交通事故による遷延性意識障害の後遺症。症状固定の時期と慰謝料請求を弁護士が解説

遷延性意識障害(植物状態とも呼ばれる)は、交通事故で頭を強く打ち付けるなどを原因としてなり得る後遺障害のひとつです。遷延性意識障害からの回復はむずかしく、たとえ回復できたとしても高次脳機能障害などの後遺症が残ることもあります。
遷延性意識障害の後遺症が残った場合、要介護1級1号に認定される可能性があり、慰謝料額も2,800万円と高額になるため、相手側の保険会社と金額について争うケースは多いです。
被害者の意識が戻らないことは、ご本人にとっても家族にとっても負担が重く、今後の介護や損害賠償請求についてもさらに考えていく必要があり、不安も大きいでしょう。
今回は、遷延性意識障害の定義や症状、症状固定の時期や後遺障害の認定基準、弁護士に依頼するメリットなど、被害者の家族が知っておくべき知識について詳しく解説します。
交通事故による遷延性意識障害の症状と原因
遷延性意識障害とは?症状と定義

遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)とは、昏睡状態に陥った後、目を開けることはできるものの意思疎通が困難な状態が3ヶ月以上続く深刻な疾患です。
遷延性意識障害は、頭部への強い衝撃等で脳の広い範囲が損傷することで起こるとされています。ただし、生命維持に必要な脳の重要な部分は完全には機能していないものの、活動を続けているため命は保たれているのです。
日本脳神経外科学会(1976年)の定義では、以下の6項目に該当する状態が3ヶ月間以上継続した場合、遷延性意識障害にあたるとされています。
- 自力移動ができない
- 自力摂食ができない
- 便失禁・尿失禁がある
- 声を出しても意味のある発語ができない
- 簡単な命令(眼を開く、手を握るなど)には辛うじて応じることもできるが、ほとんど意思疎通はできない
- 眼球は動いて物を追えても認識することはできない
遷延性意識障害は、いわゆる植物状態ともいわれている疾患です。
遷延性意識障害の治療
遷延性意識障害は自力での呼吸が可能ですが、確実な治療法は今のところなく、自然治癒力に頼るしかないのが現状です。
遷延性意識障害になると患者は寝たきりの状態となるため、関節が固くならないよう定期的に動かし、床ずれ予防、痰の吸引、排せつの処理など、24時間体制の介護が必要となります。家族や介護者にも大きな負担がかかる状況となります。
遷延性意識障害は閉じ込め症候群や脳死とは違う
遷延性意識障害は、同じ脳に関する疾患である閉じ込め症候群や脳死とは異なります。
閉じ込め症候群は脳底部・脳幹が損傷している状態であり、脳死は脳幹を含む脳すべての機能が完全に停止した状態です。
一方で、遷延性意識障害は、脳幹機能がほぼ正常に保たれています。
また、脳死は、心臓や肺が動いていても、意識がなく、呼吸も自発的に行えません。脳幹が機能しなくなると、現代の医学では回復する見込みはなく、二度と元に戻らないとされています。
一方で、遷延性意識障害では小脳や脳幹は働いているため、自力で呼吸ができるケースも多く、回復した事例も多く報告されています。
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遷延性意識障害の原因
遷延性意識障害の原因は、頭部外傷や脳卒中、低酸素脳症などにより昏睡状態に陥ることです。
交通事故により、意識不明の状態になり、速やかに回復しなかった場合には、遷延性意識障害に至るケースが多いです。
意識不明、さらには意識障害を引き起こす可能性のある疾患については以下のような関連記事もありますので、ご参考にしてください。
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コラム|意識障害から目覚めても後遺症は残る?
まず意識障害は、ぼんやりしたり反応が鈍くなったりする軽度の症状から、昏睡状態になる重度の症状まで含む、幅広い概念といえます。そのなかでも、遷延性意識障害は特に重篤で長期間にわたる意識障害のことを指します。
そのため、遷延性意識障害から回復した後、後遺症が残るケースもあれば、ほとんど後遺症が残らずふだんの生活に復帰できるケースもみられるなど、回復の程度は様々です。
しかし、事故前の状態にまで回復する可能性は低く、いずれにせよ後遺症が残るケースがほとんどであるといわれています。
遷延性意識障害から回復した後に残る後遺症の代表的な疾患は、「高次脳機能障害」です。
高次脳機能障害とは、病気や交通事故による脳の一部の損傷が原因となって、注意、記憶、統合などの高次脳機能に異常がみられる状態です。

