代未払いのトラブルが発生することもあります。

この記事では、固定残業代制の制度の内容やメリット・デメリット、固定残業時間を超過した残業代が未払いになっている場合の対処法を詳しく解説します。

固定残業代制度とは

まず、固定残業代制度とはどのような制度なのでしょうか。

固定残業代制度とは

固定残業代制とは、毎月払われる給与の中に、あらかじめ一定時間の残業代を含んで支給する制度です。

みなし残業代制と呼ばれることもあります。

具体的には、「月給24万円(5万円の固定残業代含む)」「月30時間分の残業代として固定残業手当5万円を支払う」といったものが典型例です。

上記の例の場合、5万円が固定残業代として定められているため、月に1時間しか残業しなくても30時間ちょうど残業しても、5万円が給料に含めて支払われることになります。

どうして固定残業代制度が採用されているのか

固定残業代制度が導入されるのは、企業にとっていくつかのメリットがあるからです。

たとえば「残業代計算が不要になる」「人件費が把握しやすくなる」ことが挙げられます。

残業代の計算は複雑です。従業員が多い企業では、毎月の残業代を計算する際に時間を割いてしまうことも考えられます。

固定残業代制にすることで、残業代を計算する業務を減らすことができるうえ、給与の上り幅を想定できることで人件費を把握しやすくなるのです。

労働者からみた固定残業代制のメリット

固定残業代制を導入する企業のメリットは解説しましたが、労働者からみたメリットもあります。

労働者からみた固定残業代制のメリットは以下が挙げられます。

残業しなくても固定残業代をもらえる

固定残業代制は、残業の有無にかかわらず、毎月一定額の残業代が支給される制度です。

残業をしなくても残業代が振り込まれるため、残業をしなければお得感があると言えます。

また、繁忙期・閑散期にかかわらず収入が安定することから生活設計が立てやすく、とくに家族がいる人にとっては安心感につながります。

業務を効率化してワークライフバランスの実現

固定残業代制がある企業に勤める労働者は、業務を効率化できれば、ワークライフバランスを実現できる可能性が高まります。

業務を効率化して残業時間を削減すれば、プライベートの時間を長く確保できるようになるからです。

固定残業代制であれば、残業時間を減らして帰宅しても収入は維持できるので、よりプライベートの時間を充実させることができるでしょう。

公平性が確保される

固定残業代制であれば、一律の残業代が支払われるため、従業員間の不公平感が生じにくいというメリットがあります。

残業代がしっかりと支払われる企業で給与が同じ場合、残業をしないで帰宅した人よりも、残業をした人の方が給与が高くなります。

この場合、定時で仕事を終わらせた方が給与が下がってしまうという事態が生じかねません。

固定残業代制であれば、毎月一定の残業代が支払われるため、公平性が確保されて労働者にとっても業務を効率化して働きやすい職場環境になるといえるでしょう。

労働者からみた固定残業代制のデメリット

労働者からみた固定残業代制のデメリットは、以下が挙げられます。

基本給が低くなる

固定残業代が含まれると、基本給が低く設定される場合があります。

賞与や退職金などの計算ベースが低くなるため、長期的に見ると損をする可能性があります。

長時間労働の温床となる

企業によっては、固定残業代を前提とした業務量設定により、長時間労働が常態化してしまう可能性があります。

長時間労働で健康を損なうリスクが高くなり、ワークライフバランスの悪化にもつながります。

超過した分の残業代が支払われない

固定残業時間を超過した分の残業代が支払われない可能性があります。

とくにブラック企業では、超過した残業代が支払われないことが多いです。

あらかじめ設定された固定残業代を払っていることを理由に残業代を支払わなかったり、勤怠管理システムを固定残業時間内に抑えるように改ざんさせたりする企業もあります。

関連記事

ブラック企業とは?特徴と見極めるポイントを弁護士が解説

固定残業を超過した残業代が支払われないことは違法

あらかじめ設定された固定残業時間を超過した残業代が支払われないことは違法です。

固定残業時間を超えた残業をした場合には、労働者は超過分の残業代を請求する権利があります。

たとえば、固定残業代として30時間分の残業代の支払いを受けており、現実には毎月50時間程度の残業をしていた場合を想定しましょう。

この場合、残業代は30時間しか支払われていないことになるため、労働者は超過した20時間分の残業代を会社に請求することができます。

固定残業代を計算する方法については『固定残業代の計算方法を弁護士が解説!超過分の残業代は請求できる!』の記事で詳しく解説しています。

固定残業代の支払いをしていれば、超過部分について支払いを免れるものではありません。

現実に、『関西ソニー販売事件』(大阪地裁判昭.6310.26)、『三好屋商店事件』(東京地判昭63.5.27など、残業代の支払いをしなければならないと判決が出た多数の裁判例があります。

固定残業の超過分が支払われないときの対処法

固定残業時間を超過した分の残業代が支払われないときには、どういった対処法があるのでしょうか。

会社に固定残業超過分の支払いを打診する

まず、個別の金銭請求とは別に、固定残業時間を超過した分の残業代の支払いを打診する方法が考えられます。

会社が事務処理のミスに気付いていないなどの場合には、有効な対応策になるでしょう。

その場合は労働者自身で、未払い残業代を計算して、請求する必要があります。

しかし、ほとんどのケースでは違法であることを認識しながら残業代の支給をしていないため、現実的な方法とはいえません。

関連記事

固定残業代の計算方法を弁護士が解説!超過分の残業代は請求できる!

労働基準監督署に申告をする

固定残業時間を超過した分の残業代を支払わないことは、労働基準法違反です。

労働基準法違反については、厚生労働省の出先機関である労働基準監督署が取り扱いをしています。

会社に対して立ち入り検査をすることができるなどの権限を持っているので、違反があることを直接調べてもらうのが理想です。

しかし、現実的には労働基準監督署は大量の案件を抱えている状態ですので、労働基準法違反の事実についての証拠を呈示して申告をする必要があります。

労働基準監督署による介入は、会社に労働基準法などの労働法規を守るよう是正・勧告するために行われます。

個々の従業員の金銭請求(この場合は未払いの残業代の支給を求めて争う)はできません。

会社に直接残業代を請求する

会社に対して、労働者が直接交渉をして、残業代の支払いを求める方法もあります。

未払いの残業代請求を受けた会社側は、「学ぶ立場なんだから残業代なんて出ない」「勝手に残業をしたものには払えない」など、さまざまな反論をしてくる可能性があります。

会社からの反論にも、適切な対処ができるように対策を取っておく必要があります。

関連記事

未払い残業代請求の方法|証拠や時効など基礎知識を解説

弁護士に相談する

固定残業代制の残業代未払いに関してお悩みの方は、弁護士に相談することがおすすめです。

弁護士は法律の専門家であり、高度な知識を持っています。その知識や判例をもとに、固定残業代や証拠の収集に関するアドバイスをもらうことができるでしょう。

また、弁護士に依頼することで、会社との交渉を任せることができ、未払い残業代が回収できる確率を高めることができます。請求・訴訟に関する技術の部分でもサポートを受けることができます。

関連記事

残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!

まとめ

このページでは、固定残業代制度の概要とメリット・デメリット、固定残業時間を超過した分の残業代が支払われない場合の対処法を解説しました。

固定残業代は労務管理で便利な一方、残業代のトラブルが発生しやすい制度です。

「残業代未払い問題を解消したい」「固定残業時間の超過分の残業代を請求したい」とお考えの方は、弁護士に相談しましょう。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

残業代・不当解雇など

全国/24時間/無料

弁護士に労働問題を共有する