交通事故による動揺関節の後遺障害|等級や認定のための3ポイント

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岡野武志弁護士

監修者:アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

交通事故により、動揺関節の後遺症が残った場合は、後遺障害8級・10級・12級のいずれかに認定される可能性があります。

しかし、ただ後遺症が残っているだけでは後遺障害には認定されません。

「日常生活に補装具の着用が必要だ」という医師の診断や、MRIやレントゲン検査による客観的な後遺症の証拠を集める必要があります。

この記事では、動揺関節が認定される等級や、認定のための3つのポイントを解説します。

また、交通事故で動揺関節になったときに請求できるお金についても紹介するので、ぜひ最後までお読みください。

交通事故による動揺関節の症状と治療

動揺関節とは?症状と日常生活への影響

動揺関節とは、関節がグラグラしてしまい安定しなかったり、通常では曲がらない方向に曲がってしまったりするなど、異常な関節運動が起きている状態です。

主に膝関節で起きやすい症状ですが、肩や肘、股や手足の関節でも発症することがあります。

動揺関節の主な症状

  • 関節のグラグラした不安定感
  • 通常では曲がらない方向への異常な動き
  • 動作時の痛みと違和感
  • 脱臼しそうな不安感

例えば膝の動揺関節であれば、歩行が困難になったり、歩くたびに痛みや脱臼しそうになる不安感を覚えたりと、日常生活に大きな支障をきたします。

交通事故で動揺関節が起きる原因

交通事故では、以下のような状況で靭帯を損傷し、動揺関節を引き起こす可能性があります。

交通事故による動揺関節の原因

  • バイク事故での転倒時に膝を強く打つ
  • 追突事故での急激な身体の揺れやひねり
  • 事故時のハンドルやダッシュボードへの衝突

例えば膝関節の場合、内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯の4つの靭帯のいずれかが損傷することで動揺関節が発症します。

特に前十字靭帯が損傷すると、脛骨(すねの骨)が前に出っ張るようになってしまい、歩行に支障が出やすくなります。

交通事故による動揺関節の治療法

動揺関節の治療には、手術療法と保存療法(装具療法)があります。

まず手術療法(靱帯再建術など)は根本的な治療法です。動揺関節は関節の不安定性が大きく、日常生活に大きな影響を与えるため、通常は手術が推奨されます。

一方、保存療法は、何らかの理由で手術が難しいときに選択される治療法です。サポーターや補装具を使用して関節を固定し、動きを補助します。

動揺関節の後遺障害等級と認定基準

上肢(肩・肘・手首)の動揺関節の場合

交通事故によって上肢(肩・肘・手首)に動揺関節が残った場合は、後遺障害10級か12級が認められる可能性があります。

後遺障害等級認定基準具体的な状態
10級常に硬性補装具を必要とするもの・日常生活のほぼすべての場面で装具が必要
・1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害がある
・装具なしでは基本的な動作が困難
12級時々硬性補装具を必要とするもの・特定の動作や状況でのみ装具が必要
・重い物を持ち上げる時や長時間作業時に装具使用
・1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害がある
12級習慣性脱臼・肩関節が軽い衝撃や動作で外れやすい
・日常生活に支障をきたす程度の不安定性がある

1上肢の3大関節とは、肩・肘・手首の関節のことです。

すなわち、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害がある」とは、肩・肘・手首の関節のいずれか1つの機能に著しい障害がある状態をいいます。

肩関節の習慣性脱臼については、交通事故との因果関係をしっかりと証明する必要があります。保険会社から詳しい確認を求められることが多いため、医師による詳細な所見と、事故前にはなかった症状であることを示す証拠を準備することが大切です。

下肢(股関節・膝・足首)の動揺関節の場合

下肢(股関節・膝・足首)の動揺関節は、歩行や立ち座りといった基本的な動作に直接影響するため、上肢の場合よりも高い後遺障害等級が認定される可能性があります。具体的には、症状の重さに応じて後遺障害8級から12級の範囲で認定されます。

後遺障害等級認定基準具体的な状態
8級常に硬性補装具を必要とするもの・歩行時に常に装具が必要
・装具なしでは転倒の危険がある
・1下肢の3大関節中の1関節の用を廃した状態
10級時々硬性補装具を必要とするもの・長距離歩行や階段の上り下りで装具が必要
・1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害がある
12級重い労働をする時のみ硬性補装具が必要・通常の生活では装具不要
・負荷のかかる作業時のみ装具使用
・1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害がある
12級習慣性脱臼、または弾発膝・膝関節が軽い衝撃や動作で外れやすい
・日常生活に支障をきたす程度の不安定性がある

