解雇予告手当の計算方法を徹底解説!【過去3か月分の給与が基準】
会社が労働者を解雇する場合には、30日以上前に解雇を予告する必要があり、30日以内に解雇する際は、会社は労働者に解雇予告手当を支払う必要があります。
ただ、その金額の計算方法が分からない方の中には、解雇予告手当が支払われたものの、思っていたよりも金額が少ないと感じることがあるでしょう。
この記事では、会社から告げられた解雇予告手当の額が正しいのかを判断するため、解雇予告手当の計算方法を具体例を交えて解説していきます。
目次
解雇されたら解雇予告手当の有無を確認
そもそも、解雇を30日前に通知する義務や、それに代わる解雇予告手当について詳しく知らない会社も多いです。
会社は労働者をいつでも自由に解雇できるわけではありません。もし解雇を告げられた場合は、解雇予告手当が支払われるか否かを確認しましょう。
解雇予告手当が支払われることが確認できたら、解雇を告げられてから退職するまでの日数を確認してください。
もっとも、解雇予告手当を支払えば、どんな解雇でも有効になるわけでもありません。不当解雇ではないか見極めるため、解雇の理由も必ず押さえておきましょう。
解雇予告手当の計算方法には平均賃金を用いる
解雇予告手当の計算方法は次のとおりです。
解雇予告手当の計算方法
解雇予告手当の額=平均賃金×解雇予告期間(30日より前)に足りなかった日数
まずは、「平均賃金」の算出方法を解説します。
労働基準法上の平均賃金の定め
「平均賃金」とは、解雇予告手当のほか、休業手当や有休の計算のベースにも使われる賃金額です。
平均賃金は、労働基準法で、以下のように定義されています。
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。
労働基準法11条・12条
労働基準法の12条に平均賃金の計算方法が記載されています。次項で詳しく解説します。
平均賃金の内容
労働基準法12条における「これを算定すべき事由の発生した日」とは、解雇予告手当の計算をする場合、労働者が解雇通告を受けた日です。
「三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額」とは、平たく言うと過去3か月分の給料全額のことです。
「源泉所得税」や「社会保険料」を控除する前の賃金の支給額のことを指します。
なお、賃金締切日がある場合には、直近の締め日から3か月で計算をします。
◆賃金の総額に含めるものは?
賃金の総額には、①臨時に支払われる賃金や②3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は算入しません。たとえば、結婚手当や退職金、ボーナスなどは計算に含めないことになります。これらを含めてしまうとタイミングによって平均賃金が大きく変わってしまうためです。
なお、算入しないのはあくまで3か月を超える期間なので、ボーナスであっても3か月ごと(四半期ごと)に支払われるのであれば、賃金総額に含めます。
一方で、半年ごとに通勤手当が支払われるような場合には、実質的には毎日・毎月の通勤に対する手当であるため、1か月ごとに支払われたものとみなして算入します。便宜的に支払いを半年ごとにまとめているにすぎないからです。
賃金総額に含めるもの | 含めないもの | |
---|---|---|
手当・賃金 | ・家族手当 ・通勤手当 ・残業手当 ・住宅手当 | ・3か月を超える期間ごとの賞与 ・結婚手当 ・私傷病手当 ・産休、育休、介護休業中の賃金 ・労災で休業中に支払われた賃金 |
最後に「賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」ですが、これは過去3か月間の賃金をその期間の総日数で割った金額のことです。所定労働日数ではなく、暦日数でそのまま計算します。
ここまでをまとめると、解雇通告を受けた日の直前(の締め日)から過去3か月の給料を、過去3か月間の総日数で割った金額が平均賃金になるということです。
平均賃金には上記の計算で求めた「原則の額」と後述する「最低額保障額」の2つがあり、両方計算して高かったほうが解雇予告手当の計算に使用される平均賃金となります。
具体的な計算方法を見ていきましょう。
平均賃金の計算方法(原則額)
この項では、実際に平均賃金を計算してみましょう。例として、次の条件を想定します。
- 毎月、月末が賃金締切日である
- 「10月30日付の解雇」と10月20日に通告された
- 過去3か月の給与は以下の通り
9月(09/01~09/30) | ¥250,000 |
8月(08/01~08/31) | ¥250,000 |
7月(07/01~07/31) | ¥250,000 |
※給与には「通勤手当」と「残業手当」が含まれている
まずは直近3か月の賃金の合計を出します。解雇の通告を受けたのが10月20日ですので、直近の賃金締切日である9月30日以前3か月間の給与額で計算をします。
250,000円+250,000円+250,000円=750,000円(①-3か月の賃金合計)
次に、当該3か月の暦上の総日数を足します。この場合は、07月01日~09月30日となります。
30日+31日+31日=92日(②-3か月の総日数)
最後に、直近3か月の賃金の合計(①)を直近3か月の総日数(②)で割った金額が平均賃金です。
750,000円(①-3か月の賃金合計)÷92日(②-3か月の総日数)
=8,152.173…円
上記のように端数が出た場合は、銭位未満は切り捨てます。平均賃金の計算結果は8,152円17銭(A)となりました。
平均賃金の計算方法(例外:最低保障額)
