固定残業代の計算方法を弁護士が解説!超過分の残業代は請求できる!

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固定残業代

固定残業代の計算は、残業代が正しく支払われているかを確認するために非常に重要です。

会社に固定残業代制が導入されていたとしても、固定残業時間を超過した残業代に関しては、請求することができます。

固定残業代を計算する場合は、「時間外労働時間数×1時間あたりの賃金額×1.25(割増率)」で算出します。

この記事では、固定残業代制度の概要と実例を交えて計算方法を詳しく解説します。

固定残業代があれば残業代の計算は不要?

「固定残業代を支払っていれば、毎月の残業代を計算する必要はない」と思っている会社もあります。

しかし、固定残業代を支払っている場合でも基本的に残業代の計算は必要です。会社は、固定残業時間を超過した分の残業代を支払う義務を負っているからです。

まずは固定残業代の基本とともに、その理由を詳しく解説していきます。

そもそも固定残業代制度とは?

固定残業代制とは、毎月払われる給与の中に、あらかじめ一定時間の残業代を含んで支給する制度です。

固定残業代制は法律に定められた制度ではありません。そのため、名称も「固定残業代」「固定残業手当」「みなし残業代」などさまざまな呼び方で呼ばれています。

ただし、これらは、毎月の残業時間にかかわらず、残業代を定額で支払う制度を意味する点で共通しています。

毎月の残業代が「固定」されている、実際の残業時間にかかわらず一定額に「みなし」ている、ことが名称の由来です。

「基本給24万円に5万円分の残業代を含む」「月30時間分の残業代として固定残業手当5万円を支払う」といったものが制度の典型例として挙げられます。

労働者が固定残業代制のある企業で働くメリット・デメリットを知りたい方は『固定残業代とは?制度のメリット・デメリットや残業代未払いの対処法』の記事をご覧ください。

固定残業代は適法?

固定残業代制を取ること自体は適法です。

固定残業代制でいうところの「残業代」は、一般的には割増賃金を指しています。

割増賃金の計算方法は法令で決められており、毎月定額で支払う制度はその計算方法に従ったものではありません。

そのため、「違法ではないか」と思われるかもしれません。

しかし、法令の計算方法によって計算した割増賃金の額以上を支払っているのであれば、定額で支払うことも適法だとされています。

もっとも、時間外労働(残業)の上限は原則として月45時間・年360時間と定めています(労働基準法36条4項)。

したがって、固定残業代として45時間を超える時間を設定している場合、違法である可能性が高いでしょう。

固定残業代を支払っていても残業代の計算は必要

このように、固定残業代制は違法ではありませんが、いくつか条件があります。

この条件は法律に明記されているわけではなく、判例で形作られてきたものですが、まとめると次のようになります。

固定残業代における条件

  • 割増賃金(残業代)に該当する部分が他の賃金から区別されていること
  • 何時間分の割増賃金(残業代)をカバーしているのか明示されていること
  • カバーしきれていない部分(超過額)については差額を支払う(精算する)こと

以上からも分かるように、割増賃金を区別して明示し、割増賃金を計算した上で、固定残業代でカバーしきれていない差額があれば追加で支払わなければなりません。

つまり、固定残業代を導入していても、不足があるかどうか確認するために、実際の残業時間に応じた残業代の計算が別途必要ということです。

固定残業代の計算方法は?

超過分の精算が必要ということは、固定残業代制でも残業代の未払いは生じるということです。

固定残業代に不足があるかどうかの計算方法について説明します。

そもそも固定残業代はどのように計算されている?

固定残業代は残業代を定額で支払う制度ですが、固定残業代の額が根拠なく決められていることは基本的にありません。

残業代(時間外労働割増賃金)の計算式は、以下のようになります。

残業代の計算式

時間外労働時間数×1時間あたりの賃金額×1.25(割増率)