1下肢の3大関節とは、股・膝・足首の関節のことです。

すなわち、「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害がある」とは、股・膝・足首の関節のいずれか1つの機能に著しい障害がある状態をいいます。

膝蓋骨(膝のお皿)の習慣性脱臼や弾発膝(膝を曲げ伸ばしする時にひっかかる感じがある状態)についても12級として認定される可能性がありますが、これらについても事故との因果関係の証明が重要になります。

8級と10級の認定は現実的ではない

ただし実務では、後遺障害8級や10級の認定を受けるのは非常に難しいのが現状です。

なぜなら前述したように、関節に重度の不安定性がある場合は手術による靭帯修復が選択されることが多いからです。手術の結果、不安定性は改善されて後遺障害として残りにくくなります。

そのため、手術ができない特別な事情がある場合や、手術をしても改善が見込めない場合を除いて、保存療法(手術以外の治療)のみで8級や10級の認定を目指すのは現実的ではありません。

まずは整形外科専門医にご相談いただき、適切な治療方針を決めることをおすすめします。

動揺関節が後遺障害認定されるための3ポイント

(1)硬性補装具が必要だと医師が判断する

前述した後遺障害の認定基準表でもわかるとおり、動揺関節の認定で最も重要なポイントは、硬性補装具(プラスチックや金属でできた固い装具)の必要性と使用頻度です。

硬性補装具の使用頻度後遺障害等級
常時必要上肢:10級
下肢:8級
時々必要上肢:12級
下肢:10級
重労働時のみ必要上肢:対象外
下肢:12級

軟性補装具(布製のサポーターなど柔らかい素材の装具)では、どんなに頻繁に使用していても後遺障害の認定基準には該当しないので注意してください。

また、硬性補装具の使用は後遺障害等級を決める重要な要素ですが、単に処方されているだけでは十分ではありません。

後遺障害認定の審査では「なぜ硬性補装具が必要なのか?」が重視されます。例えば以下のような点がチェックされます。

  • 装具を使用しないとどのような支障があるのか
  • なぜ手術による治療ではなく装具による治療を選択したのか
  • 装具の使用が一時的なものではなく、継続的に必要なものかどうか

動揺関節で後遺障害認定を獲得するためには、硬性補装具の使用が必要な根拠を示すことが肝心です。

(2)MRI検査やストレスX線検査で画像所見を用意する

動揺関節の後遺障害認定には、靭帯損傷と関節の動揺性を画像で証明することが必要です。そのために、MRI検査やストレスX線検査(ストレスレントゲン)を行いましょう。

これらの画像所見がない場合、動揺関節の後遺障害認定は極めて困難となります。

MRI検査で靭帯損傷を証明

1つ目はMRI検査です。靭帯がどのように損傷しているかを画像で確認します。

例えば膝関節の場合、正常な前十字靭帯は脛骨から大腿骨へピンと張った状態で写りますが、損傷すると緊張が失われたたるんだ状態として写ります。これが靭帯損傷の証明となります。

ストレスX線検査で関節の動揺性を証明

2つ目はストレスX線検査です。この検査では、専用の器具で患部を固定し、圧力をかけた状態でレントゲン撮影を行います。

これにより、健康な方の関節と比べて、ケガをした関節がどのくらいぐらつくのか、その違いを数値で示すことができます。

なお、基本的に医師が行う検査は治療のためのものです。後遺障害認定に必要な検査については、医師から積極的な提案されないこともあります。

必要な検査を受けそびれないよう、ご自身から医師に相談することをおすすめします。

(3)医師の徒手検査で動揺の程度を確認する

徒手検査(理学検査)とは、医師が直接患部にストレスを加えて、関節のぐらつきや痛みの程度を調べる検査です。

医師が問診・視診・触診を行い、画像所見や自覚症状、動揺の程度を裏付けていきます。この徒手検査の結果も、後遺障害認定における重要な医学的根拠となります。

例えば、膝の動揺関節では以下のような検査が一般的です。

  • 前方引き出しテスト:脛骨が前方に異常に移動するかを確認
  • ラックマンテスト:前十字靭帯の損傷状態を評価
  • N-test:前十字靭帯の損傷による膝の異常な動きを確認
  • Pivot shift test:前十字靭帯の損傷による膝の不安定性を評価

