鼻骨骨折の後遺症|治療と後遺障害認定基準の基礎知識

鼻骨骨折の症状は鼻血、痛み、鼻筋の変形で、しばらくすると腫れが出て骨折の有無が判断しづらくなります。
受傷後1〜2週間で骨の癒着が進むため、早期の治療が重要です。
後遺症として残る可能性がある醜状障害や嗅覚障害は、後遺障害7級12号〜14級相当に認定される可能性があり、認定を受けた場合の後遺障害慰謝料の相場額は110万円〜1,000万円となるでしょう。
今回は、鼻骨骨折の症状や治療、後遺障害等級認定基準、後遺障害慰謝料の相場、その他に請求できる損害などについて詳しく解説します。
目次
鼻骨骨折の症状・治療
鼻骨骨折の症状

鼻骨骨折の症状は鼻血、痛み、鼻筋の変形ですが、しばらくすると腫れてしまうため、骨折したかどうかわからなくなってしまいます。
鼻骨は顔面において突出しており、強度も高くないため、比較的よく折れやすい部位のひとつです。
また、鼻中隔の左右の粘膜の間に血腫(鼻中隔血腫)ができてしまうと軟骨壊死によって鼻筋が中央でへこんでしまう鞍鼻(あんび)変形が生じることがあります。
受傷後1〜2週間が過ぎると、骨の癒着が進むため修復が困難となることから、なるべく早く整復しなければなりません。
鼻骨だけでなく頭蓋骨も骨折している場合、鼻から脳髄液が出てくることもあるので、いずれにしても早めに医療機関を受診する必要があります。
鼻骨骨折の原因
事故や転倒、スポーツや喧嘩時の衝撃などにより鼻に外力が加わることが原因となります。
肘が当たっただけでも折れてしまうこともある薄い骨なので、交通事故においても比較的弱い衝撃でも鼻骨骨折を負うことがあります。
鼻骨骨折の治療
組織の増殖と骨の癒着が始まる前に徒手整復を行います。
骨折後は腫れて骨折したかどうかわからないこともあるので、鼻の骨折の状況についてX線やCTで検査を行い、外傷前の写真を確認します。
局所麻酔をしたうえで、鼻腔内に骨や骨膜を起こすエレバトリウムや鉗子(かんし)を挿入して整復したり、外から骨を鉗子で挟んで元通りの形に整復するのです。
より正確な整復が必要であったり、痛みに耐えられないようであれば全身麻酔をしたうえで手術することもあります。
手術後は、鼻の中にガーゼを入れる内固定、鼻の外からギブスを当てる外固定を行うこととなるでしょう。
鼻骨骨折の後遺症|等級認定基準と後遺障害慰謝料
鼻骨骨折の後遺症については後遺障害等級認定を
鼻骨骨折の後遺症として、鼻の欠損、鼻の変形といった醜状障害、嗅覚脱失などが残った場合、後遺障害等級に認定される可能性があります。
後遺障害等級に認定されれば、後遺障害慰謝料を請求することができるため、慰謝料を増額させることが可能です。
後遺障害に認定されるためには、後遺障害等級認定の申請を行い、各等級の認定基準を満たすかどうかの審査を受ける必要があります。
後遺障害認定の手続きの流れ

