恥骨骨折の後遺症とは?症状・慰謝料から腸骨移植の後遺症まで解説

恥骨(ちこつ)と腸骨(ちょうこつ)は、骨盤における寛骨(かんこつ)を構成する骨です。
交通事故により、恥骨を骨折したり腸骨を移植したような場合、通常は安静にしていれば骨が癒合しますが、後遺症として神経症状や変形障害が残る可能性があります。
恥骨骨折による後遺症や腸骨移植の後遺症が残った場合、後遺障害等級の認定を受ければ、後遺障害慰謝料を請求できるため、慰謝料を増額させることができます。
今回は、恥骨骨折の後遺症や認定基準、慰謝料の相場、示談金の内訳、さらに同じく寛骨である腸骨の移植での後遺症もあわせて解説いたします。
恥骨骨折とは?腸骨移植も解説
恥骨と腸骨|骨盤における寛骨
恥骨(ちこつ)と腸骨(ちょうこつ)は、骨盤における寛骨(かんこつ)を構成する骨です。
寛骨とは、骨盤で左右一対となっている骨で、骨盤の中心に位置する仙骨との関節である仙腸関節を構成して上半身の体重を支えています。
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恥骨骨折の症状

恥骨骨折の症状として、痛みや骨盤の変形、変形に伴って運動や歩行困難になることが考えられます。
なお、恥骨だけでなく骨盤後方部を含めた2か所以上を骨折し、骨盤の輪状構造が破綻する不安定型骨盤骨折の場合、骨盤周囲の血管損傷や骨髄出血により出血性ショックが生じることもあります。
骨折による腹腔内出血は致死的であり、頚椎損傷や胸部外傷に次いで早急に適切な治療を受ける必要があります。
恥骨骨折の原因
事故の衝撃などにより大きな外力が加わることが原因で骨盤骨折は生じます。
特に恥骨骨折については前方からの衝撃を受けて骨折するようなケースがみられます。
恥骨骨折の治療
尾てい骨骨折(尾骨骨折)といった軽度の骨盤骨折であれば安静にして骨の癒合を待つ経過観察やギブス固定での保存療法をすることになります。
恥骨骨折についても、基本的にはギブスまでは必要とせず、骨の癒合に向けて安静にします。
腸骨移植による骨盤変形
恥骨と同じく骨盤における寛骨を構成する腸骨の採取・移植が原因で後遺症が生じることも考えられます。
外科手術にて骨移植が必要になった際に、患者自身の骨組織を他の部位へ移植する自家移植が行われることがあります。
腸骨は骨盤の中でも最も大きい骨ということもあり、自家移植で用いられる骨のひとつです。
交通事故の場合、椎間板ヘルニアや脛骨高原骨折の際に腸骨を採取して移植するケースがみられます。
交通事故により、腸骨を骨折した場合だけでなく腸骨を移植したことで骨盤に著しい変形が生じた場合は、後遺障害認定を受けられる可能性があります。
恥骨骨折の後遺症と慰謝料の相場
恥骨骨折の後遺症とは?
恥骨骨折の後遺症として神経症状、変形障害が生じた場合、後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。
後遺障害等級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できるため、慰謝料や示談金を増額させることができます。
恥骨骨折の後遺症(1)神経症状|慰謝料の相場
神経症状とは、恥骨骨折によって痛みやしびれ、めまい、吐き気などが残っている状態を指します。
恥骨骨折の後遺症として、神経症状が残った場合、後遺障害12級13号、14級9号に認定されます。
恥骨骨折での神経症状の後遺障害慰謝料は、110万円〜290万円です。
神経症状の後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 | 慰謝料額 |
---|---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 110万円 |
後遺障害12級13号の認定基準
後遺障害12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは、画像所見にて神経症状の存在が明らかである場合を指します。
具体的にはレントゲン検査やMRI検査で神経が圧迫されているといった異常がみられる場合に限られます。
後遺障害14級9号の認定基準
後遺障害14級9号「局部に神経症状を残すもの」とは、画像所見で神経症状の存在が明らかでなくても、神経学的検査の結果から後遺症が残っていると推定できる場合を指します。
神経学的検査では、患部に刺激を与えて反射・反応を見ることになります。
恥骨骨折の裁判例
さいたま地判令6・6・21(令和4年(ワ)2295号)
ホストとして働く男性(症状固定時38歳)がバイクで、丁字路交差点を直進していたところ、右折する四輪車との衝突事故に遭い、恥骨骨折を含む骨盤骨折等を負った。労働能力喪失率の評価などが争点となった。
「1番重い後遺障害の該当する等級を基準に14%とするのが相当である。」
さいたま地判令6・6・21(令和4年(ワ)2295号)
- 後遺障害併合12級相当(骨盤部痛12級13号、右手首の痛み・痺れ14級9号)
- 後遺障害慰謝料290万円認定
- 後遺障害逸失利益934万8,115円認定(基礎収入441万円、労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間29年間)
恥骨骨折の後遺症(2)変形障害|慰謝料の相場
変形障害とは、恥骨が折れたあと、正しい位置に治癒しなかった状態を指します。
恥骨骨折の後遺症として変形障害が残った場合、後遺障害12級5号に認定されます。
恥骨骨折による変形障害の後遺障害慰謝料は、290万円です。
変形障害の後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 | 慰謝料額 |
---|---|---|
12級5号 | 骨盤骨に著しい変形が残った | 290万円 |
