労働条件が不利益に変更(賃金の減額など)されたら?相談窓口を解説!
「会社から減給すると言われた」
「就業規則が変更された」
不利益変更とは、会社が就業規則で定めている労働条件を労働者の不利益な方向に変更することです。
減給や手当の廃止など、これまでに得られていたメリットがなくなると、仕事のやる気がなくなってしまうでしょう。
この記事では、不利益変更が認められる条件、不利益変更をされた場合に確認すべきことについて解説していきます。
不利益変更された場合の相談窓口もご紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
不利益変更とは?不利益変更禁止の原則とは?
まず、不利益変更とはどういうものか、法律で定められている「不利益変更禁止の原則」を確認してみましょう。
そもそも不利益変更とは?
不利益変更とは、会社が就業規則で定められている労働条件を労働者の不利益な方向に変更することです。
近年、世の中の経済状況は、会社の経営に大きな影響を与えています。経営状態が悪化してしまうと会社を存続させるために、労働条件を不利益変更せざるをえない状況になることがあります。
不利益変更の具体的な例として、決められていた賃金(給与)が、会社側の一方的な都合で引き下げられることが挙げられます。
賃金だけではなく、以下のものも不利益変更として扱われます。
不利益変更の例
- 賃金は変更しないまま、所定労働時間数が長くなる
- 休憩の時間を減らす
- 福利厚生の変更や廃止をする
- 休職や復職の条件を変更する
- 年功序列の賃金体系から、成果主義の賃金体系へと変更する
これらはあくまで例示にすぎませんので、労働条件が不利益に変更されたと感じる場合には弁護士に相談して労働条件の不利益変更にあたるか確認してみましょう。
労働条件の不利益変更は原則できない
会社の経営を取り巻く環境が悪化したからといって、会社から一方的な不利益変更は、原則としてできません。
労働契約法9条において、就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することはできないとしているためです。
この労働者を保護するための原則を「不利益変更禁止の原則」といいます。条文では以下のように定められています。
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない
労働契約法9条
ただし、例外的に不利益変更が認められることもあるので注意が必要です。不利益変更が認められるのはどのような場合か確認していきましょう。
不利益変更が認められるための2つの法的条件
不利益変更が例外的に認められるための条件は、「変更内容が合理的である」「労働者に変更後の就業規則を周知する」の2つです。
2つの条件を満たせば、不利益変更が認められます。それぞれの条件を詳しく見ていきましょう。
条件①変更内容が合理的である
まず1つ目の条件は、就業規則の変更内容が合理的であることです。合理的であるかどうかの5つの判断基準は、以下の通りです。
5つの判断基準
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
1.労働者の受ける不利益の程度
就業規則の変更により、労働者の受ける不利益の大きさがどの程度か、またその不利益を減らす方法があったか、などの要素が考慮されます。
2.変更の必要性
不利益変更がなぜ必要となったのか、その必要性の大きさが問われます。
たとえば、不利益変更することで、会社の倒産危機を回避できるのであれば、必要性が大きいと判断されやすいでしょう。
3.変更後の就業規則の内容の相当性
変更内容が社会的にみて相当性があるか、という点が考慮されます。
変更した内容が特定の労働者や特定層のみに著しく不利益となる場合は、社会的にみて相当性があるとは言えません。
また同業界や同業種、同規模の同業他社などと比較し、変更後の内容に相当性があるかどうかなども検討されます。
4.労働組合等との交渉の状況
労働組合や労働者の意思を代表する者などを対象とした交渉の経緯、結果などのことです。
5.その他の就業規則の変更に関わる事情
これには不利益変更を緩和するような代替措置がとられたか、十分な説明が行われたか、移行期間が設けられたか、などの要素から判断されます。
条件②労働者に変更後の就業規則を周知する
2つ目の条件は「労働者に変更後の就業規則を周知」することです。変更内容が合理的であっても、労働者に変更後の就業規則を周知しなければ不利益変更は無効となります。
会社側が労働者に気づかれないように勝手に不利益変更を行うことはできないというイメージです。
会社が就業規則を変更した場合は、労働基準法89条、90条の手続きが必要となります。
まず、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法89条)。
さらに、就業規則の変更について過半数労働組合等の意見を聴かなければならず、所轄の労働基準監督署長に届出の際に、その意見を記した書面を添付する必要があります(労働基準法90条)。
これらの変更手続きがされず不利益変更をした場合は、労働基準法違反となり、使用者に30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
労働条件を不利益に変更されたらどうする?
