交通事故による意識障害|遷延性意識障害の後遺症を解説
交通事故による遷延性意識障害は、事故で昏睡状態に陥った後、開眼はできるものの意思疎通が困難な状態が3ヶ月以上続く深刻な疾患です。
植物状態とも呼ばれるこの状態からの回復は難しく、高次脳機能障害などの後遺症が残ることもあります。
遷延性意識障害の後遺症が残った場合、要介護1級1号に認定される可能性があります。
慰謝料額も高額になるため、相手側の保険会社と金額について争うケースは少なくありません。
今回は、遷延性意識障害の症状、後遺障害の認定基準、弁護士に依頼するメリットなど、被害者とその家族が知っておくべき知識について詳しく解説します。
交通事故による意識障害(遷延性意識障害)とは?
意識障害(遷延性意識障害)とは?
遷延性(せんえんせい)意識障害とは、事故などによって昏睡状態に陥り、開眼できる状態にまで回復したものの周囲との意思疎通ができない状態のことです。
いわゆる植物状態ともいわれている疾患です。
日本脳神経外科学会(1976年)の定義では、以下の6項目に該当する状態が3ヶ月間以上継続した場合、遷延性意識障害にあたるとされています。
- 自力移動ができない
- 自力摂食ができない
- 便失禁・尿失禁がある
- 声を出しても意味のある発語ができない
- 簡単な命令(眼を開く、手を握るなど)には辛うじて応じることもできるが、ほとんど意思疎通はできない
- 眼球は動いて物を追えても認識することはできない
意識障害の原因
遷延性意識障害の原因は、頭部外傷や脳卒中、低酸素脳症などにより昏睡状態に陥ることです。
交通事故により、意識不明の状態になり、速やかに回復しなかった場合には、遷延性意識障害に至るケースが多いです。
意識不明、さらには意識障害を引き起こす可能性のある疾患については以下のような関連記事もありますので、ご参考にしてください。
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意識障害は閉じ込め症候群や脳死とは違う
遷延性意識障害は、同じ脳に関する疾患である閉じ込め症候群や脳死とは異なります。
閉じ込め症候群は脳底部・脳幹が損傷している状態であり、脳死は脳幹を含む脳すべての機能が完全に停止した状態です。
一方で、遷延性意識障害は、脳幹機能がほぼ正常に保たれています。
また、脳死は、心臓や肺が動いていても、意識がなく、呼吸も自発的に行えません。脳幹が機能しなくなると、現代の医学では回復する見込みはなく、二度と元に戻らないとされています。
一方で、遷延性意識障害は植物状態では小脳や脳幹は働いているため、自力で呼吸ができるケースも多く、回復した事例も多く報告されています。
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意識障害の回復後に残る後遺症
遷延性意識障害から回復した後、後遺症が残るケースもあれば、ほとんど後遺症が残らずふだんの生活に復帰できるケースもみられるなど、回復の程度は様々です。
しかし、事故前の状態にまで回復する可能性は低く、いずれにせよ後遺症が残るケースがほとんどであるといわれています。
遷延性意識障害から回復した後に残る後遺症の代表的な疾患は、高次脳機能障害です。
高次脳機能障害とは、病気や交通事故による脳の一部の損傷が原因となって、注意、記憶、統合などの高次脳機能に異常がみられる状態です。
外見からは分かりにくい障害であり、軽傷の場合は特に発見しにくいことも特徴のひとつです。
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意識障害の後遺症とは?|後遺障害等級の認定
意識障害の後遺障害|要介護1級1号の認定基準
遷延性意識障害の後遺症が残ったとして、要介護1級1号に認定されるケースが多いです。
後遺障害等級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料を請求することができます。
遷延性意識障害の慰謝料は、2,800万円です。
遷延性意識障害の等級認定基準
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
---|---|
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2,800万円 |
「常に介護を要する」の定義は、以下のような生命維持に欠かせない身の回りの処理動作が行えないことを指します。
- 食事
- 入浴
- 用便
- 更衣
意識障害で高次脳機能障害が残った場合の後遺障害
遷延性意識障害の後遺症として高次脳機能障害が残った場合、症状の程度に応じて後遺障害1級1号(要介護)〜14級9号に認定される可能性があります。
高次脳機能障害の慰謝料は、110万円〜2,800万円です。
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
---|---|
1級1号(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2,800万円 |
2級1号(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの 110万円 |
意識障害の後遺障害認定|申請と審査
遷延性意識障害の後遺症が残った場合、後遺障害認定の申請をし、審査機関による審査を通過することで等級の認定を受けることができます。
後遺障害等級の申請方法には、被害者請求と事前認定の2つの方法があります。
前者の被害者請求では、被害者側が申請に必要な資料を集めた上で加害者側の自賠責保険会社に提出して審査を受ける方法です。
後者の事前認定は、被害者は後遺障害診断書のみ用意し、他に必要な書類は加害者側の任意保険会社が用意して審査を受ける方法です。
症状が重篤である遷延性意識障害の場合は、特に自分で必要な書類を集めて適切な等級での認定をめざせる被害者請求の方がおすすめです。
弁護士にご依頼いただければ、等級認定に必要な書類を漏れなく収集し、後遺障害申請手続きを代わりに進めてもらえるため、自分は治療に専念しながら被害者請求をすることができます。
