M&AのPMIとは?PMIの手順は?売り手が協力すべきことは?

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M&A PMIとは?手順は?
  • M&AのPMIとは?
  • M&AのPMIの手順は?
  • M&AのPMIは売り手側にも関係する?

PMIとは、M&Aによるシナジー効果を実現し、買い手側の企業価値を高めるための重要な手段です。

買い手企業は、経営戦略、販売・仕入の体制、労務、情報システム等を統合することで、当初思い描いていたシナジー効果の実現に奔走することになります。

そして、買い手が望み通りの統合効果を達成するために、PMIの場面で、売り手側に協力を求めてくる場面があります。

今回は、M&AのPMIの意義、手順などについて、売り手側の視点も踏まえて解説していきます。

現在、中小企業のM&Aをご検討中の経営者の方など、是非さいごまでご覧ください。

PMIとは?M&Aでの役割は?

PMIとは?

PMIとは、M&A成立後に、当初計画した価値を創造し、統合効果の最大化を図るために、組織統合マネジメントを推進するプロセスのことをいいます。

Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の頭文字をとって、PMIと呼んでいます。

PMIの重要性は?

当初期待していた統合効果が実現してはじめて、満足のいくM&Aとなるものでしょう。

M&Aの成立後、持続的に価値を創出するには、短期的および中長期的な計画にもとづく統合作業が重要です。

PMIをおこなうことで、M&Aによるシナジー効果を促進させることができます。

とはいえ、2023年版「中小企業白書」(第2部第2章 Ⅱ-180ページ)で引用されているデータでは、中小企業の大半がPMIを認知していないとの実情もあるようです。

PMIのタイミングは?

一般的には、PMIは、M&Aのクロージング前から始める必要があると言われています。

具体的には、買収監査(デューデリジェンス/DD)の直後から、PMIに向けた準備を始めることが想定されています。

会社売却の流れ(書類)

実際のところ、2023年版「中小企業白書」(第2部第2章 Ⅱ-181ページ)で引用されている㈱帝国データバンク「中小企業の事業承継・M&Aに関する調査」では、基本合意締結前からPMIを開始した場合、M&Aについての買い手企業の満足度は74.8%でした。

基本合意締結後からクロージング完了後にPMIを開始した場合の、M&Aの満足度は61.8%となっています。

なお、PMIを検討していない企業の場合、M&Aの満足度は48.8%と低い結果になっています。

初期段階において、M&Aによる統合の阻害要因を検証しておくことで、M&A後の経営統合を円滑に進めやすくなり、M&Aの満足度が上がるといえます。

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PMIの対象は?

M&AのPMIで統合をおこなう対象としては、おもに経営統合、業務統合、意識統合の3種類となります。

PMIの対象

  • 経営統合
    理念・戦略、マネジメントフレームの統合。
    ヒアリングと対話によりM&A成立後の経営の方向性を確立する。
  • 業務統合
    業務・インフラ、人材・組織・拠点の統合。
    買収監査やヒアリングによる現状把握と、改善をおこない、事業の円滑な引継ぎを目指す。
  • 意識統合
    企業風土や企業文化の統合。
    経営ビジョンや従業員間の相互理解、取引先との関係構築などが課題となる。

M&Aの買い手側企業は、売り手企業の従来の経営方針などに否定的な発言をすることは控えたほうがよいでしょう。

見直しをしたい点については、売り手側企業の理解や協力が得られるよう、率直かつ、継続的なコミュニケーションをとり、相互理解を深めることが大切です。

売り手側企業の経営陣などが経営統合のキーマンとして、買い手側企業に在籍することになる場合は、役職や在籍期間などについて明確に取り決めをおこなうことも必要でしょう。

PMIでM&Aの売り手側が協力すべきことは?

PMIは、M&Aの買い手側企業が、買収した会社や事業を統合するプロセスなので、主体となるのは買い手側企業です。

しかし、PMIが上手くいく確証がなければ、買い手側としてもM&Aの成約に踏み切ることはできません。

PMIを円滑に進めるためには、売り手側の協力が必要になる場面もあるでしょう。

PMIで売り手側が協力すること

  • キーマン条項の締結
  • 従業員への周知
  • 取引先の理解を得る
    etc.

