保育士の残業が多いのはなぜ?平均残業時間は?サービス残業への対処法を解説
「保育士の平均残業時間は?」
「サービス残業への対処法は?」
残業することが当たり前の職場で働いている方は「もう辞めたい」「せめて残業代がもらえれば」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
保育士の残業に対する問題は根深く、働き方改革が進められている現在でも大きな改善はみられていません。
また、保育士には、特殊な働き方の制度が導入されることも多く、法律上の残業のルールを知っておくことが重要と言えるでしょう。
そこで、今回の記事では、保育士の残業時間と残業時間が多くなる理由、保育士の残業問題の対処法について解説していきます。
目次
保育士の残業が多い理由
保育士の残業が多い理由としては、以下のようなものが挙げられます。
保育士の残業が多い理由
- 資料や配布プリント作成といった事務作業が多い
- 人手不足
- 行事・イベントの準備や対応
資料や配布プリント作成といった事務作業が多い
保育士の仕事は、子どもと接することだけではありません。保護者への連絡文書や配布プリントの作成など、多くの事務作業も担っています。
日中は子どもの面倒を見なければならないため、事務作業が後回しになってしまう傾向があります。
事務作業は、保護者のお迎え待ちの時間や、子どもたちが帰宅した後に行うことが多くあるため、残業時間の増加につながっています。
人手不足
保育士の人手不足は、残業時間が長くなる大きな原因の一つです。
人手不足が深刻化している保育園では、一人当たりの業務量が増え、定時内に仕事を終わらせることが難しくなるでしょう。
行事・イベントの準備や対応
運動会、発表会、クリスマス会など、保育園では年間を通して多くの行事・イベントが開催されます。
これらの行事・イベントの準備や対応は、多くの時間と労力を必要とします。
場合によっては、自宅に持ち帰って制作物を作成しなければならないこともあります。
保育士の残業の実態|平均残業時間は?
保育士という職種全体で見たときに、残業がどのように問題視されているのか、確認していきます。
保育士の平均残業時間は月4時間程度
厚生労働省が行なっている2019年の賃金構造基本統計調査によると、保育士の1か月の平均残業時間は4時間となっています。
数字だけを見ると残業が少ないと感じるかもしれませんが、この数字には「サービス残業」は含まれていません。
サービス残業が常態化している保育園は多くあることから、実態としては1か月4時間よりもかなり多くなっていると考えられます。
参考:賃金構造基本統計調査令和元年以前 職種DB第1表|統計表・グラフ表示|政府統計の総合窓口
残業の多さは保育士の就業環境における課題
保育士の残業が多いことは、保育士の就業環境での課題と認識されています。
東京都福祉保健局が実施した「令和4年度東京都保育士実態調査」では、保育士を辞めた理由として、「仕事量が多い」と答えた割合が23.1%、「労働時間が長い」が18.6%となっています。
保育士全体にとって仕事量と残業をはじめとする労働時間の問題は、解決すべき課題として認識されていると言えるでしょう。
保育士の残業に関わる法律のルール
保育士の業務に特殊な制度を導入している保育園も多いです。保育士に適用されることの多い労働制度について解説します。
残業に関する基本的な規制
残業とは「所定労働時間」を超えて働くことを意味します。
所定労働時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いたものです。
また、労働基準法は、労働者に働かせることのできる最長の労働時間を定められており、法定労働時間と呼ばれます。
法定労働時間
- 1日8時間
- 1週間40時間
法定労働時間を超えて働くこと(「時間外労働」といいます)も残業に含まれます。
所定外労働の場合、いわゆる「残業代」が通常の賃金に追加で支払われることが一般的です。ただし、いくら支払われるか(通常の賃金よりも高くなるかどうか)は会社の決まり次第です。
一方、時間外労働に対しては、通常の賃金の125%を支払わなければなりません(労働基準法37条1項・2項)。割増賃金と言われるものですが、これも一般的な残業代の意味に含まれるでしょう。
以上のルールは保育園・保育士にも同じように適用されます。
保育士に適用されることの多い制度①|変形労働時間制