- 入通院治療後、医師から症状固定と診断される
- 医師に依頼して後遺障害診断書を作成してもらう
- 保険会社を通じて、審査機関に申請書類を提出する
- 審査機関で審査が行われ、保険会社を通じて結果が通知される
後遺障害等級認定に向けて、各等級の認定基準や必要な検査を把握しておく必要があります。
嗅覚減退や鼻づまりの後遺障害認定基準
鼻骨骨折の後遺症として鼻呼吸が困難になったり、嗅覚が完全に消失してしまう嗅覚脱失や嗅覚が弱くなる嗅覚減退といった嗅覚障害が残ることがあります。
嗅覚障害の中でも鼻骨骨折や鼻中隔骨折で鼻の一部が閉鎖して起こる障害を呼吸性嗅覚障害といいます。
嗅覚脱失・呼吸困難の後遺障害として、後遺障害12級相当、14級相当のいずれかに認定される可能性があるのです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
12級相当 | 嗅覚脱失または鼻呼吸困難 |
14級相当 | 嗅覚減退 |
後遺障害12級相当・14級相当の認定基準
鼻呼吸困難とは両方の鼻で鼻づまりが起こって鼻呼吸が困難な場合を指し、後遺障害12級相当に認定されます。
嗅覚脱失・嗅覚減退については、T&Tオルファクトメーター(基準嗅覚検査)と呼ばれる検査方法が用いられるでしょう。
具体的には、においがする5種類の液体を8段階の濃度ごとに、ろ紙に染み込ませ、どの段階までにおいを感じることができるのかを調べます。
認定基準 | T&Tオルファクトメーターの平均的な嗅覚損失値 |
---|---|
嗅覚脱失(12級相当) | 5.6以上 |
嗅覚減退(14級相当) | 2.6以上5.5以下 |
また、嗅覚脱失については、静脈性嗅覚検査(アリナミン静脈注射)の結果だけでも判断してもらえます。
具体的には、においの強い物質を注射して、そのにおいが肺から呼気と一緒に鼻腔を通過するまでの時間やにおいを感じる時間などを検査することになるでしょう。
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鼻の欠損の後遺障害認定基準
鼻骨骨折により鼻が欠損し、呼吸や臭覚といった鼻の機能が低下してしまった場位には、後遺障害9級5号に認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
9級5号 | 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
後遺障害9級5号の認定基準
「鼻を欠損」とは、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損を指します。
また、「その機能に著しい障害を残すもの」とは、鼻呼吸困難や嗅覚脱失を指します。
醜状障害の後遺障害認定基準
醜状(しゅうじょう)障害とは、交通事故による怪我の傷跡が残ってしまった状態を指します。
鼻骨骨折の後遺症として醜状障害が残った場合、後遺障害7級12号、9級16号、12級14号のいずれかに認定される可能性があるのです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの |
後遺障害7級12号の認定基準
後遺障害7級12号の認定基準の「外貌に著しい醜状を残すもの」とは、「顔面部に鶏卵大以上の瘢痕(はんこん)が残ったもの、もしくは10円硬貨大以上の組織陥没が残ったもの」を指します。
瘢痕(はんこん)とは傷跡のことであり、線状痕は手術痕といった切り付けられた傷跡のことです。
鼻の欠損によりこのような認定基準に該当する場合は、等級がより重い7級12号の認定となるでしょう。
後遺障害9級16号の認定基準
後遺障害9級16号の認定基準の「外貌に相当程度の醜状を残すもの」とは、「顔面部に長さ5センチメートル以上の線状痕が残ったもの」を指します。
後遺障害12級14号の認定基準
後遺障害12級14号の認定基準の「外貌に醜状を残すもの」とは、「顔面部に10円硬貨以上の瘢痕が残ったもの、もしくは長さ3センチメートル以上の線状痕が残ったもの」を指します。
外貌醜状の後遺障害については、認定基準に該当するかどうかについて、書類だけでなく面接による審査がなされる可能性があることに注意してください。
面接となった場合にどのように対応すべきかどうか気になる場合は、専門家である弁護士に相談すると良いでしょう。
鼻骨骨折における後遺障害慰謝料の相場額
鼻骨骨折の後遺症が残ったとして後遺障害等級に認定されれば、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料の相場は等級ごとに異なり、具体的には以下の通りです。
等級 | 相場額 |
---|---|
7級 | 1,000万円 |
9級 | 690万円 |
12級 | 290万円 |
14級 | 110万円 |
しかし、弁護士や裁判所、保険会社では後遺障害慰謝料の金額を算定する際の基準が異なるため、保険会社が提案する金額は相場額より低額であることが多いでしょう。
慰謝料算定の3基準
- 自賠責基準
加害者側の自賠責保険から支払われる慰謝料の算定基準。自賠責保険会社は最低限の補償をするので、最低限の金額となる。 - 任意保険基準
加害者側の任意保険会社が用いる慰謝料の算定基準。自賠責基準に少し上乗せした程度であることが多い。 - 弁護士基準(裁判基準)
弁護士や裁判所が用いる慰謝料の算定基準。過去の判例にもとづいた法的正当性の高い基準。