交通事故による動揺関節で請求できる損害賠償金

交通事故による動揺関節の慰謝料相場

動揺関節で請求できる可能性のある慰謝料は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料です。

慰謝料意味請求の条件
入通院慰謝料入通院に伴う精神的苦痛に対する補償治療で入通院した
後遺障害慰謝料後遺障害が残った精神的苦痛への補償遺障害認定された

動揺関節における入通院慰謝料の相場

入通院慰謝料の相場は、以下の算定表で確認してください。

症状の程度によって、重症用と軽傷用を使い分けて相場を確認します。

重傷の慰謝料算定表
重傷の慰謝料算定表
軽症・むちうちの慰謝料算定表
軽症・むちうちの慰謝料算定表

動揺関節における後遺障害慰謝料の相場

後遺障害慰謝料の相場は、後遺障害等級ごとに定められています。

動揺関節が認定される可能性のある、後遺障害8級、10級、12級の相場は以下のとおりです。

後遺障害等級慰謝料相場
8級830万円
10級550万円
12級290万円

提示される慰謝料は相場よりも低い

通常、交通事故における慰謝料は、事故相手側の任意保険会社から金額の提示を受けます。

このときに提示される慰謝料額は、前述した相場よりも低いことがほとんどです。

本記事で紹介した慰謝料相場は、過去の裁判例をもとに定められている「弁護士基準」によって算定されたものです。

しかし、任意保険会社は独自の算定基準である「任意保険基準」を使って慰謝料を計算して提示してきます。

動揺関節による被害への適切な補償を受けるためには、弁護士に依頼して、「弁護士基準」で慰謝料を請求しましょう。

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交通事故による動揺関節で請求できる費目一覧

交通事故により動揺関節を発症してしまった場合は、以下のような費目を事故相手に対して請求できます。

交通事故損害賠償の内訳
  • 治療費:医療機関での治療費、通院交通費、付添費など
  • 休業損害:事故により仕事を休んだことによる収入の減少分
  • その他:住宅改修費用、硬性補装具費用、将来の補装具買換え費用など
  • 修理費:車の修理費、レンタカー費用など

また、動揺関節が後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料以外にも「逸失利益」が請求できるようになります。

逸失利益とは、後遺障害により将来的に減少するであろう収入の補償です。金額は、被害者の年齢や収入、認定された後遺障害等級などをもとに算定されます。

症状に合わせた住宅改修費用も請求できる

動揺関節により日常生活に支障がある場合、住環境を整備するための費用も損害賠償金として請求できます。

例えば、手すりやスロープの取り付けといった住宅改修費用が認められる可能性があります。

また、動揺関節の症状を軽減するための硬性補装具の費用や、将来の買い換え費用についても請求が可能です。

動揺関節の後遺障害認定は弁護士に相談

後遺障害認定を弁護士に相談すべき理由

動揺関節の後遺障害認定で、弁護士に相談すべき理由は以下のとおりです。

弁護士に相談すべき理由

  • 認定に必要な医学的根拠を適切なタイミングで収集できる
  • 後遺障害診断書の記載内容を充実させることができる
  • 認定の準備や必要な書類の調査を一任できる

後遺障害認定にむけた医学的根拠の収集では、MRI検査やストレスX線検査、医師による徒手検査など、必要な検査を適切な時期に受けることが重要です。

しかし医師は治療が主な目的のため、後遺障害認定に必要な検査を積極的に提案してくれるわけではありません。そこで、弁護士に依頼することで、必要な検査を見逃すことなく受けることができます。

また、医師が作成する後遺障害診断書には、硬性補装具の使用状況や各種検査結果など、等級認定に関わる重要な情報を詳しく記載してもらう必要があります。弁護士であれば診断書作成の依頼時に、認定基準を踏まえた適切な内容を医師に伝えることができます。

さらに、後遺障害認定の準備を一任できるのもメリットでしょう。通院しながら認定の準備を進めるのは大きな負担となります。しかし弁護士に依頼すれば、ご自身は動揺関節の治療やリハビリに専念できます。

費用を抑えて弁護士依頼する方法

弁護士依頼するメリットはわかっていても、弁護士費用が気になって依頼に踏み出せないという方は多いと思います。

しかし、「弁護士費用特約」が使えれば、ご自身の負担ゼロで弁護士依頼できる可能性があります。

弁護士費用特約とは、弁護士依頼にかかる費用を一定額、保険会社が負担してくれる特約です。自動車保険や火災保険、クレジットカードの保険などに付帯していることが多いです。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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