交通事故の変形性膝関節症は後遺障害認定される?等級や保険金相場

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岡野武志弁護士

監修者:アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

変形性膝関節症は後遺障害認定される

交通事故による変形性膝関節症の後遺症で、膝関節の曲げにくさや痛みが残った場合には後遺障害認定される可能性があります。

また、変形性膝関節症の治療で、人工膝関節置換術を受けた場合も後遺障害に認定されます。

変形性膝関節症の後遺障害慰謝料相場は、110万円〜830万円です。

この記事では、変形性膝関節症の症状ごとの後遺障害等級や慰謝料相場を解説します。

さらに、交通事故で変形性膝関節症になったときの保険金(損害賠償金)や、よくある疑問へもお答えするのでぜひ最後までお読みください。

交通事故での変形性膝関節症の症状・治療方法

変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨がすり減り、大腿骨と脛骨の間のクッションがなくなることで痛みを感じる症状です。

具体的な症状や、なぜ交通事故で変形性関節症が発生することがあるのかなどを見ていきましょう。

交通事故での変形性膝関節症の症状と原因

膝の痛みの症状:痛みや腫れなど。原因により多様な症状を呈する。

変形性膝関節症(へんけいせい しつ かんせつしょう)の主な症状は、膝に痛みが生じることです。

膝関節の軟骨には、地面からの衝撃を緩和し、膝関節が滑らかに動くようにする働きがあります。

しかし、変形性膝関節症ではこの軟骨がすり減ってしまい、最終的には大腿骨と脛骨が直接ぶつかる状態になります。

その結果、立ち座りなどの動き・歩行時に膝関節に負担がかかり、炎症を起こし痛みが発生するのです。

日常生活では、以下のような症状が起こる可能性があります。

日常生活における変形性膝関節症の症状

  • 立ち上がる時に膝が痛む
  • 階段を昇降すると膝が痛む
  • 正座やしゃがみ姿勢ができない
  • 関節屈伸時にコツコツ音がする など

変形性膝関節症の原因

変形性膝関節症は、交通事故では膝蓋骨骨折が原因で発症することがあります。

膝蓋骨骨折で膝の機能が衰えると、膝に負担がかかりやすくなります。その結果、膝関節の軟骨がすり減ってしまい、徐々に大腿骨と脛骨の隙間が狭くなります。

すると、間接面に骨棘が形成されて変形性膝関節症の発生につながるのです。

ただし、変形性膝関節症はこのように段階を経て発症するため、交通事故から数年経って症状が出てくることがあります。

また、加齢による背骨や骨盤の歪みで発症することも多いため、交通事故で賠償請求するには、事故との因果関係の証明が重要です。

交通事故での変形性膝関節症の治療方法

現代の医療技術では、すり減った軟骨の完全な修復は難しいとされています。

そのため変形性膝関節症の治療は、軟骨の修復ではなく膝の機能を高めることを目的とした「保存療法」から始まります。

変形性膝関節症の保存療法

  • 薬物療法:塗り薬や内服薬、膝関節へのヒアルロン酸注射などで痛みを和らげる
  • 物理療法:慢性的な痛みが続く時は温め、急性で熱っぽく腫れている場合は冷却する
  • 運動療法:ストレッチや筋力トレーニングで、膝関節をサポートする筋肉を強化する
  • 装具療法:サポーターや足底板などを用いて膝関節の安定性を図る

これらの方法を組み合わせることで、痛みを和らげるだけでなく、膝を動かせる範囲を広げて生活の質を向上させることを目指します。

しかし、保存療法が効果を発揮しない場合や、症状が進行している場合は、手術療法が必要になることがあります。

変形性膝関節症の手術療法

  • 関節鏡視下郭清術(デブリードマン)
    膝関節内に小型のカメラ(関節鏡)を挿入し、劣化した軟骨や異物を切除する方法です。
    膝への負担が少なく、入院期間も数日程度と短いことが利点ですが、交通事故でひどく損傷したケースでは効果が見られなかったり、痛みが再発することが多いです。
  • 高位脛骨骨切り術
    脛骨(すねの骨)を切って構造を整え、プレートを使って骨を固定し、膝の軸を正しい方向に矯正します。
    症状の大幅な改善が期待できる一方で、回復まで時間がかかるため、長期の入院とリハビリが必要となります。
  • 人工膝関節置換術
    軟骨がほとんど残っておらず、症状が重度で歩行困難な場合に選択される手術です。人工膝関節を膝に挿入することで強い痛みが軽減され、日常生活の改善が見込めます。
    一方で、膝の曲げ伸ばしが制限され、日常生活への支障が生じる可能性があります。

交通事故での変形性膝関節症の後遺症

変形性膝関節症の後遺症は主に、膝の痛みや曲げづらさです。

初期の段階では自覚症状があまりなく、進行期になると日常生活に支障をきたすほどの症状に襲われるもので、完治は難しいともいわれています。

交通事故による変形性膝関節症で後遺症が残った場合は、後遺障害認定を受けて、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるようにしましょう。