賃金の一部または全部が、時間給・日給・出来高の場合は、原則通りに平均賃金を計算すると不当に低くなってしまうおそれがあります。その例外として平均賃金の最低保障額が定められています。
平均賃金の最低保障額は、過去3か月の賃金の総額を労働日数で割った金額の60%として計算します。
直近3か月の賃金の合計を出すところまでは、原則の計算と同じです。
直近3か月の労働日数の合計が以下のような例を想定します。
- 9月ー22日出勤
- 8月ー18日出勤
- 7月ー20日出勤
この場合は、22日+18日+20日=60日(③-3か月の労働日数)となります。
最後に、直近3か月の賃金の合計(①)を直近3か月の労働日数の合計(③)で割った金額の60%が最低賃金となります。つまり、以下のような計算式になります。
750,000円(①-3か月の賃金合計)÷60日(③-3か月の労働日数)x0.6
=7,500円
最低保障額の計算結果は7,500円(B)となりました。
原則の平均賃金額(A)と最低保障額(B)を比べた結果、高いほうが平均賃金です。
この場合なら、原則(A)の8,152円17銭が平均賃金となります。
この金額を元に、解雇予告手当を算出してみましょう。
解雇予告手当の計算方法と支払い
平均賃金の計算ができてしまえば、解雇予告手当の計算は簡単です。
冒頭で紹介しましたが、解雇予告手当の計算式をおさらいしましょう。
解雇予告手当の額=平均賃金×解雇予告期間(30日より前)に足りなかった日数
前項の設定を元に、実際に計算してみましょう。
解雇予告手当の計算
今回の設定は「10月30日付の解雇」と10月20日に通達されたというものでした。
つまり、本来30日以上前に通知しなければいけないところ、10日前の通知だったわけです。この場合、30日-10日=20日が「解雇予告期間(30日より前)に足りなかった日数」の部分にあたります。
この記事で算出した数字を、解雇予告手当の計算式にするとこうなります。
平均賃金8,152円17銭×解雇予告期間(30日より前)に足りなかった日数20日
=165,043円2銭
銭単位は現実には支払いできませんので、50銭未満は切り捨て、50銭以上は繰り上げとなります。
つまり、この場合の解雇手当は165,043円となります。
解雇予告手当はいつ支払われる?
気になるのは、解雇予告手当が支払われるタイミングだと思います。
厚生労働省は【リーフレットシリーズ労基法20条】の「解雇する際の手続き」中で、「解雇の予告を行わない場合は、解雇と同時に30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う」としています。
つまり法律上は、即日解雇であれば当日、30日以下の解雇通知であれば予告日に解雇予告手当を支払う必要があるのです。
しかし、現状は、最後の給料日と併せて支払う企業も多いようです。当日や予告日に解雇予告手当が支払われない場合は、解雇予告手当の支払いを請求し、いつ支払ってもらえるのか確認が必要です。
解雇予告手当が支払われないときは?
突然の解雇通達をされると、パニックに陥ってしまうことも考えられます。
とはいえ、解雇予告手当の未払いは労働基準法違反ですので、すぐに所轄の都道府県労働局賃金室または労働基準監督署に相談しましょう。
また、解雇の際は解雇予告手当だけではなく、解雇理由証明書の交付も合わせて求めておくと、後々のトラブルの際に役立ちますので、合わせて請求しましょう。
なお、労働者が裁判所へ申立てをした場合は、本来支払われるべきだった額と同額の「付加金」を合わせて支払ってもらえる可能性があります(労働基準法114条)。
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【例外】解雇予告手当の支給対象外となる場合
非常に限定的なケースですが、解雇予告手当の支給が不要とされている場合もあります。具体的には、以下の4ケースがそれにあたります。
解雇予告手当が支払われないケース
- 日雇い労働者(継続期間が1か月未満)
- 契約期間が2か月以内の者
- 4か月以内の季節労働者
- 試用期間中の者(14日未満)
上記は解雇予告手当の対象ではない旨が労働基準法21条に記載されています。
そのほかにも、労働者に明らかな過失がある場合や事業の継続が不可能になった場合は、解雇予告手当が支払われないことがあります。
解雇予告手当が支払われないケースについて詳しく知りたい方は、『解雇予告手当がもらえない!法的にもらえないケースや請求方法を解説!』の記事もご覧ください。
まとめ
突然の解雇にあってしまった場合にも、セーフティネットを活用すれば生活が困窮することを防ぐことができます。
労働者の生活を守るためにいくつもの制度が用意されており、その1つが解雇予告手当です。解雇予告手当を正しく計算し、適切な金額を会社に請求しましょう。
なお、解雇自体に納得していない(それを望んでいない)場合は、手当の請求など退職を前提とした手続きを進めてしまうと「解雇を受け入れている」と判断されてしまいます。
解雇予告手当は、予告なしに急に解雇を告げられたことに対する手当として支払われる金銭だからです。
安易に解雇予告手当の請求手続きに進むのではなく、一度どうするべきか弁護士に相談することが大切です。
解雇に不当性がある場合は、解雇の無効を訴え、不当解雇されてから合意がなされるまでの期間の賃金を請求することもできます。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、弁護士に相談することをおすすめします。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了