交通事故からしばらくすると、相手側の保険会社から支払い予定の金額が提示されている示談書(免責証書)が送られてきます。
示談書に記載されている慰謝料の提示額は、任意保険基準に基づいて算定された金額なので相場よりも低い傾向にあるのです。
相場の慰謝料をもらうためには、保険会社との増額交渉をする必要があります。
弁護士であれば、法的根拠に基づき合理的な主張ができるため、保険会社相手でも有利に交渉を進めることが可能です。

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鼻骨骨折の後遺障害認定により逸失利益も請求可能
鼻骨骨折の後遺症が残ったとして後遺障害認定を受けた場合、逸失利益を請求することができます。
逸失利益とは、交通事故によって後遺症を負わなければ働いて得ることができたはずの収入を指します。

逸失利益は、1年あたりの基礎収入、後遺症によって喪失した労働能力の割合(労働能力喪失率)、労働能力喪失期間などの事情を考慮して算定します。
将来にわたって得られたはずの収入を対象としているため高額になるケースも多く、保険会社の負担もその分増えるため、提示される金額は相場よりも低い傾向にあります。
また、嗅覚障害や外貌醜状という後遺障害については、被害者の仕事内容からすると労働能力に影響がなく、逸失利益は生じていないと反論されることもあるでしょう。
逸失利益の相場額の計算や、労働能力の低下がないとする反論への対応などについては、弁護士に依頼することで適切に行ってもらえます。
交通事故による鼻骨骨折で請求できる慰謝料や損害
鼻骨骨折の入通院慰謝料
交通事故で鼻骨骨折を負ったとして、後遺障害認定の有無に関係なく入通院慰謝料を請求することができます。
入通院慰謝料とは、入院・通院を余儀なくされるほどの交通事故でのケガで負った精神的苦痛に対する賠償金です。
鼻骨骨折による入通院慰謝料の金額は、以下の算定表にもとづいて計算されます。

たとえば、1ヶ月の入院と5ヶ月の通院で治療した場合、入院1ヶ月の縦の列と通院5ヶ月の横の列が交差する141万円が入通院慰謝料の相場です。
また、入院はせず、6ヶ月の通院のみでケガを治療した場合、入院0ヶ月の縦の列と通院6ヶ月の横の列が交差する116万円が入通院慰謝料の相場となります。
鼻骨骨折で請求できる損害の内容
交通事故での鼻骨骨折で請求できるのは、慰謝料や逸失利益だけではありません。
交通事故被害者の損害賠償金の内訳は以下のようになっており、治療にかかった実費、働けなかった分の損害などを請求することができます。
- 治療費:治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用など
- 休業損害:治療のために仕事を休んだことで生じる減収に対する補償
- その他:治療のために必要であった交通費、付添費用など
- 物的損害:自動車や自転車の修理代、代車費用など

相手側の保険会社から届く示談書には各損害の金額や算定根拠など、示談金の内訳が記載されています。
示談書が届いたら、示談金の総額だけでなく内訳も必ず確認して適正な金額といえるかチェックしましょう。
弁護士に示談書を見せれば、事故の状況やケガ・物損の程度から相場となる示談金額を算定してくれます。

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鼻骨骨折の後遺症は弁護士に相談しよう
鼻骨骨折の後遺症を弁護士に相談すべき理由
交通事故の鼻骨骨折により後遺症が残ったら、弁護士に相談・依頼してみましょう。
弁護士に依頼・相談することのメリットは、以下の通りです。
- 加害者側の保険会社との連絡を一任できるので、治療や職場復帰に専念できる
- 後遺障害等級の認定に向けて必要な資料の収集や申請手続き、十分な対策を立ててもらえる
- 法的な根拠に基づく説得力のある主張ができるので、慰謝料・示談金の交渉を有利に進めてもらえる
後遺障害等級の認定を受けることで請求できる金額は大きく増加するため、専門家である弁護士に認定手続きを協力してもらうメリットは大きいといえるでしょう。
また、示談交渉において相場の金額を得るためには、弁護士から適切な交渉を行ってもらうことが効果的です。
後遺症に見合った慰謝料を受け取るためにも、弁護士に依頼・相談を一度検討してみてください。
アトム法律事務所なら無料の法律相談が可能
アトム法律事務所では、電話・LINEでの無料相談を受け付けております。
交通事故案件の経験豊富な弁護士に無料で相談することが可能です。
無料相談・セカンドオピニオンだけでの利用でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了