股関節脱臼の後遺症|交通事故で股関節を脱臼・骨折したら
股関節脱臼は、骨盤と大腿骨の間の関節が正しい位置からずれる重大なケガです。
主な症状は脚を動かせないほどの強い痛みで、骨頭や寛骨の骨折、坐骨神経損傷などを伴うことがあります。
股関節脱臼の後遺症として機能障害、変形障害、神経症状、動揺関節が残った場合、後遺障害1級6号〜14級9号のいずれかが認定される可能性があります。
股間脱臼の後遺障害慰謝料の相場は110万円〜2,800万円です。
今回は、股関節脱臼の症状や治療法、股関節脱臼骨折との違い、後遺症、後遺障害認定基準や慰謝料の相場について解説します。
目次
股関節脱臼の症状・治療
交通事故によって、股関節(こかんせつ)を脱臼または脱臼骨折することが考えられます。
脱臼と脱臼骨折は関節が正常な位置からずれた状態なのは共通していますが、それに加えて関節周辺の骨が骨折しているかという点で異なります。
特に骨折を伴う股関節脱臼骨折は、早急な手術が必要となるほど重いケガです。
股関節脱臼の症状
股関節脱臼とは、骨盤と大腿骨(だいたいこつ)との間の関節である股関節が正しい位置関係からずれて脱臼している状態を指します。
股関節脱臼の主な症状は、脚を動かすことができなくなるほどの強い痛みです。
また、骨頭や寛骨(かんこつ)の骨折、坐骨(ざこつ)神経損傷など股関節脱臼に関連するケガを負うことも多いです。
大腿骨骨頭部への血液供給が遅れた場合、骨組織壊死のリスクが高まるため、早期に整復する必要があります。
股関節脱臼の原因
事故の衝撃によって大きな外力が加わったことが、股関節脱臼の原因です。
股関節脱臼のなかでも多数を占める後方脱臼は膝および股関節を屈曲した状態で、膝に対し強い力が加わり大腿骨の骨頭が後方にずれ込み、骨盤の寛骨から外れることによって生じます。
たとえば、交通事故の際に膝をダッシュボードに強打したことが原因で股関節脱臼を負うことがあります。
股関節脱臼の治療
骨組織壊死のリスクがあることから、なるべく早く股関節を整復し、リハビリを行うことになります。
骨盤骨折などほかのケガが合併している場合、手術が必要になる場合もあります。
股関節脱臼骨折の症状・治療
股関節脱臼骨折の症状
股関節脱臼骨折は、股関節が脱臼した際に大腿骨などが骨折した状態を指します。
骨折する箇所としては、大腿骨の根本、大腿骨頸部(けいぶ)や大腿骨転子部(てんしぶ)などが多いです。
股関節脱臼骨折の症状として、歩行困難や股関節痛、殿部痛が生じることが考えられます。
頸部骨折は、痛みは比較的小さいですが、頸部を通る動脈も損傷することによって栄養がまわらず治りにくく、壊死する可能性が高いケガです。
転子部骨折の場合、痛みはひどいですが、転子部の周りは血行がよく筋肉組織に囲まれているため、頸部骨折と比べて骨が癒合しやすく、治りやすいケガといえます。
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股関節脱臼骨折の原因
股関節脱臼骨折の原因として、主に事故の衝撃などにより大きな外力が加わったことが考えられます。
また、高齢者の場合、ごく小さな衝撃でも股関節脱臼骨折を負うことがあります。
股関節脱臼骨折の治療
早期に手術を受ける必要があります。
転子部骨折の手術では中心部に銅線が通っている中空スクリューや骨接合材であるハンソンピン、骨内部を繋ぎとめる順行性髄内釘などを用いた骨接合術が行われます。
頸部骨折の場合、骨組織壊死の可能性が考えられるため、骨折した骨頭や頸部を切除して人工関節や人工骨頭へ置き換えることになります。
股関節脱臼の後遺症とは?
