交通事故による肺挫傷の後遺症は後遺障害等級に認定される?慰謝料相場も解説

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岡野武志弁護士

監修者:アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

交通事故で肺挫傷

交通事故により肺挫傷となった場合には、後遺症が生じる恐れがあります。

後遺症が生じた場合には、損害賠償金の金額が高額になる可能性が生じるでしょう。
そのため、適切な損害賠償金を得るために何をすべきなのかを知っておくことが重要となるのです。

そこで、本記事では、交通事故により肺挫傷となった場合に、どのような損害賠償請求ができるのか、損害賠償請求のためには何を行うべきなのかについて、解説を行っています。

肺挫傷の原因と症状

肺挫傷の原因

肺挫傷とは、胸部への強い衝撃によって肺の内部や肺胞が損傷し、腫れや内出血をきたした状態をいいます。

交通事故においては、事故による衝撃でハンドルに胸を強打するといった胸部に強い衝撃が加わった場合に肺挫傷となることがあります。

肺挫傷が生じているかどうかについては、胸部XPやCT検査によって明らかとなるでしょう。

肺挫傷の症状

肺挫傷の症状は、以下のようなものです。

  • 肺胞が破裂して血液中の酸素が不足することによる呼吸困難
  • 呼吸の頻度が増加する頻呼吸(1分間に25回以上の呼吸)
  • 肺の組織が損傷することによる胸痛
  • 肺から血液や粘液が排出されることによる血痰

肺の損傷がひどい場合には、事故以前のような呼吸ができず、すぐに息切れしてしまうという呼吸困難による後遺症が生じる恐れがあります。

肺挫傷の治療方法

肺挫傷が軽度であるなら、多くの場合において無症状であるため、1週間程度で自然に治癒することとなるでしょう。

症状が生じる場合には、安静したうえで酸素投与、鎮痛剤投与などを行います。

重症の場合は、気道確保のために人工呼吸器が必要になることもあります。

このように、肺挫傷は重篤な症状が生じる可能性のある傷害です。交通事故後は早期に受診して適切な治療を受けることが大切となります。

肺挫傷で認定される可能性がある後遺障害等級

肺挫傷を負うと、事故以前のように呼吸ができなくなるという呼吸障害が後遺障害として生じる可能性があります。

肺挫傷の後遺障害等級と症状

呼吸障害が生じた場合に認定される後遺障害等級は、以下の通りです。

等級症状
要介護1級2号胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
常に介護を要するもの
要介護2級2号胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
随時介護を要するもの
3級4号胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
終身労務に服することができないもの
5級3号胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級5号胸腹部臓器の機能に障害を残し、
軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級11号胸腹部臓器の機能に障害を残し、
服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
11級10号胸腹部臓器の機能に障害を残し、
労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

後遺障害等級認定を受けるために申請手続きが必要

肺挫傷による呼吸機能障害が後遺障害であると認められるには、後遺障害等級の認定を受けることが必要です。

後遺障害等級の認定を受けるための手続きの流れは、以下のようになります。

  • 呼吸機能障害が生じているかどうかを確認する検査を受ける
  • 検査結果をもとに医師に後遺障害診断書を作成してもらう
  • 検査結果、後遺障害診断書など申請に必要な書類をそろえる
  • 加害者が加入している自賠責保険に申請書類を提出する
  • 審査機関から認定結果の通知がなされる

具体的な手続きの流れや申請方法を知りたい方は『交通事故で後遺障害を申請する|認定までの手続きの流れ、必要書類を解説』の記事をご覧ください。

肺挫傷による後遺障害を示す検査の方法

動脈血ガス分析による測定

動脈血ガス分析は、動脈から採取した血で酸素や二酸化炭素のガス濃度を測ります。そして、肺などの臓器の状態を調べるのです。

動脈血酸素分圧は酸素の濃度を示し、動脈血炭酸ガス分圧は二酸化炭素の濃度を示すものになります。

動脈血酸素分圧の結果ごとに後遺障害認定基準をみていきましょう。

動脈血酸素分圧が50Torr以下

等級認定基準
要介護1級2号呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの
要介護2級2号呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
3級4号上記2つの基準に該当しないもの

