労災の休業補償を受けるための手続きは?医師の証明が必要な理由
「労災の休業補償の手続きは?」
「休業補償はいくら受け取れる?」
業務上のケガや病気で仕事を休む必要が生じたとき、労災保険の認定を受ければ、労災保険から休業補償給付を受け取ることができます。
この記事では、労災で休業補償給付を受けるための手続きや受け取れる金額について解説します。
医師の証明が必要な理由についても分かりやすく解説しているので、休業補償給付をこれから請求される方は、ぜひ最後までご覧ください。
労災保険の休業補償とは
休業補償とは
休業補償とは、労働者が業務上のケガや病気で仕事を休まなければならなくなった場合に、労災保険から支給される給付金です。
療養期間中の労働者の生活を保護することを目的としています。
休業補償は、就業中の災害で休業した場合に支払われる「休業補償給付」と、通勤中の災害が対象の「休業給付」の2種類に分かれます。
内容や支給される金額は同じであるため、いずれもこの記事では休業補償として取り扱います。
休業補償を受けるための条件
休業補償を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
休業補償を受けるための条件
- 業務災害または通勤災害に該当すること
- 労働できないこと
- 賃金の支払いがないこと
業務災害または通勤災害に該当すること
労働災害は大きく「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分けられます。
まず、業務災害から見ていきましょう。
保険給付の対象となる業務災害は「業務上の」負傷等でなければなりません。業務災害は「業務起因性」と「業務遂行性」の2つを満たす必要があります。
- 業務遂行性……労働者がケガや病気を負ったとき、事業主の支配下にある状態で業務をしていたかどうか
- 業務起因性……労働者が負ったケガや病気の原因が、仕事内容に関連するものかどうか
たとえば、自然現象やけんかなどの被災者の私的な逸脱行為が原因であれば、業務起因性は否定され、労災認定されない可能性があります。
次に、通勤災害は通勤中に発生した災害のことを指します。
ここでいう「通勤」は、以下のようなケースが該当します。
- 住居と就業場所との間の往復
- 単身赴任先の住居と帰省先の住居との間の移動
- 就業場所から他の就業場所への移動
上記のケースについては、「合理的な経路及び方法」で通勤していることが前提となります。寄り道をや遠回りをしていた場合には、通勤として認められない場合もあります。
労働できないこと
休業補償は療養のために休業している期間を補償する制度です。
療養中は支給対象ですが、負傷や疾病が治った後は補償対象にはなりません。
また、働くことができない状態に陥っている必要があります。
賃金の支払いがないこと
会社から平均賃金の60%以上の賃金が支払われている場合には休業補償は給付されません。
休業補償の対象となるのは?
休業補償は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象となります。
正社員に限らず、契約社員やアルバイト、パートであっても労災保険の認定を受ければ、休業補償を受け取ることができます。
労災の休業補償はいくら受け取れる?
「給付基礎日額」の80%を受け取ることができる
休業補償では、給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)をもらうことができます。
休業補償は賃金ではなく、働けなくなったことに対する補償になるので税金がかかりません。つまり、実際に受け取る金額は、普段受け取っている給料の80%よりも多くなります。
給付基礎日額の計算
給付基礎日額は、労働基準法における平均賃金に相当する額のことを言い、原則として「3か月間の賃金総額÷3か月間の暦日数」によって計算されます。
この計算にあたっては、臨時に支払われるもの・3か月を超える期間ごとに支払われるものについては含めずに計算をします。半年に1度支払われる賞与は含めないということです。
ただし、この計算式によると、アルバイトやパートなど、出勤日数の少ない人については非常に低額になってしまいます。
そのため、上記の計算式と「3か月間の賃金総額÷3か月間の実労働日数×60%」を求め、どちらか多い方を平均賃金とすることが可能です。
休業補償が支給される期間はいつからいつまで?
