残業代が支払われない!請求方法と流れを解説!
所定の労働時間に終わらない業務量や仕事への責任感から、サービス残業が横行している職場で働いている方は多いのではないでしょうか。
残業代が支払われないことはおかしいと感じながらも、日々の業務をこなすことが精いっぱいな方もいるはずです。
会社が残業代を支払わないことは労働基準法違反であり、残業代を請求することは正当な権利です。
しかし、残業代を請求する際には、いくつかの手順を踏む必要があります。また、会社側と交渉がうまくいかない場合、労働基準監督署や裁判所への申し立てが必要になることもあります。
この記事では、残業代が支払われない場合の具体的な請求方法と流れを、わかりやすく解説します。
目次
残業代が支払われない理由
残業代が支払われない理由
残業代が支払われない理由には、以下のような理由があることが多いです。
残業代が支払われない理由
- 定時にタイムカードを打刻させる
- 自宅に持ち帰らせて残業させる
- みなし残業制度を悪用している
残業を黙認している会社の多くは、定時にタイムカードを打刻させたり、終わらない仕事は自宅に持ち帰らせて残業をさせたりすることがあります。
このような場合、打刻したタイムカードには残業をしている記録が残っていないため、当然のように残業が支払われないことになるのです。
また、みなし残業制度を悪用している会社もあります。
みなし残業制とは、給与に一定の残業代を含めて支払う制度で、あらかじめ固定の残業代の時間数と金額が決められています。
本来は固定の残業代に割り当てられた時間数を超えて残業すれば、超過分の賃金が支給されなければなりません。
しかし、会社から「給料に残業代は含まれている」と主張され、残業代が支払われないこともあります。
会社が残業代を支払わないことは労働基準法違反
会社が従業員に残業代を支払わないことは、労働基準法違反です。
時間外労働(残業代)や休日労働の割増賃金を支払わなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法119条1号)。
働かせてもらっているという気持ちもあるかもしれませんが、労働基準法で定められている以上、労働者が残業代を請求することは正当な権利です。
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残業代が支払われないときにすべきこと
残業をした証拠を収集する
残業代が支払われないときには、残業をした証拠を収集することが重要です。
実際の残業時間とタイムカード・勤怠管理システムの記録が合わない場合には、他の証拠から実際の残業時間を証明する必要があります。
収集すべき証拠には、以下のものが挙げられます。
集めておくべき証拠
- タイムカード・勤怠管理システムの記録
- 始業・終業の時間を記した手書きメモ、業務日誌など
- 業務上のメールの送信記録など
- パソコンのログイン・ログオフ時間の記録など
証拠を集める際には、できるだけ数か月単位の証拠を集めておくことがポイントです。
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・残業代請求で必要となる証拠を徹底解説!証拠がない場合の対処法は?
支払われるべき残業代を計算する
残業代が支払われないときには、未払い残業代の額を正しく計算しておくと、スムーズに残業代請求に移ることができます。
残業代を計算するときには、証拠のあるなしもメモをしておくと、会社への請求や弁護士への相談をおこなうときに便利です。
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残業代請求の方法と手順
(1)会社に直接請求する
残業代が支払われないときは、会社に直接請求することができます。
会社が残業時間を正確に把握していないことが残業代が支払われない原因となっている可能性もあります。
時間とコストの面からも、まずは直接交渉から始めるのが最適だと言えます。
会社に直接請求する際の流れは以下の通りです。
会社に直接請求する場合の流れ
- 適切な証拠を準備する
- 会社に内容証明郵便で請求の通知書を送る
- 会社側と直接交渉する
交渉を経て示談に達すれば、ここで問題を収束させることができます。
ただし、自分一人で交渉しようとすると会社が交渉に応じてくれなかったり、不利な条件を突きつけられたりするおそれがあります。
できる限り交渉だけで解決させたいとお考えの場合は、交渉の段階から弁護士をつけるのが良いでしょう。
