裁量労働制だと残業代が出ない?計算や請求方法を解説

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裁量労働制

「裁量労働制だと、残業代は出ない?」
「裁量労働制での残業代の計算方法は?」

プログラマーや経営企画といった職種に、「裁量労働制」という制度が適用されていることがあります。

裁量労働制は、導入・運用のルールが複雑です。残業代の扱いや、自分の給料が適切に支払われているのか不安になっている方も多いかと思います。

裁量労働制でも、休日出勤などを行えば割増の賃金が発生するため、違法な裁量労働制の場合には未払い残業代を請求できる可能性が高いです。

この記事では、裁量労働制と残業代の関係について詳しく知りたい方に向けて、裁量労働制でも残業代が出るケースや残業代の請求方法について解説します。

裁量労働制とは?残業代との関係を解説

裁量労働制は法律で厳格にルールが決められた制度ですが、「残業代を支払わなくてもいい」と直接的に決められているわけではありません。

この点が制度をわかりにくくしているため、まずは裁量労働制と残業代との関係を解説します。

そもそも裁量労働制って?

裁量労働制とは、大まかに言えば、「実際に働いた時間数に関わらず、あらかじめ決められた一定の時間数を働いたものとみなす」制度です。

たとえば、「1日8時間働いたものとみなす」と決められている場合、実際に働いた時間が1日5時間であっても、1日10時間であっても、8時間働いたものとして扱われます。

裁量労働制では、業務の進め方や方法、時間配分などが労働者の裁量にゆだねられます。

決められた時間内で労働者自身が発揮しやすい環境を作り、生産性を向上させるために設置されています。

「専門業務型」と「企画業務型」2つの違いとは?

裁量労働制は、どんな業務でも採用できるというわけではなく、業務内容によって「専門業務型裁量労働制」か「企画業務型裁量労働制」の2つに分けられます。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制に該当するのは、高度に専門的な業務に携わる労働者です。

19の業務が対象と定められており、代表的な業種として以下のものが挙げられます。

専門業務型裁量労働制の例

  • 研究者・大学教員
  • 新聞やテレビの記者
  • 弁護士・公認会計士
  • ソフトウェア開発
  • コピーライター
  • 映画のプロデューサー など

参考:厚生労働省「専門業務型裁量労働制」

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制に該当するのは、会社での企業経営や事業運営などの部門での企画立案、調査、分析業務に携わる労働者です。

具体的には、リサーチ業務や新規事業開発、コンサルタントなどが挙げられます。

参考:厚生労働者「企画業務型裁量労働制」

裁量労働制では残業代問題が生じやすい

裁量労働制が採用されている場合、残業代が出ないことが多く、残業代未払い問題が生じやすいです。

その理由は、働いたものとみなされる一定の時間数を「8時間」と決めていることが多いからです。

労働基準法は、1日及び1週間で働かせることのできる最長の労働時間(「法定労働時間」と言います)を、原則として1日8時間・1週間40時間と定めています(労働基準法32条)。

また、法定労働時間を超える労働のことを「時間外労働」と言います。法定労働時間を超えた場合には、割増賃金(残業代)として通常の賃金の125%を支払う必要があります(労働基準法37条1項)。

