セクハラで裁判を起こしたい!セクハラ訴訟の流れと訴えるときのポイント
重い腰を上げてセクハラ被害を会社に訴えても、満足な対応をしてもらえないケースがあります。
交渉で解決が図られないケースでは、最終手段として裁判を検討することになるでしょう。
しかし、セクハラの裁判は、どのような流れとなるのか、期間はどのくらいかかるのか、訴えると不利益を被ることはあるのかなど疑問点がたくさんあると思います。
そこで、今回の記事では、セクハラ訴訟の流れや訴えるときのポイント、費用について、あなたが安心して裁判を進めることができるように弁護士の立場からわかりやすく解説していきます。
目次
セクハラ訴訟の流れ
「セクハラで上司・会社を訴える」などという話を聞きますが、セクハラ訴訟とは一般的に、セクハラされたことに対して慰謝料請求の訴えを起こすことです。
セクハラは行為の態様により、不同意わいせつ・不同意性交罪などにも該当するため、刑事裁判に発展することもありますが、この記事では民事訴訟の慰謝料請求について詳しく解説します。
セクハラ被害にあって加害者や会社を訴える場合、訴訟の手順は下記の通りです。
セクハラ訴訟の手順
- 訴状を提出する
- 裁判を提起する
- 口頭弁論
- 争点整理
- 証拠を調べる
- 判決
1.訴状を提出する
セクハラを訴えるためには、第一に訴状の提出が必要です。訴状には、以下の事項を記載します。
- 原告の氏名・住所
- 被告の氏名(加害者)、法人名(会社)・住所
- セクハラ行為の内容
- セクハラ行為によって受けた損害
- 求める損害賠償(慰謝料)額
2.裁判を提起する
証拠や証拠証明書と併せて訴状を提出することで裁判を起こします。
また弁護士を依頼する場合には訴訟委任状、加害者とともに会社も訴える場合には会社の商業登記簿謄本の提出も必要です。
訴状が受理されると、裁判所は被告に答弁書の提出を命じます。
答弁書は、被告が訴状の内容に対して認める部分と否認する部分、および被告自身の主張を記載した書類です。
3.口頭弁論
裁判所は、原告と被告を呼び出して、口頭弁論を開きます。
口頭弁論とは、裁判官の面前で、当事者や弁護士が主張や証拠を述べる手続きです。
裁判官は、当事者本人の態度や表情から主張の信憑性を判断します。
4.争点整理を行う
口頭弁論が終わると、弁論準備期日となります。
証拠の提出や証人の尋問に必要な準備を行い、それぞれの主張が整理されます。
5.証拠を調べる
争点整理が終わると、争点の主張に対して、真偽を判断するために証拠を調べることになります。
詳しくは後述しますが、セクハラの証拠としては、録音や日記などが挙げられます。
また、必要に応じて証人尋問が行われることもあります。証人尋問はセクハラの当事者のみならず、社内の目撃者などに行うこともあります。
6.判決
裁判官は、証拠に基づいて事実関係を認定し、法律に基づいて判断を下します。判決は、書面で示されます。
判決では、原告の請求が認められるか否か、および認められる場合の損害賠償額などが決定されます。
セクハラを訴えるときのポイント
ポイント①弁護士の選定
裁判は一人でも起こすことはできますが、セクハラの裁判は、弁護士に相談するのがおすすめです。
セクハラの裁判は、手続きや準備すべき書面、また実際の公判の手続きなどに高度な専門知識が要求され、準備に時間もかかります。
弁護士に相談・依頼することによって、法的な知識や経験をもとに慰謝料を請求することが可能です。
また、準備する書面や公判の手続きを弁護士に一任できるため、精神的な負担を軽減することもできるでしょう。
依頼する弁護士を探す方法は、インターネットでの検索や、知人からの紹介などがあげられます。
候補が決まれば、必ず面談して人柄や相性などを確認しましょう。また、報酬については不明点を残さないようにしっかり聞くことも重要です。
とはいっても、弁護士に相談するときにどんな内容を聞かれるのか、どこまで詳しく説明しなければならないのかなど、不安な点もあるでしょう。
