上司をパワハラで訴える方法は?訴える際に必要な証拠を解説
会社のような大勢の人が集まる場所では、人間関係の悩みはつきものです。
しかし、暴力を受けていたり、適切な業務を与えてもらっていなかったりする場合には、パワーハラスメント(パワハラ)に該当する可能性があります。
パワハラでお悩みの方は、問題を解決するために上司を訴えたいとお考えの方もいるでしょう。
この記事では、上司をパワハラで訴える手順や方法を解説します。訴えるために必要な証拠の集め方や実際の訴訟の流れもご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
パワハラとは
まずは、パワハラとはどのような行為を指すのか確認しましょう。ご自身の受けている行為がパワハラに該当するか確認してみてください。
パワハラの定義
厚生労働省によると、職場におけるパワハラは、以下の①~③をすべて満たす場合と定義されています。
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
参考:「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」
「優越的な関係を背景とした言動」とあるように、一般的には上司から部下に対するパワハラが問題となります。
事業主は、パワハラ行為に適切な対応をするための必要な体制の整備といった措置を講じなければなりません(労働施策総合推進法30条の2)。
パワハラの6類型
パワハラと認定される行為は、大きく6つの類型に分けられます。
パワハラの6類型
- 身体的攻撃(殴る・蹴る・物を投げるなど)
- 精神的攻撃(侮辱・脅迫など)
- 人間関係からの切り離し(無視・隔離など)
- 過剰要求(能力に対し難易度が高すぎる業務を押し付ける)
- 過少要求(難易度が低すぎる仕事しか与えない)
- 個の侵害(プライベートに過剰に立ち入る)
パワハラは、身体・精神攻撃のこととイメージしてしまいますが、適正な仕事をさせないケースも含むことを覚えておきましょう。
また、被害を受けている期間が長い方がパワハラと認められやすいですが、1回の行為でもパワハラとなる可能性があります。
上司をパワハラで訴える方法・手順
上司や会社をパワハラで訴えるとしても、最初から裁判を起こすのは費用と労力がかかるのでおすすめできません。
裁判は最終手段として、以下のような手順で進めることをおすすめします。
①可能なら本人と直接交渉
パワハラをしている本人には、自身の行為がパワハラであるという自覚がないことが少なくありません。
そこで、自分が相手の行為を苦痛に感じていることを伝えましょう。
状況が変わらなければパワハラであることを指摘し、止めてくれなければ相応の機関に相談する意思を伝えます。
もっとも、相手の顔も見たくないほど嫌悪感がある、直接交渉をできる状態でないなどの事情があれば、最初から次の手順に入りましょう。
②会社に相談
会社内の相談相手としては、主に「社内の相談窓口」「人事部門」などが挙げられます。
相談する時には感情的にならず、事実を簡潔に分かりやすく説明するように努めましょう。そのために、あらかじめ話す内容をメモにまとめておくことをおすすめします。
手元にある証拠を提示しながら、冷静に説明しましょう。
③外部の機関に相談する
会社内での相談で改善に向かわなければ、外部の機関を利用しましょう。
労働基準監督署内にある「総合労働相談コーナー」への相談をおすすめします。
総合労働相談コーナーはハラスメントや解雇など、労働に関するあらゆる相談を予約不要で受け付けている窓口です。
解決方法の案内や専門機関の紹介を行っており、会社に対して助言や指導を行うこともあります。
関連記事
・パワハラの相談ができる無料窓口5選!相談前に準備すべき事も紹介
④弁護士に相談
以上の手段を試しても良い方向に向かわなければ、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すれば、受けているパワハラの状況が実際にパワハラに該当するのか、裁判に移行した場合には慰謝料を請求できるのかなど、法的なアドバイスをもらうことができるでしょう。
また、弁護士を依頼すれば代理人として会社・加害者と直接交渉してもらえます。交渉に応じなければ労働審判や裁判へ進むことになりますが、弁護士がついていればスムーズに手続きが進むでしょう。
弁護士に相談するメリット・デメリットについて詳しく知りたい方は、『パワハラを弁護士に相談するメリット・デメリット、費用を解説!』の記事をご覧ください。
パワハラの証拠集めはどうすればよい?