変形性膝関節症の治療として人工膝関節置換術を受けた場合も後遺障害として認定されます。

変形性膝関節症は数年かけて症状が出ることもあり、発症した時点ですでに示談交渉が終わっている場合もあります。しかし、事故との因果関係を証明できれば賠償請求できる可能性は十分にあります。

ただし、加害者側は示談成立後の追加請求を認めようとしないこともあるので、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

変形性膝関節症の後遺障害等級と慰謝料相場

変形性膝関節症の後遺症としては、膝関節の可動域の制限、神経症状の残存が後遺障害等級に認定される可能性があります。

具体的な等級や認定基準を見ていきましょう。

膝の可動域が制限される後遺障害の場合

変形性膝関節症により膝関節の動く範囲が狭くなった(可動域が制限)場合は、「下肢の機能障害」として後遺障害8級7号、10級11号、12級7号に認定される可能性があります。

変形性膝関節症の可動域制限による後遺障害慰謝料の相場は、290万円〜830万円です。

等級認定基準と慰謝料額
8級7号足関節が強直(固まって動かなくなる)した
または、完全弛緩性麻痺や人工関節・人工骨頭を挿入置換してケガをしていない足と比べて10%以下しか動かない
後遺障害慰謝料:830万円
10級11号ケガをしていない足と比べて可動域が2分の1以下に制限されている
または人工関節・人工骨頭を挿入置換した
後遺障害慰謝料:550万円
12級7号ケガをしていない足と比べて可動域が4分の3以下に制限されている
後遺障害慰謝料:290万円

例えば、変形性膝関節症で人工膝関節置換術を受けて、人工関節・人工骨頭が挿入された際は、後遺障害10級11号に認定されます。

そのうえで可動域制限が残った場合には、後遺障害8級7号に認定されます。

神経症状で膝に痛みが残る後遺障害の場合

変形性膝関節症により膝に痛み(疼痛)が残る場合は、「神経症状」として後遺障害12級13号または14級9号に認定される可能性があります。

変形性膝関節症の神経症状による後遺障害慰謝料の相場は、110万円〜290万円です。

等級認定基準と慰謝料額
12級13号痛みが残っていることが医学的に証明できる
後遺障害慰謝料:290万円
14級9号痛みが残っていることが医学的に説明できる
後遺障害慰謝料:110万円

レントゲンやMRI、CTなどの画像検査(撮影)から、痛みがあることを立証できる場合は12級13号に認定される可能性があります。

画像検査から神経症状を立証できなくても、患部に刺激を与えたときの反応を見る「神経学的検査」などから、「神経症状による痛みがあると考えるのが妥当」と判断された場合は、14級9号になる可能性があります。

【重要】示談成立後に変形性膝関節症を発症しても、賠償請求できる?

交通事故の示談が成立した後に変形性膝関節症を発症しても、追加の損害賠償請求を行える可能性があります。

これは、変形性膝関節症が交通事故による「二次性疾患」として認められているためです。

交通事故によって膝関節を骨折・脱臼したり、膝の靱帯を損傷したりした方は、将来的に変形性膝関節症を発症する可能性があります。

交通事故による変形性膝関節症は、事故直後ではなく、かなり時間が経過してから発症することが特徴です。3~10年経ってから発症することも少なくありません。

将来的な変形性膝関節症の発症が疑われる場合は、示談書に以下のような内容を記載しておきましょう。

示談書に記載する内容

  • 将来、本件事故に起因する新たな後遺障害が発生した場合は、別途協議することの明記
  • 追加の損害賠償請求が可能であることの明記

また、示談後に人工関節置換術を受けた場合、新たに後遺障害等級が認定される可能性があります。すでに後遺障害認定されている場合は、以前の認定との差額分を請求できます。

交通事故による変形性膝関節症で請求できる保険金(損害賠償金)

交通事故による変形性膝関節症の損害賠償金は通常、加害者側の自賠責保険や任意保険(対人・対物賠償保険)からの保険金で支払われます。

すでに解説した後遺障害慰謝料もその1つですが、ほかにはどのような費目が請求できるのか見ていきましょう。

変形性膝関節症の入通院慰謝料相場

入通院慰謝料とは、交通事故による変形性膝関節症の治療で入院・通院した方であれば、だれでも事故相手に請求できる慰謝料です。

入院・通院を余儀なくされた精神的苦痛に対して支払われます。

入通院慰謝料の金額は、入院した月数と通院した月数に基づき、以下のように算定表で計算します。

重傷の慰謝料算定表
重傷の慰謝料算定表
軽症・むちうちの慰謝料算定表
軽症・むちうちの慰謝料算定表

変形性膝関節症の症状により、2つの算定表を使い分けます。

基本的には、入院期間がある方が慰謝料額は高くなります。

なお、通院の仕方や頻度によって、慰謝料が相場よりも減額されてしまうことがあります。

詳しくは『交通事故の慰謝料が減額されそう…減額される状況とポイントを紹介』をお読みください。

変形性膝関節症で請求できる保険金(損害賠償金)一覧

交通事故で変形性膝関節症になった場合、慰謝料以外にも以下のような費目を請求できます。

変形性膝関節症で請求できる費目

  • 治療費:病院の診察費用・投薬代・手術代・入院費用など
  • 休業損害:治療期間中に仕事を休んだことで生じる減収分への補償
  • その他:治療のための交通費、付添費用など
  • 逸失利益:後遺障害により減収するであろう将来の収入への補償
  • 物的損害:自動車や自転車の修理代、レンタカー費用など
交通事故示談金の内訳

