試用期間で解雇されたらどうする?急にクビになってしまった場合の対処法
「3か月の試用期間が終われば正式に採用する」といった「試用期間」は、多くの企業で設けられている制度です。
試用期間が設けられていても、一度採用されると、その会社で勤め続けることを考えるため、そんな状況でクビになってしまうとショックが非常に大きいでしょう。
今回の記事では、試用期間後の急な解雇に苦しむ方に向けて、有効・無効の判断基準となるポイントや解雇された場合の対処法を解説します。
目次
試用期間と解雇の法律的な関係は?|本採用拒否の意味
試用期間と聞くと「お試し期間」というイメージを持つ方が多いと思います。しかし、試用期間中や試用期間終了後に会社が労働者を自由に解雇できるわけではありません。
そもそも試用期間とは?
試用期間は法律で決められている制度ではなく、採用におけるミスマッチを防ぐために会社が独自に設けている制度です。
そのため、明確な法律上の定義はありませんが、概ね、「自社の従業員としての適格性を判断するための試験的な勤務期間」と捉えられています。
採用選考だけでは自社に合っているか判断し切れないため、実際に勤務させてみて、勤務態度・能力・技能・性格等を見極めるために設けられていることが多いです。
試用期間中の労働契約
試用期間付きの契約は法的には、「解約権留保付労働契約」と解されています。
試用期間の契約には主に2種類のパターンがあります。
- 労働契約自体は期間の定めのない通常の労働契約だが、その最初の数か月が試用期間とされているパターン
- 試用期間中は契約社員として有期契約が結ばれており、本採用後に改めて期間の定めのない労働契約が結ばれるパタ―ン
また、試用期間は労働者の立場を不安定にするものであるため、試用期間の長さは労働者の適格性を判断するのに必要な合理的範囲のものでなければなりません。
そのため、試用期間として設定できる期間は、長くても1年程度が限度と考えられています。試用期間の延長・更新は原則として認められません。
ただし、労働者と会社側の双方の合意があれば、延長されることもあります。
試用期間における本採用拒否は解雇であり理由が必要
試用期間は適格性を判断するための制度であるため、試用期間が終了する(法律的には「満了」と表現します)までに、本採用するかどうかが判断されます。
不適格だと判定されれば本採用が拒否され、雇用が終了することになります。
通常は試用期間満了時に雇用が終了しますが、中には、試用期間の満了を待たずに本採用拒否が行われるケースもあります。
本採用拒否という言葉が使われていますが、会社の判断のみによって雇用契約を終了させるわけですから、法律上は解雇にほかなりません。
したがって、本採用拒否が認められるかどうかは、解雇の有効性とほぼ同様の基準で判断されます。
使用者が労働者を解雇するためには、①客観的に合理的な理由と②社会通念上の相当性が必要となります(労働契約法16条)。
解雇の理由(客観的に合理的な理由)の典型例は、勤務態度に問題がある、労働者の能力不足、勤務成績の不良といった事情がある場合です。
しかし、そのような事情があるだけで解雇が有効と認められることはあまりなく、その状態を改善するために使用者がどのような対策を取ったかが問われます。
つまり、試用期間後に雇用を終了しても仕方ないというわけではなく、一度採用している以上、雇用を終了させるには一定の理由が求められるということです。
試用期間における本採用拒否と通常の解雇の違い
通常の解雇では上記の基準が厳しく運用されており、「解雇されてもやむを得ない場合」にのみ許されるというイメージです。
一方で試用期間における本採用拒否は、試用期間を設けている以上、解雇に比べれば緩やかに判断されます。
最高裁判決でも、通常の解雇に比べて「広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」と述べられています(『三菱樹脂事件』最判昭48.12.12)。
もっとも、使用者の身勝手な理由による本採用拒否が認められないことに変わりはありません。本採用拒否が認められなかった裁判例も一定数あるため、次で紹介していきます。
試用期間における解雇が認められなかった裁判例
試用期間における本採用拒否は法律的には解雇ですが、その有効性は通常の解雇よりも緩やかに認められるということでした。
しかし、本採用拒否(解雇)が認められなかった裁判例を見てみると、通常の解雇とあまり変わらない判断がされているものがあります。
そこで、本採用拒否に対処する参考に、それらをご紹介します。
能力不足を理由に解雇された事例
試用期間は従業員としての適格性を見極めるための期間であり、能力不足は本採用が拒否される理由の典型です。
これに関する裁判例として、一般常識及び社会人としての能力不足、業務遂行に必要な知識・経験や能力の不足などを理由に解雇された事件で、解雇が無効と判断されたものがあります(大阪地判令1.11.8)。
この事件では、使用者側が能力不足と判断した事情(掃除の仕方が不適切、遅刻時に遅延証明書を持参しなかったなど)は軽微なものに過ぎないとされています。
また、外部に提出する書面作成にミスがあったことも、その書面は他の従業員が確認すべき書面ともいえ、ミスの責任を解雇された従業員のみに負わせることは妥当ではないとされています。
さらに、業務について使用者からどのような指導がなされたかも不明であるとして、試用期間中の解雇を無効と判断しています。
試用期間中の協調性を欠いた行動を理由に解雇された事例
能力不足のほか、協調性の欠如も本採用拒否の理由となる場合があります。
たとえば、上長に対する報告・連絡・相談ができない、指示に従わずひとりよがりな行動を取るといったようなものです。
しかし、協調性の欠如といっても程度の問題はあり、1度報告を怠った・指示に従わなかったことで、即座に本採用拒否が認められるわけではありません。