外見からは分かりにくい障害であり、軽傷の場合は特に発見しにくいことも特徴のひとつです。
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遷延性意識障害の後遺症とは?症状固定の時期と後遺障害認定
遷延性意識障害の症状固定と後遺障害認定の関係
交通事故による遷延性意識障害で症状固定と判断されるタイミングは、受傷から1年以上が経過した時点が多くなる傾向にあるでしょう。
日本脳神経外科学会の定義に照らせば、医学的に遷延性意識障害は受傷後3ヶ月で症状固定と診断できる場合もあります。しかし、交通事故の実務上では慎重な経過観察が行われ、症状が安定する1年以上を目安に判断されることが多いです。
そもそも、症状固定とは、これ以上治療を続けても、大幅な改善は見込めないと判断されることです。

遷延性意識障害が症状固定となれば、後遺障害申請ができるようになるタイミングともいえます。
後遺障害の申請には後遺障害診断書が必要です。医師から症状固定と判断された際には後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害申請の手続きを進めましょう。
遷延性意識障害における症状固定の注意点
症状固定日は、保険会社による治療費や介護費などの支払いが終了する日ともいえます。そのため、保険会社は賠償金額を抑える目的で、受傷後6ヶ月で症状固定を進めてくる場合があります。
しかし、焦って症状固定を受け入れると、十分な治療や補償が受けられなくなるリスクがあります。被害者やそのご家族は、治療や介護の準備を整えた上で慎重に判断することが大切です。
また、症状固定日以降に発生する治療費や介護費などは、遷延性意識障害を負った被害者のご家族が一時的に自ら負担しなければなりません。症状固定日から示談交渉などを通して賠償金が確定し、最終的に受け取れるまでは、長いタイムラグが発生する可能性があるからです。
こうした状況に備えるため、症状固定日は慎重に決定する必要があるでしょう。早すぎる症状固定は、後の治療費や介護費などの負担が想像以上に重くなるリスクが伴います。医師や法律の専門家である弁護士と相談しながら、十分な準備を整えた上で、症状固定の最適なタイミングを見極めることが重要です。

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遷延性意識障害の後遺障害認定|申請と審査
遷延性意識障害の後遺症が残った場合、後遺障害等級の認定を受けるには、申請をして審査を受ける必要があります。
後遺障害等級の申請方法には、被害者請求と事前認定の2つの方法があります。

前者の被害者請求では、被害者側が申請に必要な資料を集めた上で加害者側の自賠責保険会社に提出して審査を受ける方法です。

後者の事前認定は、被害者は後遺障害診断書のみ用意し、他に必要な書類は加害者側の任意保険会社が用意して審査を受ける方法です。
症状が重篤である遷延性意識障害の場合は、特に自分で必要な書類を集めて適切な等級での認定をめざせる被害者請求の方がおすすめです。
弁護士にご依頼いただければ、等級認定に必要な書類を漏れなく収集し、後遺障害申請手続きを代わりに進めてもらえるため、自分は治療に専念しながら被害者請求をすることができます。

