交通事故では整骨院に医師の許可なしで通わない|損害賠償のリスクあり

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岡野武志弁護士

監修者:アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

交通事故では整骨院に医師の許可なしで通わない|損害賠償のリスクあり

交通事故でケガを負ったとき、整骨院で施術を受けたいと思われる方も多いです。整形外科では湿布や痛み止めを処方されるだけで治療の効果を感じられない、整骨院なら夜でも開いているので通いやすいなど、さまざまな理由があるでしょう。

しかし、整骨院に医師の許可なしで通うと、治療費や施術費を支払ってもらえない、慰謝料が減ってしまうといった、損害賠償面でのリスクが生じてしまいます。

この記事を読めば、医師の許可なく整骨院の施術を受けるリスクと、整骨院に通う正しい手順がわかります。交通事故によるケガで整骨院への通院を考えている方は、ぜひご一読ください。

交通事故では整骨院に医師の許可なしで通わない|3つのリスク

(1)治療費や施術費が打ち切られやすくなるリスク

交通事故によるケガの治療費・施術費は、多くの場合、加害者側の任意保険会社から整形外科・整骨院に直接支払ってもらえます。

しかし、医師の許可なく整骨院に通院していると、保険会社から「そろそろケガが治っていると思うので整形外科の治療費の支払いを打ち切ります」といわれてしまうことがあります。

治療費の打ち切りを打診される理由としては、保険会社に「整骨院での施術は必要性がない。整形外科で必要な治療はもう終わっている」と判断されてしまうといったものがあります。

その他にも、整骨院への通院ばかりで整形外科への通院が疎かになり、「治療を終えたのだろう」と誤解されるケースもあるでしょう。

また、整骨院での施術費は保険会社に請求できますが、医師の許可がない場合は施術費を支払ってもらえない可能性が非常に高いです。医師の許可がないと、整骨院での施術の必要性や有効性が認められづらいためです。

(2)慰謝料が減ってしまうリスク

医師の許可なしで整骨院の施術を受けた場合、慰謝料が減ってしまうリスクもあります。

交通事故で入通院治療をしたら、「入通院慰謝料」を請求できます。入通院慰謝料の金額は、治療期間や頻度によって決まります。

医師の許可がある場合、整骨院に通院した期間も入通院慰謝料の対象期間にすることができます。一方、医師の許可がない場合、整骨院に通院した期間については入通院慰謝料の対象期間にならない場合がほとんどです。その結果、本来なら受け取れたはずの金額より慰謝料が減ってしまうことになるのです。

(3)後遺症が残っても後遺障害認定されないリスク

医師の許可なしで整骨院に通院していると、後遺症が残ってしまったときに「後遺障害認定」を受けられないリスクが生じます。

後遺障害認定とは、後遺症が一定の等級に該当していると認定されることです。後遺障害認定を受けると、後遺障害分の慰謝料や、後遺障害の影響で減ってしまう将来的な収入を事故相手に請求できるようになります。

後遺障害認定の申請には、医師が作成する「後遺障害診断書」が必要です。もし、整骨院にばかり通院して整形外科への通院を疎かにしていると、継続的に診察していないことを理由に医師から後遺障害診断書の作成を断られることがあるので、注意が必要です。

そもそもなぜ整骨院への通院でリスクが生じる?

整骨院は医療行為の一環と認められにくいから

整骨院で受けられる「柔道整復術」は、一般的に医療類似行為とされています。柔道整復術は国家資格制度が整備されているものの、医師が行う治療や診断といった医療行為とはあくまで別物です。

交通事故によるケガの治療費や施術費を事故相手に支払ってもらうためには、治療や施術に医学的な必要性や合理性があると認められる必要があります。しかし、医療類似行為である整骨院での施術は、医学的な必要性や合理性に欠けるとみなされる場合も多いです。

整骨院での施術が医療行為の一環として認められるためには、医療のプロである医師が整骨院での施術を許可していることが重要になります。

なお、医師が施術の許可をしていない場合も、以下の要件にあてはまると認められれば整骨院での施術費を請求可能です。

  • 施術の必要性がある
  • 施術の有効性がある
  • 施術内容の合理性がある
  • 施術期間の相当性がある
  • 施術費の相当性がある

しかし、上記の要件を満たしていることを示すには非常に労力がかかります。医師から許可を得ていた方が、より簡単に整骨院での施術は医療行為の一環であると認められやすいのです。

通院の必要性を疑問視されやすいから

整骨院での施術は、医療行為の一環として認められづらいこともあり、事故相手の保険会社から必要性を疑問視されやすい傾向にあります。

たとえば、「漫然と整骨院への通院を続けて、入通院慰謝料の対象期間を増やそうとしているのでは?」「そもそも整骨院での施術は交通事故のケガとは関係なく、単に健康維持のために受けているのでは?」と疑われてしまうケースがあるでしょう。

上記のような疑いを抱かれないためにも、あらかじめ医師の許可を得ておくことで、整骨院での施術の必要性を示すことが大切になるのです。

整形外科への通院が疎かになりやすいから

整骨院に通っていると、「整骨院への通院で忙しい」「整骨院で施術を受けているから整形外科に通わなくても大丈夫だろう」といった理由で、整形外科への通院頻度が少なくなってしまう方もいらっしゃいます。