①キーマン条項の締結

売り手企業のことを一番理解しているのは、売り手企業の経営陣です。そのため、売り手側企業の社長や役員などは、PMIを円滑におこなうためのキーマンとされる場合もあるでしょう。

具体的には、M&A成立後も一定期間、キーマンとなる売り手側の経営者や従業員が、経営統合のために、買い手企業で働かなければならないという条項を締結する場合があります。

②従業員への周知

M&Aに不安をかかえる社員が離職してしまうケースでは、人材確保ができないことでM&Aが中止になることもあります。

売り手側の経営者としては、そのような事態にならないよう、適切な時期に従業員へのフォローをおこなう必要があります。

③取引先の理解を得る

中小企業の場合、社長の信頼関係があって初めて取引関係が継続できるケースも多々あります。

そのため、M&Aによって社長が交代した場合や、親族への事業承継でさえ、取引関係が危ぶまれることがあるのです。

とくに、売り手側と取引先の間で、チェンジオブコントロール条項(COC条項)を締結している場合は、注意が必要です。

COC条項とは?

M&Aなどによって経営権の移動が生じた場合、契約内容に何らかの制限がかかったり、他方の当事者によって一方的に契約を解除することができたりする規定。

COC条項を締結している場合、取引先の承諾を得ないでM&Aを実行し、経営者が買い手企業に変わったときは、取引先から取引停止を言い渡される可能性があります。

その結果、買い手企業は、売り手企業の買収によって得られたはずのシナジー効果を手にすることができなくなる可能性が非常に高くなります。そのため最悪の場合、M&Aも中止になります。

売り手側としても、M&A対価の獲得や、事業承継問題の解決など、M&Aに期待するところは大きいものです。それらのメリットを享受できないのは、大きな痛手を負うものといえるでしょう。

売り手企業は、情報公開ができるようになったらすぐに、自社の取引先に連絡をいれ、M&Aを実施することについての理解を得る必要があります。

PMIの手順

①買収監査~M&A最終契約(Day1)

PMIの第一段階としては、M&Aの成約(Day1)までに、統合のビジョンを明らかにし、数値目標を達成するためのスケジュールを立てることなどが必要です。

第1段階

  • 利害関係者へM&Aを周知させる
  • 統合方針を決める
  • ランディング・プランを策定する
  • 100日プランなどの中長期目標を策定する
    etc.

それぞれの内容は、以下のようなものになります。

利害関係者へM&Aを周知させる

まずは、株主・取引先・従業員などに、M&Aのメリットを伝え不安を解消するというプロセスが必要です。

通常、Day1(最終契約締結の日)直後に、企業のルール等の変更があるので、事前にM&Aについて周知させておく必要があります。

統合方針を決める

次に、買収監査、売り手側企業の経営状況、業界動向、関係者への周知状況などを考慮して、売り手の自主性を維持するか、買い手側の組織に完全に取り込むかなど、統合方針を決める必要があります。

統合の類型には、連邦型統合、支配型統合、吸収型統合があります。

  • 連邦型統合
    売り手側企業の自主性を、できるだけ維持する方法。
    売り手側企業の業績が良い場合に適する方法。
  • 支配型統合
    売り手企業が経営不振の場合などに、買い手企業が経営に積極的に関与する方法。
    シナジー効果を追求しやすい反面、売り手側出身の従業員の反発を買い大量退職をつながるおそれがある。
  • 吸収型統合
    法人格を一体化し、売り手企業を買い手企業の組織に完全に吸収する方法。
    シナジー効果の早期実現が期待できる反面、統合作業による負担や混乱が生じるおそれもある。

ランディング・プランを策定

M&Aの全体的な計画表としての役割を担うのが、ランディング・プランです。

ランディング・プランの策定とは、統合方針を円滑に進めるために、統合チームを発足させ、クロージング後3ヶ月~6ヶ月以内の目標設定とスケジュールを立てることです。

売り手側出身の従業員も含めた信頼できるメンバーで、現状を分析し、課題を洗い出して、いつ、だれが、何を、どのように取り組みを行うのかといった具体的なアクションプランを策定することが必要です。

100日プランなど中長期目標を策定

100日プランは、ランディング・プランの中でも、特に緊急性の高い課題を解決するための計画をいいます。

100日プランの策定とは、Day100(M&Aの最終契約からの3ヶ月間)の数値目標と、そのための計画をたてることです。

ほかにも直近1年間、その後2~5年程度の中長期数値目標を立てる必要があります。

②最終契約からの3ヶ月(100日プラン)

PMIの第二段階は、100日プランの実行です。

PMIにおける100日プランとは、M&Aのクロージング後100日間で実行すべき中長期経営計画のことです。

第二段階

  • 100日プランの実行

100日プランの具体例については、以下のようなものがあげられます。

  • 業務担当者・引継ぎのタイミングを決める
  • 新経営体制・経理体制の整備
  • クイックヒット(即効性のある就労環境改善策の実行)で従業員の心をつかむ
    etc.