後遺障害12級5号「骨盤骨に著しい変形が残った」とは、裸体になったときに目で見てはじめて分かる程度の骨盤骨の変形が残った場合を指します。
恥骨骨折の裁判例
大阪地判令元・7・4(平成30年(ワ)3411号)
主婦(症状固定時76歳)が自転車で交差点を進行中、乗用車と出合い頭に衝突し、骨盤骨折(仙骨骨折、左恥骨骨折)、頭部外傷等を負った。1年以上治療を続けたが、仙骨部痛、左臀部痛、左下肢しびれ感が残存し、骨盤骨に著しい変形を残すとして自賠責で12級5号認定。労働能力喪失率や喪失期間が争点となった。
「原告の後遺障害の内容に照らして,労働能力喪失率は14パーセント,原告は症状固定時76歳であったから労働能力喪失期間は6年(ライプニッツ係数は5.0756)と認める」
大阪地判令元・7・4(平成30年(ワ)3411号)
- 後遺障害:骨盤骨に著しい変形(自賠責12級5号認定)
- 後遺障害逸失利益159万0,663円(労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間6年)
- 後遺障害慰謝料280万円
恥骨骨折の後遺症(3)機能障害|慰謝料の相場
機能障害とは、恥骨骨折により股関節の動きが制限され、正常な可動域まで関節を動かすことができなくなった状態を指します。
骨盤は太もも部分の骨である大腿骨と接して股関節を形成しているため、骨盤を骨折すると股関節の可動域に制限が出るおそれがあります。
股関節の可動域制限がある場合、可動域や人工関節等の有無によって、以下のような後遺障害等級に認定されます。
機能障害の後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 | 慰謝料額 |
---|---|---|
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
8級7号「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」
「関節の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 関節が強直したもの
- 関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの
- 人工関節、人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健常な下肢の1/2以下に制限されているもの
10級11号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 関節の可動域が健常な下肢の1/2以下に制限されているもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、8級以外のもの
12級7号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
「関節の機能に障害を残すもの」とは、次に該当するものをいいます。
- 関節の可動域が健常な下肢の3/4以下に制限されているもの
可動域制限により、しゃがむ動作や階段の昇降、長時間の歩行などで支障をきたし、職業によっては労働能力の喪失も認められる重要な後遺障害です。
恥骨骨折の裁判例
東京地判平28・9・7(平成27年(ワ)1033号)
建造物解体工事の現場監督(症状固定時30歳)が運転するバイクと、乗客を乗せた後に右折しようとしたタクシーが衝突。左恥骨骨折、左坐骨骨折により左股関節の内旋可動域が健側の4分の3以下に制限され、現場巡視業務や作業員とのラジオ体操ができなくなった。労働能力喪失率が争点となった。
「当該症状が37年間に渡り続くとはにわかに認め難いから,労働能力喪失率は,37年間の平均で12%とすることを相当と認める」
東京地判平28・9・7(平成27年(ワ)1033号)
- 後遺障害等級12級7号(1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害)を認定
- 後遺障害慰謝料290万円を認定
- 後遺障害逸失利益1084万円を認定(基礎収入540万円、労働能力喪失率12%、喪失期間37年)
腸骨移植の後遺症と慰謝料の相場
腸骨移植の後遺症
腸骨移植によって、骨盤に著しい変形が残った場合、恥骨骨折での後遺症と同じく、後遺障害12級5号に認定される可能性があります。
変形障害の後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 | 慰謝料額 |
---|---|---|
12級5号 | 骨盤骨に著しい変形が残った | 290万円 |
ただし、もともと骨盤変形や身体への影響が少ないことを見込んで腸骨を自家移植を行っているということもあり、変形が認められず認定基準を満たさないと判断されることも多いです。
腸骨移植による後遺症の慰謝料の相場
腸骨移植による後遺症の慰謝料の相場は、290万円です。
なお、後遺障害等級が認定された際は後遺障害慰謝料だけでなく、後遺障害によって十分に働けなくなった分の逸失利益も請求できます。
しかし、腸骨移植の場合、身体機能や運動機能になるべく影響が生じにくい腸骨をわざわざ選んで移植していることから、たとえ後遺障害に認定されても逸失利益を請求できないことがあります。
恥骨骨折・腸骨移植の示談金|入通院慰謝料など
恥骨骨折・腸骨移植の入通院慰謝料
交通事故での恥骨骨折や腸骨移植手術にて入院・通院を経て治療をした場合、入通院慰謝料を請求することができます。
入通院慰謝料は、交通事故により入院・通院を余儀なくされるケガで受けた精神的苦痛に対する賠償金であり、後遺障害認定の有無に関係なく請求できます。
入通院慰謝料の計算では、重傷用と軽傷用の2つの算定表を使い分けて算定します。


