交通事故による運動障害の症状・後遺障害の認定要件|賠償金額も解説

交通事故でケガをすると、体のさまざまな部分に運動障害が残ることがあります。
運動障害とは、神経や筋肉の損傷や骨折により、事故の影響で体が思うように動かせなくなる状態のことです。主に脊柱(背骨)や手足、目などに症状が現れます。
この記事では交通事故で運動障害が残った方に向けて、よくある症状や治療法、後遺障害に認定されるための基準について解説します。
運動障害が後遺障害に認定されると、等級に応じて後遺障害慰謝料が請求できるため、将来の生活の支えとなるでしょう。
目次
交通事故による運動障害の症状や治療
運動障害とは、交通事故により神経や筋肉が傷ついたり、骨が骨折・変形したりすることで、体が思うように動かせなくなる状態のことです。
運動障害は後遺障害の一つとして認定される可能性があります。
交通事故による運動障害の症状
運動障害が起こりやすい部位は、主に「脊柱」、「上肢・下肢」、「目(眼球とまぶた)」です。
脊柱とは背骨のことです。脊椎ともいいます。
それぞれの部位で現れる主な症状をみていきましょう。
運動障害の主な症状
- 脊柱の運動障害の主な症状
- 首や背中の痛み
- 体を曲げ伸ばしする動きの制限
- 首の前後・左右への動きの制限
- 長時間の座位が困難
- 荷物の持ち運びができない
- 姿勢が崩れやすい
- 手足の運動障害の主な症状
- 腕や脚の筋力低下
- 関節の硬さと動きの制限
- 歩行の不安定さ
- 階段の上り下りの困難
- 手足のしびれや感覚異常
- 物を持ち上げることが困難
- 目の運動障害の主な症状
- 目の動きの制限
- 視野の狭さ
- 物が二重に見える
- まぶたが十分に開かない
- まぶたが完全に閉じない
運動障害の症状は、交通事故直後から現れることもありますが、時間の経過とともに徐々に出てくることもあります。
また、これらの症状が後遺症として残った場合は、後遺障害認定される可能性があります。本記事では、運動障害が後遺障害認定される要件も解説しているので、このままお読みください。
運動障害の診断と治療法
交通事故による運動障害は、以下のような検査をもとに診断されます。
- X線検査:骨折の有無を確認する
- 可動域検査:体の動く範囲を測定する
運動障害の治療は、主にリハビリを中心に進められます。
また、痛みを伴う場合は、消炎鎮痛剤の服用や湿布の使用も治療の一つになります。
運動障害の後遺障害等級と認定要件
交通事故で運動障害が残る可能性のある部位は、「脊柱」、「上肢・下肢」、「目(眼球・まぶた)」が代表的です。
部位ごとに、認定される可能性がある後遺障害等級と認定要件についてみていきましょう。
なお、後遺障害等級は、数字が小さくなるほど症状が重くなるよう設定されています。請求できる慰謝料額も、等級が高い(数字が小さい)ほど高額になります。
脊柱の運動障害
脊柱に運動障害が残ると、背骨を曲げにくくなる・脊柱の動きが悪くなるといった状態になります。脊柱の運動障害では、後遺障害6級または8級に認定される可能性があるでしょう。
内容 | |
---|---|
6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
6級5号の「脊柱の著しい運動障害」とは、具体的に以下のような状態をいいます。
脊柱の著しい運動障害(6級5号)
- 頸椎(首の骨)および胸腰椎(背骨の胸から腰の部分)に圧迫骨折などがあり、それがX線写真で確認できる
- 頸椎および胸腰椎で、それぞれ脊椎固定術が行われている
- 項背腰部(首から背中、腰にかけての部分)の筋肉や靭帯が、事故の影響で明らかに変形したり損傷したりしている
次に、8級2号の「脊柱の運動障害」には、以下の2つのケースがあります。
脊柱の運動障害(8級2号)
- ケース1: 首または背中の動く範囲が正常の半分以下に制限され、さらに以下のいずれかの状態がある場合
- 頸椎または胸腰椎で脊椎固定術が行われている
- 頸椎または胸腰椎に圧迫骨折があり、それがX線写真で確認できる
- 項背腰部の筋肉や靭帯が、事故の影響で明らかに変形したり損傷したりしている
- ケース2: 頭蓋・上位頸椎間(頭と首の付け根の接合部分)に著しく異常な可動域制限がある場合
このように、6級と8級の主な違いは、6級が頸部と胸腰部の両方に重度の障害がある場合、8級はどちらか片方に障害がある場合となります。
また、背骨を骨折する等して、脊柱の運動障害が残るような場合、変形障害や荷重機能障害なども残る可能性があるでしょう。
脊柱の圧迫骨折を詳しく
上肢・下肢の運動障害
上肢・下肢に運動障害が残ると、手足が動かしにくくなる状態になります。上肢・下肢の運動障害では、後遺障害7級に認定される可能性があるでしょう。
内容 | |
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7級9号 | 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
