セクハラで慰謝料を請求したい!慰謝料の相場や用意すべき証拠を解説

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セクハラと慰謝料

セクハラは、いくら加害者側が「悪気はなかった」と言い張ったとしても、受けた側は精神的なショックを受けます。

辛い思いをしているのであれば、慰謝料の請求を検討してみてはいかがでしょうか。

セクハラにあって、精神的な苦痛を受けた場合、セクハラ行為者や、会社に対して慰謝料(損害賠償)請求が可能です。

この記事では、セクハラで慰謝料を請求するための基本的な知識と準備すべき証拠、慰謝料の相場を紹介します。

セクハラで慰謝料を請求するための基礎知識

慰謝料請求という言葉自体はメディアなどで耳にする機会が多く、聞き馴染みがあると思います。

しかし、実際に自分自身が慰謝料という形で損害賠償を請求すると考えると、心理的なハードルが高くなります。

セクハラで慰謝料を請求する第一歩を踏み出すために、まずは慰謝料請求についての基本的な知識を確認していきましょう。

セクハラに関する基本的な知識

セクハラは、正式にはセクシュアル・ハラスメントといい、「性的嫌がらせ」を意味します。

最も広い意味では、刑法上違法とされる不同意わいせつ罪といった行為から、民事上の不法行為に該当するとまでは認められないような単なる「マナー違反」まで含んだ、多岐にわたる概念とされています。

どういった行為がセクハラになるかの明確な判断基準はありませんが、セクハラには「対価型」と「環境型」の2種類があるとされています。

対価型のセクハラは、性的な事柄、言動等に対して拒絶するなど何らかの対応をしたことを原因として、解雇、降格などの客観的な不利益を受けることを指します。

環境型のセクハラは、性的な言動などによって働く環境が不快となり、就労に支障が出ることを意味します。

セクハラで「慰謝料」を請求するとは?

慰謝料とは、相手の不法行為によって受けた、精神的な苦痛を慰謝するための損害賠償を指します。

セクハラにあって、精神的な苦痛を受けた場合、セクハラ行為者や、会社に対して慰謝料の請求が可能です。

「会社にも慰謝料を請求できるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、会社は雇い主として使用者責任を負っています(民法715条)。

使用者責任は被用者が仕事に関して不法行為による損害を生じさせた場合に、雇主である会社も責任を負うという規定です。

そのため、職場におけるセクハラにより被害を受けた場合には、使用者責任により会社にも慰謝料を請求することができるでしょう。

また、セクハラを会社側が適切に対応しなかった場合、安全配慮義務違反・環境配慮義務違反として、会社に責任を問うことができます(債務不履行責任、民法415条)。

セクハラによる慰謝料は何によって決まる?

セクハラの慰謝料を決める要素としては、以下のようなものが挙げられます。

セクハラの慰謝料が決まる要素

  • セクハラ行為の態様
  • 回数や期間
  • セクハラ加害者の職務上の地位
  • セクハラ加害者が謝罪や改善の意思を有しているか
  • セクハラ被害者がどの程度の心身ダメージを受けたか

たとえば、セクハラをした加害者の地位が高く、被害者にとって拒むことが難しい状態でのセクハラであれば、慰謝料も高額になる傾向があります。

また、セクハラの期間が長期にわたっている、精神的な苦痛が大きいために精神科・心療内科で治療を受けているような場合も、慰謝料は高くなる可能性が高いです。

また、セクハラによって退職している場合は、精神的な苦痛に対する慰謝料だけではなく、逸失利益(労働者がセクハラで退職せず、本来会社で働いていれば得られた利益)として、加算されることがあります。

セクハラで慰謝料を請求するための準備

セクハラで慰謝料を請求するには、証拠等の準備が必要です。証拠には、セクハラ行為を裏付ける客観的なものや当事者の地位等がわかるもの、診断書や治療費等の請求書などが挙げられます。

具体的に何を準備しておくべきか、確認していきましょう。

セクハラ行為を示す証拠となるもの

セクハラで慰謝料を請求するには、何よりもセクハラ行為を裏付ける、客観的証拠が必要です。証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