上司のパワハラを訴えるためには、証拠集めが重要です。証拠をもとにパワハラの事実を証明できれば、交渉や訴訟を有利に進められるでしょう。
ここでは、パワハラの証拠を収集する方法について解説します。
会話を録音する
暴言や侮辱を受けている会話を録音できれば、有効な証拠になります。
ポケットにスマートフォン・ICレコーダーなどを入れておくことで、会話を録音することができるでしょう。
また、会社へパワハラについて相談する時の会話も録音することをおすすめします。相談を受けた会社が適切に対応しなかった場合、それを証明できれば後の交渉が有利になるでしょう。
しかし、録音がバレたらどうしようという恐怖心がある方もいると思います。
その場合には、以下で紹介する証拠を収集する、もしくは小型の録音機器を使用するといった対策を取るといいでしょう。
メールの文章を残す
社内メールは、パワハラの事実を示す有力な証拠になりやすいので、必ず残しておきましょう。証拠の収集も比較的容易です。
メールのやり取りを私物のパソコンへの転送したり、スマホまたはデジカメで画面を撮影したりする方法が考えられます。
LINE・SNSなどでも上司とやり取りしているのであれば、同様に履歴を残しましょう。
身体的なケガは写真を撮る
身体的な攻撃を受け、ケガをした場合は、ケガした箇所を写真に撮っておけば証拠として活用できます。
併せて、撮影した日時や場所のほか、その場にいた人の名前も記録しておきましょう。
加工したと疑われないように、1枚だけでなく複数のアングルから撮るのがおすすめです。
また、自分のケガであることを証明できるよう、負傷箇所と自分の顔が入った写真も取りましょう。
被害の状況をメモに残す
パワハラ行為の出来事を書いたメモも、証拠として使えます。
パワハラ行為があった日時や内容などをできるだけ詳細に書き留めましょう。
紙に書く残し方の他に、スマートフォンのメモ帳に入力する方法もおすすめです。
通院記録やうつ病などの診断書を残す
パワハラによってケガやうつ病などの健康被害が出れば、診断書など被害状況を示せるものも重要な証拠として使えます。
通院しているならば、日々のパワハラの内容を医師に伝えましょう。
説明したことはカルテに記録されるので、カルテの請求をすれば有力な証拠が手に入ります。
上司をパワハラで訴える時の注意点
上司からパワハラを受けていると、つらい状況の中で周りが見えなくなりがちです。
訴えて制裁を加えようという思いにとらわれるかもしれませんが、冷静に状況を見るように努めましょう。
証拠集めは客観性が大事
当然ですが、パワハラの証拠は他人に対して示すものです。
自分が理解できても、他人が見てパワハラであると理解できなければ意味がありません。
誰にでも分かるものであるかどうか、感情を抑えて、手元にある証拠を一歩引いた視点で見てみましょう。
訴えるという手段に固執しない
パワハラを受けて心身共につらい状況になると、柔軟に考えることが難しくなるでしょう。
しかし、たった一つの考えに固執すると、何が自分にとって本当に良いのか分からなくなります。
訴訟を経て慰謝料を請求できることとなっても、基本的に弁護士費用は自己負担です。
弁護士費用は、弁護士によって異なりますが、着手金、成功報酬金、実費などから構成されます。着手金は、おおよそ10~30万円が相場となります。
成功報酬金は相手から回収できた額(慰謝料・損害賠償金など)のうち、おおよそ20~30%が相場となります。
場合によっては、慰謝料よりも弁護士費用の方が高くなる可能性もあります。
パワハラの加害者とかかわらずに働ければいいという場合には、上層部に配置転換を申し出るといった解決方法も選択肢にいれるといいでしょう。
訴えるメリットとデメリットを理解する
パワハラで訴えると、自分を苦しめた相手に社会的・経済的な制裁を与えられるかもしれません。
また、会社全体でパワハラが減り、職場環境が良くなる可能性もあります。
その一方で、訴える行為には多くの時間と労力が必要です。訴えた後、会社に居づらくなることも考えられます。
感情に任せて動くのではなく、実行することによってどんな影響があるのか考えて自分の行動を決めましょう。
パワハラ訴訟の流れ
最後に実際に訴訟を起こすときの流れを解説します。
パワハラ訴訟の流れ
- 訴状を提出する
- 裁判を提起する
- 口頭弁論
- 争点整理
- 証拠を調べる
- 判決
1.訴状を提出する
パワハラを訴えるためには、第一に訴状の提出が必要です。訴状には、以下の事項を記載します。
- 原告の氏名・住所
- 被告の氏名(加害者)、法人名(会社)・住所
- パワハラ行為の内容
- パワハラ行為によって受けた損害
- 求める損害賠償(慰謝料)額
2.裁判を提起する
証拠や証拠証明書と併せて訴状を提出することで裁判を起こします。
また弁護士を依頼する場合には訴訟委任状、加害者とともに会社も訴える場合には会社の商業登記簿謄本の提出も必要です。
訴状が受理されると、裁判所は被告に答弁書の提出を命じます。
答弁書は、被告が訴状の内容に対して認める部分と否認する部分、および被告自身の主張を記載した書類です。
3.口頭弁論
裁判所は、原告と被告を呼び出して、口頭弁論を開きます。
口頭弁論とは、裁判官の面前で、当事者や弁護士が主張や証拠を述べる手続きです。
裁判官は、当事者本人の態度や表情から主張の信憑性を判断します。
4.争点整理を行う
口頭弁論が終わると、弁論準備期日となります。
証拠の提出や証人の尋問に必要な準備を行い、それぞれの主張が整理されます。
5.証拠を調べる
争点整理が終わると、争点の主張に対して、真偽を判断するために証拠を調べることになります。
また、必要に応じて証人尋問が行われることもあります。証人尋問はパワハラの当事者のみならず、社内の目撃者などに行うこともあります。
6.判決
裁判官は、証拠に基づいて事実関係を認定し、法律に基づいて判断を下します。判決は、書面で示されます。
判決では、原告の請求が認められるか否か、および認められる場合の損害賠償額などが決定されます。
まとめ
この記事では上司をパワハラで訴える手順や方法について解説しました。
上司からパワハラを受けている場合には、すぐに裁判を起こすのではなく、最終手段として裁判を検討しましょう。
上司のパワハラを訴えるためには、会話の音声やメールのやり取りなどの客観的な証拠が必要です。証拠を収集し、どのような対処法を取るべきか弁護士に相談してください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了