適応障害で休職するまでの流れと受け取れる給付金を解説

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適応障害で休職

仕事でのストレスが原因で適応障害と診断された場合には、療養のために休職を検討する方が多いと思います。

しかし、「本当に休職できるのか」「休職中の生活費はどうすればいいのか」など、悩むことは多いのではないでしょうか。

適応障害となったら、労災保険の休業(補償)給付もしくは傷病手当金を受け取ることができます。

この記事では、適応障害と診断された場合に、休職するまでの一般的な流れや受け取れる給付金の金額・申請方法を詳しく解説します。

休職後に退職を検討する際に取るべき対応も解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。

適応障害で休職|休職中の給料はどうなる?

そもそも休職とは

休職とは、労働者が何らかの理由で就業することが困難または不適当になった場合に、雇用契約を維持したまま就業を免除する制度のことです。

休職は、労働基準法で定められている制度ではありません。そのため、そもそも休職制度がない会社もあります。

また、休職制度がある場合でも、休職するための条件・休職できる期間などは会社によって異なります。

適応障害をはじめとする精神疾患で休職する場合には、就労が困難な状態かどうかを診断書などから判断されることになるでしょう。

休職中は原則給料が支払われない

休職中は、原則給料が支払われません。給料は「労働の対価として支払われる報酬」だからです。

休職中は労働ができない状況ゆえに「報酬を受け取る権利がない=給料が出ない」ということになります。

ただし、会社によっては給料が支払われることもあります。休職中に給料が支払われるか気になる方は、就業規則を確認しましょう。

「休職中であっても賃金を支払う」といった内容の規定があれば、給料が支払われます。

適応障害で休職するまでの一般的な流れ

適応障害で休職するまでの一般的な流れは、以下の通りです。

適応障害で休職するまでの流れ

  1. 病院を受診して診断書をもらう
  2. 会社に相談する
  3. 休職の手続きを行う

(1)病院を受診して診断書をもらう

心身の不調を感じたら、早めに心療内科や精神科などの医療機関を受診しましょう。

医師の診察を受ける際には、「休職をしたいので診断書を発行してほしい」と伝えてください。

診断書の金額は各病院によって異なり、2,000円~10,000円が相場です。

なお、休職するためには原則、会社から診断書の提出を求められます。

休職に伴う今後の生活費のことから、できるだけ出費を抑えたいと考えるかもしれませんが、診断書は発行しておくべきです。

(2)会社に相談する

診断書を受け取ったら、直属の上司や人事担当者などとの面談の機会を設け、休職したい旨を伝えましょう。

面談の機会を設けることが難しい場合には、メールやビジネスチャットなどで申し出ることもできます。

医師の診断により、休職が必要と判断されていれば、休職が認められる可能性が高いです。

(3)休職の手続きを行う

休職の手続きとは、主に休職期間の確認や業務の引き継ぎなどです。

診断書とあわせて会社へ申請書の提出を求められるケースもあります。

できる範囲で現時点での復帰の見通しなども伝えておくといいでしょう。

休職中に受け取れる給付金

適応障害と診断されて休職する労働者が受け取れる主な給付金は、「労災保険の休業(補償)給付」と「健康保険による傷病手当金」の2つです。

労災保険の休業(補償)給付

適応障害が労災認定されれば、労災保険によって休業(補償)給付を受けとることが可能です。

たとえば、長時間労働や上司からのハラスメント、誰が見ても達成困難なノルマを強いられていたなどの理由で適応障害になった場合は、労災認定される可能性があります。

休業(補償)給付は、以下の条件を満たせば支給されます。

  • 業務上の負傷や傷病による療養であること
  • 労働できないこと
  • 賃金の支払いがないこと

休業(補償)給付とは、労災で負った病気で休業した場合に認められる給付です。仕事を4日以上休業した場合に限り、給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)を支給してもらえます

給付基礎日額は、「3か月間の賃金総額÷3か月間の暦日数」で計算されます。

休業給付が支給される期間に制限はなく、休業開始から4日目から休業が終了するまで支払われます。

なお、休業開始1日~3日間は「待期期間」といわれ、休業給付は支払われません。ただし、待期期間中は会社から労働者に給付基礎日額の60%が支払われます。

健康保険による傷病手当金

労災の認定がされなかったら、健康保険による傷病手当金を請求することができます。

傷病手当金とは、病気やケガで仕事を休み、その間の給与を受けられないときに支給される健康保険の給付金です。

傷病手当金においても、以下のような受給条件が定められています。

  • 業務外の病気やケガであること
  • 仕事に就くことができない状態であること
  • 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について、給与の支払いがないこと