動脈血酸素分圧が50Torr超~60Torr

等級認定基準
要介護1級2号動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲かつ呼吸機能低下により常時介護が必要
要介護2級2号動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲かつ呼吸機能低下により随時介護が必要
3級4号動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲になく、上記2つの基準に該当しない
5級3号上記3つの基準に該当しない

※限界値範囲は37Torr~43Torr

動脈血酸素分圧が60Torr超~70Torr

等級認定基準
7級5号動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にない
9級11号上記の基準に該当しない

※限界値範囲は37Torr~43Torr

動脈血酸素分圧が70Torr超

等級認定基準
11級9号動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にない

※限界値範囲は37Torr~43Torr

等級認定で重要とされるポイントは、「介護が必要か」「動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にあるか」の2点といえるでしょう。

生活全般において介護が必要な状態にあれば、常時介護が必要なものと考えられます。

一方で日常生活の一部の動作について介護や看視、声かけが必要であれば、随時介護が必要と判断されるでしょう。

スパイロメトリーの測定および呼吸困難の程度

スパイロメトリーの測定値と呼吸困難の程度を組み合わせることでも、後遺障害等級認定の基準が設けられています。

スパイロメトリーは肺活量などを調べる検査です。後遺障害認定では、最初の1秒間に吐き出した空気量を示す「%1秒量」、患者の肺活量と平均を比較した「%肺活量」が参考とされます。

それぞれの後遺障害認定基準をみていきましょう。

%1秒量が35以下または%肺活量が40以下

等級基準
要介護1級2号高度の呼吸困難かつ呼吸機能低下で常時介護が必要
要介護2級2号高度の呼吸困難かつ呼吸機能低下で随時介護が必要
3級4号高度の呼吸困難だが、上記2基準に該当しない
7級5号中等度の呼吸困難が認められる
11級9号軽度の呼吸困難が認められる

%1秒量が35超~55または%肺活量が40超~60

等級基準
7級5号高度または中等度の呼吸困難が認められる
11級9号軽度の呼吸困難が認められる

%1秒量が55超~70または%肺活量が60超~80

等級基準
11級9号高度、中等度または軽度の呼吸困難が認められる

高度・中等度・軽度の呼吸困難の状態とは、次のようなものが該当します。

高度連続しておおむね100メートル以上歩けない
中等度平地で健康な人と同じペースで歩けず、自分のペースでなら1キロ程度歩ける
軽度健康な人と同じように階段の昇降ができない

運動負荷試験による測定

動脈血ガス分析やスパイロメトリーによる検査では後遺障害等級に該当しない場合でも、運動負荷試験の結果しだいでは後遺障害11級9号に認定される可能性があります。

運動負荷試験とは、実際に運動して心肺機能を確認することをいいます。

ただし、医師に呼吸機能に障害があるという意見書を書いてもらうことや、運動負荷試験の内容と結果、試験の適正さを示す根拠などが必要です。

交通事故で肺挫傷となった場合の損害賠償金

交通事故により肺挫傷となった場合には、以下のような損害について請求が可能です。

  • 治療関係費
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 逸失利益
  • 休業損害
  • 介護費用

それぞれの損害賠償内容についてみていきましょう。

治療関係費

肺挫傷の治療するために必要となった費用全般を治療関係費として請求することが可能です。

具体的には、手術代、治療代、投薬代、入通院のための交通費、入院中の部屋代・日用雑貨代などとなります。

入通院慰謝料|入通院により生じる慰謝料

入通院慰謝料とは、交通事故による怪我の治療のために入院や通院することで生じる精神的苦痛に対する損害賠償です。

肺挫傷による入通院慰謝料の金額は、入通院の期間に応じて決まり、基本的には以下表にもとづいて算出されるでしょう。

重傷の慰謝料算定表
重傷の慰謝料算定表

この慰謝料算定表は、弁護士や裁判所といった法律の専門家が損害を算定する際の基準であり、相場の金額が算定されます。

一方、相手の保険会社は自賠責基準や任意保険基準といった異なる基準で算定するので、相場の金額より低い金額を支払うと提案してくることが多いでしょう。

相手の保険会社が提案してくる金額が常に正しいとは限らないことを理解し、もし金額提示を受けたなら弁護士に内容を確認してもらう必要があります。

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後遺障害認定を受けた場合に請求できる損害

肺挫傷による呼吸機能障害について後遺障害等級認定を受けると、後遺障害を原因とする慰謝料や損害を請求することが可能となります。

具体的には、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができるでしょう。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が生じたという精神的苦痛に対する慰謝料です。

