労災で後遺障害を認定してもらうためには?条件と手順を解説
通勤や勤務中の事故などで負傷し、障害が残ってしまった場合、その後の仕事や日常生活に支障をきたしてしまうこともあるかと思います。
そのような労災による障害に対して、「障害補償給付」という労災給付金を受け取れる可能性があります。
この記事では、労災による後遺障害の障害補償給付に必要な条件と手順を詳しく解説します。
目次
障害補償給付の対象となる後遺症とは
労災による負傷や疾病の治療が終了し、医師から「後遺症が残ります」と診断されても、労災保険法に定める障害等級に該当しなければ障害補償給付金を請求することはできません。
では、一体どのような後遺症が障害等級に該当するのでしょうか。そもそも後遺症とはどういった状態を指すのか確認しましょう。
後遺症とは
後遺症とは、治療を続けたにもかかわらず完治せず、将来的に回復が見込めない身体的または精神的な症状が残っている状態のことです。
たとえば、手指の切断など身体の一部を失ってしまった場合や、視力や聴力の低下などは後遺症に該当します。
しびれや、消えないあざが残ってしまうことも後遺症となります。
障害等級に該当する後遺障害とは
後遺症が残ってしまった場合、労災の障害補償給付を受けるには、後遺症が労災保険法における障害等級に該当する後遺障害であると認定を受けることが条件となります。
障害等級は、厚生労働省の労働者災害補償保険法施行規則の障害等級表により、重度の第一級か軽度の第十四級まで細かく分類されています。
障害の症状や程度が多岐にわたるため、細かく分類された等級に当てはめることで平等に給付が行われるようにしています。
そして、後遺症がどの等級に該当するかによって給付金の金額や給付対象となる期間が大きく変わってきます。
たとえば、手指を切断してしまった場合でも、親指か、その他の指なのか、またどのくらい失ってしまったのかで該当となる等級は変わります。
- 第十四級:一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
- 第十二級:一手のこ指を失ったもの
- 第九級:一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失ったもの
後遺症が残ってしまった場合、原因となる傷病が労災によるものであり、障害等級の条件にあてはまる後遺障害であると認定される事が障害補償給付を受給する条件になります。
後遺障害認定を受けるための条件と手順
医師から「症状固定」の診断を受ける
まずは治療のためにきちんと入通院して治療を受けましょう。たとえば、むちうちなど目に見えにくい症状や、改善の程度のわかりにくい症状もあるため、後遺障害等級認定の審査では受傷時の状態や症状の経過が重視されます。
症状が安定したら、医師から「症状固定」の診断を受けます。
症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善がみられない状態であるという医学的判断であり、医師にしか行えません。
症状固定後に残った症状である後遺症の審査を行うため、症状固定の診断がないと後遺障害認定の申請手続きは行えません。
症状固定の時期は傷病の状態によって変わります。担当の医師とよく相談されると良いでしょう。
必要な書類を揃える
症状固定と診断されたら、後遺障害認定の申請に必要な書類を用意しましょう。
必要な書類は以下の通りです。
後遺障害認定の申請に必要な書類
- 医師による診断書
- 後遺症の状態や程度を示す検査結果・レントゲン写真などの資料
- 障害補償給付支給申請書(様式第10号)※業務災害
- 障害給付支給申請書(様式第16-7号)※通勤災害
上記の書類と併せて、これまで行っていた業務が困難になってしまった場合などは、医師により細かい状態を明記した医師意見書を書いてもらっても良いでしょう。
障害補償給付支給申請書など会社に記入してもらう欄もありますが、協力的でない場合は空欄のままでも提出可能です。
労働基準監督署に提出し審査を受ける
書類の記入や資料がそろったら、労働基準監督署に障害補償給付の申請をします。
期待する後遺障害の認定を受けるためには、ご自身の症状が所定の障害等級に該当しなければなりません。
そのために、適切な検査や画像データ、また症状を詳しく記載した意見書を提出することも望ましいです。
適切な検査や画像データが不十分だと感じる方は、弁護士に相談することをおすすめします。
不十分な状態で申請しても、後遺障害認定を受けられなかったり、期待していた等級に該当しない可能性が高いからです。
労災の障害補償給付は、労働基準監督署の調査員が労働被災者本人、また医師と面談をして審査を行います。
調査が終了し、対象となる症状が労災の後遺障害認定基準に合致し、また労災によるものであると因果関係が認められると、後遺障害認定を受け障害補償給付を受けることが可能です。
後遺障害の認定が受けられなかったら
障害補償給付の申請をしても、なんらかの理由で認定を受けられないといったこともあります。
あるいは、認定は受けられても、納得のいく等級にはならなかったということもあるでしょう。
後遺症の認定が受けられないのは、後遺症が労災の後遺症認定基準に合致しなかった、または傷病と労災との因果関係を否定されてしまうことが主な要因として挙げられます。
ここでは希望した認定が受けられなかったときの対処法を確認していきます。
審査請求で決定の取り消しを求める
労働基準監督署長分の決定に不服がある場合には、審査請求と呼ばれる手続きで、処分の取消しを求めることが可能です。
以下のような不服がある場合に、審査請求を行えば、決定に対してもう一度審査をしてもらうことができます。
- 後遺障害等級に該当しない
- 後遺障害等級が期待していた等級に該当しなかった
- 傷病と労災の因果関係を否定された
審査請求は、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内に、後遺障害の申請をした労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に、「労働保険再審査請求書」を提出して行います。
審査請求でも納得の行く決定がされなければ、さらに再審査請求によってもう一度審査を請求することが可能です。
労働災害補償審査官が作成した謄本を送付された日から2か月以内に、労働保険審査会に書面を送付して申請します。
ここで労働保険審査会の決定にも不服がある場合には、6か月以内に取り消しを求めて、各地の地方裁判所の本庁に行政訴訟を提起することが可能です。
労災の後遺障害に詳しい弁護士に相談する
後遺障害の認定が受けられなかった場合は、労災の後遺障害に詳しい弁護士に相談するのも選択肢の1つです。
そもそも、後遺障害の症状を証拠によって証明することは、専門的な知識がなければ難しい場合もあります。
一度認定を受けられなかった場合でも、認定された後遺障害等級は覆る可能性もあります。
後遺障害等級の判断では、書面などの伝わり方次第では結論に影響が出てくるからです。
労災の後遺障害に詳しい弁護士は、認定を受けられなかった理由を、提出した書類や意見書などの証拠から考えます。
弁護士が等級認定が不適切であると判断した場合は、医師に対して適切な証拠を用意するように打診したり、審査請求や再審査請求への手続きを代理で行ったりします。
後遺障害の認定が受けられなかったとお悩みの方は、労災事故を数多く扱っている弁護士に相談してみましょう。
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まとめ
労災による後遺障害の障害補償給付に必要な条件と手順を解説しました。
正確な後遺障害認定を受けたい場合は、後遺障害に詳しい弁護士に相談しましょう。
労災の後遺障害は、相談する弁護士によって、認定されるかどうかが変わることもあります。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、一度相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了