労働審判の弁護士費用相場は?労働審判を弁護士に依頼すべき理由
会社側から不当解雇や賃金未払いなどの処遇を受けた場合、労働者は労働審判を利用して労働問題の解決を図ることが可能です。
労働審判は裁判よりも早期に解決を図ることができるため、早く結論を出したい方におすすめの制度です。
労働審判は労働者本人だけで進めることもできなくはありませんが、法律の専門家である弁護士を選任することが一般的です。
そこで、この記事では、労働審判の特徴や労働事件を弁護士に依頼するメリット、弁護士費用の相場などを解説していきます。
弁護士費用を支払うことができない場合に一定の条件で利用できる窓口もご紹介しているので、労働審判を利用するかどうかお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
労働審判とは何か
労働審判は労働者と事業主の労働紛争を解決するための制度
労働審判とは、事業主と個々の労働者との間の労働トラブルを、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的とした裁判所の制度です。
労働審判官(裁判官)1名と労働問題の専門家である労働審判員2名で組織された労働審判委員会に審理されます。
主に、解雇、雇い止め、配転、出向、賃金・退職金請求権、懲戒処分、労働条件変更の拘束力など、労働者と事業主との間の権利紛争が労働審判の対象です。
労働審判の手続きの中で調停(和解)が成立しなかったり、労働審判委員会から出された裁定(審判)に対して当事者が異議を申し立てた場合は、裁判に移行して争うことになります。
労働審判の特徴を解説
労働審判には次のような特徴があります。
労働審判の特徴
- 労働審判は期日が最大3回|裁判よりも手続きが簡易で早期に柔軟な解決ができる
- 労働審判事件の8割程度が解決し、そのうちの9割以上は会社が解決金を支払う形での解決
- 裁判の判決と同様に強制執行力がある
- 当事者の片方が欠席をしても審理は行われる
早期に柔軟な解決
通常の裁判で労働紛争を争った場合の平均審理期間は17.2か月と長期間になりますが、最大3回の期日で審理がされる労働審判であれば平均90.3日で解決するなど、問題の早期解決が見込めます。
労働審判は、調停による和解がベースであり約70%の事件が調停で解決しています。調停に至らず審判が下されるのは全体の15%ほどです。
参考:2022年|最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」
労働審判での解決率は8割
労働審判での最終的な紛争の解決率は8割と非常に高く、そのうちの9割以上は会社が解決金を支払う形での解決になっています。
強制執行力がある
労働審判委員会から出された裁定は、2週間以内に当事者が異議を申立てなければ裁判上の和解と同一の効力を持つため、差し押さえ等の強制執行も可能になります。
当事者の片方が欠席をしても審理は行われる
また、労働審判を進めるにあたって相手方(会社側)が裁判所からの呼び出しに応じなかった場合でも、労働者側の立証・主張のみで審理を進めることが可能です。
そのため、会社が不当に応じないことで、どうにもできなくなるということは労働審判ではありません。
以上の特徴から分かるように、労基の指導や労働局等のあっせん、労働組合による団体交渉などで解決できなかった紛争であっても、労働審判であれば会社を法的判断の場に出して問題を解決することが見込めます。
労働審判は弁護士に依頼したほうが良い理由
労働審判を弁護士に依頼する場合、数十万円の費用がかかります。それにもかかわらず、実際に労働審判を起こす申立人(労働者)の90.1%は弁護士に依頼しています(日本弁護士連合会『弁護士白書 2023年版』)。
このことからわかるように、労働審判を申し立てる多くの方はご自身でやるよりも、弁護士に依頼する方が良いでしょう。では、弁護士に依頼するメリットとはどのようなことが挙げられるのでしょうか。
弁護士にほとんどのことを任せられる
弁護士に依頼することのメリットは、代理人としてほとんどのことを代理で行ってくれることです。
労働審判へ代理人として出席するだけでなく、労働審判の申立書の作成や場合によっては労働審判を起こす前に話し合いで会社との労働トラブルを解決することも可能になります。
労働者の多くは初めて労働審判を利用することになるでしょうから、弁護士に依頼して煩雑な手続きや相手方との問答などを代わりにやってもらったほうが無難です。