7級10号 | 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
※偽関節とは、骨折から6か月以上経過しても骨がくっつかず、その部分が関節のように動いてしまう状態
上肢、下肢の「著しい運動制限」とは、具体的に以下のとおりです。
上肢の著しい運動障害(7級9号)
- 上腕(肩から肘まで)の場合
上腕骨の中心部で骨がくっつかない状態が残り、常に硬性補装具を使用する必要がある - 前腕(肘から手まで)の場合
橈骨と尺骨の両方の中心部で骨がくっつかない状態が残り、常に硬性補装具を使用する必要がある
下肢の著しい運動障害(7級10号)
- 大腿(太もも)の場合
大腿骨の中心部で骨がくっつかない状態が残り、常に硬性補装具を使用する必要がある - 下腿(すね)の場合
脛骨と腓骨の両方の中心部、または脛骨の中心部で骨がくっつかない状態が残り、常に硬性補装具を使用する必要がある
目(眼球・まぶた)の運動障害
目(眼球・まぶた)に運動障害が残ると、眼球がうまく動かせなくなる・まばたきができなくなるといった状態になります。目(眼球・まぶた)の運動障害では、後遺障害11級または12級に認定される可能性があるでしょう。
内容 | |
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11級1号 | 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
11級2号 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
12級1号 | 一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
12級2号 | 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
眼球とまぶたに残る「著しい運動障害」とは、具体的に以下のような状態をいいます。
眼球の著しい運動障害(11級1号/12級1号)
- 目を動かして物を見られる範囲(注視野)が通常の半分以下に制限された状態
※通常の注視野は、片目で各方向約50度、両目で各方向約45度
まぶたの著しい運動障害(11級2号/12級2号)
- まぶたを持ち上げても、黒目の部分が完全に隠れてしまう
- まぶたを閉じても、目の表面を完全に覆えない
目に関するほかの症状
交通事故による目の後遺障害と慰謝料相場|失明・視力低下などの認定基準
交通事故による運動障害で請求できる損害賠償金
運動障害の後遺障害慰謝料
交通事故により運動障害が残ってしまった場合、後遺障害慰謝料の請求が可能です。
脊柱の運動障害の後遺障害慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
6級 | 512万円 (498万円) | 1,180万円 |
8級 | 331万円 (324万円) | 830万円 |
()内の金額は2020年3月31日以前の事故に適用
上肢・下肢の運動障害の後遺障害慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
7級 | 419万円 (409万円) | 1,000万円 |
()内の金額は2020年3月31日以前の事故に適用
目(眼球・まぶた)の運動障害の後遺障害慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
11級 | 136万円 (135万円) | 420万円 |
12級 | 94万円 (93万円) | 290万円 |
()内の金額は2020年3月31日以前の事故に適用
自賠責基準とは、国が定めた最低限の金額です。事故相手から提案される金額もこれに近いものになります。
対して弁護士基準とは、過去の裁判例にもとづき決められた金額です。すなわち、この弁護士基準が運動障害に対する適切な補償ということです。
なお、最終的な金額は、事故相手の保険会社との示談交渉で決めていきます。
交通事故による運動障害で請求できる費目
交通事故により運動障害になった場合、以下のような費目を請求できます。

- 治療費:医療機関での治療費、通院交通費、付添費など
- 休業損害:事故により仕事を休んだことによる収入の減少分
- 入通院慰謝料:治療により入通院した精神的苦痛に対する補償
- 修理費:車の修理費、レンタカー費用など
また、運動障害が後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料以外に「逸失利益」も請求できます。
逸失利益とは、後遺障害により将来的に減少するであろう収入への補償です。被害者の年齢や収入、後遺障害等級などをもとに金額が算定されます。
交通事故による運動障害で後遺障害認定された事例