相手方の任意保険会社から送られてくる示談書には、損害賠償金の内訳として各費目の金額が記載されています。

示談書が手元に届いたら、費目の漏れがないか、金額は適正なものかどうか確認しましょう。

もしご自身での確認に不安がある場合は、弁護士への無料相談でチェックしてもらうのがおすすめです。

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【注意】提示される慰謝料は低額な場合が多い

上記で解説した後遺障害慰謝料の相場は、「弁護士基準」という過去の裁判例をもとにした金額です。

しかし、相手方の任意保険会社は「任意保険基準」という自社で独自に定めた、損害に対する適切な補償金額に満たない慰謝料額を提示してくることが多いのです。

慰謝料金額相場の3基準比較

損害に対する適切な補償である「弁護士基準」で請求するためには、弁護士依頼が必須といっても過言ではありません。

任意保険会社も営利企業なので、慰謝料支払いによる出費をなるべく抑えようとします。
そのため、被害者自身で「弁護士基準の金額に増額してほしい」と示談交渉しても、応じてくれる可能性は非常に低いです。

ただし弁護士を立てて、増額に応じない場合は裁判も検討しているという姿勢を見せることで、任意保険会社は「裁判にかけるコストを考えたら、弁護士基準で支払った方がまだ良い」と考え、増額に応じてくれる可能性が高まるのです。

交通事故による変形性膝関節症で気になるポイント

変形性膝関節症の治療から後遺障害認定までの流れは?

変形性膝関節症が後遺障害認定される流れは以下のとおりです。

後遺障害等級認定の手続きの流れ
  1. 治療を続けても症状の改善が見込めない状態となった時点で、医師により「症状固定」と判断されます。
  2. 症状固定後、担当医に後遺障害診断書を作成してもらいます。
  3. 作成された後遺障害診断書とともに、必要書類を添えて保険会社に認定申請を行います。申請方法には、事前認定と被害者請求の2種類があります。
  4. 提出された書類をもとに、保険会社による後遺障害等級の認定が行われます。審査から結果通知まで通常1~3ヶ月程度かかります。

なお、後遺障害はただ後遺症があることをアピールするだけでは認定されません。交通事故と後遺症の因果関係を証明することが肝心です。

後遺障害認定に不安がある方は、まず一度弁護士に相談してみましょう。

アトム法律事務所の無料相談では、後遺障害認定される確率はどのくらいあるのか、どんな書類が有効なのかなど、弁護士が直接ご回答させていただいています。

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変形性膝関節症は自力で治せる?

交通事故による変形性膝関節症は、必ず医師による適切な診察と治療を受ける必要があります。

加齢が原因の変形性膝関節症とは異なり、事故による強い衝撃で関節に大きなダメージが生じている可能性が高いからです。

また、損害賠償請求の観点からも、医師による診察は重要です。損害に対する適切な補償を受けるためには、以下が必要となります。

  • 事故直後からの医師による診断
  • 定期的な通院記録
  • 正確な診断書の発行

変形性膝関節症は手術しないで治せる?

交通事故による変形性膝関節症の治療法は、症状の程度や損傷状態によって異なります。

多くの場合、まずは保存療法(手術を行わない治療)が検討されますが、症状が重度な場合や保存療法での改善が見られない場合には、手術が必要となることがあります。

もし手術を受けた場合は、手術にかかる費用を事故相手に請求できます。

後遺障害認定と障害者手帳の違いは?

後遺障害認定は交通事故の損害賠償に関する制度であるのに対し、障害者手帳は福祉サービスを受けるための制度となります。

それぞれの概要は以下の表のとおりです。

項目後遺障害認定障害者手帳
目的交通事故による損害の補償福祉サービスの提供
原因交通事故に限定原因は問わない(事故、病気など)
等級1級~14級1級~7級
認定による効果後遺障害慰謝料と逸失利益福祉サービスの利用、税制優遇など

また、後遺障害等級が認定されたからといって必ずしも障害者手帳が交付されるわけではないため注意してください。

交通事故による変形性膝関節症は弁護士に相談

交通事故で変形性膝関節症になった場合は、弁護士に相談しましょう。

変形性膝関節症で弁護士に相談するメリット

弁護士への相談には以下のようなメリットがあります。

変形性膝関節症で相談するメリット

  • 損害に対する適切な補償である「弁護士基準」の慰謝料が受け取りやすくなる
  • 後遺障害認定の申請手続きを、過去の経験をもとにサポート
  • 保険会社とのやり取りを一任でき、治療やリハビリに専念できる

特に後遺障害認定を考えている方は、治療中から認定にむけた準備が必要です。早期に弁護士と後遺障害認定の対策を立てることで、後遺障害認定される可能性を高めましょう。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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