解雇予告手当がもらえない!法的にもらえないケースや請求方法を解説!
解雇をされてしまったとき、本来であればもらえるはずの解雇予告手当が支払われないことがあります。
解雇予告手当は、労働者の生活を突然の解雇から守るための制度です。しかし、解雇予告手当は、労働者全員がもらえるものではなく、労働者が法的にもらえないケースがあることはご存知でしょうか。
この記事では、解雇予告手当が法的にもらえないケースや請求方法を詳しく解説します。
解雇理由や雇用形態にも関わってくるので、自分が解雇予告手当を受け取ることができるのかご確認ください。
目次
そもそも解雇予告手当とは?いくらもらえる?
解雇予告手当とは?
解雇予告手当とは、雇用主が30日以上前に解雇予告を行わなかった場合に、労働者に対して支払われる手当金のことです。
労働者を解雇する場合、雇用主はどんなに正当な理由があっても、30日以上前に解雇予告をしなければならないと定められています。
もし30日を切ってから解雇予告をした場合や、解雇予告を行わなかった場合には解雇予告手当を支払わなければならないのです。
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解雇予告手当はいくらもらえる?
解雇予告手当は1日の平均賃金に、解雇日までの期間で、30日に足りなかった日数分をかけた金額を受け取ることができます。
たとえば10月30日に解雇される予定の人が、10月10日に解雇予告を受けたとします。
この場合、20日分解雇予告の期間として足りていませんので、平均賃金の20日分が解雇予告手当としてもらえるのです。
また「明日から来なくていい」と告げられる即日解雇の場合は、30日分の解雇予告手当が労働者に対して支払われなければなりません。
解雇を告げられたにもかかわらず、解雇予告手当がもらえない場合は、自分がどれくらいの金額の解雇予告手当をもらえるのか計算してみると良いでしょう。
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解雇予告手当が法的にもらえないケースは?
解雇予告手当が法的にもらえないケース
- 労働者側に明らかな過失がある
- 事業の継続が不可能になった
- 労働者が特定状況下にある
- 退職勧奨に応じてしまった
ケース①労働者側に明らかな過失がある
解雇予告手当は労働者がもらえる正当な手当金ですが、実はもらえない場合もあります。
労働者に明らかな過失があったと労働基準監督署長から認定を受けた場合、解雇予告手当がもらえない可能性があります。
ここでいう労働者の明らかな過失とは以下のようなケースです。一般的には、懲戒解雇となるようなケースが該当します。
労働者の過失と判断される例
- 会社の名誉にかかわる重大な犯罪行為(殺人など)
- 業務上の立場を利用した犯罪行為(経理担当の横領など)
- 重大な経歴の詐称(高卒の人が大卒と詐称して入社するなど)
- 長期間にわたる無断欠勤
- 重大、もしくは執拗なハラスメント
ただし、労働者に明らかな過失がある場合も、会社は労働基準監督署長に「解雇予告除外認定」を申請して認定を受ける必要があります。
解雇予告を行わなくていい例外に当たるかどうかは、労働者の勤務状況や地位などを考慮に入れて判断されます。
支払いがない場合でも実際に解雇予告除外認定を申請しているケースは意外と少なく、懲戒解雇であっても法的には解雇予告手当の支払いが必要であることは結構多いです。
また、懲戒解雇だから解雇予告手当は支払わないと言われても、認定を受けているのか確認してみましょう。
実際は、解雇予告除外認定にはある程度の調査・期間がかかるため、あえて手当を支払う会社もあるようです。
ケース②事業の継続が不可能になった
やむを得ず事業の継続が不可能になったために行われた解雇では、解雇予告手当はもらえません。
たとえば、地震や火災で建物が全壊してしまった場合、事業を立て直すためには莫大な資金を必要とし、事業を継続するのは不可能だと見られるでしょう。
「やむを得ない事由」とは、経営者が事業を継続させるために最大限の措置を施しても、改善が見られないような状況を指します。
ただし、この場合でも、本当にやむを得ず事業の継続が不可能になったのかどうかをチェックするために、労基署の解雇予告除外認定を受ける必要があります。
ケース③労働者が特定状況下にある
労働者の就労形態によっては、解雇予告が免除され、解雇予告手当をもらえない可能性もあります。
以下のような特定状況下では、解雇予告手当がもらえない場合があります(労働基準法21条)。
解雇予告手当がもらえない労働者
- 日雇い労働者(継続期間が1か月未満)
- 契約期間が2か月以内の者
- 4か月以内の季節労働者
- 試用期間中の者(14日未満)
いずれも、期間を超えて使用された場合は、解雇予告手当をもらうことができます。
たとえば、試用期間中に解雇されても、14日を超えて使用された場合は、支払いの対象になるため、解雇予告を貰うことができるということです。
ケース④退職勧奨に応じてしまった
退職勧奨に応じて退職した場合は、解雇予告手当はもらえません。
退職勧奨に応じて退職した場合は、あくまでご自身の意思に基づいた合意退職となり、そもそも「解雇」に当たらないためです。
退職届の提出を求められる場合の多くは退職勧奨です。解雇かどうかは、明確に「解雇」という言葉が使われているか、解雇通知書や解雇理由証明書が発行されているかで判断をしましょう。
なお、退職に納得がいかない場合は、退職勧奨に応じる義務がありません。
ただし、退職勧奨であっても、解雇予告手当を引き合いに出して「解雇予告手当相当の1か月分以上の給料を支払ってもらえるのであれば検討する」などと退職勧奨に応じる条件として交渉をすることは可能でしょう。
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解雇予告手当はいつ支払われる?請求期限は?
