【労働者側】退職勧奨は違法?判例と対処法を弁護士が解説
「会社から退職したほうがいいと言われた」
「一度断ったが執拗に退職歓奨されている」
今回の記事では、退職歓奨の違法性と判例、退職勧奨を受けた場合の対処法を解説します。
退職勧奨自体は違法行為とは言えませんが、執拗な退職勧奨は違法となる可能性があります。違法な退職勧奨かどうか判断するポイントは、行われた退職勧奨の回数や期間、会社側の言動などです。
退職勧奨でお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
退職勧奨は違法となる可能性もある
退職勧奨が違法となる場合は?
退職勧奨が違法となる場合は、程度にもよりますが、労働者が退職歓奨を断っているにもかかわらず執拗に退職を迫ったときです。
また、暴言や脅迫・強要などによって、従業員の自由な意思を阻害した場合も違法となる可能性が高いです。
退職歓奨に関する事項は、労働基準法をはじめとした労働法には記載されてません。しかし、判例上の見解によると、下記の点を考慮して違法な退職歓奨かどうか判断されています。
- 本人が対象歓奨を拒否しても退職歓奨を続けているか
- 面談の回数、時間
- 退職歓奨の期間
- 会社側の言動(脅迫や侮辱があったかなど)
違法な退職勧奨の例
以下のような退職勧奨は違法と判断されています。
- 約2か月半の間に11回出頭させ、最大2時間15分の執拗な退職勧奨を行う(最一小判 昭55.7.10)
- 具体的な仕事を与えず、侮辱的な発言をするなど繰り返しの嫌がらせを行う(東京地判平14.7.9)
- 「きみは発達障害なんですよ」など虚偽の病名を告げて退職を迫る(甲府地判令2.2.25)
面談回数が多すぎたり、面談の際に罵声を浴びせられたりする場合などは、違法な退職勧奨であることを視野に入れて対処法を考えることが重要です。
会社はなぜ退職勧奨を行うのか
そもそも会社から退職勧奨をされることに疑問を抱いている方も多いかもしれません。
会社が退職勧奨を行う理由は、解雇のハードルが高いこと、一方的な解雇となると会社と従業員の間で労働紛争に発展するリスクがあることが挙げられます。
解雇は、労働契約法16条で客観的に合理的な理由がないと違法と定められており、会社は労働者を自由に解雇できないことになっています。
そこで、解雇の手段が取れない会社側は、退職勧奨というかたちで従業員を説得し、合意の下で退職をしてもらうという方法が良く採られるのです。
従業員の能力不足や勤務態度が悪い場合、従業員が病気で療養しているような場合などは退職勧奨が用いられる典型的な場面と言えるでしょう。
最初は自主的な退職を促していても、従業員が退職を拒否する場合には徐々にエスカレートしていき、結果的には違法な退職勧奨を行ってくる場合もあります。
退職歓奨されたら辞めなければならない?