弁護士に相談する際の費用や準備するものに関して詳しく知りたい方は、『セクハラを弁護士に相談する|費用・準備するもの・注意点を確認!』の記事をご覧ください。
ポイント②証拠を収集する
セクハラ訴訟のポイントは、セクハラ行為があったことを証明する証拠をどれだけ集められるかです。
たとえば、下記のような証拠を集めることが大切です。
セクハラ訴訟で重要となる証拠
- セクハラの録音、録画などの証拠
- セクハラについて記した日記、メモ
- セクハラによるストレスでうつ病などになった場合は医師の診断書
- セクハラの目撃者がいればその人の証言
- 会社や警察に相談した事実の記録
セクハラが繰り返し行われている場合は、スマホやボイスレコーダーなどでセクハラを受けている会話を録音するのも選択肢の一つです。
相手の承諾のない秘密録音になりますが、判例でも証拠能力が認められています。
もっとも、セクハラは人目につかない場所で行われるのが一般的なので、明確な証拠がないケースもあります。
その場合には、自分で書いた日記やメモの信ぴょう性が認められれば、証拠として使える可能性があります。
信ぴょう性を高めるためには、できるだけ具体的に記入することが大切です。
「5W1H」と呼ばれる、いつ・どこで・誰が・なにを・なぜ・どのようにセクハラがあったのか、そしてどのような気持ちになったかを詳細に記載しておきましょう。
客観的な証拠があることが、セクハラの裁判の勝敗を分けます。裁判を起こす際には、証拠をあらかじめ準備してから望むべきといえるでしょう。
ポイント③請求内容の決定
セクハラ訴訟のポイントの3つ目は、請求内容の決定です。弁護士と相談し、誰を訴えるのか、何に対して訴えるのかを決めます。
セクハラは、加害者だけでなく、会社が義務を怠った事や使用者責任を果たすべき事などを根拠に、会社に対しても賠償請求することができます。
セクハラで請求できる損害賠償は、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)と、債務不履行、使用者責任に基づく損害賠償(民法415条、715条)があります。
不法行為に基づく損害賠償は、加害者が故意に、あるいは過失によって被害者に損害をもたらしたことに対する賠償です。
セクハラの事案で言えば、加害者本人からのセクハラによって損害が生じたので、加害者本人に対して賠償を請求することができます。
債務不履行、使用者責任に基づく損害賠償とは、会社が負うべき義務を果たさなかったことに対する賠償です。
会社は職員の安全や健康に配慮するという安全配慮義務を負っており、その一種として、従業員に対するセクハラやパワハラがない安心して働ける職場環境を整る「職場環境配慮義務」があるとされています。
従業員の不法行為により第三者に損害が生じたときには、会社も損害賠償をしなければならないとされています(使用者責任)。
セクハラでは、会社が義務を怠ったことや使用者責任を果たすべき事などを根拠に、会社に対しても賠償請求することができるのです。
誰を訴えるのか明確にしてから訴状を提出しましょう。
セクハラ訴訟で争いになりやすいポイント
セクハラに基づく損害賠償請求では、実務上以下の点が争いとなりやすいです。
セクハラ訴訟で争いになりやすいポイント
- セクハラの事実の有無(対加害者)
- それが業務に関連して行われたか(対会社)
- 会社に職場環境配慮義務違反があったのか(対会社)
セクハラの事実の有無(対加害者)
セクハラをしてきた相手が、その性的言動の事実自体について争ってくることがあります。
また行為の解釈の点で、「確かにそのような行為は行ったが、これはセクハラには当たらない」といった反論をしてくるケースもよくあります。
それが業務に関連して行われたか(対会社)
会社に対して使用者責任に基づく損害賠償請求をするには、セクハラ行為が会社の業務の執行について行われたことが必要です。
会社側が「セクハラ行為は業務に関連したものではないので、使用者責任は生じない」等と反論してくることがあります。
会社に職場環境配慮義務違反があったのか(対会社)