解雇予告手当はいつ支払われる?
解雇予告手当の支払日は、即日解雇の場合は解雇を申し渡されるのと同日となります。
また、解雇予告を事前に受けた場合も原則として通知日が支払日とされていますが、実際に解雇される日までに支払われればいいと解釈されています。
しかし、最後の給料日に解雇予告手当をあわせて支払う企業もあるようです。解雇予告をされた場合には、解雇予告手当がいつ支払われるのか会社に確認しておく必要があります。
もし、その支払日通りに支払いがされなかった場合は、きちんと請求をしましょう。
解雇予告手当の請求期限は退職から2年
解雇予告手当の請求期限(時効)は、退職後から2年間までとなります。
もしも即日解雇で解雇予告手当の支払いが遅れた場合には、解雇予告手当支払い日に解雇の効力が生じたことになります。
また、解雇予告手当が全く支払われなかった場合には、解雇通知の30日後に契約が終了すると考えられており、それまでの給与を請求することが可能です。
もし支払日にもらえなかったら?解雇予告手当の請求方法
解雇予告手当の請求方法は?
もし、その支払日通りに支払いがされなかった場合は、きちんと請求をしましょう。
【解雇予告手当の請求手順】
- 解雇の証拠を確保して対応手段を考える
- 内容証明郵便などで会社に解雇予告手当の請求をする
- 労働基準監督署へ相談する
- 弁護士や労働組合へ相談
- 労働審判や裁判をする
それぞれの手順を詳しく説明します。
1.解雇の証拠を確保して対応手段を考える
大前提として、解雇予告手当は解雇の場合でなければもらうことはできません。
前述のように、退職勧奨ではもらうことができないので、会社が「自己都合退職」や「合意したうえでの退職」だったとあとから言い訳してきても反論できるようにしておくことが大切です。
解雇の証拠
- 解雇に関する面談等の録音
- 解雇通知書・解雇理由証明書
- 解雇が明言されているメールやLINE、チャット など
解雇を通告されたらまずは解雇理由証明書を請求しましょう。労働者が解雇理由証明書を請求したときには、会社は遅滞なく発行する義務があります(労働基準法22条2項)。
また、解雇予告手当を本当に請求すべきについてはよく検討をする必要があります。
解雇予告手当は解雇を前提としているため、自ら解雇予告手当の請求をするということは解雇自体は受け入れる・認めるという主張になるからです。
もし、不当解雇として解雇自体を争うつもりなのであれば、解雇予告手当の請求はせずに、弁護士に相談することをおすすめします。
2.内容証明郵便等で会社に解雇予告手当の請求をする
解雇自体は争うつもりはないけど、解雇予告手当の支払いだけはして欲しいということであれば、実際に請求をしましょう。
請求方法に決まりはないので、まずは気軽に口頭で解雇予告手当について会社に聞いてみたり、メールなどで請求をしても良いでしょう。これだけで簡単に支払いに応じてもらえることも多いです。
きちんとした形で請求をするのであれば、内容証明郵便で会社に解雇予告手当の支払いを求める旨の請求書を送付することが一般的です。
内容証明郵便は、郵便局と差出人の手元に、相手に送ったものと同じ控えが残る郵便です。
内容証明郵便を使うことで、「いつ相手に送ったのか」という証拠を残すことができるため、相手から「請求されていない」とごまかされるリスクがなくなります。
3.労働基準監督署へ相談する
解雇予告手当の支払いがなければ、労働基準法違反になるため、労働基準監督署へ申告を行いましょう。
もしも調査の結果解雇予告手当の未払いにつき、会社に労働基準法違反が認められれば、労基署は是正勧告書を交付し指導を行います。これに従わず未払いを続けていれば、使用者は刑事罰を受けたり、送検される可能性があります。
解雇予告手当は支払いの要件も金額も明確ですので、労基から指導があれば支払ってもらえることがほとんどです。
4.弁護士へ相談
自身でできることを全てやっても、なお解雇予告手当がもらえない場合には、弁護士を頼ることも検討してください。
ただ、解雇予告手当は、そこまで高額になることはなく、弁護士を依頼すると費用倒れに終わってしまう可能性もあります。
まずは費用面も含め、無料相談などを利用して話を聞いてみてください。未払い残業代の請求や不当解雇による解決金請求も同時に可能ですので、証拠等があれば事前にそろえておくとスムーズに相談ができます。
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5.労働審判や裁判をする
最終的に、法的措置を取るのであれば労働審判を申し立てをして解雇予告手当などの請求を行います。
労働審判とは、労働者個人と使用者の労働関係のトラブルを、迅速・適正に解決することを目指す手続きです。
労働裁判官1人と労働審判員2人で組織された労働審判委員会により、原則3回以内の期日で審理し、話し合いによる解決を目指します。解決案に納得がいかなければ、自動的に訴訟手続きに移ります。
労働審判は個人でも可能ですが、弁護士を付けた方が望ましいです。
もっとも、解雇予告手当は法の規定も明確ですし、解雇の証拠がそろっていれば複雑な争いになることは少ないため、請求金額も考慮すれば個人で行うことも十分選択肢でしょう。
労働審判で決着がつかず異議申立てがなされれば裁判をすることになります。
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不安な場合は相談窓口へ
解雇予告手当がもらえない法的なケースや請求方法を詳しく解説しました。
会社から解雇予告手当がもらえない場合でも泣き寝入りをせずに、解雇予告手当をもらう権利を主張することが大切です。
ただ、具体的事情によっても法的構成や主張できる内容が異なることがあります。不安な場合は、ぜひ弁護士や労働基準監督署にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了