股関節脱臼の後遺障害
股関節脱臼・股関節脱臼骨折の後遺症として、機能障害、変形障害、神経症状、動揺関節が残ったとして後遺障害1級6号〜14級9号のいずれかが認定される可能性があります。
後遺障害認定を受けた場合、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害認定の手続きの流れ
- 入通院治療後、医師から症状固定と診断される
- 医師に依頼して後遺障害診断書を作成してもらう
- 保険会社を通じて、審査機関に申請書類を提出する
- 審査機関で審査が行われ、保険会社を通じて結果が通知される
後遺障害認定を受けるには、後遺障害申請を行い、各等級の基準を満たすとして審査機関による審査を通る必要があります。
そのためにも各後遺症の内容、等級の認定基準を把握し、認定されるために十分な対策をしておく必要があります。
交通事故案件を多く扱う弁護士であれば、認定のポイントや対策を熟知しているため、後遺障害認定の可能性を高められます。
股関節脱臼の後遺症(1)機能障害
機能障害とは、股関節脱臼によって股関節を動かすことができる範囲(可動域)が制限される症状です。
股関節脱臼の後遺症として機能障害が残った場合、後遺障害1級6号〜12級7号のいずれかが認定される可能性があります。
股関節脱臼による機能障害の後遺障害慰謝料の相場は、290万円〜2,800万円です。
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
---|---|
1級6号 | 両足の3大関節のすべてが強直(固まって動かなくなる)したもの 2,800万円 |
5級7号 | 片足の3大関節のすべてが強直したもの 1,400万円 |
6級7号 | 3大関節のうち2つの関節について、強直したか、完全弛緩性麻痺(自動運動で関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったものを含む)したか、人工関節・人工骨頭を挿入置換してその可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの 1,180万円 |
8級7号 | 3大関節のうち1つの関節について、強直したか、完全弛緩性麻痺(自動運動で関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったものを含む)したか、人工関節・人工骨頭を挿入置換してその可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの 830万円 |
10級11号 | 3大関節のうち1つの関節について、関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されたか、人工関節・人工骨頭を挿入置換したもの 550万円 |
12級7号 | 3大関節のうち1つの関節について、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの 290万円 |
3大関節(股関節、膝関節、足首関節)に機能障害が残った場合
股関節だけでなく膝関節と足首の関節が強直(固まって動かなくなる)した場合は、1級6号または5級7号に認定されます。
股関節を含む2つの関節に機能障害が残った場合
股関節を含む2つの関節が強直、完全弛緩性麻痺(他人に動かしてもらえば動くものの、自分の力では動かせない状態)、完全弛緩性麻痺に近い状態(自分の力で動かせる可動域が健康なものと比べて10%以下)であれば、6級7号に認定されます。
股関節だけに機能障害が残った場合
股関節だけに強直、完全弛緩性麻痺となった場合は、8級7号に認定されます。
また、股関節の可動域が制限された場合は、10級11号または12級7号に認定されます。
人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合
さらに、人工関節・人工骨頭を挿入置換すれば10級11号、そのうえで可動域角度が1/2以下に制限されていれば8級7号に認定されます。
股関節脱臼の後遺症(2)変形障害
変形障害とは、股関節脱臼によって骨盤が正しい位置で癒合せず、変形する症状です。
股関節脱臼の後遺症として変形障害が残った場合、後遺障害12級5号に認定されます。
股関節脱臼による変形障害の後遺障害慰謝料の相場は、290万円です。
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
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12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 290万円 |
「著しい変形」とは、裸になったときに骨盤が変形していることが明らかにわかる場合を指します。
変形がX線写真によって、はじめて発見できる程度の変形は、12級5号にはあてはまりません。
股関節脱臼の後遺症(3)神経症状
神経症状とは、股関節脱臼による痛みや不快感、しびれ、眩暈、吐き気などの後遺症を指します。
股関節脱臼の後遺症として神経症状が残った場合、後遺障害12級13号または14級9号に認定されます。
股関節脱臼による神経症状の後遺障害慰謝料の相場は、110万円〜290万円です。
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
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12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの 110万円 |
CTやMRIなどの画像診断で後遺症の存在が医学的に証明された場合は、後遺障害12級13号に認定されます。
画像診断など、他覚的な後遺症の存在はないものの、受傷の状況、症状、治療の経過、各種神経学的検査の結果、後遺症が発生していると説明可能な場合は14級9号に認定されます。
股関節脱臼の後遺症(4)動揺関節
動揺関節とは、股関節脱臼によって関節の安定性が損なわれ、可動域が異常に広がった状態を指します。
股関節脱臼の後遺症として動揺関節を負う場合、8級相当、10級相当、12級相当のいずれかに認定される可能性があります。
