職場におけるモラハラとは?モラハラの具体例や対処法を解説!
パワハラやセクハラは具体的にどういった行為かイメージできても、モラハラについてはあまり詳しくは知らない方も多いのではないでしょうか。
モラハラとは、立場に関係なく言葉や態度で人を精神的に傷つける行為です。
「モラハラ夫」といった言葉もあり、家庭内で発生するハラスメントと思われがちですが、職場内で発生するケースも珍しくありません。
今回の記事は、職場においてのモラハラとは一体どのようなことなのか、モラハラの具体例やモラハラを受けたときの対処法について説明していきます。
目次
モラハラとはどのような行為か
まず初めに、モラハラとは一体どのような行為なのか、パワハラ・セクハラとの違いは何なのかについて確認しましょう。
モラハラの定義
モラハラとは「モラル(倫理、道徳)ハラスメント(いやがらせ)」の略で、倫理や道徳に反したいやがらせという意味合いを持ちます。
わかりやすく言うと、暴言を吐いたり無視をするなどといった「言葉」や「態度」によって精神的ないやがらせをする行為を指します。
モラハラと他のハラスメントの違い
モラハラは他のハラスメントと混同しやすい行為もあります。モラハラとパワハラ・セクハラの違いを確認しましょう。
モラハラとパワハラ
モラハラと似た言葉にパワハラがありますが、モラハラとパワハラの違いは、職場内での優越的な関係性を利用しているかどうかです。
パワハラとは、職場内における優越的な関係性を利用して行われるいやがらせ行為です。
ここでいう優越的な関係性は、役職の関係性だけではありません。上司よりも知識や経験が豊富な部下が、上司に対していやがらせを行う場合も、パワハラとみなされることがあります。
一方、モラハラとは、立場の優越性は関係なく行われるいやがらせ行為です。
同様の精神的ないやがらせ行為でも、立場の優越性によって行われる行為かどうかで判別することができます。
パワハラの定義や認定される行為について知りたい方は『上司をパワハラで訴える方法は?訴える際に必要な証拠を解説』も参考にしてください。
モラハラとセクハラ
モラハラとセクハラの違いは、性的な嫌がらせ行為の有無です。身体接触を含む性的な嫌がらせ行為があればセクハラで、モラハラは言葉や態度で人を精神的に傷つける行為です。
セクハラの定義に関しても『セクハラ被害の相談ができる無料窓口7選!抱え込まずに相談しよう』の記事で解説しています。
職場におけるモラハラの具体例
モラハラは「言葉」や「態度」によって精神的ないやがらせをする行為であることがわかりました。
では、具体的にどのようなパターンがモラハラにはあるのか確認しましょう。
言葉で精神的苦痛を与える
- 「バカ」「早く辞めろ」「死ね」などの暴言
- 「デブ」「ハゲ」などの身体的な特徴をからかう侮辱行為
- 「役立たず」「不快」などの能力や人格の否定
上記はモラハラにおける典型的な例です。
また、これらのように直接的なものではなく、陰口といった間接的なものもモラハラに含まれます。
また、部下が上司に対してモラハラをするケースも存在します。
上司が部下の遅刻に対して注意するといった業務上必要な指導に対して「それってパワハラですよ」とパワハラをたてにして言い返すようなケースもモラハラになりえます。
人間関係を孤立させる
言葉で精神的苦痛を与えるといった「する」ことによるモラハラ以外に、「しない」ことによるモラハラも存在します。
具体的には以下のようなケースです。
- 話さない(無視をする)
- 社内メールなどの連絡をその人だけしない
- 社内の飲み会などにその人だけ誘わない
これらのような「しない」ことによるモラハラは、暴言や侮辱などの「する」ことによるモラハラと違ってわかりづらいことが特徴です。
表立って何かをされているわけではないので、被害を受けている方もどうしていいかわからず、徐々に精神的に追い込まれてしまうことがあるでしょう。
プライベートへの過度な介入
- 恋人のことをしつこく聞いてくる
- 休日にしつこく誘われる
- 休日の過ごし方(趣味など)についてバカにされる
業務に関係のないようなプライベートな話をしつこく聞いたり否定することもモラハラにあたります。
自分自身は嫌だと感じて周りに相談をしたとしても、「向こうも悪気があるわけではないんだし」「嫌なら本人に直接言えばいい」と言われてしまうこともあります。
仕事の妨害
- 過剰な仕事量を押し付ける
- 業務上明らかに不要な仕事をさせる
- 雑用だけをやらせたりと本人の力量に合っていない過小な仕事しかやらせない
- 資料などの情報をわざと渡さずに、仕事のミスを誘発する
上記のような仕事を利用して行われるモラハラも存在します。
「仕事が終わらなかったりミスをするのは自分の能力が低いから」「雑用ばかりやらされて自分は必要のない存在なのでは」とモラハラの被害を受けている方を精神的に追い詰めます。
職場内のモラハラに対する罰則
モラハラはこのように非常に悪質で許されがたい行為ですが、直接的にモラハラについて規定された法律はありません。
そのため、何が法律違反にあたるのかといった明確な基準がなく難しい問題になります。
しかし、程度や状況によっては法的責任を問われる可能性もあります。どのような行為に及んだら、法的責任を問われる可能性があるのか確認しましょう。
個人への罰則
