M&Aにおける注意点とは?会社売却側・買収側のリスクや確認事項を解説
M&Aや会社売却は、専門的な知識がなければ適切に手続きを進めるのが難しい取引です。
準備や検討を始めてから成約に至るまで1年以上かかるケースもあり、各ステップにおける注意点を十分認識しておかなければなりません。
この記事では、会社売却側、会社買収側のリスクや確認すべき事項をまとめています。
目次
M&Aで会社売却側が注意すべき点
客観的な企業価値評価
M&Aで会社を売却する場合、まず重要なのが客観的な企業価値評価(バリュエーション)です。
企業価値評価の際には、自社の強みや成長性だけでなく、市場環境や競合状況なども考慮し、妥当な売却価格を設定する必要があります。
ですが、売り手側が自社の企業価値を計算しようとすると、収益性や将来性を高く評価してしまう傾向があります。
買い手側がどのように判断するかをある程度想定した上で、相手を納得させることのできる売却価格にするよう心がけましょう。
企業価値の評価方法は、DCF法やマルチプル法など、複数の計算方法があります。
これらを用いて算出し、客観性を高めることが重要です。また、会計士やM&Aアドバイザーなどの専門家に依頼し、第三者の視点から評価してもらうのも有効です。
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売却価格などの条件
企業価値を算定したら、買い手候補との交渉に入ります。
価格の条件交渉においては、譲渡後の成長見込みなども考慮した条件を提示しましょう。通常のビジネスと同様、M&Aの交渉でも、売り手側はなるべく高く売るためのアピールを行い、買い手側はなるべく安く買うための主張をしてきます。
しかし、昨今のM&A市場は売り手市場であり、希望条件に近い内容でクローズできる可能性は十分にあるといえるでしょう。
他にも、従業員や役員の給与・待遇に変化がない旨を保証する内容を契約書に記載させたり、経営者が顧問やアドバイザーとして買収後の企業に残る場合には、その職務内容や期間を定めたりする必要もあるでしょう。
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従業員・役員への説明
M&Aが決定したら、従業員や役員に丁寧に説明する必要があります。
説明内容は、M&Aの目的、理由、スケジュール、従業員への影響などです。
しかし、会社売却によって企業が統合されるという情報は、買い手企業との交渉段階では社内に公表すべきではありません。
もし仮に話を聞いた従業員や役員が、SNSなどで情報を漏洩させてしまった場合、M&Aが途中で打ち切られてしまう可能性があるからです。
そのため、最終契約の締結段階まで進んだところで、自社の従業員や役員に説明するのが最適なタイミングでしょう。必要に応じて、個別相談や説明会を開催するなど、不安や疑問に丁寧に答え、理解を得ることが重要です。
M&Aの手続き中に業績を悪化させない
M&Aの手続きは数ヶ月から数年かかる場合もあります。
手続き中に業績が悪化すると、価格が減額される可能性があります。
M&Aの手続き中に業績を悪化させないように、本業にも注力する必要があります。
買い手、仲介会社の言いなりにならない
M&Aの交渉では、買い手や仲介会社が自社にとって不利な条件を提示してくる場合があります。
相場となる企業評価の額よりも遥かに低額での価格提案や、従業員や役員の保護が確約されていないなど、受け入れるべきではない条件については拒絶することも必要です。
会社売却を優先させようと、不利な条件を受け入れるのではなく、自社や重要員の利益を守るために、毅然とした態度で交渉を行いましょう。
必要に応じて、弁護士やM&Aアドバイザリーなどの専門家に相談し、アドバイスを受けることも有効です。
M&Aで会社買収側が注意すべき点
M&Aの目的を明確にする
会社買収の手続きに入る前に、まずM&Aの目的を明確にすることが重要です。
事業の拡大や新規事業への参入、経営資源の強化やコスト削減、人材獲得や技術力の向上など、M&Aによって実現したい目標は状況によって異なります。
目的が明確でないと、適切なターゲット企業を見つけられず、買収後のシナジー効果もイメージしづらくなってしまいます。
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買収価格などの条件
買い手候補となる企業を選び、トップ面談に進むと、買収価格や従業員の処遇、経営者の退任などの各条件を定めていくことになります。
提示された価格に見合う価値が売り手企業にあるかどうかを評価し、必要があれば、両社が納得できる金額に調整します。
M&Aを実施し、両社が統合された後、役員や社員の待遇・給与がどうなるのかなど、詳細を決めることも必要です。売り手企業側の従業員がM&A後に不満を抱いて、離職が相次ぐような事態にならないよう、注意しなければなりません。