最大で3回しか期日がない労働審判で十分な主張立証を行うためには、相当程度の知識も必要になってきます。
とくに残業代請求や不当解雇で労働審判を検討されている方は、法律の専門家である弁護士にできるかぎり依頼をすべきでしょう。
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解決できる可能性が高くなる
また、統計的に見ても弁護士に依頼したほうが労働審判で紛争を解決しやすくなっています。
労働審判において労働者が弁護士に依頼せず、会社側のみが弁護士に依頼していたケースでは、58.8%で調停が成立しています。
しかし、労働者・会社側双方が弁護士に依頼していたケースでは、76.0%で調停が成立しています(日本弁護士連合会『弁護士白書 2023年版』)。
このことからもわかる通り、弁護士に依頼すれば手間を削減できるだけではなく、紛争解決もしやすくなるため、労働審判制度を利用する際は弁護士に依頼することをおすすめします。
証拠がない場合でも開示請求が可能
労働審判では証拠が非常に重要です。しかし、雇用契約書や労働条件通知書、給与明細などはなくしてしまって手元にない可能性もあります。
また、タイムカードなどは通常、会社が管理しています。
これらの書類は、会社が再発行しなくてはならないという法律がないので「再発行してください」と申し出ても、取り合ってもらえないことも少なくありません。
そのような場合は、「証拠保全」や「文書提出命令」といった強制的な開示手続きをすることによって、未払い残業代の証拠を入手することが可能です。
証拠保全や文書提出命令は、裁判所を通すことになるので、厳格な手続きが必要です。
弁護士に依頼することによって、証拠がない場合の開示請求の手続きも任せることができます。
上記のようなメリットがあるため、9割以上の方が労働審判を申し立てる際に弁護士に依頼しています。しかし、弁護士を依頼せずに自分だけで労働審判を行う人もいます。
労働審判を自分でするメリット・デメリットを詳しく知りたい方は、『労働審判は自分でできる?自分でやる方法とメリット・デメリット!』の記事をご覧ください。
労働審判の弁護士費用相場
相談料・着手金・成功報酬などはいくらかかるのか
弁護士事務所によって差はありますが、一般的には以下のような料金体系になっていることが多いです。
項目 | 費用 |
---|---|
相談料 | 1万円前後/1時間(無料のケースもある) |
着手金 | 20~30万円前後 |
成功報酬 | 経済的利益の10%〜20%前後 |
実費 | 実際にかかった交通費・印紙代等 |
日当 | 1〜3万円前後 |
これから各項目の意味について解説していきます。
相談料
相談料とは、弁護士との相談時に発生する費用のことです。
近年では、初回相談は無料で、2回目以降から30分~1時間当たり5,000円~1万円程度の相談料が発生する、という料金体系になっている事務所も多いです。
中には対面での相談だけではなく、電話相談・メール相談などに対応している事務所もあるため、気軽に相談することができます。
相談する前に要点をまとめておけば相談時間や相談回数を短縮することが可能なので、現時点での自分の要望や相手方の主張を事前に整理しておくことをおすすめします。
着手金
着手金とは、弁護士に事件解決を依頼した際に発生する費用のことです。
依頼する内容(不当解雇・残業代請求・労災など)によって着手金に差を設けられるケースがあるため、労働問題の着手金相場を一概に言い切ることは難しいのですが、一般的には20万円~30万円前後を着手金として支払うことになるでしょう。
中には、依頼者(労働者)が相手方(会社側)に請求する経済的利益の8%程度を着手金とする場合もあります。
事務所によっては、着手金を無料に設定し、その分を成功報酬などに上乗せしていることもあります。
成功報酬
成功報酬とは、依頼が成功した際に支払いが発生する費用をいいます。
平成16年4月1日に廃止されていますが、かつての弁護士報酬基準では以下の料金体系で成功報酬額が算出されていました。
そのため、今でもこの基準を参考にして成功報酬額を算出している事務所が多く存在します。
経済的利益 | 成功報酬額 |
---|---|
300万円以下 | 経済的利益の16% |
300万円~3000万円 | 経済的利益の10%+18万円 |
3000万円~3億円 | 経済的利益の6%+138万円 |
