過労死ラインの残業時間は月80時間以上。長時間労働の違法性を解説
過労死ラインとは、健康被害や精神障害が発生するリスクが高くなる残業時間の目安です。
長時間労働は過労死と密接に関係しており、厚生労働省では月80時間以上の残業が認められる場合に、業務の発症との関連性が強いと評価できるとしています。
この記事では、長時間労働を強いられている方に向けて、過労死ラインとなる残業時間数や長時間労働が心身に及ぼす影響について詳しく解説します。
過労死ラインを超える残業により、身体への影響をきたしている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
過労死になる目安の残業時間「過労死ライン」とは?
過労死ラインとは、健康被害や精神障害が発生するリスクが高くなる残業時間の目安です。
2021年9月に労災認定基準が改正され、長時間の労働と過労死の関係性について、以下のような基準が設けられました。
労働の期間と時間 | 業務と発症との関連性 |
---|---|
発症前1~6か月間にわたって、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない | 弱い |
発症前1~6か月間にわたって、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められる場合 | 徐々に強まる |
発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合 | 強い |
発症前2~6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合 | 強い |
参考:厚生労働省|血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について
たとえば「発症前1ヵ月間に100時間」「発症前2~6ヵ月間平均80時間」を超える残業をして脳血管疾患や心臓疾患になってしまった場合は、仕事と発症に強い因果関係があるとして労働災害と認定される可能性が高くなります。
過労死ラインの基準は残業100時間?それとも80時間?
過労死ラインの残業時間は「80時間」「100時間」どちらも正解です。過労死ラインの目安となる残業時間数は月単位によって変動します。
発症前1か月の場合は残業「100時間」が過労死ラインの基準となっており、発症前2~6ヵ月間とする場合は残業が「平均80時間」であれば過労死ラインの基準を満たしていることになります。
「過労死ラインは残業60時間」という説の真偽
残業60時間を過労死ラインとする説もありますが、事実ではありません。
なぜ「60時間」という数字が出てきたかというと、残業が月50~60時間前後であっても労災が認められたことが挙げられます。
平成20年、月に50~60時間の残業をしていた看護師(当時25歳の女性)がくも膜下出血で亡くなった際に、大阪府の高等裁判所が過労死として労災認定をしました。
また、月65時間の残業で自殺した事件が過労死として認定されるなど、60時間前後の残業であっても過労死として認定されることがあります。
また、厚生労働省のパンフレットに「過労死等防止に関連する国の目標」として将来的に過労死等をゼロとすることを目指し、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下にするという目標が掲げられています。
このことから、「過労死ラインは残業60時間」という説が浮上しましたが、現状は過労死ラインが60時間とする事実はありません。
過労死ラインを超える残業によって生じる身体への影響
残業時間が増えると睡眠や余暇を楽しむ時間が減ってしまいます。
また、疲労が溜まってしまい脳血管疾患や心臓疾患だけではなく睡眠障害やうつ症状、糖尿病の発症リスクが高くなります。
過労死の症状やその前兆とは?
過労死は「突然死」と思われがちですが、体の異変は亡くなる前から少しずつあられます。
大したことないと自己判断して放置せず、次にあげるような症状があてはまっていれば早急に対応してください。
心臓疾患の前兆
- 左腕にだるさを感じる
- 動悸がする
- 胸に圧迫されたような感覚がある
- 緊張や不安が高まると、胸が焼けるように感じる
脳疾患の前兆
- めまいや、ろれつが回らないといった症状がある
- 片方の手足にしびれを感じる
- 人と話しているときに話の内容がわからない
- 片目がたまにぼやける
- 持っていたものを落としてしまう
こうした症状は狭心症、心筋梗塞、くも膜下出血などの前触れかもしれません。心当たりがあればすぐに病院に行くことをおすすめします。
うつ病など精神面への影響とは?自殺も過労死であれば労災?
極度の長時間労働やストレスにさらされたことにより、うつ病などの精神障害を引き起こし自殺にいたった場合、その精神障害の発症と仕事に大きな関連があると認定されれば「過労自殺」となります。
2015年に広告代理店で勤務していた女性社員が飛び降り自殺した事件では、100時間を超える時間外労働によりうつ病を発症したとして過労自殺が認められました。
自殺であっても長時間労働やセクハラやパワハラによるストレスが影響しているときは、労災として認められる可能性があります。
うつ病の前兆としては以下のものが挙げられます。
うつ病の前兆
- 睡眠障害
- 焦燥感がある
- 何事も楽しく感じられない
- 集中力がなくなる
このような症状が当てはまる場合は、一度、精神科で診断を受けることをおすすめします。
過労死ラインを超えた残業は違法?残業の法的な基準とは?