先述のとおり、整形外科への通院頻度が少ないと、保険会社に「すでに治療を終えたのだろう」と判断されて治療費の支払いを打ち切られることが多いです。また、後遺障害に認定されなくなるケースもあるでしょう。

「仕事帰りに治療や施術を受けたいため、整形外科ではなく夜遅くまで開いている整骨院に通いたい」と考える方も多いですが、整形外科にも定期的な通院が必要になることを忘れないようにしてください。

交通事故で整骨院に安心して通う方法

(1)まずは医師の許可を得る

交通事故によるケガを治すために整骨院に通いたいときは、まずは医師の許可を受けましょう。医師が整骨院での施術の必要性を認めていれば、施術費を支払ってもらえなかったり、慰謝料が減額されたりする可能性が大幅に減ります。

医師から許可を得るときは、口頭で確認するだけではなく、診断書やカルテに整骨院への通院を許可したことを書いてもらうとよいでしょう。医師から許可を得たことを書面で残しておけば、保険会社と治療費や施術費などの支払いで争ったとき、施術の必要性を立証しやすくなります。

(2)保険会社に整骨院への通院を伝える

保険会社にも整骨院に通うことをあらかじめ連絡しておくようにしましょう。あとから「整骨院の施術費は支払えません」といわれて困ることを防ぐためです。

もし、保険会社に整骨院の施術費は支払えないといわれたなら、医師の許可を得ていることがわかる書面を提出し、施術の必要性を示すとよいでしょう。

(3)整骨院と整形外科の両方に通い続ける

整骨院への通院を開始したあとも、整形外科に月1回以上の頻度で通うようにしてください。

通院頻度が月1回よりも少なくなってしまうと、保険会社に「もうケガは治った」と判断され、治療費・施術費が打ち切られてしまうおそれがあります。また、慰謝料の減額や後遺障害に認定されないといったリスクも生じるでしょう。

整形外科にも定期的に通院し、医師による経過観察や検査を受ければ、ケガの状態について医学的な判断をしてもらえます。より良好な予後につなげるためにも、整形外科への通院を欠かさないようにしましょう。

交通事故で整骨院に通う際のよくある質問

Q1.医師から整骨院に通う許可を得られないときは?

交通事故によるケガを整骨院で治すことを希望し、医師に相談しても、なかなか許可を得られないこともあります。

医師によっては、目の届かないところで施術を受けることを嫌がったり、整骨院の必要性や有効性を認めていなかったりすることがあります。また、整形外科でリハビリを受けられるなら、整骨院での施術は必要ないとされる場合もあるでしょう。

医師から許可を得られないなら、まずは許可できない理由を詳しく聞いたうえで、整骨院での施術の必要性を伝えてみてください。どうしても許可を得られないなら、転院することも選択肢のひとつになります。

もし、医師から許可を得られないとしても、医師に無断で整骨院に通うのは避けてください

Q2.整骨院はどうやって選ぶといい?

整骨院を選ぶ際は、各整骨院のホームページを見て、交通事故によるケガの施術に力を入れているかどうか確認することをおすすめします。

交通事故によるケガの施術実績が多い整骨院なら、似た症例の施術経験を有しており、より安心して施術を受けられるでしょう。

また、交通事故によるケガの施術経験が少ない整骨院だと、保険の請求に慣れておらず、手続きがスムーズに進まないこともあります。交通事故に詳しい整骨院であれば、保険の請求でストレスを感じることは少ないでしょう。

整骨院を選ぶ際は、他にも、通院しやすいか、コミュニケーションを取りやすいかといった観点も大切になります。交通事故の通院先の選び方について解説した記事『交通事故の通院先の選び方|整形外科・整骨院を選ぶ4つのポイント』も、整骨院を選ぶ際のヒントになるでしょう。

Q3.整骨院の施術費支払いを拒否されたら健康保険を使える?

整骨院の施術費は、事前に医師と保険会社に通院の承諾を得ているなら、保険会社から整骨院に直接支払ってもらえることが多いです。

もし、保険会社から整骨院の施術費の支払いを拒否されたなら、被害者が一旦立て替えて支払うことになるでしょう。立て替えた施術費は、治療や施術がすべて終わったあと、保険会社と「示談交渉」をする際に請求することになります。

整骨院での施術費を立て替える際、健康保険を使うことも可能です。健康保険は外傷性が明らかな打撲、ねん挫、むちうちなどで使用できます。もし、自分の場合は健康保険を使えるのか不安なら、事前に加入している保険組合に問い合わせてみてください。

なお、交通事故で健康保険を使う場合は、事前に保険組合に「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。届出の様式は保険組合が持っているので、問い合わせて取り寄せましょう。

まとめ

  • 交通事故で医師の許可なく整骨院に通院すると、治療費や施術費、慰謝料などが適切に支払われないリスクがある
  • リスクが生じる理由は、整骨院での施術は医学的な必要性や合理性が認めづらいから
  • 整骨院で施術を受けたいときは、医師の許可を得て、保険会社にも伝えることが大切
  • 整骨院に通いはじめても、整形外科にも月1回以上の頻度で通院する必要がある
岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了