3億円を超える | 経済的利益の4%+738万円 |
実費
実費とは、労働審判の期間にかかった手続き上の費用のことです。
主に、コピー代、労働審判申立ての際における収入印紙代、書類送付の際の切手代などが含まれます。
事務所によっては実費を請求せず、その分を着手金や成功報酬に上乗せするケースがあります。
日当
日当とは、労働審判を行う裁判所まで弁護士に赴いてもらった際に発生する費用のことです。
日当には大きく分けて出廷日当と出張日当の2種類があります。
出廷日当とは、弁護士が裁判所で行われる労働審判期日に出席することによって、時間的に拘束される際に支払われる費用のことです。
出廷日当は最初から着手金などに含まれていることがあるため、裁判所まで来てもらっても出廷日当を負担しなくて済む場合があります。
出張日当とは、遠方の裁判所まで弁護士に出張してもらった場合、出廷日当に加えて計上される費用のことです。
距離に応じて、1万~3万円程度の出張日当が請求されます。
なお、契約内容によっては、出張日当とは別に交通費や宿泊費も請求される可能性がある点にご注意ください。
弁護士費用を相手方に支払ってもらうことは可能なのか
労働審判でかかった弁護士費用を相手方(会社側)に支払ってもらうことは原則的にはできません。
相手方の不法行為に基づく損害賠償請求の場合であれば、弁護士費用(の一部)の支払いが認められることはあります。
しかし、労働審判で争われるのは主に労働問題(労働者としての地位確認、賃金未払い、配転命令の効力等)なので、労働審判で弁護士費用まで請求するようなことは基本的にありません。
条件を満たせば法テラスの扶助を受けられる
弁護士費用は高額なので、勝てる見込みがあるにもかかわらず、弁護士に依頼することができない方もいると思います。
そのような場合、一定の条件を満たしている方であれば、法テラスの民事法律扶助を利用することが可能です。
民事法律扶助を利用すれば、法テラスが弁護士費用を立て替えてくれます。
以下の条件を満たしていれば民事法律扶助を利用できます。
民事法律扶助を利用する条件
- 資力が一定以下であること
- 勝訴の見込みがないとは言えないこと
- 民事法律扶助の趣旨に適すること
詳細は法テラスの公式サイトをご覧ください。
民事法律扶助を利用した場合、事件進行中は毎月10,000円ずつ、もしくは毎月5,000円ずつ返済していくことになります。
事件終了後は、原則3年以内に返済が終わるよう、月々分割で返済していきます。
労働問題に強い弁護士の探し方
ここでは労働問題に強い弁護士の探し方をご紹介します。
弁護士の探し方はわかっていても、弁護士の選び方がわからないとお困りの方は、『労働問題を依頼すべき弁護士とは?選び方や注意点も解説!』の記事もご覧ください。
インターネット検索で弁護士を見つける
通常は弁護士事務所のサイトの中で注力分野が紹介されています。
その注力分野の中に「労働問題」が含まれているのであれば、労働問題の事案を相談・依頼することができるでしょう。
また、解決実績などを確認すれば具体的にどの程度の数の案件を扱ってきたのか調べることもできます。
できれば労働問題の経験豊富な弁護士に相談・依頼をしたいでしょうから、弁護士事務所のサイトをいくつか比較した上で決めるようにしましょう。
弁護士会に弁護士を紹介してもらう
各都道府県に設立されている弁護士会に相談すれば、労働問題に詳しい弁護士を紹介してもらうことが可能です。
たとえば東京弁護士会の場合なら、弁護士紹介センターへの申し込み後に弁護士が選任されれば、申し込みから1週間前後で担当弁護士から連絡が来るようです。
なお、弁護士を紹介してもらうこと自体は無料ですが、選任された弁護士に法律相談をする際は30分5,000円の相談料が発生する点にご注意ください(東京弁護士会の場合、労働問題の法律相談は初回30分無料)。
弁護士とは信頼関係が必要不可欠
弁護士は労働者の代理人ですので、信頼関係や相性は何よりも重要です。複数の弁護士を抱える事務所に依頼する場合には、自分の担当が誰になるのかはある程度運の部分もあるでしょう。
弁護士に不満がある状況では、結果に納得できないことも多くなります。弁護士としても、依頼者との信頼関係が破壊されてしまえば辞任してしまうことも考えられます。
そのため、可能であれば複数の弁護士の話を聞いてみて最も信頼のできる依頼先を決めると良いでしょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了