そのため、固定残業代としていくら支払うかについても、この計算式を使って算出されています。

たとえば、1時間あたりの賃金額が2000円・時間外労働30時間分を定額で支払う場合、「30時間×2000円×1.25=7万5000円」と計算することができます。

残業代の基本的な計算方法に関しては、『残業代の正しい計算方法とは?基本から応用的な計算まで徹底解説!』の記事をご覧ください。

時間数が明記されていない場合に不足を計算する方法

固定残業代は何時間分の割増賃金をカバーしているか明示していなければなりませんが、この明示は固定残業代の「額」を示すことでも行うことができます。

たとえば、月給30万円の基本給に、5万円の固定残業代が含まれる場合を考えてみます。

まず、1時間あたりの賃金額を出さなければなりませんが、月給制の場合、「月給額÷1か月平均所定労働時間」で算出されます。

ここではフルタイムの労働者を想定し、1日8時間・1か月平均21日勤務の168時間を1か月平均所定労働時間とします。

また、割増賃金(残業代)に利用する1時間あたりの賃金額を計算する場合、割増賃金は除いて計算します。

以上を踏まえると、「25万円(30万円−5万円)÷168時間≒1489円」と算出でき、これが1時間あたりの賃金額となります。

そこに割増率である1.25を掛けるとおよそ「1862円」となり、これが時間外労働(残業)時における単価となります。

この単価の場合に何時間分の割増賃金がカバーできているか計算するためには、固定残業代として支払われている額を単価で割らなければなりません。

計算式は、「5万円÷1862円=26.8528・・・時間」となり、約27時間分の時間外労働がカバーされていることがわかります。

上記の例の場合は、27時間を超えて残業をした場合に、超過分の残業代を会社に請求できるということです。

時間外労働以外も固定残業代に含まれている場合

一般的には、固定残業代に含まれる割増賃金の対象として時間外労働が想定されています。

もっとも、時間外労働のほか、休日労働深夜労働も割増賃金の対象であり、それらを定額で支払うことも可能ではあります。

その場合でも区別して明記する条件は必要であるため、単に「残業代」と示すだけではなく、休日労働・深夜労働に対応したものであることが明示されていなければなりません。

つまり、「時間外労働20時間分・休日労働10時間分・深夜労働3時間分」といったように、時間外労働・休日労働・深夜労働はそれぞれ区別されていることが基本だということです。

そのため、時間外労働以外の割増賃金が固定的に支払われている場合でも、区別された情報をもとに上の方法で不足を確認することが可能です。

固定残業代に関する裁判例と相談先

固定残業代制は残業代未払いのトラブルが生じやすく、過去の裁判でも多く争われています。最後に、トラブルとなる理由や対処法についてご案内します。

固定残業代に関する裁判例

固定残業代に関する裁判例を2つご紹介します。裁判例でも、会社側に厳しい判断がされています。

テックジャパン事件

月の総労働時間が140時間〜180時間までは月給額が41万円に固定されていたという事案です。

この事件では、41万円のうちでどの部分が割増賃金なのか区別ができないことを理由に、会社側の割増賃金の支払いを認めませんでした『テックジャパン事件(最判平24.3.8)』。

つまり、140時間を超えて180時間までの割増賃金は支払われていないことになり、労働者からの割増賃金の請求が認められました。

医療法人社団康心会事件

年俸制で割増賃金を含んだ年俸額(1,700万円)を支払うという契約内容となっていた場合でも、割増賃金の支払いがあったとは認められないとされた事案です。

この事件では、年俸額に何時間分の割増賃金が含まれているのか不明であり、割増賃金に当たる部分が区別できないことから割増賃金の支払いが認められませんでした『医療法人社団康心会事件(最判平29.7.7)』。

以上から、割増賃金がその他の賃金と区別できることという条件は厳格に捉えられていると言えます。

そのため、単に「基本給に割増賃金が含まれている」というだけで詳細な時間数や金額が明示されていない場合、固定残業代が適法に導入できているとはいえないでしょう。

割増賃金の明示がない雇用契約書を結んで働いている方は、残業代トラブルが発生しやすい状態です。

固定残業代を明確に計算するためにも、固定残業代がいくら含まれているのか担当者に尋ねたり、就業規則を確認したりしてみましょう。

固定残業代の計算に疑問を抱いたら弁護士に相談

固定残業代の計算に疑問を抱いたら、弁護士に相談しましょう。

企業によっては、労働時間管理がずさんで残業時間が正確ではない場合や、昇給によって残業計算の基礎賃金が上がっていることを見過ごしている場合などがあります。

固定残業代を超過する残業代が生じていないか、先に解説した方法で定期的に確認することが望ましいといえます。

もっとも、会社の制度によっては判断が難しいことがあります。

たとえば、歩合給に固定残業代が含まれている場合や、労働時間の制度が特殊(フレックスタイム制や裁量労働制など)で残業時間の計算自体が難しい場合などです。

このように、固定残業代の計算は法的な判断が求められる分野であるため、疑問を持った場合には弁護士に相談すべきです。

相談の際には、会社が採用している固定残業代の制度がわかる資料(就業規則や雇用契約書)があるとスムーズに進みます。

なお、そのような資料が見当たらない場合、違法な固定残業代となっている可能性が高いため、残業代の請求を積極的に検討すべき状況と言えるでしょう。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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