条件を満たせば、給料のおおよそ3分の2が支給されます。

傷病手当金が支給されるのは、支給開始日から最長で1年6か月間です。

もっとも、復職が難しく、会社を退職して健康保険から国民健康保険に切り替わった場合でも、傷病手当金の給付は継続できます。

ただし、退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に傷病手当金の給付を受けているか、受けられる状態になっていることが条件です。

労災保険の休業(補償)給付の申請方法

(1)医師の診断を受けて診断書をもらう

適応障害を証明するためには、医師による診察が必要になります。

適応障害をはじめとする精神疾患は、他人から見ても判断がつきにくいことが多いので、専門の医師による診察と適切な治療を受けているかが重要です。

また、これらの精神疾患を患っていることを証明するために、診断書が必要となります。診断書のみならず、診察時のカルテが労災認定の判断に用いられる場合もあります。

(2)会社に「事業主証明」を書いてもらう

診断を受けたら、労働基準監督署に請求書を提出しましょう。請求書の様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。

請求書には、会社が労災の証明を記載する「事業主証明欄」があり、この部分は会社側に記載してもらうことが必要です。

しかし、会社側が労災の保険料負担増加を懸念することなどから、事業主証明の記載を拒否することもあります。

会社が労災を認めない・いわゆる労災隠しを行う理由については『会社に労災隠しをされてしまった!労災隠しの対処法を解説』の記事で詳しく解説しています。

なお、会社に事業主証明を拒否された場合でも労災保険の請求はできるため、労働基準監督署に相談しましょう。

(3)請求書を労働基準監督署に提出する

請求書に記入できたら、労働基準監督署に提出しましょう。

給付金の種類ごとに申請期限が設けられているので、注意が必要です。

参考:「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」|厚生労働省

労働基準監督署への請求が認められれば、労災認定となり、労災保険の受給が可能になります。

労災の請求をしてから実際に労災保険を受給するまではおおむね1か月程度かかります。内容によっては数か月間かかる場合もあります。労災の被害に遭った際には速やかに手続きを進めましょう。

傷病手当金の申請方法

(1)会社に相談し、待機期間を完成させる

会社に相談し、適応障害で仕事を休むことを伝えます。傷病手当金を受給するためには、「連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと」が必要であるため、待機期間を完成させましょう。

(2)傷病手当金支給申請書に記入する

傷病手当金支給申請書に、必要事項を正確に記入してください。

通院先の医師が意見を記入する項目もあるので、確認のうえ症状を記載してもらいましょう。

(3)書類を提出する

必要事項を記入したら、会社の担当部署に提出するのが一般的です。

申請書には会社側が記載する項目もありますが、通常会社側で記載してくれます。その後の提出手続きも会社が行ってくれることが多いです。

参考:健康保険傷病手当金支給申請書|全国健康保険協会

記載に問題がなければ、提出から約1か月~2か月程度で支給されます。

適応障害で休職する際の注意点

社会保険の支払い義務は免除されない

休職中であっても、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料の支払い義務は免除されません。

休職中は無給のため給与から天引きされなくなります。

そのため、休職中の労働者の社会保険料は、会社が一旦立て替えて納付し、あとから労働者に請求するケースが多いです。

適応障害による休職中でも、社会保険料を支払う必要があることは覚えておきましょう。

休職中も会社に対する報告は必要

休職中は、療養に専念できますが、会社との雇用関係は継続しています。

そのため、体調の経過や治療状況、復職の目途などを定期的に会社に報告する必要があります。

報告の仕方や頻度は会社からの指示に従いましょう。

休職期間満了後に復職できなければ自然退職・解雇となる

休職期間満了後に復職ができないと、自然退職または解雇となることが通常です。

しかし、復職可能な状態にないにもかかわらず、会社の都合で一方的に解雇されることがあります。

自然退職または解雇を告げられて納得がいかない場合は、弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談すれば、適応障害による休職後に会社が行った解雇の無効・撤回を訴えることができるケースがあります。

