マタハラで上司を訴える!ケースと判例を弁護士が解説
「上司のマタハラで悩んでいる」
「上司のマタハラを訴えたい」
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、労働者に対し、妊娠や出産・育児休暇などを理由に、解雇や雇い止め・降格などといった不利益な取り扱いをおこなうことをいいます。
マタハラで解雇や降格などの不利益な取り扱いを受けた方には、処分に納得がいかずに「マタハラを訴えたい」とお考えの方もいるでしょう。
マタハラで不利益な取り扱いを受けたり働けなくなったりした場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
今回は、マタハラを訴えることができるケースや、マタハラの判例について解説します。
目次
マタハラで訴えることを検討すべきケース
マタハラで訴えることを検討すべきケースとして、以下のようなものが挙げられます。
訴えることを検討すべきケース
- 妊娠を理由に不利益な取り扱いを受けた
- 育休から復帰しても原職に戻れない
- 転勤で育児が難しくなった
なお、企業は「従業員が他人に損害を発生させた場合に、会社もその従業員と同じように被害者に対して損害賠償の責任を負う」ことになっています(使用者責任)。
そのため、マタハラで訴える際には、マタハラをした上司・同僚といった加害者本人だけでなく、会社も訴えることができます。
妊娠などを理由に不利益な取り扱いを受けた
使用者(会社)が労働者に対して、妊娠や出産、育休などを理由に不利益な取り扱いをおこなうことは、法律で禁じられています(男女雇用機会均等法9条、育児・介護休業法10条)。
ここでいう不利益な取り扱いとは、解雇や雇い止め、退職勧奨、降格、減給といった措置が考えられます。
「妊娠を理由に降格された」「出産を理由に減給された」という場合には、マタハラで訴えることができるかもしれません。
育休から復帰しても原職に戻れない
育児休業から労働者が復帰するときは、原職あるいは原職相当職への復帰が原則とされています(育児・介護休業法22条)。
参考:厚生労働省|子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針
原職とは、育休を取得する前に就いていたもとの職のことを指します。
また、原職相当職については、組織の状況や雇用管理の関係などによってさまざまですが、以下のような範囲を満たすものとされています。
原職相当職の範囲
- 休業後の職制上の地位が休業前より下回っていない
- 休業前と休業後とで職務内容が異なっていない
- 休業前と休業後とで勤務する事業所が同じ
参考:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)|育児・介護休業法のあらまし
「育休から復帰したのに、原職に戻れない」という場合は、マタハラを理由に訴えることを検討しましょう。
転勤で育児が難しくなった
会社側には、転勤によって育児が困難になる労働者については、転勤にあたって配慮する義務があると法律で定められています(育児・介護休業法26条)。
「配慮義務を無視して転勤を命じられ、大きな不利益を被った」といった場合には、マタハラとして訴えることを検討してもいいでしょう。
損害賠償が認められたマタハラの判例
妊娠を理由とした暴言や解雇で損害賠償が認められた例
幼稚園教諭の女性が、妊娠を理由に暴言の被害や解雇を受けたことについて、勤務していた幼稚園長と、幼稚園の経営グループを提訴した事件です(『今川学園木の実幼稚園事件』大阪地判平14.3.13)。
幼稚園教諭の女性は、妊娠が判明した際、勤務先の幼稚園の園長に中絶するよう要求され、結果的に流産してしまったばかりか、その後も退職を強要され解雇されてしまいました。
これについて、女性は男女雇用機会均等法に反するとして、園長と幼稚園経営グループに対して損害賠償を請求しました。
結果として、妊娠を理由に中絶を勧告したり、退職の強要や解雇をしたりすることは、男女雇用機会均等法違反であるとして、解雇の無効と慰謝料250万円の支払いを園長と経営グループに命じることになりました。
妊娠を理由とした降格で損害賠償が認められた例
理学療法士の女性が、妊娠を理由に降格されたことについて、勤務していた病院を提訴した事件です(『広島中央保健生協事件』最判平26.10.23)。
もともと副主任の地位にあった理学療法士の女性は、妊娠がわかった後に軽易な業務への転換を希望したところ、希望通り業務を転換してもらい、新部署に異動することになりました。
新部署ではすでに別の主任がいたため、女性は副主任の職位を解かれました。
女性は出産後、産休や育休を終えて病院に復職したのですが、病院は復職後も女性を副主任に復帰させませんでした。
これについて、女性は妊娠に伴う配置換えを契機として降格させたことは違法だとして、病院側に損害賠償等を請求しました。
結果として、女性が妊娠を理由に降格されたことは、男女雇用機会均等法違反であり、無効であるとして副主任手当(月額9500円)・慰謝料100万円など、総額175万円あまりの損害賠償を病院側に命じることになりました。
育休復帰についての嫌がらせで損害賠償が認められた例
出産後そのまま育休を取得し、職場に復帰しようとした女性が、会社からの提示を拒否したところ解雇されたことについて、会社を提訴した事件です(東京地判平29.7.3)。
ドイツ科学誌出版社の日本法人に勤務していた女性は、育休後に職場復帰を申請しました。
しかし、会社側は「インドに転勤するか」「大幅に賃金の下がる職務への配置転換を受け容れるか」を提示しました。
女性がどちらの提示も拒否したところ、女性は解雇されてしまいました。
これについて、女性は予告もなく受け入れがたい業務を提示され、解雇までされたことで精神的苦痛を負ったとして、会社側に損害賠償を請求しました。
結果として、女性が育休復帰後に受け入れがたい業務を提示されたり、解雇されたりしてしまったことは、育児介護休業法違反であるとして、解雇の無効と慰謝料50万円を会社側に命じることになりました。
マタハラを訴えるなら弁護士へ相談
マタハラを訴えたいという方は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に相談するときのポイント
マタハラを相談する際には、以下のようなポイントを押さえておきましょう。
マタハラを相談するときのポイント
- メールや音声など、マタハラ被害の内容についての証拠を残しておく
- 降格通知書や診断書など、マタハラによって受けた影響の証拠を残しておく
マタハラによって不利益な扱いを受けたという証拠を残しておくことで、相談内容がわかりやすくなったり、その後の手続きをスムーズに進めやすくなったりします。
関連記事
弁護士に相談するメリット
弁護士に相談すれば、自身が受けた被害がマタハラと認定されるのか法的な視点で判断してもらえるほか、慰謝料請求といった法的な手続きを依頼できます。
また、法的トラブルに発展した場合でも、スムーズに対応することができます。
弁護士に相談するメリット・デメリットについては『パワハラなどのハラスメントは弁護士に相談!メリットとデメリットを解説』の記事をご覧ください。
まとめ
マタハラで不利益な取り扱いを受けたり働けなくなったりした場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、自身が受けた被害がマタハラと認定されるのか法的な視点で判断してもらえるほか、慰謝料請求といった法的な手続きを依頼できるというメリットがあります。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了