(2)労働基準監督署に申告する
残業代が支払われないことは、労働基準法違反です。会社が交渉に応じない場合は、労働基準監督署に申告することもできます。
労働基準監督署に申告する場合の流れ
- 適切な証拠を準備する
- 労働基準監督署に残業代未払いを訴える
- 労働基準監督署が調査
- 違反が認められれば、企業に支払い勧告が出される
労働基準監督署による介入は、会社に労働基準法などの労働法規を守らせることが目的です。
労働基準監督署の勧告はあくまでも行政指導であるため、法的拘束力はありません。申告したからといって必ずしも企業が支払いに応じるとは限らないので注意しましょう。
(3)労働審判を行う
直接の交渉や労働基準監督署に申告をしても残業代が支払われない場合は、法的措置を取ることも選択肢となります。
労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名から構成される、労働審判委員会という組織を利用する制度です。
原則として3回以内の審理で結論を出すことになっているため、2〜3か月程度で問題を解決できる可能性があることが大きなメリットです。
労働審判を行う場合は以下のように進みます。
労働審判をする場合の流れ
- 労働審判申立書や陳述書等の必要書類と、残業の証拠となりうるものを全て裁判所に提出
- 40日以内に最初の期日が開かれ、会社側と双方の主張や事実関係の確認を行う
- 3回目の期日までに調停が成立しなければ、審判官と審判員が評議を行い「審判」が下される
- 審判の内容に双方が合意すれば、労働審判は終了する
ただし、労働審判委員会の判断に異議があった場合には、訴訟となります。
(4)訴訟を行う
訴訟は、基本的に原告と被告が交互に主張を重ねていき、最終的な結論(判決)を裁判所が下す手続きです。
訴訟を行う場合の流れは以下の通りです。
訴訟を行う場合の流れ
- 会社の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所に訴状を提出
- 第1回期日は会社側が訴状に対する答弁書を提出
- 2回目以降の期日では双方が主張と証拠となる書類を一緒に提出し、具体的な答弁を行う
- 双方が全ての主張書面の提出を終えると弁論終結となり、その後判決が言い渡される
なお、労働者と相手(会社)が主張する回数には基本的に制限がないため、結論が出るまでに1年以上かかることもあります。
残業代が支払われないときに弁護士に相談するメリット
残業代が支払われないときは、弁護士に相談しましょう。弁護士への相談は、以下のようなメリットがあります。
残業代請求を弁護士に相談するメリット
- 残業代の金銭回収の可能性が上がる
- 残業の証拠が収集しやすい
- 残業代請求後のトラブルを防ぐことができる
残業代の金銭回収の可能性が上がる
弁護士は法律の専門家であり、法的な知識と経験があります。その知識をベースに法的根拠をもって会社と交渉するため、未払い残業代が回収できる確率を高めることができます。
また、弁護士に依頼することで従業員の本気度を伝え、「裁判を起こされるかもしれない」というプレッシャーを会社に与えられることもメリットと言えるでしょう。
また、実際に裁判が必要になった場合でも、法律の専門家である弁護士が側にいれば手続きを任せられるだけでなく、法律に基づいた主張で裁判を有利に進めることが可能です。
残業の証拠が収集しやすい
残業代を回収するためには、証拠が重要です。
証拠が手元にそろっておらず、回収を決意した段階では集めることが困難な状況もあり得ます。
従業員が会社に対してタイムカードやパソコンの記録を見せてくれと言っても、会社はすぐに応じてくれないかもしれません。
しかし、弁護士に相談し、依頼した弁護士から証拠の開示請求を行うと、会社側が証拠の提出に応じてくれる可能性が高まります。
残業代請求後のトラブルを防ぐことができる
未払い残業代の回収を会社に在籍したまま行うときに心配となるのが、会社から従業員への不利益な対応です。
会社によっては、未払い残業代の請求をしたことにより従業員を懲戒解雇するところもあります。
従業員が弁護士をつけていれば、そのような対応は当然弁護士から追及されるため会社もうかつな対応はできません。
弁護士に依頼することで、会社からの不利益な対応を抑止する効果が期待できます。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了