セクハラの証拠となるもの

  • メールやLINEのやりとり
  • 録音データ
  • 日記やSNSへの記録

メールやLINEのやりとり

「相手の気分を害さないよう返答してしまっているので、証拠にならないのでは?」という場合でも、セクハラを受けた側の立場や心境も含めたうえで、セクハラ行為かどうかの検討が可能です。

メールやLINEのやり取りは、文面で残るため、証拠として収集しやすいです。セクハラと考えられるメッセージがあった場合には、証拠として保存しておきましょう。

録音データ

録音データは、セクハラ行為者の具体的な発言や口調が分かるため、非常に有効な証拠となりえます。

なお、秘密録音であっても、著しく反社会的な手段によるものではない限り、証拠としての効力は否定されません。

日記やSNSへの記録

セクハラの被害者が、セクハラ行為を日々記録したものであれば、セクハラ行為の証拠となりえます。

もっとも、録音データほどの客観性はないため、裁判においてはその信用性を争うことが多くあります。

セクハラの被害者・加害者両者の供述の信用性の比較をして、セクハラ行為があったかの判断がされます。

被害者による日記やSNSなどに記録した内容を支持し、セクハラ行為を認めた裁判もあります。矛盾がなく具体的かつ詳細な記録であれば信用性は高いでしょう。

セクハラ当事者の地位等がわかるもの

職場における契約形態や雇用形態が大きく違う人同士の間で、力関係を背景になされたセクハラの場合、慰謝料が高くなる可能性が高いです。

証拠として以下のようなものを用意しておくと良いでしょう。

セクハラ当事者の地位等がわかるもの

  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 組織図

上記の書類があることで、どういった地位・立場の人間がセクハラをしたかが分かりやすくなります。

また、セクハラによって休職・退職に至った場合は、慰謝料だけではなく、不就労期間中の賃金や、逸失利益を請求できる可能性もあるので、参考資料として手元に保管しておきましょう。

診断書や治療費等の請求書

セクハラによってうつ病などの精神疾患にかかった場合、診断書や治療費等の請求書があると、慰謝料請求における根拠となる可能性があります。

慰謝料に加えて、治療費等の実費も請求できるかもしれません。

なお、現在もセクハラ行為を受けている方がいれば、セクハラ行為があった時から、できるだけ早いタイミングで受診をし、診断書を取得しておきましょう

セクハラ行為から1年4か月後に診断書が作成されたことから、精神疾患とセクハラ行為の因果関係が否定された裁判例もあります。

証拠がない場合は弁護士に相談!

セクハラの慰謝料を請求するときに収集すべき証拠をご紹介しましたが、証拠が手元に一切ないことも考えられます。

証拠がない場合には、弁護士に相談してから証拠を収集するのも一つの選択肢です。

弁護士に相談すれば、個別具体的に実際にどういった証拠が役立つのか、どんな証拠を収集すべきなのかアドバイスをもらうことができるでしょう。

また、弁護士に相談することで、そもそも自分が受けている行為がセクハラに該当するのか、過去の判例などから慰謝料がいくら受け取れる可能性があるのかなどを知ることができます。

弁護士に相談した際には、セクハラの期間や態様などを聞かれることになるので、事前にある程度情報を整理してからいくと、より適切な回答をうけられるでしょう。

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セクハラの慰謝料の相場は?

セクハラの慰謝料の相場は、一般的に数十万円~百万円程度です。ただし、セクハラ行為が軽微と言えない場合の慰謝料の相場は、100万円を超えることもあります。

セクハラで慰謝料が認められた例

10万円】大阪地方裁判所(平成10年10月30日)
・出張先のホテルで女性部下をベッドに誘った。

30万円】高松地方裁判所(令和元年5月10日)
・手や腰に触れたり、スカートの裾を持ち上げた。
・わいせつな画像を見せたり、卑猥な言動を行った。

60万円】東京地方裁判所(平成29年9月22日)
・口論の際、女性の胸を触った。
・後日、女性に対し「胸を触ったことをばらしたのか」と問いただした。

120万円】東京地方裁判所(平成30年1月16日)
・6年以上の長期にわたり、卑猥な発言やお尻を触るなどの行為を繰り返し行っていた。
・財布やスマートフォンに勝手に触った。

