未払賃金立替制度はいつもらえる?利用条件や手続きの流れを解説
「未払賃金立替払制度とは?」
「未払賃金立替払制度はいつもらえる?」
会社が倒産してしまった場合に、給料が支払われないことを心配する気持ちはよくわかります。
給料未払いを懸念される方に是非知っておいてほしいのが、未払賃金立替払制度です。
未払賃金立替払制度を利用すれば、会社が倒産してしまった場合に、受け取れるはずだった賃金の8割をもらうことができます。
未払賃金立替払制度の請求から振込みまでにかかる期間は、30日以内が目安です。書類の不備があると、その分振り込みが遅れてしまうこともあるので注意しましょう。
この記事では、未払賃金立替払制度について詳しく知りたい方に向け、未払賃金立替払制度とはどういうものか、利用のための要件について詳しく解説していきます。
目次
そもそも未払賃金立替払制度とは?
まず、未払賃金立替払制度の内容について解説します。
制度を利用するための手続きも、この内容を踏まえて設計されているため、確認してください。
未払賃金立替払制度とは?
未払賃金立替払制度とは、会社が倒産したことによって賃金が支払われないまま退職せざるを得なくなった労働者に対し、支払われていない賃金の一部を国が会社に代わって労働者に支払う制度です。
未払賃金立替払制度は、会社の倒産という非常事態に遭った労働者を保護するために設けられています。
そのため、立替払いという形で国が直接労働者に支払う仕組みとなっているのです。
未払賃金立替払制度の対象となる賃金の種類|退職金も対象
未払賃金立替払制度の対象となる賃金は、①定期賃金(毎月決まって支払われている賃金)②退職金の2種類とされています(賃金の支払の確保等に関する法律7条、賃金の支払の確保等に関する法律施行令4条2項)。
退職金は対象となりますが、ボーナスは対象外となります。他にも、結婚祝い金などの、臨時に支給される金銭も対象とはなりません。
未払賃金立替払制度でもらえる額は未払賃金総額の8割
上で述べた定期賃金・退職金に該当する賃金であっても、未払い分が全て支払われるわけではありません。
まず、未払賃金立替払制度でもらえる賃金は「退職日の6か月前から立替払の請求日の前日まで」に支払われるはずだった賃金に限られます。
また、実際に支払われる額は、未払い総額の80%とされています。ただし、未払い総額には退職時の年齢別に以下のように上限額が設定されています。
退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払上限額 |
---|---|---|
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳〜45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
なお、立替払の対象となる最低金額は2万円以上と決められています。
未払賃金総額の残りの2割は?
未払賃金総額の残りの2割については、会社に対する権利が失われるわけではありません。
そのため、破産手続きなどの際に請求することができます。配当額は、会社の資産状況によって異なります。
しかし、実際には、倒産してしまった会社の資産は不足していることが多いため、2割が支払われる可能性は低いと言えます。
未払賃金立替制度の受給の条件は?
①法律上、もしくは事実上会社が倒産したこと
未払賃金立替払制度を利用するためには、大前提として会社が「倒産」している必要があります。単なる給料未払いや、退職金未払いの状態では利用することができません。
会社の倒産には、「法律上の倒産」と「事実上の倒産」の2種類があります。
法律上の倒産
法律上の倒産は、以下の4パターンに分類されます。
法律上の倒産
- 破産手続の開始
- 特別清算の開始
- 民事再生手続の開始
- 会社更生手続の開始
これら4つは、いずれも法律に基づいて行われるものです。法律上の倒産は、裁判所が関与しつつ法律に定められた要件・手続きに応じて行われるものを指しています。
事実上の倒産
事実上の倒産は、中小企業に対し、「事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ賃金支払能力がない」と労働基準監督署長が認定することです。
中小企業の定義は下記の通りです。
業種 | 定義 |
---|---|
卸売業 | 資本金額1億円以下または常時雇用の従業員数100人以下 |
サービス業 | 資本金額5000万円以下または常時雇用の従業員数100人以下 |
小売業 | 資本金額5000万円以下または常時雇用の従業員数50人以下 |
上記以外の業種 | 資本金額3億円以下または常時雇用の従業員数300人以下 |
なお、「法律上の倒産」「事実上の倒産」どちらの場合でも、自分で労働者健康安全機構の窓口に請求書及び必要書類を提出する必要があります。
②会社に労働者として雇用されていたこと
未払賃金立替払制度を利用できるのは、倒産した会社に労働者として雇用されていた人に限られます。
労働者は「会社と雇用関係にあり、労働の対価として賃金の支払いを受けていた人」のことを指します。正社員だけでなく、パートやアルバイトも「労働者」に含まれます。
なお、業務委託や請負契約として働いていた場合は、原則利用できません。
ただし、契約の形式にかかわらず、労働の形態や報酬、関連する要素などを考慮して、実質的な労働従属関係があると判断されれば、利用できる場合もあります。
③退職日が倒産の日の6か月前から2年後の間であること
未払賃金立替払制度を利用するためには、退職日が倒産の日の6か月前から2年後の間でなければなりません。
倒産の日とは、具体的には以下のように定義されます。
倒産の日
- 法律上の倒産の場合:破産手続きが申し立てられた日
- 事実上の倒産の場合:労働者が労働基準監督署に認定申請した日
会社が倒産したからといって自動的に手続きがなされるわけではありません。退職後6か月以内に裁判所や労働基準監督署に認定申請を行う必要があります。
認定申請がない場合には、制度を利用できないので、倒産を知ったらできる限り早めに申請するようにしましょう。
倒産する前に退職していても未払賃金立替払制度が使える
未払賃金立替払制度は、倒産した会社に勤めていた労働者を対象とする制度です。
ただし、会社の経営が危うくなってきている場合、倒産前に転職などですでに退職してしまっていることがあります。
倒産前に退職した場合でも、退職日が倒産の日の6か月前であれば、未払賃金立替払制度を利用できます。
なお、退職はいわゆる「自己都合」「会社都合」のどちらでも構わないため、退職した理由が転職だとしても、未払金があれば利用できます。
このように、倒産と6か月以上離れたタイミングで退職していると対象とはなりませんが、そこまで離れていなければ倒産前に退職していても制度を利用することができます。
未払賃金立替払制度を受け取るための手続きは?