会社側が「セクハラ防止措置を適切にとっていたので職場環境配慮義務違反は犯していない」と反論してくるケースがあります。
職場環境配慮義務違反があったかどうかという点では、職場がセクハラに対してどのような対策、対応をしていたかがポイントとなります。
具体的には、セクハラがあってはならない旨の方針を明確にし、労働者に周知・啓発していたか、セクハラの相談の申出があった後、事実関係を迅速かつ正確に確認したかなどが問われれます。
セクハラの裁判にかかる費用
セクハラの裁判にかかる費用は、主に裁判所への費用と弁護士費用があります。
裁判所への費用
裁判所への費用の内訳として、収入印紙代と郵便切手代があげられます。
収入印紙代は、訴状などの書類に貼付する裁判の申立手数料です。セクハラの慰謝料請求では、加害者・上司に請求する金額に応じて金額が変動します。
参考:手数料額早見表
郵便切手代は、裁判所から被告や関係者に郵便物を送付するための郵便費用です。郵便切手代は、約6,000円程度です。
弁護士費用
弁護士費用は、弁護士によって異なります。着手金、成功報酬金、実費などから構成されます。
着手金は、弁護士に依頼する際に支払う費用です。成功報酬金は、裁判で勝訴など一定の成果が得られた場合に支払う費用です。実費は、弁護士の交通費や証拠収集などの費用です。
着手金は、おおよそ10~30万円が相場となります。成功報酬金は相手から回収できた額(慰謝料・損害賠償金など)のうち、おおよそ20~30%が相場となります。
弁護士費用は、慰謝料の請求額によって大きく異なるため、どのくらいの費用がかかるか詳しく知りたい方は弁護士に相談しましょう。
セクハラの裁判例と慰謝料の相場
セクハラでの訴訟方法についてみてきましたが、慰謝料の相場はどれくらいなのでしょうか。実際の裁判例などでみていきましょう。
軽微なセクハラ行為に対する慰謝料は数万円から数十万円
過去の判例では、比較的、軽微なセクハラ行為に対する慰謝料は、数万円から数十万円です。具体的には下記の言動が該当します。
- わいせつな発言を繰り返す
- 懇親会で女性部下の身体に触れる
- ラブホテルに誘う など
一般的には上司から部下に対して、男性から女性に対するものが多いですが、逆のケースもあります。
労働基準法の違反行為があった場合などは100万円を超えることも
労働基準法の違反行為があった場合や、セクハラ行為が軽微ではないと判断された場合は、慰謝料が100万円を超えることもあります。また、セクハラが理由で病気になった場合なども同様です。
- セクハラ行為が長期間にわたって繰り返された
- うつ病などの治療が必要になった
- 退職を余儀なくされた(解雇・降格・減給・不利益な配置転換を含む) など
犯罪行為があった場合などの慰謝料は300万円超のケースも
不同意わいせつ・性交など刑法に抵触する犯罪行為があった場合の慰謝料の相場は、300万円を超えて高額になることもあります。
会社社長が女性従業員を無理やりホテルに連れ込み強姦した事件(千葉地方裁判所・平成10年3月26日)では、330万円の慰謝料が認められました。
示談交渉で解決する場合、金額が跳ね上がることもある
セクハラの解決を目指すときには、裁判に先立ってまずは交渉を申し入れてみて、交渉が決裂した場合に限って、裁判所に訴えるというのも一つの方法となります。
仮に交渉の段階で話がまとまるような場合には、裁判での相場よりも支払われる金額が跳ね上がる場合もあります。
相手方の会社としても、紛争の長期化を避けたいであるとか、セクハラの事実を公にされたくないといった思惑を持っているケースがあります。
裁判での相場よりも大きい金額を支払い、その代わり今後訴訟などを起こさないといった約束を取り交わす形で、セクハラの紛争が解決する場合もあるのです。
その他の判例や慰謝料の相場について詳しく知りたい方は、『セクハラで慰謝料を請求したい!慰謝料の相場や用意すべき証拠を解説』の記事もご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了