残業は1分単位での計算が原則!残業代の計算方法も解説
「残業は15分単位で計算するから、毎日15分未満は切り捨てる」といった規則を設けている会社があります。
たとえ数分の残業であったとしても、その分の賃金が支払われないのは納得いかないですよね。
法律上、残業は1分単位で計算することが原則であり、会社が独自に設けている規則は違法となる可能性が非常に高いです。
そこで、この記事では、残業代が切り捨てられることでお悩みの方に向けて、残業代を1分単位で計算しなければならない理由や残業代の計算方法について解説します。
目次
残業は1分単位で計算しなければならない理由
1分単位で残業を計算しなければ残業代の未払いが起こる
労働基準法24条1項には、使用者(会社)は労働者に賃金の全額を支払わなければならないと規定されています。
残業代も賃金の一部であるため、1分単位で支払わなければならないことになります。
たとえば、「1日の残業時間は15分単位で記録し、それ未満は切り捨てる」というルールでは、最大14分の残業代未払い可能性が生じます。
したがって、毎日の残業時間は1分でも切り捨てることはできません。日々の残業は1分単位で残業代計算に反映させなければならないということです。
会社には正確に残業を計算する義務がある
残業時間の計算がおろそかになると、長時間労働による健康被害や後にみる残業代の未払いなどの問題に発展する可能性が高くなります。
そこで、法律上、会社には「労働者1人1人の実労働時間の把握」が義務付けられています(労働安全衛生法66条の8の3)。
把握の方法も、「タイムカードによる記録・パソコンの使用時間の記録等の客観的な方法その他適切な方法」と定められています(労働安全衛生規則52条の7の3)。
実労働時間には、時間外労働(残業)も含まれるため、会社は従業員の残業時間を適正に把握しなければならないことになります。
残業を1分単位で計算しなければ違法となる可能性が高い
法律には実労働時間の把握が義務付けられてはいますが、厳密に言えば、1分単位で計算しなければならないとは書かれていません。
ただし、会社が1分単位で残業時間を計算しなければ、違法となる可能性が高いです。
定められた残業時間の上限を超えているか判断するためには、従業員の労働時間の正確な把握は必要不可欠だからです。
使用者が労働者を働かせられる時間数には上限が定められており、この上限を1分でも超えれば、会社に罰則が与えられます。労働時間の上限は以下の通りです。
労働時間の上限
- 単月の時間外労働・休日労働時間数100時間未満
- 2〜6か月のいずれの時間外労働・休日労働時間数も平均80時間以内
36協定の締結の有無、締結した36協定の内容などによっては、これよりも短い時間の上限が定められている場合もあります。
これら上限を超えて労働者を働かせた場合には、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が設けられています(労働基準法119条1号)。
また、月間80時間を超えた残業がある場合は、会社はその従業員に対して医師による面接指導を受けさせなければなりません(労働安全衛生法66条の8第1項など)。
このように定められた残業時間の上限を超えているか判断するためには、従業員の労働時間の正確な把握が欠かせません。
残業の種類と計算方法
残業を1分単位で計算することは法律上の要求です。
残業代の種類と、残業代の計算方法についてわかりやすく解説します。
法律上の残業は2種類ある
一般的に「残業」というと、定時以外の労働、つまり「始業時刻前や終業時刻後に働くことをイメージすると思います。
法律に基づき正確に説明すると、残業は大きく分けて、以下の2種類に分類できます。
2種類の残業
- 所定外労働
- 時間外労働
所定外労働とは、企業が定めた所定労働時間を超えた労働のことです。
所定労働時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間のことをいいます。
時間外労働とは、法定労働時間を超えた労働を指します。
法定労働時間とは、法律で定められた1日及び1週間に働かせることのできる時間の上限であり、1日8時間・1週40時間と決められています(労働基準法32条)。
つまり、1日8時間・1週40時間を超えて働いた場合、その超えた分が時間外労働に当たるというわけです。
残業代は日々の残業をベースに計算する
普段支払われている賃金は、所定労働時間通りに働いたことに対して支払われています。
そのため、所定労働時間を超えて働いた分には追加の賃金が支払われなければなりません。この追加の賃金のことを一般的に「残業代」と呼んでいます。
また、時間外労働には、割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。先程のように、時間外労働も残業ですから、割増賃金も残業代の中に含まれます。
