会社に労災隠しをされてしまった!労災隠しの対処法を解説
「治療費は会社が負担するからと労災を秘密にしておけと言われた」
「通勤中にケガをしたが、会社に労災とは認められないと言われた」
業務中や通勤中にケガをしたと会社に報告をしたとき、会社から労災の認定に関して、知っているような発言をされることがあります。
こういった発言は「労災隠し」のおそれがあり、犯罪行為に該当します。
労災とは、会社の勤務時間中や通勤中などに発生した病気やケガになります(前者を業務災害、後者を通勤災害という)。また、労災認定は企業ではなく労働基準監督署長がおこないます。
この記事では、労災隠しとは何か、労災隠しをされた場合の対処法について解説します。
目次
労災隠しとは
労災隠しとは、会社が労災の発生を労働基準監督署へ報告しなかったり、虚偽の報告をおこなったりすることです。会社が労災隠しをおこなうことは違法行為であり、発覚すれば50万円以下の罰金が科されます(労働安全衛生法120条5号)。
たとえば、以下のような場合が労災隠しと判断されます。
労災隠しと判断されるケース
- 労災が発生したことを隠蔽することを目的として「死傷病報告の届出」をおこなわない
- 発生した労災の内容や状況を偽って報告する
- 「治療費は会社が負担する」「正社員ではないから労災にはならない」「労災保険に加入していないから労災にならない」「この件は労災とは認めない」といった発言
労災が認められれば、治療費は労災保険が負担するので、会社が治療費を負担することはありません。
また、労災保険は雇用された労働者すべてに適用されますし、一人でも雇用していれば会社は労災保険に加入する義務があります。
会社が労災保険の加入手続きをおこなっていない場合でも、労災は適用されます。
先ほども触れましたが、労災の認定をおこなうのは労働基準監督署です。会社が労災かどうかを判断できるわけではありません。
会社が「労災とは認めない」と言った場合は、労災隠しである可能性が高いです。
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労災隠しをされた場合の対処法
労災の診察・治療は労災指定病院でおこなう
労災隠しの対処法として、労災の診察や治療は労災指定病院でおこなうことが挙げられます。
病院側に「労災である」と伝えることで、無料で診察を受けられるほか、その後の労災請求の申請もスムーズにおこなえるというメリットがあります。
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健康保険を使って治療しない
労災による病気やケガを治療する場合は、健康保険は利用できません。労災の申請をおこなったうえで健康保険を使って治療してしまうと、保険の二重取りとなりかねないので注意しておきましょう。
労災について健康保険を使って治療した場合は、病院に労災保険への切り替えができないかを確認しましょう。
労災保険への切り替えができれば治療費は自分に返ってきます。できなかった場合は、一時的に治療費を自分で支払っておいて、後で労災保険へ請求する形になります。
会社で労災が発生し、すぐに治療が必要になる場合もあります。会社から健康保険で治療するように指示された場合や、労災なのかわからない場合は、病院の窓口で事情を説明しておきましょう。
労働基準監督署へ相談する
会社による労災隠しが疑われる場合や、労災申請に協力してもらえないという場合は、労働基準監督署へ相談しましょう。
労災が発生したときの正確な状況、病気やケガの状態、会社がどのように対応したのかについて詳しく説明することが重要です。
また、労災の申請は退職後であっても可能です(労災保険法12条の5)。
労災隠しによって労災保険による補償を受けられないまま、退職した場合も考えられます。
退職後で会社から労災申請の協力が得られない場合でも、労災の申請はできるので、労働基準監督署へ相談しましょう。
労働基準監督署以外にも、相談できる窓口があるので、他の相談窓口が知りたい方は、『労災の相談はどこでできる?困ったときの相談先を紹介!無料の窓口も!』の記事をご覧ください。
企業が労災を隠す理由
会社が労災隠しをおこなう理由としては、以下のようなものが考えられます。
企業が労災隠しをおこなう理由
- 労災の保険料負担増加を懸念している
- 会社のイメージが悪くなる
- 労働基準監督署に調査されたくない
- 労災保険に加入していない
会社が負担する労災保険料は、事業内容や事業規模に応じて保険料が増減するという「メリット制」が採用されています。
労災を報告することで保険料の増額を懸念して、労災隠しをおこなう場合が多いようです。
また、労災の発生件数が多くなれば「会社のイメージが悪くなる」「労働基準監督署から改善命令が出される」といったおそれもあります。
そのため、会社に対する影響を考えて労災隠しをおこなうことも考えられます。
労災隠しの時効は3年・労災申請の時効は2年か5年
犯罪としての労災隠しの時効は3年となっており、仮に労災隠しで会社や事業主を告発したいという場合には注意が必要です(刑事訴訟法第250条2項)。
また、労災保険の申請時効期限は、給付内容ごとに起算日から2年あるいは5年が原則となっています。
給付の種類 | 時効 | 起算日 |
---|---|---|
療養(補償)給付 | 2年 | 療養にかかる費用の支出が具体的に確定した日の翌日 |
休業(補償)給付 | 2年 | 働くことができず賃金が受けられない日ごとの翌日 |
傷病(補償)年金 | なし | - |
障害(補償)給付 | 5年 | 傷病が治癒(症状固定)した日の翌日 |
介護(補償)給付 | 2年 | 介護を受けた月の翌月1日 |
遺族(補償)給付 | 5年 | 労災で労働者が死亡した日の翌日 |
葬祭料・葬祭給付 | 2年 | 労災で労働者が死亡した日の翌日 |
まとめ
会社から「労災隠し」をされていると感じた場合には、労働基準監督署に相談してみることをおすすめします。
労災隠しされている場合には「診察や治療は労災指定病院で受ける」「健康保険を使わずに治療を受ける」といった対処法をとり、適切に労災保険の受給ができるようにしましょう。
また、労災による慰謝料の請求をお考えの方は、弁護士に相談しましょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了