セクハラで慰謝料請求が認められた裁判の具体例

参考までに、セクハラで慰謝料請求が認められた裁判について、具体的にみていきましょう。

セクハラの慰謝料60万円が認められた事案(東京地裁平成26.2.28)

会社の役員であるBから度重なるセクハラを受けたAが、不安障害を発症したとして、Bに対し損害賠償を請求した事案です。

この裁判では、Aが作成していた備忘録が主な証拠となっています。

この備忘録の信用性につき、備忘録の記載がBの自白や客観的事実と整合すること、セクハラに関する記載が具体的で迫真性に富んだ内容であること等を理由に、信用できるとしました。

一方で、この備忘録に記載のない言動については、セクハラ行為として認定していません。

Bのしたセクハラ行為に対し、Aは明確な拒否をしていませんでしたが、会社内でAに対して優越的な地位を有するBが行ったものであったこと、そして、Aの真意に基づく承諾なしに身体に触れるといった性的羞恥心を害する言動であったことが明らかなもので、不法行為を構成するとしています。

Aの人権を侵害し、精神的苦痛を被らせるという点から、慰謝料請求が認められましたが、以下のような理由から、Aが請求した額から減額されています。

  • セクハラ行為があった期間は約2か月にとどまり、頻繁に行われたものとまではいい難く、身体への接触は数回であった
  • Aについて作成された診断書には、Aが不安障害を発症した原因や具体的な所見が記載されていなかった

今回のセクハラ行為が必ずしも長期間、頻回に及ぶものではなかったこと等に照らすと、診断書の記載をもって、Bによるセクハラ行為が、Aの不安障害の発症原因であることを推認することはできないと判断され、慰謝料が減額され、最終的に60万円となりました。

なお、この裁判では、慰謝料60万円に加え、6万円の弁護士費用を合わせた66万円の支払いを命じています。

セクハラの慰謝料300万円が認められた事案(京都地裁平成19.4.26)

会社の代表取締役であるBからセクハラ行為を受けたAが、退職を余儀なくされたとして、Bと会社に対して損害賠償を請求した事案です。

ちなみにこの裁判では、録音した音声データが証拠として認められています。

Bは、「音声データは改ざんしたものである」と主張しましたが、裁判所は、声紋鑑定等を通し、改ざんはなくB本人の音声であると最終的に判断しています。

慰謝料の額については、以下の点を含めた一切の事情から、300万円が相当であると判断されています。

  • Aは、就職活動に苦労した経験から、正社員として働き続けたいという気持ちで、仕事で認められるように努力し、入社直後からセクハラ行為に耐え続けてきたが、結局Bの性交渉の要求に応じなかったことを理由として退職に追い込まれた
  • Bは「セックス要員として雇った」、「セックスができなければ他の仕事をいくら頑張っても認めない」、「セックスができないならば退職しろ」等と言って、職務として性交渉を要求しており、Aの人格を全面的に否定するものであった
  • Aが就職した直後から退職まで1年2か月にわたって継続的に行われていた
  • Aが性交渉を拒否したことを理由として、Aに退職を強要した

なお、セクハラの慰謝料として認められた額は300万円ですが、Aはセクハラが原因で退職に至っているため、逸失利益として273万円、そして弁護士費用57万円を合わせて、Bと会社に対し630万円の支払いを命じています。

まとめ

セクハラで受けた精神的苦痛は、慰謝料を請求することが一つの解決策になります。

セクハラの慰謝料請求が認められた裁判をご紹介しましたが、労働審判や訴訟など、さまざまなやり方があるので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談する一番のメリットは、労働審判や訴訟などの法的手続きを視野に入れた回答がもらえる点です。

ご自身の置かれている状況を踏まえて、今後どうすればいいのかアドバイスをもらうことができるでしょう。

無料の相談を受け付けている弁護士事務所や、女性弁護士が相談に乗ってくれる事務所もあるので、抱え込まずに相談してみてはいかがでしょうか。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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