したがって、残業代の中には、通常の賃金と同様に支払われる部分と、割増賃金として支払われる部分があるということです。
ただし、どちらも「追加で働いた時間(残業時間)に対して支払われる」ことは共通しています。
つまり、日々の残業時間をもとに残業代は計算されるということです。
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1日の残業を1分単位で計算しなければ残業代が正しく計算できない
所定外労働時間・時間外労働時間の計算は、「何時間働いたか(総労働時間)」を単純にカウントするだけでは行えません。
なぜなら、総労働時間のうち、「所定労働時間を超えて働いた部分」と「法定労働時間を超えて働いた部分」を区別して、特定しなければならないからです。
残業時間の計算は「日々何時から何時まで働いたか」の記録をベースに、その記録を、それぞれの所定労働時間や法定労働時間に当てはめて行われます。
具体的な事例を2つ挙げて、解説します。
始業が9時、終業が18時(休憩1時間)の場合
この例だと、所定労働時間は8時間ですが、19時まで働けば、法定労働時間である1日8時間を超えて1時間働いていることになるので、時間外労働が1時間ということになります。
時間外労働には、割増賃金が支払われます。
始業が9時、終業が17時(休憩1時間)の場合
この例だと、所定労働時間は7時間ですが、18時まで働いた場合、1時間の所定外労働となります。
しかし、1日8時間を超えないため、時間外労働とはなりません。割増賃金は支払われませんが、1時間分の賃金が支払われます。
上記の2つの事例のように、1か月に1回給料日がある一般的なパターンの場合、この毎日の残業時間を1か月分合計して残業代を計算します。
したがって、毎日の実労働時間の記録が1分単位で正確に記録されていなければ、残業代の計算も間違ったものとなるのです。
残業代は1分単位で請求できる?
【原則】1分単位で請求できる
残業代は、原則として、1分単位で請求することができます。
従業員は、残業代が支払われなかったり、一部が未払いになっていたりするケースでは、会社に未払いの残業代を請求できます。
なお、残業時間を切り捨てるのではなく、切り上げることはできます。5分の残業だったとしても、15分として扱うことは問題ありません。
【例外】残業代を1分単位で支払わなくていいケース
残業代は、原則1分単位で支払う必要がありますが、例外もあります。
日々の残業時間をまとめた1か月の残業時間については、「30分以上を1時間に切り上げ、30分未満を切り捨てる」という扱いが認められています。
これは、残業計算事務を簡略化するために、認められたものです。
あくまで1か月についてですので、1日の残業について同様の扱いはできません。1日分は1分単位で残業時間を計算する必要があります。
残業が1分単位で計算されていない場合の対処法
以上みてきたように、残業は1分単位で計算しなければ、さまざまな法律に違反する可能性があります。
ただ、実際にはそうなっていないことも多いため、最後に残業代の支払いに不備がある場合の対処法を解説します。
企業の人事担当に残業の扱いについて確認する
残業代が正確に計算されていないと思ったら、企業の人事担当に直接確認してみましょう。
残業の計算が実際にどのように行われているのか、日々勤務するだけではわかりにくい場合があります。
タイムカードなど勤怠を記録している資料を確認しても、毎日の出退勤時間がわかるだけで、残業時間が切り捨てられているかどうかといったことまではわかりません。
もっとも、給与明細には1か月分の残業時間が記載されていることが一般的なので、タイムカード等の記録をもとに自分で1か月分の残業時間を計算して照合することはできます。
それによりある程度残業の計算方法がわかるかもしれませんが、給与計算を行なっている部門に確認する方が手間もかからず正確です。
人事担当であれば基本的には知っていると思いますので、確認できる場合は尋ねてみましょう。
残業代が1分単位で支払われない方は弁護士に相談!
残業の細かな計算方法を尋ねることには、「印象が悪くなる」とためらうこともあると思います。
あるいは、「人事に相談しても難しいことを言われて丸め込まれてしまう」という不安もあるかもしれません。
社内で確認できないときには、弁護士への相談を検討しましょう。
法律の専門家である弁護士ならば、自分の残業代を正確に計算することができ、残業代の未払いがないか適切に判断してくれます。
また、残業代の未払いがあった際には、会社への請求を依頼することが可能です。
まずは弁護士事務所の無料相談などを利用して、会社との関係を含め、今後のアクションについてアドバイスをもらうことをおすすめします。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了