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遷延性意識障害の後遺障害等級は要介護1級1号
遷延性意識障害の後遺症が残ったとして、要介護1級1号に認定されるケースが多いです。
遷延性意識障害の等級認定基準
等級 | 認定基準 |
---|---|
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 慰謝料額2,800万円 |
「常に介護を要する」の定義は、以下のような生命維持に欠かせない身の回りの処理動作が行えないことを指します。
- 食事
- 入浴
- 用便
- 更衣
後遺障害等級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料を請求することができます。遷延性意識障害で後遺障害要介護1級1号の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料は2,800万円です。
遷延性意識障害を負った被害者の家族には、大きな負担がのしかかります。その負担を軽減するためにも、相手側から適切な損害賠償金を受け取ることが重要です。
遷延性意識障害で高次脳機能障害が残ったら介護1級1号〜14級9号
遷延性意識障害の後遺症として高次脳機能障害が残った場合、症状の程度に応じて後遺障害要介護1級1号〜14級9号に認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 慰謝料額2,800万円 |
要介護2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 慰謝料額2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 慰謝料額1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 慰謝料額1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 慰謝料額1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 慰謝料額690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの 慰謝料額290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの 慰謝料額110万円 |
高次脳機能障害で後遺障害要介護1級1号〜14級9号の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料は110万円〜2,800万円です。
遷延性意識障害の慰謝料|示談金として請求できるお金
遷延性意識障害の入通院慰謝料
遷延性意識障害になって入院・通院で治療をした場合、入通院慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料とは、入院・通院を余儀なくされるケガで負った精神的損害に対する賠償金であり、後遺障害認定の有無に関係なく請求できます。

入通院慰謝料は、入院・通院による治療期間が長いほど高額になります。
また、通院のみで治療したケースよりも入院したケースの方が高額になります。
遷延性意識障害の後遺障害慰謝料
遷延性意識障害になって後遺障害等級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残った精神的損害に対する賠償金であり、障害の部位や程度に応じた等級ごとに決められた金額を請求できます。
等級 | 自賠責基準* | 弁護士基準 |
---|---|---|
要介護1級1号 | 1650万円 (1600万円) | 2800万円 |
要介護2級1号 | 1203万円 (1163万円) | 2370万円 |
3級3号 | 861万円 (829万円) | 1990万円 |
5級2号 | 618万円 (599万円) | 1400万円 |
7級4号 | 419万円 (409万円) | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 (245万円) | 690万円 |
12級13号 | 94万円 (93万円) | 290万円 |
14級9号 | 32万円 (32万円) | 110万円 |
*()内は2020年3月31日以前に発生した事故の場合
後遺障害慰謝料は、障害の程度が重いほど高額になります。
遷延性意識障害の近親者慰謝料
交通事故で遷延性意識障害になった場合、ご家族が被害者本人に代わって治療費や入通院慰謝料、後遺障害慰謝料などを請求することが考えられます。
一定範囲の親族であれば、被害者本人の権利とは別に、親族固有の権利として慰謝料を請求することができる場合があります(民法711条)。
被害者本人と近しい親族関係にある人であれば、家族が交通事故に遭ったことで多大な精神的苦痛を受けることが考えられるからです。
条文上は事故被害者に対する生命侵害のケースのみ対象とするように読み取れますが、判例上、意識障害のような身体傷害のケースでも近親者慰謝料を認めています(最判昭和33年8月5日)。
判例では、身体傷害によって、被害者の死亡に匹敵するほどの精神的苦痛を受けた場合に慰謝料請求を認めています。
また、条文上は「被害者の父母、配偶者及び子」と定められていますが、それ以外の人でも実質的に条文上の親族と同視できる立場で、甚大な精神的苦痛を受けたといえる場合には慰謝料請求が認められることがあります。
疾患の程度や被害者との関係性などの事情によって近親者慰謝料が認められるケースか決まります。
弁護士に相談すれば、法的根拠や判例に照らし合わせて適切な請求方法についてのアドバイスも提供できます。

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遷延性意識障害の休業損害・逸失利益
遷延性意識障害によって働けなくなった分、休業損害や逸失利益という形で請求することができます。
特に将来にわたって重篤な後遺症が残ることが想定される遷延性意識障害では、逸失利益が非常に高額になることも少なくありません。
休業損害
症状固定までの間に被害者が休業したことで減収した分の損害のことです。