退職歓奨をされたからといって、辞めなければいけないということはありません。
従業員は、自由な意思で退職するか会社に残るかを選べます。退職勧奨は、あくまで自主的な退職を促すものであるため、会社に勤め続けたい意思がある場合には、はっきりと拒否することが大切です。
しかし、退職歓奨を一度断っても、しつこく退職を迫ってくる会社があることも事実です。
退職を検討した場合でも、退職条件や退職を促されている理由を確認し、一度弁護士などの専門家の意見を聞くべきと言えるでしょう。
退職勧奨が違法と判断された判例
では、実際に退職歓奨(退職強要)が違法と判断された判例を具体的に見ていきましょう。
下関商業高校事件(最高裁昭55.7.10)
下関商業高校事件は、昭和40年度末から何年にも及んで、退職歓奨を拒否している高校教諭2名に対して学校長や教育委員会の職員が歓奨をし続けたという事件です。
昭和44年度末には、退職歓奨に応じない旨を示しているのにもかかわらず、3〜4か月の間に計10回以上職務命令として教育委員会への出頭を命じられて、複数人の職員から20分から120分にわたり退職歓奨されました。
また、教育委員会の職員から「優遇措置もないまま退職するまで歓奨を続ける」「歓奨に応じない限り所属組合の要求にも応じない」などと述べられたりしてさまざまな心理的圧力を加えられました。
この件に関し最高裁は、異例の数年にわたり歓奨を続けたり、短期間に10回以上の退職歓奨や自発的な意思形成を阻害するような心理的な圧力を加えることは違法な退職歓奨(退職強要)だと判断しました。
日本航空事件(東京高裁平24.11.29)
日本航空事件は、退職歓奨を拒否した従業員に対して上司が長時間の面談を行い「いつまでしがみつくつもりなのかな」「やめていただくのが筋です」「この仕事にはもう無理です。記憶障害であるとか若年性認知症みたいな」などの表現を用いて退職歓奨をした事件です。
従業員の自由意思を阻害するような表現や侮辱的な表現に加えて、長時間にわたり行われたこのような退職歓奨は違法な退職歓奨であると判断されました。
不当な退職歓奨をされた場合の対処法
退職歓奨を拒否しても、何度もしつこく退職勧奨をされた場合にはどのように対処すれば良いのでしょうか。
違法な退職歓奨の証拠を集める
何度もしつこく退職歓奨をされていたり、脅迫や侮辱ともとれる表現を用いての退職歓奨をされたら、その証拠を記録しておきましょう。
違法な退職歓奨の証拠として、ボイスレコーダーや退職勧奨において渡された書面、メールのやり取りの記録などが挙げられます。
とくに脅迫や侮辱された音声を録音できれば、客観的な証拠として裁判に発展した時にも有利に働く可能性が高いです。
併せて、退職歓奨を受けた際の状況をメモしておくと良いでしょう。
具体的には以下の点を明確に記録しておきましょう。
- 日時
- 場所(具体的な部屋や広さ)
- 誰がいたか(1人か複数人か)
- 会話の内容(脅迫や侮辱があったか)
- 時間(何時間かかったなど具体的に)
期間や頻度、拘束時間や会社側の人数も違法性に影響しますので、後から分かるようにしておくいいでしょう。
労働局にあっせんしてもらう
違法な退職勧奨をやめさせる為に、労働局のあっせん手続きを利用することも可能です。
あっせんとは、会社と従業員との間に労働条件に関してのトラブルが生じた場合に、労働局が仲介して話し合いによる解決を目指す手続きです。
ただし、会社はあっせんに応じる義務はないので、無視されてしまう可能性も十分にあります。
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労働組合に相談する
違法な退職歓奨を受けた場合、労働組合に相談することもできますので、社内に労働組合がある場合は相談してみることも有効的です。
また、社内に労働組合がなかったり、あっても実質機能していない場合は、社外の労働組合に相談することもできます。
労働組合から団体交渉を申し入れられたら、会社は正当な理由のない限りは交渉を拒否できませんし、不誠実に応じることも不当労働行為として禁止されています(労働組合第7条2号)
また、裁判と違い厳格な手続きを必要としないことから、迅速かつ柔軟な解決を目指せます。
ただし、団体交渉をするには組合に加入する必要がありますので、組合費の有無はしっかり確認しておきましょう。
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弁護士に相談する
弁護士に相談をすれば、ご自身が受けた退職勧奨の違法性を具体的に判断してもらうことができます。
相談後に依頼すれば、本人の代理人として会社との交渉や、労働審判・訴訟などの法的な手続きを任せることも可能です。
また、退職勧奨が違法になった場合、退職勧奨を受けたことによる慰謝料を請求できます。
弁護士であれば、労働審判や訴訟で法的な根拠に基づいた適切な主張ができるので、より良い結果につながる可能性が高まります。
無料相談を行っている弁護士事務所もあるので、一度弁護士に相談してみましょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了