自身が関係する顧客とのクレームを直接の上司に報告せず、その顧客に対し自身の判断で(指示を受けずに)回答したなどの理由で、試用期間満了をもって解雇された事件があります(東京地判平29.3.29)。
この事件では、これらの行為が協調性を欠いた独りよがりの行動と評価できず、雇用継続における重大な支障ともいえないとされています。
そして、その他の事情も考慮した結果、解雇は無効と判断されています。
試用期間中の解雇が有効か無効か判断するポイント
裁判例で見てきた通り、試用期間中であっても労働者の解雇には非常に高いハードルが設けられています。
試用期間中で解雇を通知されてしまった方のうち、自身の解雇が有効か無効か知りたい方は以下のポイントについて見てみるのが良いでしょう。
試用期間の解雇のポイント
- 著しく成績が不良か
- 労働者本人に改善の見込みがあるか
- 実際の業務に支障が出ていないか
- 会社側の評価の仕方が適正か
著しく成績が不良か
他人と比較して相対的に成績が悪いということではなく、客観的に就労させること自体がふさわしくないほどに、著しく成績が不良であるのかどうかがポイントになります。
労働者本人に改善の見込みがあるか
会社から指導や教育が行われているか、別部署への配置転換が行われたか、またそれらをしても改善の見込みがないのかがポイントとなります。
会社側が何度も指導や教育をしたにもかかわらず、理由なく繰り返される遅刻や欠勤は解雇が認められる可能性が高まります。
実際の業務に支障が出ていないか
実際の業務に支障が出ているかどうかがポイントとなります。
従業員の直接のミスで大型契約が打ち切りになったり、契約件数が0件にもかかわらず給与が高額で経営を圧迫してたりする場合などには解雇が認められる可能性があります。
会社側の評価の仕方が適正か
会社側の評価基準が客観的かつ合理的なものであるかどうかがポイントとなります。
ノルマ自体が具体的で正当なものなのか、上司の主観なくその労働者がフェアに評価されているかどうかが重要です。
評価が公正に行われている場合には、解雇が認められる可能性があります。
試用期間で解雇されたときの対処法|失業手当も含めて解説
このように、試用期間とはいえ本採用拒否(解雇)には一定のハードルがあります。
そのため、本採用拒否にあったとしても、冷静に状況の打開に向けて行動を起こすことが重要です。
最後に、試用期間で解雇されたときの対処法を解説します。
解雇されたら解雇理由証明書を請求する
試用期間で解雇された場合には、解雇が不当な解雇かどうかを確認するため、まずは解雇の理由を使用者に確認することが重要です。
その際、口頭で確認するのもいいですが、会社に対して解雇理由証明書を請求して書面形式で受け取ったほうが、正確かつ確実で、以後の行動にも有益です。
解雇理由証明書とは、解雇の理由について記された書面で、労働者が請求した時、使用者には交付することが義務づけられています(労働基準法22条2項)。
本採用拒否も法律的には解雇であるため、解雇理由証明書の請求が可能です。
関連記事
・解雇理由証明書を請求する方法は?請求するために知っておくべきことを解説
解雇が違法かどうか検討する
会社から解雇理由証明書が送られてきたら、解雇理由が違法かどうか検討しましょう。
なお、使用者から解雇理由証明書の交付を受けたとしても、詳細な理由が記載されているとは限りません。
たとえば、「就業規則の第○条に該当したため」といったように、就業規則の該当条文が書かれているだけということもあります。
不当な解雇について金銭の支払いを求める
解雇が違法・無効となれば、職場に復帰できますが、加えて、会社に対して慰謝料などの損害賠償を請求できます。
ただし、違法な解雇でも慰謝料の請求が認められない例も多く、慰謝料額についても明確な基準はありません。請求するのであれば、専門家に依頼することが最適でしょう。
まずは専門家に、解雇の有効性や損害賠償請求の可否について相談することをおすすめします。
試用期間における解雇で失業保険はもらえる?
試用期間における本採用拒否の場面では、失業保険が受けられないケースが多いです。
試用期間の多くは3か月〜6か月程度に設定されているため、失業保険を受けるための条件をクリアしていない可能性が高いからです。
失業保険は雇用保険上の制度です。失業保険を受給するためにはまず、雇用保険に加入していなければなりません。
雇用保険は、31日以上引き続き雇用されることが見込まれ、1週間に20時間以上働くのであれば必ず加入することとなっていおり、試用期間でも加入していることがほとんどです。
しかし、それだけでは失業保険は受けられず、解雇による会社都合退職であっても、「雇用保険に入っていた期間が6か月以上必要」とされています。
退職すると雇用保険から外れるため、少なくとも6か月は在職しておかなければならないということです。
このように、試用期間における本採用拒否の場面では、6か月未満しか在職していないケースも多く、期間の関係から失業保険が受けられない可能性が高いと言えます。
試用期間の解雇でお悩みの方は弁護士に相談
試用期間の解雇でお悩みの方は、弁護士に相談してください。
相談先としてはあらゆる労働問題を扱っている労働基準監督署も考えられますが、解雇事案に対する労働基準監督署の対応は限られています。
不当解雇は多くの場合、労働基準法違反ではなく、あくまで民事の案件だからです。
弁護士であれば、労働審判といった迅速な解決が見込める手続きを含め、職場復帰や損害賠償の請求といった解決手段を提示してくれるでしょう。
本採用拒否の場合、何よりも迅速に行動することが重要です。不当解雇の相談に対応する弁護士事務所を探してみてください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了