逸失利益
交通事故がなければ後遺障害なく働いて得ることができたはずの収入のことです。

遷延性意識障害の治療費、物損等その他の示談金
遷延性意識障害を負った場合、慰謝料や逸失利益の他にも治療費・物損などを請求できます。
- 治療費:治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用。入通院のための交通費なども合わせて請求できる
- 物損:交通事故によって壊れた車両や物の修理費・弁償代
遷延性意識障害では将来にわたって介護が必要になることも少なくないので、将来介護費や介護のための器具購入費、家屋改造費も請求することができます。

これらをまとめて示談金として請求することになります。
この際、相手側の保険会社から示談金額が提示されますが、提示額は相場金額よりも低い傾向にあります。
相場金額で慰謝料を請求するには、各費目の適正な金額を見定めて、増額の余地がないか検討し、保険会社と交渉する必要があります。
専門家である弁護士に依頼すれば、金額の見積もりから交渉、示談成立まですべて一任することができます。

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交通事故の遷延性意識障害は弁護士に相談
遷延性意識障害の慰謝料を適正に受け取るには?
遷延性意識障害の被害者が適正な慰謝料を受け取るためには、まず適切な後遺障害等級の認定を受けることが重要です。特に介護が必要な場合、後遺障害1級が認定されることで、自賠責保険からは最大1650万円の慰謝料を受け取れるようになります。
しかし、近年の等級認定は厳格化しており、適正な認定を受けるためには、事故直後からの適切な対応が必要になるのです。
たとえば、医師が作成する後遺障害診断書には、必要な検査事項の結果をすべて盛り込み、CT画像・MRI画像などの医学的資料を適切に準備することが求められます。これを怠ると、適正な等級が認められず、十分な慰謝料が受け取れないリスクがあるのです。
次に、弁護士が交渉に入ることで、過去の判例を踏まえた適正な慰謝料額を主張できるようになります。なぜなら、保険会社が提示する慰謝料額は、弁護士を介さない場合、自賠責基準の最低額に抑えられることが一般的だからです。
たとえば、弁護士が介入することで、後遺障害慰謝料の基準を自賠責基準(1650万円)から弁護士基準(2800万円)へ引き上げ、より適正な賠償を受け取れる可能性が高まります。

ご家族が交通事故で遷延性意識障害を負った場合、早期に弁護士へ相談し、適切な対応を進めることが大切です。
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交通事故での意識障害の後遺障害申請や示談交渉にお悩みであれば、アトム法律事務所の無料相談をご利用ください。
アトム法律事務所では、交通事故の被害者の方向けに電話・LINEによる無料相談を受け付けております。

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遷延性意識障害は、他の疾患と比べても高額な請求になりやすいため、相手側の保険会社が適正な金額を支払ってくれないケースは少なくありません。
また、高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級の認定が難しいケースも多く、適切な等級での認定を受けられないこともあります。
弁護士にご依頼いただければ、治療費の請求から後遺障害申請手続き、示談交渉まですべて代わりに進めてもらえます。
慰謝料や示談金の適正な相場金額がいくらか、保険会社からの提示額から増額できそうか、だけでもご確認いただけます。
無料相談やセカンドオピニオンだけの利用でも構いませんので、ぜひご相談ください。
弁護士費用特約|費用負担なく依頼する方法
弁護士費用の負担をご不安に思ってなかなかご相談できない方も多いと思います。
しかし、弁護士費用特約を利用すれば、費用負担をせずに弁護士への相談・依頼ができます。
弁護士費用特約とは?
弁護士費用特約とは、弁護士に支払う相談料や費用について、保険会社が代わりに負担してくれるという特約です。
負担額には上限が設定されていますが、多くのケースで生じる相談料や費用は上限の範囲内に収まるため、金銭的な負担なく弁護士への相談や依頼が可能となります。

特約がなくても、遷延性意識障害では特に弁護士費用を差し引いてもなお、弁護士を立てた方が多くの損害賠償金が得られることは多いです。
無料相談の段階で、依頼した際の弁護士費用についてもご確認いただけるので、示談金の見込みや負担費用も踏まえて正式に依頼するかどうかご検討いただけます。

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了