これらの算定表では、治療期間が長ければ長いほど、それだけ受けた精神的苦痛は重いとして、慰謝料額も増額されます。
また、入院をしていないケースに比べて入院をして治療をしたケースの方が同じ治療期間でも慰謝料は高額になります。
ただし、この算定表はあくまで弁護士や裁判所が用いる弁護士基準での計算であり、実際に相手側の保険会社から提示される支払額は算定表での金額よりも低い傾向にあります。
算定表通りの相場金額で慰謝料を受け取るためには保険会社との増額交渉が必要不可欠です。
弁護士に依頼すれば、ひとりで保険会社を相手にするよりも、より有利に交渉を進めてもらえます。

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恥骨骨折・腸骨移植で請求できる示談金
交通事故での恥骨骨折や腸骨移植を負った際に、請求できる示談金の内訳は以下の通りです。

- 治療費:治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用など
- 休業損害:治療のために仕事を休んだことで生じる減収に対する補償
- その他:治療のために必要であった交通費、付添費用など
- 逸失利益:後遺障害により減収することとなる将来の収入に対する補償
- 物的損害:自動車や自転車の修理代、代車費用など
腸骨移植の後遺障害逸失利益の留意点

後遺障害逸失利益とは、後遺障害がなければ得られていたであろう生涯年収が減少するという損害のことです。
後遺障害逸失利益は、【基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数】という計算式で算出します。

労働能力喪失率には、通常、後遺障害等級ごとに目安があります。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
8級 | 45% |
10級 | 27% |
12級 | 14% |
14級 | 5% |
※参考:自賠責保険・共済ポータルサイト「限度額と補償内容」労働能力喪失率表
ただし、腸骨移植の場合、身体への影響の小ささを考慮した手術ということもあり、労働能力の喪失が認められず、逸失利益を請求できない、できたとしても低額な請求にとどまる可能性があります。
恥骨骨折・腸骨移植で十分な賠償を受けるには?
後遺障害逸失利益だけではなく、後遺障害慰謝料や入通院慰謝料と同じく、他の費目に関しても保険会社からの提示額が相場よりも低い金額であることも少なくありません。
相手側の保険会社から示談金の提示を受けたら、必ず各費目の金額が適正な価格か、増額の余地がないか確認する必要があります。
弁護士に依頼すれば、請求額の算定から賠償請求、増額交渉まで一任できます。

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恥骨骨折・腸骨移植の後遺症のまとめ
恥骨骨折の後遺症には、骨盤の変形、股関節の可動域制限、神経症状などがあります。
腸骨移植後の後遺症には、疼痛、変形、神経損傷、感染症などがあります。
こうした後遺症は生活に大きな影響を及ぼすことがあります。適切な補償を受けるためにも、恥骨骨折や腸骨移植後の後遺症でお悩みの方は、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。
アトムの解決事例
左手首骨折、左腸骨骨折の増額事例(2.3倍増額)
最終回収金額 | 239万円 |
当初の提示額 | 106万円 |
傷病名 | 左手首骨折、左腸骨骨折 |
後遺障害等級 | 14級9号 |
ご依頼者は、バイクで走行中に自動車と衝突し、手首と腸骨を骨折するという怪我を負いました。 後遺障害等級14級9号が認定され、相手方任意保険会社から示談金106万円が提示されていたものの、増額の余地があったケースです。
弁護士による示談交渉開始からわずか2か月で、2.3倍増額し、最終的に239万円で示談成立となりました。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了