職場で皆が見ている前での暴言や侮辱は、名誉毀損罪(刑法230条)・侮辱罪(刑法231条)に当てはまる可能性があります。
また、モラハラによってPTSDなどの精神疾患になってしまった場合は、モラハラとの因果関係が認められたら傷害罪(刑法204条)が適用されることもあります。
名誉毀損罪や侮辱罪のような刑法上の罰則は適用されない場合でも、不法行為(民法709条)が成立する可能性があります。
その場合は、精神的苦痛に対する損害賠償金として慰謝料を加害者に請求することができます。
会社への罰則
労働契約法では、使用者が、労働者の生命身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう配慮するという「安全配慮義務」について定めています(労働契約法5条)。
「安全配慮義務」の内容として、職場におけるいじめやハラスメントが生じないように職場環境を整 える義務があるとされています。
モラハラ行為が見られるという場合は、職場が安全配慮義務に違反している状態にあるといえるのです。
そのため、会社は債務不履行責任(民法第415条)による損害賠償の支払い義務が生じる可能性があります。
また、会社は使用者責任(民法第715条)といって、業務時間中に従業員が他者へ不法行為を犯した場合は使用者として損害賠償責任を負います。
モラハラは、不法行為として認められる可能性があるので、モラハラによる不法行為が成立したら会社は被害を受けた従業員に対して慰謝料を支払う義務が生じます。
モラハラは組織的な問題になりやすい
パワハラやセクハラは1対1の関係で成立しますが、モラハラは必ずしもそうではありません。
誰かから受けた嫌な言動も、周囲の人がフォローしてくれることで大きな問題にならないことも多々あります。
一方で、特定の個人から受けた行為は大きな問題ではなかったものを、周りの人が無視したり、誰も助けてくれなかったりすることで、だんだんと精神的苦痛が増してハラスメント問題に繋がる場合もあるのです。
それぞれの人は悪意がある訳ではないのに、そうした職場全体の雰囲気そのものがモラハラを招くということにも注意が必要です。
職場内のモラハラへの対処法
モラハラは個人に対しても、会社に対しても罰則が適用される可能性があることがわかりました。
では、もしモラハラを受けた場合はどのようにして対処していけばいいのでしょうか。
証拠を集める
まずはモラハラを受けていると思ったら、モラハラの事実を証明できる証拠を集めましょう。
暴言や侮辱、仕事の妨害などといったモラハラには、音声の録音や該当するメールの保管が有効です。
相手から渡された書類やメモがあれば保存しておきましょう。しかし、人間関係を孤立させるようなモラハラは、音声の録音などは厳しいかもしれません。
そういった場合は、下記の事項を被害がある度にスマートフォンのメモや日記などに記録しておきましょう。
記録しておくべきこ事項
- いつ
- だれから
- どこで
- どのようなモラハラをされたかか
- 周りには誰がいたか
- その時のあなたの気持ち
上記の点を踏まえたスマートフォンのメモや日記は、証拠になり得ます。書き換えることが難しいものであれば、より信ぴょう性が増すでしょう。
また、モラハラによる精神的なストレスで医療機関を受診している場合は、カルテや診断書が証拠になります。
社内の相談窓口に相談する
ある程度の規模の会社の場合、社内にカウンセラーなどがいる相談窓口があります。
その場合は、社内の相談窓口に証拠をもって相談にいきましょう。
プライバシーに配慮されているところが多く、匿名での相談もできる場合が多いです。
ただし、会社によっては相談内容が筒抜けで加害者にモラハラの相談をしていることを発覚されてしまったなんてこともあり得るので注意が必要です。
社外の相談窓口に相談する
社内に相談窓口がない場合や社内の人に絶対に知られたくない場合は、社外の相談窓口に相談してみましょう。
社外の相談窓口は全国の労働局・労働基準監督署内に設置されている「総合労働相談センター」や法務省に設置されている「みんなの人権110番」などがあります。
「総合労働相談センター」は面談・電話どちらの相談も可能です。
「みんなの人権110番」は電話での相談ができます。
参考:みんなの人権110番
弁護士に相談する
上記の社内・社外相談窓口では解決できないと感じたら、弁護士への相談も有効です。
集めた証拠を基に、モラハラの違法性の有無を判断してもらったり、今後の対応を代理人として任せることもできます。
弁護士と聞くと真っ先に裁判を想像されるかもしれませんが、裁判までいくのはあくまで最終手段である場合が多いです。
きちんと手順を踏んで、まずは本人の代理人として会社と交渉してそれでも交渉が上手くまとまらずに、本人が訴えるという選択をした場合に裁判になります。
初回の相談は無料という弁護士事務所も多いので、社内外の相談窓口で解決しなかった場合は違法性の有無の判断や今後の対応について相談してみてはいかがでしょうか。
ハラスメントを弁護士に相談するメリット・デメリットを知りたい方は『パワハラなどのハラスメントは弁護士に相談!メリットとデメリットを解説』の記事をご覧ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了