このルールに従うと、1日の労働時間が8時間ちょうどまでであれば、時間外労働の割増賃金の支払いは不要ということです。

つまり、実際の労働時間にかかわらず、「8時間働いたものとみなす」と決められている場合、実際には8時間を超えて働いているのだとしても残業代は支払われません。

8時間では終わらない業務量を労働者に強いているにもかかわらず、裁量労働制であるからといって残業代を支払わずに、制度を悪用している企業があることも事実です。

次項で、裁量労働制でも残業代が支払われるケースを詳しく解説します。

裁量労働制でも残業代が支払われるケース

裁量労働制を採用している場合でも、残業代が出ないわけではありません。

具体的には、以下のケースであれば、残業代が支払われます。

裁量労働制でも残業代が支払われるケース

  • みなし時間数が法定労働時間を超えている
  • 法定外休日に出勤している
  • 法定休日に出勤している
  • 深夜労働している

ここでは、裁量労働制でも残業代が出るケースについて具体的に解説していきます。

みなし時間数が法定労働時間を超えている

まず、裁量労働制においてみなされる1日の労働時間として、法定労働時間である8時間を超える時間数が設定されている場合があります。

たとえば、「1日の労働時間を9時間とみなす」といったようなものです。

この場合、9時間のうち、8時間は法定内労働、残りの1時間は時間外労働として扱われます。

時間外労働に対しては、通常の賃金に割増率をかけた割増賃金が支払われます。

みなし労働時間が8時間を超えて設定されている場合は、「8時間分の賃金+割増がきちんと行われた時間外労働分の賃金」が支払われているかを確認しましょう。

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法定外休日に出勤している

休日には法定休日法定外休日の2種類があります。

労働基準法は、原則として、1週間に1日の休日もしくは4週間で4日の休日を設けなければならないとしており、この休日を法定休日と言います。

完全週休2日制の場合、週のうち1日は法定休日となり、もう1日は法定外休日となるわけです。

法定外休日に出勤したとき、その多くは法定労働時間外の労働となります。

先程の通り、法定労働時間は1日だけでなく1週間単位でも定められており、1週間の法定労働時間40時間を超える場合にも残業代が支払われます

そのため、1日の労働時間を8時間とみなしていても、休日出勤を行って40時間を超える場合には、残業代が支払われることとなります。

たとえば、土・日が休日に設定されている場合に、月曜日から土曜日まで働くと、「8時間×6日=48時間」となり、8時間分の割増賃金(残業代)が支払われなければおかしいということです。

法定休日に出勤している

割増賃金には時間労働割増賃金だけでなく、休日労働割増賃金もあります。

先述の通り、労働基準法は、原則として、1週間に1日の休日もしくは4週間で4日の休日を設けなければならないとしており、この休日を法定休日と言います。

この法定休日に働くことを「休日労働」と呼び、会社は割増賃金として、通常の賃金の135%を支払わなければなりません。

法定休日は、基本的には会社の休日が何曜日に設定されているかとは関係なく、週に1日休日があればその日が法定休日とされます。

言い換えれば、「週に1日の休みもなく働いた場合」に休日労働が生じるということです。

先程の例でいえば、土曜日だけでなく日曜日も出勤しているような場合です。

その場合には、8時間分の時間外労働割増賃金に加え、さらに、8時間分の休日労働の割増賃金も追加で請求できます。

深夜労働している

労働基準法では、22時から翌朝5時に労働した場合、深夜労働の割増賃金として、通常の賃金の125%が支払われることになっています(労働基準法37条4項)。

このルールは裁量労働制でも変わらないため、この時間帯に働けば深夜労働の割増賃金が支払われます。

深夜労働に従事した場合、深夜労働分の割増賃金がきちんと上乗せされているか、確認を忘れないようにしましょう。

裁量労働制における残業代の計算方法

裁量労働制の残業代の計算方法についてご紹介します。残業代の計算は、まず1時間当たりの賃金を求めるところから始めます。

1時間あたりの賃金

1時間あたりの賃金は以下のように算定されます。

1時間あたりの賃金

月給 ÷ 月平均所定労働時間(365日-1年間の休日数)×1日の所定労働時間÷12
※うるう年の場合は366日

みなし時間数が法定労働時間を超えているときの残業代計算方法

1日のみなし労働時間が法定労働時間を超えているときの賃金について見ていきます。

法定労働時間を超えた労働については125%の割増が行われることになります。

具体例として、以下のケースをみてみましょう。

みなし労働時間が10時間、1時間当たりの賃金が2,000円のときの残業代

  • 1日あたりの時間外労働時間
    →みなし労働時間10時間-法定労働時間8時間=2時間
  • 1日あたりの時間外労働の賃金
    →1時間当たりの賃金2,000円×割増率1.25×2時間=5,000円

このとき、1日当たりの賃金は「1時間あたりの賃金2,000円×8時間+時間外労働2時間分の賃金5,000円=2万1,000円」となります。

法定外休日に時間外労働をしたときの残業代計算方法

先述の通り、労働基準法に義務として定められた「1週間に1日の休日もしくは4週間で4日の休日」以外の休日を法定外休日と言います。

法定外休日には休日出勤の割増は適用されません。一方で法定外休日の労働が、週40時間の上限を超えている場合には、時間外労働として125%の割増が発生します。

具体例として、以下のケースをみてみましょう。

土日が休みの会社で、みなし労働時間が8時間、1時間当たりの賃金が2,000円のとき、平日のほか土曜日にも出勤した場合

  • 週あたりの時間外労働時間
    →総労働時間48時間-法定労働時間40時間=8時間
  • 週あたりの時間外労働の賃金
    →1時間当たりの賃金2,000円×割増率1.25×8時間=2万円