変形労働時間制とは、繁忙期や閑散期に合わせて労働時間の使い方を調整できる制度です。
変形労働時間制を適用すれば、「一定期間の1週平均が40時間以内に収まっていれば、8時間を超える日や40時間を超える週があっても構わない」とされています。
ただし、「変形労働時間時間制であれば残業代は不要」と誤解されていることも多くありますが、残業は発生しますし、もちろん、残業代も支払われます。
園が変形労働時間制を導入している場合、残業が適切にカウントされているか確認することが重要です。
保育士に適用されることの多い制度②|固定残業代
保育士の業務には固定残業代が採用されていることも多くあります。
固定残業代とは、実際の残業時間に関わらず一定額の残業代を支払う制度です。
残業代は、本来、残業時間数をカウントしてそれに応じて計算されるものです。1時間残業したなら、1時間分の残業代を支払うということです。
しかし、固定残業代が採用されている場合、1時間でも10時間でも、決められた金額までは残業代が変動しません。
たとえば、「固定残業代として5万円を支払う」という手当が設けられている場合、実際の残業代が5万円を超えない限り、残業時間にかかわらず5万円が支払われます。
もっとも、残業時間に応じて計算した残業代が、固定残業代として決められた金額を超えた場合、差額を追加して支払わなければなりません。
固定残業代が設けられていても、適切に差額の支払いが行われているか、チェックすることが大切です。
保育士の残業問題への対処法
最後に、保育士が残業に悩んだ場合の対処法を解説します。
対処法としては以下の3つが挙げられます。
残業問題への対処法
- 保育園に直接相談する
- 労働基準監督署に相談する
- 弁護士に相談する
残業について保育園に相談する
保育士が残業で悩んでいる場合、勤めている保育園に直接相談することが対処法の一つとして挙げられます。
長時間労働は、会社との話し合いと、それを踏まえた改善により解決することが望ましいトラブル類型です。
とくに、保育園は、従業員規模の小さい部類です。
規模の小さい職場で、いきなり法的手段に訴えてしまうと、保育園の中での立場が悪くなり、働きにくくなってしまうこともあり得ます。
保育園に業務改善に取り組む姿勢を持ってもらうよう、直接働きかけることが望ましいといえるでしょう。
ただし、保育園に直接相談しても動いてくれない可能性もあります。また、そもそも相談できるような職場の雰囲気でないこともあるでしょう。
保育園に直接はたらきかけても効果がないという場合は、外部機関への相談を考えましょう。
労働基準監督署に相談する
外部機関の相談先として労働基準監督署が挙げられます。
労働基準監督署は、企業が労働関係の法令を守っているかをチェックする機関です。相談・申告すれば、法律に違反している会社に対して是正勧告や指導を行ってくれる場合もあります。
残業に悩む保育士の方も労働基準監督署に相談することができます。
ただし、労働基準監督署には会社に対する強制力はなく、未払い残業代の請求などを行うことはできません。
また、労働基準監督署はあくまで中立の立場を取るため、柔軟なアドバイスを受けにくいという面があります。
弁護士に相談する
残業に悩む保育士の方々に最もおすすめの対処法は弁護士への相談です。
残業代請求は自身でも行うことは可能ですが、法律の専門家である弁護士に相談・依頼すれば、保育園との交渉を一任することができます。
また、保育園に働き続けたい場合、退職する場合を考慮して、適切なアドバイスをもらうことができるでしょう。
さらに、未払い残業代が発生している場合、弁護士なら未払い額を正確に計算することができ、保育園に請求することが可能です。
行事・イベントの準備のために、持ち帰りで残業をした場合なども、場合によっては残業代が発生します。
ご自身だけでは、残業代がいくらになるのか、持ち帰って制作物を作成したら残業になるのかなど、分からない点が多いと思います。
つらい残業にお悩みの保育士の方は、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
弁護士への相談にあたって、費用相場や流れ、メリットなどを知りたい方は「残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!」の記事をご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了