休業補償の支給は休業を開始して4日目から
休業補償は休業を開始して4日目から支給されます。
休業してから3日間については休業補償をもらうことはできません。この3日間のことを「待期期間」と呼んでいます。
3日間の待期期間は、仮病防止のために設けられていると言われています。
この待期期間については労災保険からは給付が受けられません。
しかし、業務災害の場合は、会社から労働者に給付基礎日額の60%が支払われます。
一方、通勤災害の場合、会社から金銭は支払われません。就業規則に支給規定がない限り、待期期間中は無給となります。
休業補償は原則ケガや病気が治るまで受け取ることができる
休業補償は、受け取るための要件を満たしている限りは、原則ケガや病気が治るまで受け取ることができます。
ただし、例外的に支給が終了するケースがあります。
症状固定で給付が終了となるケース
ケガや病気が治ゆしなくても、症状固定と判断されれば給付が終了となります。
症状固定とは、ケガや病気の治療を続けても症状の改善が見込めなくなった状態を指します。
症状が一定期間以上変わらなかったり、検査結果や画像所見などからこれ以上の改善が見込めなかったりするときに、医師によって判断されるものです。
傷病(補償)年金に切り替わるケース
労災の治療を開始して1年6か月経過したあとでも治ゆしておらず、傷病等級1~3級に該当する場合には傷病(補償)年金に切り替わるケースがあります。
傷病(補償)年金への切り替えは、労働基準監督署長の職権により行われるため、被災者自身で請求手続きをする必要はありません。
給付の内容は「傷病(補償)年金」「傷病特別一時金」「傷病特別年金」の3つに分類できます。
傷病等級別の支給額は以下の表の通りです。
傷病等級 | 傷病(補償)年金 (給付基礎日額) | 傷病特別一時金 | 傷病特別年金 (算定基礎日額) |
---|---|---|---|
第1級 | 313日分 | 114万円 | 313日分 |
第2級 | 277日分 | 107万円 | 277日分 |
第3級 | 245日分 | 100万円 | 245日分 |
もっとも、1年6か月経過後も傷病等級1~3級に該当せずに、対象となるケガや病気が治ゆ(症状固定)していなければ、休業補償を引き続き受け取ることができます。
引き続き休業補償を受け取るためには、「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)を労働基準監督署に提出する必要があります。
療養から1年6か月を経過すると、労働基準監督署から申請の手続きの指示があるので、指示に従いましょう。
退職後でも休業補償の支給要件を満たせば給付を受けられる
労災で休業補償給付を受けながら退職した場合も、支給要件を満たしていれば支給は継続されます。
「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と定められているからです(労働者災害補償保険法12条の5)。
なお、退職後に労災保険の請求を行うこともできます。
休業補償を申請する手続きの流れ
(1)労働基準監督署長に請求書を提出する
休業補償を申請するには、労働基準監督署に請求書を提出する必要があります。
請求書への記載や手続き申請は、原則被災した労働者本人が行います。
休業補償の請求書は、「業務災害」「通勤災害」によって書面が異なります。
休業補償の請求に必要な書類は以下の通りです。
- 業務災害の場合:「休業補償給付支給申請書」(様式第8号)
- 通勤災害場合:「休業給付支給請求書」(様式第16号の6)
請求書の様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
まず、労働者自身で記載できる部分を記載してから、医師の証明などを記載してもらいましょう。
請求書への記載例は、以下を参考にしてください。
参考:休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続|厚生労働省
また、休業補償の請求には時効があります。2年間のうちに請求しないと時効となってしまうため、業務上のケガや病気で休業が必要になったら早めに請求しましょう。
(2)審査を受ける
提出後は、労働基準監督署長による審査が行われます。審査期間の目安は、1か月程度です。
労災認定されたら、給付を受けることができます。
休業が長期になる場合には、1か月ごとに1回請求することが一般的です。
もし、認定されないといった労災保険給付に関する処分に納得がいかない場合は、不服申し立てを行うことができます。
不服申し立ては、都道府県労働局の「労働者災害補償保険審査官(労災保険審査官)」に対して行います。
休業補償の請求に医師の証明が必要な理由
休業補償の請求書には、診療担当者の証明(医師の証明)を受ける欄があります。医師の証明がなければ休業補償を受けられません。
ここでは、休業補償の請求に医師による証明が必要な理由を解説します。
「労働できないこと」を証明するために医師の証明が必要
そもそも休業補償は、労働者が業務災害または通勤災害によって傷病し、労働ができない場合に支給されるものです。
そのため、医師の証明によって、「労働ができないこと」を客観的に証明してもらう必要があります。
医師の証明には、傷病の部位や名称、傷病の経過などが記載されている必要があります。
医師の証明にかかる費用は労災保険から給付される
医師に請求書への記載を依頼すると、2000円の費用がかかりますが、その費用は労災保険から給付されます。
また、労災指定病院を受診すれば、労働者が医師の証明にかかる費用を負担する必要はありません。
労災指定病院以外の病院を受診した場合、被災者がいったん費用を立て替える必要がありますが、あとから費用を療養に関する給付として請求することが可能です。
まとめ
労災は、働いている限り誰に起こってもおかしくありません。
業務上、または、通勤途中のケガや病気で仕事を休まなければならないときは、労災保険の休業補償を請求しましょう。
休業補償の請求には、医師の証明が必要になります。病院を受診し、労働災害の経緯や傷病の経過を伝えて、医師に記載してもらいましょう。
労災の申請手続きで不明点がある場合は、労働基準監督署に相談してください。労働基準監督署は労災保険申請の窓口であるため、適切な回答が得られるでしょう。
また、労災で会社に慰謝料を請求したい場合には、弁護士への相談がおすすめです。
労災の相談窓口については『労災の相談はどこでできる?困ったときの相談先を紹介!無料の窓口も!』の記事で解説しています。
無料の窓口もあるので、労災でお悩みの方はぜひ一度相談してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了