適応障害で退職する際に行っておくべきこと

最後に、適応障害で休職しても復職が難しく、そのまま退職を検討するケースもあると思います。

ここでは、適応障害で退職する際に行っておくべきことを解説します。

自立支援医療制度の申請をする

自立支援医療制度とは、心身の障害に対する医療費の自己負担を軽減する制度です。

自立支援医療制度は全ての精神疾患を対象にしていますので、適応障害も含まれます。

自立支援医療制度を利用するメリットは、医療費の自己負担額を一定額や1割に軽減できることです。

通常、65歳未満であれば医療費の自己負担割合は3割なので、負担額をおおきく軽減することができます。

ただし、自立支援医療制度が適用される医療機関は、都道府県が指定した病院や薬局のみです。

もっとも、指定医療機関数は非常に多いので、通院出来る範囲内に指定医療機関はあることがほとんどでしょう。

参考までに例を挙げると、神奈川県の自立支援医療制度の指定病院(精神通院医療)は343棟、薬局は1351店舗あります。

自立支援医療制度の相談や申請は、お住まいの市区町村の障害福祉課が窓口になります。

制度の申請を検討されている方は、一度相談されてみることをおすすめします。

国民年金保険料の免除・猶予申請をする

退職するにあたって、あまり金銭的な余裕がない方は、国民健康保険料の免除・猶予の申請をすることが可能です。

国民年金保険料が免除になった場合、失業した前の月から翌々年の6月までの国民年金保険料の全額もしくは一部(4分の3、半額、4分の1)が免除されます。

どのくらい免除になるか、また猶予になるかはケースバイケースです。

そのため、国民年金保険料の猶予・免除を検討されているのであれば、ご自身のお住まいの市区町村の国民年金担当窓口、またはお近くの年金事務所に一度相談されることをおすすめします。

雇用保険の延長手続きをする

適応障害で退職した場合、しばらくの間は求職活動をせずに治療に専念される方も多いかと思います。

そのような方は、雇用保険の延長申請をすることをおすすめします。

雇用保険とは、失業や休業で収入が減ってしまった労働者の生活を安定させ、再就職を支援するために設けられた社会保険制度です。

雇用保険は、求職期間中の生活を安定させることを目的としているため、給付条件の一つに「求職活動を行なっていること」があります。

適応障害ですぐには就職できず、求職活動しない期間は、基本手当を受け取ることができません。

しかし、退職後雇用保険をそのまま放置してしまった場合、離職日の翌日から1年を経過すると求職活動を開始した場合でも雇用保険の受給資格が消滅してしまいます。

適応障害で30日以上働くことが出来ない場合、雇用保険の延長手続きを行えば、本来の受給期間1年間に加えて、最大3年間の延長が可能です。

延長申請は、受け取れる金額にも関わるので、できるだけ早めに行いましょう。ご自身のお住まいの住所を管轄しているハローワークで行うことができます。

参考:全国ハローワークの所在案内|厚生労働省

国民健康保険料の減額の申請ができるか確認する

お住まいの市区町村にもよりますが、適応障害を理由に退職された方は国民健康保険料の減額を認めている市区町村も多いです。

適応障害を理由に退職された方は、特定理由離職者となります。

特定理由離職者の国民健康保険料減額を認めている市区町村では、前年中の給与所得を100分の30として保険料を計算するところが多いです。

ただし、適応障害で離職された方は、上記の通り療養もあるため、すぐに求職活動を始めて雇用保険の受給資格者になることは難しいでしょう。

そのため、雇用保険の受給開始するまでは減額申請をすることができませんが、受給資格者になると退職の翌日にまで遡って減額されて既に支払った保険料は返却されます。

もっとも、市区町村によって取り扱いが異なります。

国民健康保険の減額を検討されている方は、お住いの市区町村の国民健康保険課にお問い合わせください。

まとめ

適応障害で休職を検討している方は、会社に休職制度があるかどうか確認しましょう。

休職すると、原則給料は支払われません。しかし、適応障害が労災認定されれば、労災保険によって休業(補償)給付、労災認定されないケースでも傷病手当金を受け取り、生活を守りながら療養にあたることができます。

適応障害による休職後の復職に関しては、会社と労働者間でトラブルに発展するケースがあります。会社から一方的に自然退職または解雇を告げられて納得がいかない場合は、弁護士に相談しましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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