未払賃金立替払制度を受け取る手続き
- 未払い賃金額の計算
- 会社が倒産した「証明書」・「確認通知書」を受け取る
- 請求書への記入
- 立替賃金を受け取る
1.未払い賃金額の確認
まず、給料や退職金について、未払いとなっている賃金額について確認しましょう。
給料未払いは給料明細や銀行の口座、退職金はそもそも退職金が支払われるかどうかを就業規則、労働条件通知書などから確認しなければなりません。
請求の手続きを行う際に、労働基準監督署から賃金が未払いであることの証拠の提出を求められます。
スムーズに手続きを行うためにも、必要に応じて会社の労務担当者に聞くなどして証拠を収集しましょう。
関連記事
・給料未払いの証拠がない!対処法や請求をする際の手順を解説!
2.会社が倒産した「証明書」「認定通知書」の交付を受ける
申請は、会社の倒産の種類によって異なります。
法律上の倒産をした場合
法律上の倒産は、倒産の認定を法的に受けています。
裁判所などから、会社が倒産した「証明書」を交付してもらいましょう。
事実上の倒産をした場合
事実上の倒産の場合は、倒産の事実を確認してもらうために、労働基準監督署に「認定申請書」を提出する必要があります。
倒産が認められれば、「認定通知書」が交付されます。
参考:事実上の倒産認定申請
3.請求書への記入
「証明書」や「認定通知書」の交付を受けたら、立替払請求書に必要事項を記載します。
書面は、「未払賃金立替払制度 記入用」からダウンロードできます。
記入の方法は下記を参考にしてください。
参考:立替払請求書・退職所得申告書の記入のしかた|独立行政法人労働者健康安全機構
4.立替賃金を受け取る
申請した書面などによって、支払いが認められれば、立替賃金を受け取ることができます。
未払賃金立替払制度によって支払われるお金は、申請時に記入した自身の金融機関口座に振り込まれます。
請求から振込みまでは、30日程度が多いとされています。しかし、請求書や添付書類に不備があればその分遅れる可能性があります。
また、実際に振り込まれる前には「支払通知書」が送付される運用になっており、そこに立替払額や振込日等が記載されています。
未払賃金立替払制度を利用した場合の税金はどうなる?
未払賃金立替払制度で支払われた分の確定申告は必要?
未払賃金立替払制度で支払われた分の確定申告は必要です。
未払賃金立替払制度を利用して支払われるお金は、もともと賃金として支払われるものです。そのため、本来であれば所得税が源泉徴収されるはずです。
この所得税の仕組みは制度を利用しても基本的に変わらず、未払賃金立替払制度で得られる金額は原則「退職所得」として課税の対象となります。
もっとも、未払賃金立替払制度の申請書には、同時に退職所得の申告ができるよう、記載欄が設けられています。
その記載欄に必要事項を記入すれば、基本的には別途、確定申告を行う必要はありません。
実際には立替分が課税される可能性は低い
未払賃金立替払制度で支払われた定期賃金・退職金は、ともに税金上は「退職所得」として扱われるこため、退職所得控除という所得控除を受けることができます。
退職所得控除は、以下のルールで計算されます。
退職所得控除の計算
- 勤続年数20年以下の場合:40万円×勤続年数
- 勤続年数20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
未払賃金立替払制度では、支払われる額の上限が決められているため、実際には退職所得控除の枠内に収まることがほとんどです。課税されることは考えにくいでしょう。
ただし、他の退職所得がある場合などは扱いが変わるため、注意が必要です。
未払賃金立替払制度で不明な点があれば弁護士に相談
この記事では、未払賃金立替払制度について解説してきました。
「自分が制度の対象となるかわからない」「賃金が未払いで困っている」などの悩みを抱える方も多いと思います。
未払賃金の請求には時効もあり、速やかな行動が求められます。
会社の倒産、賃金未払いにお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。法律の専門家である弁護士であれば、取るべき最適な手段を提示してくれるでしょう。
弁護士への相談にあたって、費用相場や流れ、メリットなどを知りたい方は『給料の未払いは弁護士に相談!依頼するメリットと費用を徹底解説』の記事をご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了