交通事故で水増し通院に誘われた!過剰診療を疑われない通院の仕方
交通事故の被害者が整骨院に通っていると、ごくまれに「整骨院に通っていない日も通ったことにしておきますね」と水増し通院に誘われることがあります。
水増し通院に加担して不正にお金をだまし取ると、詐欺罪に問われる可能性があります。水増し通院に誘われても、絶対に承諾してはいけません。
この記事では、水増し通院の例や、水増し通院に誘われたときの対処法を解説しています。また、保険会社に水増し通院を疑われないために気を付けるポイントもあわせて紹介します。交通事故後、整骨院で施術を受けている方・受ける予定の方は、ぜひご一読ください。
目次
整骨院と患者による水増し通院とは?
水増し通院の具体例
交通事故後に整骨院で施術を受けている場合、以下のような形で水増し通院に誘われることが多いようです。
- 整骨院に通っていない日も通ったことにする
- 実際には受けていない施術を受けたことにする
- 交通事故でケガしていない部位の施術をして請求する
実際に水増し通院で逮捕された事例は以下のとおりです。
事例1
整骨院の院長と患者2名が逮捕された事例。交通事故によって整骨院に数日間しか通っていないにも関わらず、80日以上通ったと偽って保険会社から約220万円をだまし取った。
事例2
整骨院の院長と患者8名が逮捕された事例。院長と患者らが共謀して通院日数を水増しし、合計で約1,400万円をだまし取った。患者の中には「通っていなくても通ったことにしてくれる整骨院」と紹介された者もいたとされる。
水増し通院はどのように発覚する?
整骨院と患者が共謀して通院日の水増しをした場合、保険会社が請求内容に不信感をもって調査したことで不正請求と発覚する事例が多いようです。
たとえば、仕事をしながら整骨院に毎日通っている、整骨院が休みの日も施術を受けているといったケースでは、保険会社が不信感をもつ可能性が高いでしょう。
また、稀な例ではありますが、整骨院の従業員が警察や保険協会、保険会社に対して告発した結果、水増し通院が発覚することもあります。
水増し通院で患者も罪に問われる?
水増し通院によってお金をだまし取ろうとした場合、整骨院の施術者だけではなく患者も保険金詐欺になる可能性があります。保険金詐欺は刑法の詐欺罪にあたり、その法定刑は1月以上10年以下の懲役です。
なお、実際にお金をだまし取っておらず、未遂に終わった場合でも、保険会社に虚偽の申請をしていれば詐欺未遂罪が成立します。詐欺未遂罪の法定刑も1月以上10年以下の懲役ですが、未遂のため刑を減軽される可能性はあるでしょう。
また、詐欺を行った者は刑事罰を科されるだけではなく、保険会社から損害賠償を請求されるといった民事責任も負うことになります。
「お金を多くもらえてラッキー」「もしバレても返金すれば大丈夫だろう」などと安易に考え、水増し通院に加担することは絶対に避けてください。
整骨院で水増し通院に誘われたら?
毅然と断る
もし、整骨院で水増し通院に誘われたら、毅然と断るようにしてください。
整骨院では、「儲かるので通院日数を水増ししましょう」といったようにわかりやすく水増し通院に誘われるとは限りません。「今日は混んでいるので施術を受けたことにしておきましょう」「今日は湿布だけ渡しますが施術も受けたことにしておきます」といった言葉にも注意しましょう。
また、保険会社への対応方法について指示される、白紙の書類に署名を求められるといった不審な点があった場合は、必ず施術者や事務員に説明を求めるようにしてください。
他の整骨院に変える|転院時の注意点
水増し通院に誘ってくるような整骨院とは関わりを持ってはいけません。水増し通院に誘われたら、すみやかに通院先を変えましょう。
ただし、整骨院を変えるときは、あらかじめ医師と保険会社に事情を話し、承諾を得ておく必要があります。無断で転院すると、転院後の施術がケガを治すために必要なものと認められず、治療費や慰謝料を支払ってもらえない可能性があるためです。
水増し通院・過剰診療を疑われず整骨院に通う方法
事前に医師の許可を得る
水増し通院や過剰診療を疑われず整骨院に通うには、あらかじめ医師から整骨院に通う許可を得ておくようにしてください。
整骨院での施術は医療行為ではないため、医学的な必要性や合理性に欠けるとみなされることがほとんどです。整骨院の施術が医療行為の一環であり、ケガを治すために必要であると認められるには、医学のプロである医師の許可を得る必要があります。
また、整骨院に通う場合は、忘れずに保険会社にも連絡するようにしましょう。保険会社に連絡しなければ、あとから整骨院での施術費は補償の対象外といわれてしまう可能性があります。
医師の許可なく整骨院に通うリスクについては、『交通事故では整骨院に医師の許可なしで通わない|損害賠償のリスクあり』の記事をご参考ください。
整形外科にも月1回以上通う
整骨院に通院をはじめたあとも、整形外科にも月1回以上の頻度で定期的に通うようにしてください。
整骨院だけに通っていると、「もうケガは治っていて健康維持のために施術を受けているのかもしれない」と保険会社に判断されてしまう可能性があります。
また、医師による経過観察を受けられないため、後遺症が残ったときに「後遺障害認定」を受けられず、受け取れる金額が減ってしまうおそれもあります。
交通事故で整形外科と整骨院を併用すべき理由については、『交通事故では病院と整骨院は併用しよう|整骨院だけの通院はNG』の記事でくわしく説明しているので、あわせてご一読ください。
治ると思って過度に通院しない
施術によって症状が軽快したり、施術者から「頻繁に通ったら後遺症が残らなくなります」などと言われたりしたため、整骨院に過剰な頻度で通ってしまう方もいます。
しかし、あまりにも頻繁に整骨院に通っていると、保険会社から過剰診療を疑われてしまいます。とくに、正当な理由もなく毎日通院しているようなケースでは疑われやすいでしょう。
過剰診療を疑われると、治療費・施術費を打ち切られたり、慰謝料を減額されたりするおそれがあります。整骨院に通う頻度は、医師が医学的な必要性・有効性があると認める範囲にとどめるようにしましょう。
儲かるといわれても誘いに乗らない
繰り返しになりますが、整骨院の施術者から誘われても水増し通院の誘いに乗らないことが何より重要です。
「交通事故で儲けるために整骨院に通った方がいい」「儲けるために毎日通院した方がいい」といった噂もありますが、これらはすべて誤りです。
そもそも、事故相手の保険会社から支払われるお金は「事故でマイナスになったものをゼロに戻す」ためのものであるため、事故で儲けようとすること自体がお門違いと言えます。
水増し請求によって不正な儲けを得ようとすれば、詐欺罪で逮捕される、保険会社から損害賠償請求をされるといった結果につながります。整骨院での施術は、ケガを治すために必要な分だけ受けるようにしましょう。
まとめ
- 通院日数を増やす、施術部位・内容を増やすといった水増し通院に誘ってくる整骨院には通わない
- 水増し通院に加担した場合、詐欺罪に問われたり、損害賠償請求をされたりするリスクがある
- 水増し通院を疑われないためには、医師の指示に従うことや過度な通院をしないことが大切
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了