後遺障害慰謝料の相場額は、認定された後遺障害等級に応じて決まります。

後遺障害等級ごとの相場額は以下の通りで、肺挫傷の後遺障害慰謝料の相場は180万円から2,800万円です。

等級 相場額
1級・要介護2,800万円
2級・要介護2,370万円
3級1,990万円
5級1,400万円
7級1,000万円
9級690万円
11級420万円
13級180万円

逸失利益

逸失利益とは、将来的に得られたはずの収入を補償するための損害賠償です。

逸失利益とは

肺挫傷により後遺障害が生じたことで患者が労働能力が低下した場合、将来的に得られたはずの収入が減少します。そのため、逸失利益が認められる可能性があるのです。

逸失利益の金額は、被害者の年齢や、交通事故発生以前の収入、後遺障害の程度などを根拠として算出されます。

専門家である弁護士に相談すると、自身の具体的な逸失利益の金額について確認してもらえるでしょう。

休業損害

休業損害とは、休業期間中の逸失収入を補償するための損害賠償です。肺挫傷を治療するために被害者が休業した場合、休業期間中の逸失収入が休業損害として認められる可能性があります。

休業損害は、被害者の収入や休業日数から算出されるものですが、被害者の職業や立場に応じて計算に使う金額の決め方は様々です。

介護費用

肺挫傷により重篤な後遺症が生じ、治療終了後も介護が必要な状態となってしまった場合には、今後必要となってくる介護費用に関しても請求することが可能です。

介護費用には、介護のために必要な器具の代金や、自宅の改装費用なども含めることができるケースがあります。

交通事故の介護費用は、その必要性を巡って相手方と争いやすい費目のひとつです。

交通事故により肺挫傷となった場合にすべきこと

加害者側と示談交渉して損害賠償額が決まる

交通事故の被害に遭った場合、加害者側と示談交渉を行い、損害賠償額を決めることになるでしょう。
多くの場合、加害者は任意保険に加入しているので、示談の交渉相手は加害者が加入している任意保険会社の担当者となります。

しかし、保険会社は、できるだけ少ない金額で済ませようとするため、示談交渉において保険会社が提示してくる損害賠償額は、相場よりも低額となるでしょう。

そのため、被害者は、保険会社と示談交渉する際は、適切な金額の損害賠償を獲得するために増額の交渉をする必要がありますが、法律の根拠を示して交渉を行うことは非常に難しいといえます。

弁護士への依頼で生じるメリットは多数

交通事故の被害に遭った場合、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士は交通事故の法律に精通しており、依頼を受けた場合には、示談交渉において相場の金額に増額するよう交渉してくれます。

専門家である弁護士からの増額請求であれば、保険会社が応じてくれる可能性は高いでしょう。

増額交渉(弁護士あり)

また、肺挫傷が完治せずに後遺症が残った場合には、後遺障害等級認定の申請を行うことになります。
しかし、適切な等級の認定を受けるためには、後遺障害が発生していることを書類をもとに説明する必要があり、簡単な手続ではありません。

弁護士であれば、過去の経験や知識から、適切な書類の収集や説明を行うことができるので、適切な等級の認定を受けやすいといえるでしょう。

交通事故に遭った場合は、弁護士に相談することが大切です。

弁護士に相談・依頼する費用は抑えることができる

弁護士への相談・依頼を検討している方は、利用できる弁護士費用特約の有無を確かめておくとよいでしょう。

弁護士費用特約とは?

保険会社が弁護士費用の全部または一部を負担するというもの。交通事故の賠償請求は、弁護士が交渉することで慰謝料が増えることが多く、特約に加入している場合は利用した方がよいといえる。

約款しだいですが、多くの弁護士費用特約で法律相談料10万円、弁護士費用300万円が補償上限とされています。

交通事故の損害賠償請求を弁護士に委任する際、弁護士費用はおおよそこの補償上限におさまることは珍しくありません。

つまり、多くのケースで被害者は自己負担ゼロ円で弁護士を立てることができます。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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