交通事故による運動障害が、実際に後遺障害認定された事例を紹介します。
脊柱の運動障害で後遺障害6級5号に認定
玉突き事故で首を強く後ろに反らせて受傷した57歳男性のケースです(大阪地方裁判所 平成13年10月17日判決)。
追突された際、頭部が大きく後ろに反り返り、その結果、非骨傷性頚髄損傷(中心性損傷)の重傷を負いました。事故直後は四肢麻痺の状態で救急搬送されています。
後遺障害として最も注目すべきは、脊柱(首)の著しい運動障害です。首の動きが全方向(前後、左右の曲げ、左右の回旋)で10度にまで制限される重度の障害が残りました。
この脊柱の運動障害に対し、後遺障害6級5号(脊柱に著しい運動障害を残すもの)が認定されました。
さらに脊髄損傷による7級4号と併合されて、最終的な後遺障害は4級となりました。
裁判所は被害者の損害額を約6,866万円と認定しましたが、後縦靭帯骨化症という既往症があったため5割の減額(素因減額)となり、自賠責保険金と裁判での賠償金等を合わせ、最終的に被害者は総額約3,563万円の補償を受けることとなりました。
眼球の運動障害で後遺障害12級1号に認定
信号機のある交差点で出会い頭の衝突事故に遭い、右眼窩底骨折を負った36歳女性のケースです(名古屋地方裁判所 平成14年8月14日判決)。
事故直後から2度の手術を受けましたが、眼筋の麻痺が原因で複視(物が二重に見える症状)が残り、両眼で見ることによって強い頭痛やめまいが生じるようになりました。そのため、階段の上り下りでは必ず手すりが必要になるなど、日常生活に大きな支障をきたしています。症状固定後も複視改善のための手術を2度受けましたが、症状は継続しています。
この眼球の運動障害に対して、後遺障害12級1号(一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの)が認定されました。
さらに、目の周辺に残った瘢痕による外貌醜状による7級12号と併合されて、最終的な後遺障害は6級となりました。
裁判所は、眼球の運動障害による日常生活への支障を認め、被害者の稼働能力の低下なども考慮し、自賠責保険からの支払いと合わせて、最終的に被害者は約2,664万円の補償を受けることとなりました。
交通事故による運動障害についてよくある3つの質問
運動障害の程度や回復の見込みは?
交通事故により運動障害が残ってしまった場合の回復の見込みは、事故の状況や被害者自身の体力、年齢、病歴などによって様々です。
一般的に、重度の運動障害が残ってしまった場合、回復の見込みは低くなります。また、高齢者や持病のある方は、若い健康な人よりも回復が遅くなる傾向といえるでしょう。
運動障害の回復を促進するためには、早期に適切なリハビリを行うことが必要といえます。さらに、リハビリは継続的に実施することが重要です。
運動障害の回復の見込みをより正確に知りたい方は、医師に相談してください。
運動障害の損害賠償請求は自分でできる?
被害者自身で損害賠償請求をすることは可能です。しかし、交通事故による損害賠償請求は、複雑な手続きを伴うことから、法律の専門家である弁護士に任せることをおすすめします。
もしご自身で損害賠償請求を行う際には、以下の点に留意してください。
ポイント
- 損害賠償請求の期限を守ること
- 損害を証明する資料を揃えること
- 加害者の任意保険会社と交渉すること
- 裁判を起こす場合の準備をすること
損害賠償請求には期限があります。期限を守らないと、損害賠償請求できなくなることがあります。
また、損害を証明する資料を揃えないと、相手方との交渉では損害賠償請求が認められないため、資料の収集には力を入れましょう。
加害者の任意保険会社と交渉する際には、関連する法律を理解していないと不利になることがあります。さらに裁判を起こす際は、訴状の作成や証拠の提出など、複雑かつ手間のかかる準備が必要です。
被害者自身では損害賠償請求を行うことが難しいと感じた場合は、早めに弁護士依頼を検討してください。
損害賠償請求を弁護士に依頼するメリットは?
交通事故後の運動障害による損害賠償請求を弁護士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
- 損害賠償請求の手続きをサポートしてもらえる
- 被害者に代わって権利を主張し、適切な賠償を目指せる
- 損害賠償請求額を増額できる可能性が高くなる
弁護士は、交通事故の損害賠償請求に関する法律やノウハウをよく知っています。そのため、被害者自身で損害賠償請求の手続きをおこなうより、スムーズに進められるでしょう。
また、仕事や家事、リハビリに並行して損害賠償請求の準備を進めることは、とても大きな負担になると思います。複雑な手続きを弁護士に任せることで、少しでも早く日常生活を取り戻すことが期待できます。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了