M&A成立後、3ヶ月間集中して、初期の統合作業を終えることで、短期的なシナジー実現につなげることが理想です。

複数のプランを同時並行して進めることになるため、PMO(Project Management Office)を設けて、進捗管理をすると良いでしょう。

③Day101以降~PMIの効果検証と改善

第三段階は、Day100以降の効果検証と改善です。

100日プランを実行し、Day101を迎えたら、計画したプランが実現しているか、進捗状況のモニタリング(成果の測定)をおこない、残された課題に取り組むことになります。

第三段階

  • Day100以降の効果検証と改善
    計画の進捗状況の把握と、効果の測定をおこない、残された課題に取り組む

この時点で、経営統合はおおよそ達成されていると思われますが、実態にあわせた微調整などが必要になるでしょう。

意図したシナジー効果が実現できていない場合は、さらなる対策を講じる必要があります。

また、継続的なコミュニケーションを通じ、従業員の意識統合の後押しを図ることも大切です。

M&Aの成約から数年間は、KPIを具体的に設定し進捗度合いを確認しながら、PDCAサイクルを回して、統合効果を達成できるよう根気よく取り組む必要があります。

M&Aを成功させる!PMIのポイント3選

①トップダウン型の基本方針

M&Aにより生まれ変わった新しい組織をまとめるには、経営トップのリーダーシップが非常に重要です。

M&Aの成功は、経営層の明確なビジョンと強いコミットメントによって大きく左右されます。統合後の姿やシナジー効果を具体的に示し、関係者全員が共有できるよう徹底しましょう。

統合プロセスにおいては、様々な課題や意思決定が求められます。経営層は、迅速かつ明確な意思決定を行い、プロジェクトを推進していく必要があります。

経営層は、統合の目的や進捗状況を定期的に従業員に伝え、不安や疑問を解消する必要があります。双方向のコミュニケーションを活性化し、一体感を醸成しましょう。

②統合準備室

関係各所との連携を図るために、統合準備室を設けることも必要でしょう。

統合準備室は、PMIの計画や実行の取りまとめをおこなうことになるので、取締役などの求心力のある人物が室長を務めるべきです。

統合準備室のその他のメンバーしては、M&Aに詳しい専門家、法務、財務、人事など各分野の専門家を集めたチームが望ましいといえます。そうすることで、それぞれの専門性を活かし、統合計画の策定、実行、課題解決などの推進が期待できます。

統合準備室は、各部門と密接に連携し、情報共有や意見交換を積極的に行う必要があります。部門間の協力体制を築くことで、スムーズな統合を実現できます。

また、必要に応じて、M&Aや経営統合に精通した外部アドバイザーの支援を得ることも有効です。専門的な知識や経験に基づいたアドバイスは、プロジェクトの成功確率を高めてくれます。

外部の相談先としては、民間のM&A仲介会社や、公的な機関である事業承継・引継ぎ支援センターなどがあげられるでしょう。

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③PMIのマスタープラン

PMIマスタープランは、統合スケジュール、人員配置、業務プロセス統合、ITシステム統合、課題の優先順位など、統合の全体像を具体的に示した計画書です。

PMIマスタープランは、M&Aの目的であるシナジー効果を最大化するために策定されるものです。

各施策の目標、スケジュール、責任者などを明確にし、実行状況を定期的に評価・改善していく必要があります。

当初の計画通りに進まない場合は、状況に応じて計画を修正し、柔軟に対応していくことも大切です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

M&AのPMIにおいては、買い手側は主導的に進めるものですが、売り手側も協力を求められることが多々あります。

買い手側が、経営統合が成功するイメージを持つことができれば、M&Aの成約に一歩近づくことができます。

売り手側としても、PMIについて可能な限り協力し、両社にとってwin-winなM&Aを目指しましょう。

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