過労死ラインである80時間や100時間におよぶ残業を従業員にさせること自体は、所定の手続きを会社が行っていれば法的に問題はありません。
ただし、残業には上限となる時間が設定されており、その上限を守らないときや、適切な手続きが行われていないときは法律違反となります。
36協定が結ばれていない状態での残業は違法
残業とは法定労働時間を超えて働く「時間外労働」のことを指します。
36(サブロク)協定と呼ばれる労使協定を結んで労働基準監督署へ提出していなければ、会社は従業員に時間外労働をさせることができません。
つまり、36協定を結んでいなかったり、労働基準監督署へ提出していなかったりすると、時間外労働をさせただけで違法となります。
36協定があっても残業時間の上限を超える時間外労働は違法
36協定の手続きをしたからといって、従業員に好きなだけ時間外労働をさせられるわけではありません。
時間外労働には上限が決められおり、36協定を締結している場合でも時間外労働の上限は以下のように設定されています。
時間外労働の制限
- 月45時間
- 年360時間
ただし、臨時的な特別な事情がある場合は複数月平均80時間以内、月に100時間未満までなら時間外・休日労働をさせることができます。
もし、上限時間を超えて残業をさせたときは残業をするように指示した上司や社長、会社は労働基準法32条違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
36協定における残業時間の上限について知りたい方は『36(サブロク)協定とは?ポイントと残業時間との関係について解説』の記事をご覧ください。
残業代が支払われないのはもちろん違法|割増賃金とは?
法定労働時間(1日8時間または週40時間)を超えた時間外労働に対し支払われる残業代は割増賃金と呼ばれます。
割増賃金を支払ってもらうのは従業員の当然の権利です。
割増賃金は「割増率」をかけて計算するので、通常の給与よりも高い金額となります。
残業代の計算方法、割増率について詳しく知りたい方は『残業代の正しい計算方法とは?基本から応用的な計算まで徹底解説!』の記事をご覧ください。
また、サービス残業や長時間労働が当たり前になっている会社はきちんと労働時間を記録・把握していないことが多く、残業代がきちんと支払われていないおそれがあります。
残業代が未払いであれば、いくら36協定を締結して上限規制を守っていたとしても違法です。
過労死ライン超えの残業をさせられたときの相談先・対処法
過労死ラインを超えるような時間外労働を続けていると心身に負担がかかります。
従業員はもちろんのこと、会社にとってもよい状況とはいえません。
長時間労働を改善していくには会社と交渉、必要となれば裁判をすることとなります。具体的にどのような対応をとればよいかみていきましょう。
まずは正確な残業時間の証拠を集める
過労死ラインを超えるような残業があったと示すために、時間がきちんと把握できる客観的な証拠を用意しましょう。有効な証拠としては以下のものが挙げられます。
残業代請求における証拠
- タイムカード
- 勤怠管理システム
- メールの送受信履歴
- パソコンのログ記録
- 上司の承認のある業務日誌 など
タイムカードや日誌はコピーを取り、メールやパソコンの記録はスクリーンショットを取って保存し、正確な残業時間がわかる記録を集めましょう。
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・残業代請求で必要となる証拠を徹底解説!証拠がない場合の対処法は?
長時間の残業で身体に支障が出たら労災と認定される
時間外労働が長時間におよび病気・死亡にいたったときは労災として認定される可能性があります。
その場合は労働基準監督署へ書類を提出して労災の申請を行います。
会社を経由して申請するのが一般的ですが会社が手続きをしてくれないときは、自分で手続きをするか労働基準監督署や弁護士へ相談してみましょう。
もし、労災として認定されれば病院の受診料負担がなく会社を休んでいる期間についても給付を受けることができ、死亡した際は生活補償として遺族にお金が支払われます。
関連記事
・労災と認定されるには?認定基準・手続き・受け取れる給付金について解説
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署は、あらゆる労働に関する相談を受け付けている厚生労働省管轄の行政機関です。労働者からの申告によって必要があると判断すれば会社に対し勧告や指導を行ってくれます。
労働基準監督署が悪質なケースとして判断し動くには、会社が具体的に法律違反をしていたという証拠に基づいた事実を従業員が申告しなくてはなりません。
相談後は会社への立ち入り調査や責任者への呼び出しが行われ、もし違法と認められれば指導・勧告をしてくれます。
ただし、労働基準監督署は会社の法律違反に対して指導や勧告を行ってはくれますが、未払いの残業代の請求など、個人の問題については自分自身で行わなければなりません。
弁護士に相談する
過労死ラインを超える残業をしていても証拠がなければ、労働基準監督署に対応してもらえないことがあります。
また、労働基準監督署が会社に指導や勧告をしたとしても無視され問題がすぐに解決しない場合も考えられます。
一方、法律の専門家である弁護士ならば、代理人として会社と従業員の間に立って交渉してくれ、従業員個人の悩みを解決するために動いてくれます。
残業の証拠が集められないときでも、弁護士から会社に開示請求を行うことで、証拠を収集できる可能性が高まるでしょう。
さらに、交渉で話がまとまらない場合でも、労働審判や裁判に移行した際も弁護士に法的手続きを任せることが可能です。
早急な解決に向けて手助けをしてくれる弁護士は、従業員本人や家族にとって強い味方といえるでしょう。
弁護士への相談にあたって、費用相場や流れ、メリットなどを知りたい方は『残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!』の記事をご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了