このとき、この週の賃金は「1時間あたりの賃金2,000円×40時間+時間外労働8時間分の賃金2万円=10万円」となります。

法定休日に働いたときの残業代計算方法

労働基準法に義務として定められた「1週間に1日の休日もしくは4週間で4日の休日」に労働をしたときには、休日労働として135%の割増が行われます。

具体例として、以下のケースをみてみましょう。

上記「法定外休日に時間外労働をしたとき」の例を準用しつつ、さらに日曜日にも8時間の労働をした場合

  • 法定休日に働いた時間
    →8時間
  • 法定休日に働いた分の賃金
    →1時間当たりの賃金2,000円×割増率1.35×8時間=2万1,600円

このとき、この週の賃金は「月~土までの賃金10万円+法定休日労働の賃金2万1,600円=12万1,600円」となります。

なお、法定休日の割増と時間外労働の割増は重複せず、たとえ法定労働時間を超えていたのだとしても、休日労働の割増率は135%のままとなります。

深夜労働をした場合の計算方法

深夜に労働したときには、その労働した時間分、0.25%の割増が行われます。

なお、法律上の深夜労働とは、22時から翌5時までの労働のことを指します。

具体例として、以下のケースをみてみましょう。

1時間当たりの賃金が2,000円、みなし労働時間8時間、実際の労働時間は14時から24時だった場合

この時、みなし労働時間は8時間であるので、実際の労働時間が10時間であったとしても、計算上の労働時間は8時間として扱われます。

一方で22時から24時までの2時間は深夜労働を行っていることになります。

  • 深夜労働時間
    →2時間
  • 深夜労働の割増分
    →1時間当たりの賃金2,000円×割増率0.25×2時間=1,000円

このとき、1日あたりの賃金は「1時間あたりの賃金2,000円×みなし労働時間8時間+深夜労働2時間分の割増1,000円=1万7,000円」となります。

残業代の計算については、『残業代の正しい計算方法とは?基本から応用的な計算まで徹底解説!』の記事でも詳しく解説しているので、合わせてご確認ください。

違法な裁量労働制に対する残業代請求の方法は?

裁量労働制は導入の条件が非常に厳しく設定されていますが、適切な手続き、運用を行わず、違法な状態のまま裁量労働制をとっている会社というのも数多く存在します。

仕事が終わらず深夜労働をしている、完全週休二日制と思って入社したが、土日も仕事をしているようなケースでは、裁量労働制であっても残業代を請求できます。

ここでは違法な裁量労働制に対する残業代請求方法を解説します。

証拠を集める

裁量労働制が採用されている企業で、残業代を請求するためには、必要な証拠を集めることが重要になります。

有効な証拠としては以下のものが挙げられます。

残業代請求に有効な証拠

  • タイムカード
  • パソコンのログ記録
  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 給与明細 など

また、裁量労働制においては、「運用の実態が裁量労働制の趣旨から外れている」という主張をすることもあります。その場合には「業務の遂行方法が指定されていた」という証拠を集める必要があります。

  • 出退勤時間を指定する業務上のメールやチャット
  • 会議への出席や仕事の遂行方法などが指示されている業務上のメールやチャット

このような証拠は「運用の実態が裁量労働制の趣旨から外れている」という主張をする際、非常に強力な証拠になるので、ぜひ集めておきましょう。

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残業代請求で必要となる証拠を徹底解説!証拠がない場合の対処法は?

会社と直接交渉する

残業代に未払いがあるとわかったら、会社に直接、請求するのも手段の一つです。

この際、同時に会社に内容証明郵便を送ることをおすすめします。公的な書面である内容証明郵便を送れば記録が残るため、会社に残業代を請求した証拠になります。

残業代を請求した・していないのトラブルを避けることができます。

参考:日本郵便「内容証明」

また、残業代請求の時効は3年です。時効が完成してしまうと、残業代の請求が難しくなってしまいますが、内容証明郵便を送ることで、時効の完成を6か月間遅らせる効果もあります。

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残業代請求の時効は3年!将来は5年に?時効中止や請求の方法を解説

弁護士に相談する

弁護士への相談は残業代の請求において最も効果的です。

裁量労働制と残業代との関係は複雑です。そのため情報不足や社風、業界の慣習といったものにより、裁量労働制をめぐるトラブルは自身で対処するだけでは解決できない可能性が高いです。

法律の専門家である弁護士であれば、適切な手段で残業代請求を行うことができます。

また、会社との交渉が決裂した場合でも、弁護士であれば法的手続きにスムーズに移行することが可能です。

弁護士への相談にあたって、費用相場や流れ、メリットなどを知りたい方は『残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!』の記事をご覧ください。

裁量労働制の残業代請求は弁護士に相談!

裁量労働制は「1日に○○時間働いたものとみなす」という制度であり、そういった意味では1日何時間働いたのだとしても、追加で残業代が支払われるといったことはありません。

しかし、残業代における割増賃金については、正しく計算が行われ、支払われている必要があります。

裁量労働制の残業代について疑問をお持ちの方は、休日労働や深夜労働の部分についてきちんと割増が行われているかを確認しておきましょう。

裁量労働制で違法性が疑われる、長時間労働しているなどのお悩みを抱えている方は、弁護士への相談を考えてみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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