股関節脱臼による動揺関節の後遺障害慰謝料は、290万円〜830万円です。
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
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8級相当 | 常に硬性補装具を必要とするもの 830万円 |
10級相当 | 時々硬性補装具を必要とするもの 550万円 |
12級相当 | 重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの 290万円 |
硬性補装具とは、腰や関節を固定したり支えるために用いられる、プラスチックや金属でできた医療機器です。
動揺関節が後遺障害認定される要件について詳しくは、『交通事故による動揺関節の後遺障害|等級や認定のための3ポイント』をお読みください。
股関節脱臼の後遺障害慰謝料
股関節脱臼の後遺障害慰謝料の相場は、110万円〜2,800万円です。
しかし、増額交渉をしないまま相手側の保険会社から提示された通りに示談をしてしまうと、相場より低い慰謝料しかもらえない傾向にあります。
これは、相場の慰謝料額を算定する弁護士基準ではなく、保険会社独自の基準である任意保険基準を用いて慰謝料を算定しているためです。
慰謝料算定の3基準
- 自賠責基準
加害者側の自賠責保険から支払われる慰謝料の算定基準。自賠責保険会社は最低限の補償をするので、最低限の金額となる。 - 任意保険基準
加害者側の任意保険会社が用いる慰謝料の算定基準。自賠責基準に少し上乗せした程度であることが多い。 - 弁護士基準(裁判基準)
弁護士や裁判所が用いる慰謝料の算定基準。過去の判例にもとづいた法的正当性の高い基準。
本来、被害者が受け取ることができる適正な金額は、法的根拠や過去の判例に基づいて慰謝料額を算定する弁護士基準による金額です。
相場の慰謝料を受け取るためには、保険会社が支払い予定の慰謝料額を提示してきてもすぐに示談には応じず、保険会社と増額交渉を進めてお互いが合意をしなければいけません。
日々、多くの交通事故を扱う保険会社の担当者を相手に増額交渉をするのは容易なことではありません。
しかし、弁護士であれば、適正な慰謝料額を算定し、法的根拠や算定根拠を示して合理的な主張・反論をできるので慰謝料増額の可能性を高めることができます。
無料相談
股関節脱臼の後遺症で請求できる示談金
股関節脱臼の入通院慰謝料
股関節脱臼・股関節脱臼骨折を負った場合、後遺障害等級の認定の有無にかかわらず、入通院慰謝料を請求することができます。
入通院慰謝料とは、入院・通院を余儀なくされるほどの交通事故でのケガで受けた精神的苦痛に対する賠償金です。
入通院慰謝料は、症状の程度に応じて重傷用、軽症用の2つの算定表を使い分けて算定します。
相場の慰謝料額を受け取るためには、医師の指示に従いながら適切な頻度で継続的に通院を続けることがポイントです。
また、整骨院に通うような場合も必ず医師の許可を得たうえで整形外科と併用することも重要です。
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股関節脱臼で請求できる示談金の内訳
股関節脱臼で請求できるのは、慰謝料だけではありません。
慰謝料以外にも、以下のような損害を示談金として請求できます。
- 治療費:治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用など
- 休業損害:治療のために仕事を休んだことで生じる減収に対する補償
- その他:治療のために必要であった交通費、付添費用など
- 逸失利益:後遺障害により減収することとなる将来の収入に対する補償
- 物的損害:自動車や自転車の修理代、代車費用など
ただし、相手側の保険会社から提示される示談書にも内訳として示されているこれら損害額が、相場よりも低い、算定根拠に欠く金額であるということも少なくありません。
慰謝料と同じく増額の余地がありますので、示談書が届いたら弁護士に見せて、適正な金額がいくらか算定してもらいましょう。
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股関節脱臼の後遺症は弁護士に相談!
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股関節脱臼は、症状の重さによっては後遺障害1級にも認定される可能性のある、非常に重いケガです。
股関節脱臼・股関節脱臼骨折を問わず、後遺症が残れば歩行や運動が困難になったり痛みやしびれが続くなど、日常生活に及ぼす影響も大きいです。
後遺症が残らないよう適切な通院・治療をすることがベストですが、それでも後遺症が残った場合、後遺症は残らなかったものの慰謝料に不満がある場合には弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相談することには、以下のメリットがあります。
- 加害者側の保険会社との連絡を一任できるので、治療や職場復帰に専念できる
- 後遺障害等級の認定に向けて必要な資料の収集や申請手続き、十分な対策を立ててもらえる
- 法的な根拠に基づく説得力のある主張ができるので、慰謝料・示談金の交渉を有利に進めてもらえる
アトム法律事務所では、交通事故の被害者の方向けに電話・LINEでの無料相談を受け付けております。
正式に依頼された際に具体的にどのようなサービスが受けられるか、弁護士費用はどのくらいかかりそうか、という点もご確認いただけます。
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しかし、弁護士費用特約を利用すれば弁護士費用を支払わずに弁護士に相談・依頼することができます。
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弁護士費用特約とは、弁護士に支払う相談料や費用について、保険会社が代わりに負担してくれるという特約です。
負担額には上限が設定されていますが、多くのケースで生じる相談料や費用は上限の範囲内に収まるため、金銭的な負担なく弁護士への相談や依頼が可能となります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了