不利益変更に無理に同意する必要はない
会社が労働条件の不利益変更をする場合、原則として労働者から同意を得なければなりません。
そのため、会社から不利益変更されたとしても、労働者はその変更が受け入れがたいものであると感じた場合は無理に同意する必要はありません。
不利益変更後の就業規則に拘束されないように、内容証明などを利用し、変更後の就業規則に拘束されない旨を通知しましょう。
同意書にサインしても無効になる可能性もある
会社が不利益変更を行うために、断りづらい環境を作ったうえで、不利益変更の同意書にサインを求めてくる場合があります。
たとえ、同意書にサインをしてしまっても、無効になる可能性もあります。
たとえば、上司や部下の関係を利用して強制的にサインをさせたり、解雇や退職をちらつかせたりした場合など、真意に基づかない同意書は無効となる可能性が高いです。
実際に、賃金や退職金の変更など労働者への不利益が大きい変更については、ただ署名押印をしたというだけでは同意があったとはいえない、とした判例があります(『山梨県民信用組合事件』最判平28.2.19)。
もっとも、同意書にサインを求められた場合でも、一度「持ち帰って検討します」「専門家に相談します」などと返答し、即決してサインするのは控えておくべきでしょう。
不利益変更の判例
不利益変更について争われた判例をみてみましょう。
中野運送店事件
就業規則に記載されていた「運行に関する手当明細表」を変更し、運送ドライバーの給与を一人当たり約100万円減額した事件です(『中野運送店事件』京都地判平26.11.27)。
この企業は営業利益が7年にわたってマイナスとなっていたことから、人件費の削減を試みました。
しかし、労働組合との団体交渉で十分な資料の提供や説明がないとして合理性はなく、不利益変更は認められないと判断されました。
シオン学園事件
就業規則の不利益変更によって全従業員の給与の8.1%の減額を行った事件です(『シオン学園事件』東京高判平26.2.26)。
この事件では、多額の営業損失を計上しているうえ、3年で20回以上の団体交渉を行い、決算報告書などの資料を示して経営状況を示していました。
また、給与減額後も同業他社の平均賃金よりも給与の水準が高いことや、従業員代表より就業規則変更時の意見聴取で特に意見を提出していないといった理由から、不利益変更が認められています。
就業規則が不利益変更されていた場合の相談窓口は?
変更されなければもらえるはずだった給与や退職金などが、もらえなくなるとやるせない気持ちになりますよね。
最後に、就業規則が不利益変更されてしまった場合の相談窓口をご紹介します。
労働基準監督署
不利益変更が違反であると判断した場合はもちろん、不利益変更が違反でないかと感じる場合は、労働基準監督署へ相談してみましょう。
労働基準監督署は、会社が労働に関する法律を遵守しているかをチェックし、必要であれば会社に行政指導を行うなど、労働者の権利を守ることを目的とした公的機関です。
法的な強制力はありませんが、相談することで改善が期待できます。まずは労働基準監督署へ相談してみましょう。
弁護士
不利益変更されてしまった場合は、弁護士にも相談可能です。
不利益変更を行う際には、会社側の経営状況が悪化していることが多いですが、会社によっては単なるコスト削減のために不利益変更を行う場合もあります。
この場合、不利益変更が合理的かどうかが争点となりますが、会社側も意見を曲げずに「不利益変更が合理的である」と主張してくる場合もあるでしょう。
弁護士に相談すれば、不利益変更の有効・無効の判断や、法的な手続きを視野に入れたアドバイスをもらうことができます。
不利益変更が無効の可能性が高ければ、労働者は不利益変更する前の条件をもとに、差額の賃金や慰謝料を会社側に請求可能です。
弁護士は労働者の代理人となって会社との交渉などを行うことができます。交渉で問題が解決できない場合には、スムーズに労働審判や訴訟などの法的手続きに移行することも可能です。
法的な手続きの移行を考えている、法的な手続きを視野に入れたアドバイスを聞きたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了