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後遺障害申請のタイミング|遷延性意識障害の症状固定
後遺障害申請ができるタイミングは、遷延性意識障害が症状固定となった段階です。
症状固定とは、これ以上治療を続けても、大幅な改善は見込めないと判断されることです。
後遺障害とは、傷害が治ったときに身体に残る障害であるため、認定の申請ができるタイミングも治療しても障害が残り続けるとされる症状固定時になっています。
被害者請求・事前認定問わず、後遺障害の申請には後遺障害診断書が必要です。
医師から症状固定と判断された際には後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害申請の手続きを進めましょう。
意識障害の慰謝料|示談金として請求できるお金
意識障害の入通院慰謝料
遷延性意識障害になって入院・通院で治療をした場合、入通院慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料とは、入院・通院を余儀なくされるケガで負った精神的損害に対する賠償金であり、後遺障害認定の有無に関係なく請求できます。
入通院慰謝料は、入院・通院による治療期間が長いほど高額になります。
また、通院のみで治療したケースよりも入院したケースの方が高額になります。
意識障害の近親者慰謝料
交通事故で遷延性意識障害になった場合、ご家族が被害者本人に代わって治療費や入通院慰謝料、後遺障害慰謝料などを請求することが考えられます。
一定範囲の親族であれば、被害者本人の権利とは別に、親族固有の権利として慰謝料を請求することができる場合があります(民法711条)。
被害者本人と近しい親族関係にある人であれば、家族が交通事故に遭ったことで多大な精神的苦痛を受けることが考えられるからです。
条文上は事故被害者に対する生命侵害のケースのみ対象とするように読み取れますが、判例上、意識障害のような身体傷害のケースでも近親者慰謝料を認めています(最判昭和33年8月5日)。
判例では、身体傷害によって、被害者の死亡に匹敵するほどの精神的苦痛を受けた場合に慰謝料請求を認めています。
また、条文上は「被害者の父母、配偶者及び子」と定められていますが、それ以外の人でも実質的に条文上の親族と同視できる立場で、甚大な精神的苦痛を受けたといえる場合には慰謝料請求が認められることがあります。
疾患の程度や被害者との関係性などの事情によって近親者慰謝料が認められるケースか決まります。
弁護士に相談すれば、法的根拠や判例に照らし合わせて適切な請求方法についてのアドバイスも提供できます。
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意識障害の休業損害・逸失利益
遷延性意識障害によって働けなくなった分、休業損害や逸失利益という形で請求することができます。
特に将来にわたって重篤な後遺症が残ることが想定される遷延性意識障害では、逸失利益が非常に高額になることも少なくありません。
- 休業損害:症状固定までの間に被害者が休業したことで減収した分の損害
- 逸失利益:交通事故がなければ後遺障害なく働いて得ることができたはずの収入
意識障害の治療費、物損|示談金として請求できるお金
遷延性意識障害を負った場合、慰謝料や逸失利益の他にも治療費・物損などを請求できます。
- 治療費:治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用。入通院のための交通費なども合わせて請求できる
- 物損:交通事故によって壊れた車両や物の修理費・弁償代
遷延性意識障害では将来にわたって介護が必要になることも少なくないので、将来介護費や介護のための器具購入費、家屋改造費も請求することができます。
これらをまとめて示談金として請求することになります。
この際、相手側の保険会社から示談金額が提示されますが、提示額は相場金額よりも低い傾向にあります。
相場金額で慰謝料を請求するには、各費目の適正な金額を見定めて、増額の余地がないか検討し、保険会社と交渉する必要があります。
専門家である弁護士に依頼すれば、金額の見積もりから交渉、示談成立まですべて一任することができます。
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交通事故の意識障害は弁護士に相談
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遷延性意識障害は、他の疾患と比べても高額な請求になりやすいため、相手側の保険会社が適正な金額を支払ってくれないケースは少なくありません。
また、高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級の認定が難しいケースも多く、適切な等級での認定を受けられないこともあります。
弁護士にご依頼いただければ、治療費の請求から後遺障害申請手続き、示談交渉まですべて代わりに進めてもらえます。
慰謝料や示談金の適正な相場金額がいくらか、保険会社からの提示額から増額できそうか、だけでもご確認いただけます。
無料相談やセカンドオピニオンだけの利用でも構いませんので、ぜひご相談ください。
弁護士費用特約|費用負担なく依頼する方法
弁護士費用の負担をご不安に思ってなかなかご相談できない方も多いと思います。
しかし、弁護士費用特約を利用すれば、費用負担をせずに弁護士への相談・依頼ができます。
弁護士費用特約とは?
弁護士費用特約とは、弁護士に支払う相談料や費用について、保険会社が代わりに負担してくれるという特約です。
負担額には上限が設定されていますが、多くのケースで生じる相談料や費用は上限の範囲内に収まるため、金銭的な負担なく弁護士への相談や依頼が可能となります。
特約がなくても、遷延性意識障害では特に弁護士費用を差し引いてもなお、弁護士を立てた方が多くの損害賠償金が得られることは多いです。
無料相談の段階で、依頼した際の弁護士費用についてもご確認いただけるので、示談金の見込みや負担費用も踏まえて正式に依頼するかどうかご検討いただけます。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了