また、中小企業の場合、M&A後は退任・リタイアを希望する経営者も多いでしょう。
しかし、前任経営者に協力してもらうことで、業務のスムーズな引継ぎや統合が進む場合もあります。
M&A後に顧問などの肩書を与えて引継ぎなどに協力してもらうかどうかも、この交渉段階で定めておくと便利です。
デューデリジェンス
ターゲット企業を選定し、大まかな条件が整ったら、デューデリジェンス(買収監査)を実施する必要があります。
デューデリジェンスとは、M&Aにおいて買い手企業が売り手企業を細かく調査することです。
具体的には、財務状況、法務状況、人事状況、事業環境などを詳細に調査し、買収に伴うリスクを評価します。財務諸表の分析、訴訟リスクの調査などを行い、ターゲット企業の実態を正確に把握する必要があります。
専門家のサポートを活用し、漏れなく調査を行うことが重要です。
PMI(統合プロセス)の計画と実行
買収手続きが完了したら、PMI(Post Merger Integration:統合プロセス)を実行する必要があります。
PMIは、買収した企業を円滑に自社に統合するためのプロセスです。組織体制の構築、業務プロセスの統合、社内文化の融合など、様々な課題を解決する必要があります。
事前に詳細な計画を立て、売り手側とコミュニケーションを密に取ることで、スムーズな統合を実現しましょう。
従業員への説明と理解を得る
買収によって、従業員の雇用環境やキャリアパスが大きく変わる可能性があります。そのため、買収の理由や目的、今後の計画などを丁寧に説明し、従業員の理解を得ることが重要です。
不安や疑問に耳を傾け、丁寧に対応することで、買収後のスムーズな事業運営に繋げることができます。
説明会を開催したり、社内報やFAQを作成するなど、様々な方法で情報提供を行いましょう。
M&A売り手のリスク・確認事項
期待通りの価格で売却できない可能性
市場環境や競合状況、ターゲット企業の業績など、様々な要因によって、期待通りの売却価格が実現できない可能性があります。
M&Aの手続きでは、基本合意の段階で独占交渉権がつくケースが多いです。プロセスが進むと、複数の買い手から見積もりを取ることは難しくなるでしょう。
買い手企業や仲介会社の提案に妥協できない場合は、なるべく早い段階で他の買い手を探したり、他の仲介会社に相談したりして、選択肢を広げましょう。
なお、デューデリジェンスの結果、買い手に公表していなかった負債などの事実が判明すると、当然最終売却額が下がってしまいます。相手に与える印象もよくないので、調査によって判明しそうな負債やリスクなどは予め伝達しておいた方がいいケースもあります。
担当のアドバイザーに確認して、誠実な対応を心がけましょう。
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情報漏洩
M&Aの過程で、企業情報や顧客情報などが漏洩する可能性があります。特にM&A成約が決まっていない段階で従業員や役員に説明してしまうと、情報漏洩のリスクが高まります。
情報セキュリティ対策を徹底しておかないと、買い手候補からM&Aの打ち切りを告げられてしまうパターンもあるので、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることが重要です。
会社売却後の経営者残留について
M&A売り手側の確認事項として、経営者が次の会社に残るのか否かも重要です。
M&Aが成約となると、円滑な事業承継を実現するため、買い手から顧問や相談役などの肩書で会社に残ってほしいと要請される場合があります。
このようなケースでは、会社に残る期間や担当する職務内容などを確認しておきましょう。
M&A買い手のリスク・確認事項
買収価格の支払い負担
買収価格が高額な場合、支払い負担が重くなり、財務状況が悪化する可能性があります。
資金調達方法や財務計画を慎重に検討することが重要です。
期待通りのシナジー効果が得られない可能性
市場環境や競合状況、ターゲット企業との文化の違いなど、様々な要因によって、期待通りのシナジー効果が得られない可能性があります。
事前にターゲット企業との相性や統合後の事業計画を慎重に検討することが重要です。
また、買収後の経営統合がうまくいかず、混乱が生じる可能性もあるでしょう。
統合計画を立て、コミュニケーションを密に取るなど、M&A後の統合プロセスを丁寧に進めることも重要です。
簿外債務の発覚
ターゲット企業に、買収後に発覚する隠れ債務がある可能性があります。
デューデリジェンスを徹底的に実施し、隠れ債務のリスクを把握することが重要です。
M&Aは、事前にリスクを把握し、適切な対策を講じることで、成功の可能性を高めることができます。
上記の確認事項を参考に、M&Aを慎重に進めてください。
まとめ
M&Aは、事業拡大や経営資源の強化など、様々なメリットをもたらす可能性があります。
しかし、同時に様々なリスクも伴います。
会社売却側・買収側それぞれが注意すべき点を理解し、慎重に検討することが重要です。