上腕骨近位端骨折の後遺症とは?後遺障害等級認定のポイントや対処法を解説
交通事故で肩から腕に強い衝撃を受けた際、「上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)」という肩に近い部分の骨折を負うことがあります。特に自転車やバイクでの転倒事故、歩行中の車との接触事故などで起こりやすい骨折です。
上腕骨近位端骨折が治癒しても、肩の動きが悪くなる、腕が上がらない、痛みが続くといった後遺症が残るケースも少なくありません。こうした症状が残った場合、後遺障害等級が認定されれば、慰謝料や逸失利益などの損害賠償を請求できる可能性があります。
本記事では、上腕骨近位端骨折の概要から症状、治療方法、後遺症が残った際の対応までわかりやすく解説します。納得のいく補償を受けるために、ぜひ最後までご覧ください。
目次
交通事故で生じる上腕骨近位端骨折とは?
交通事故の衝撃で肩まわりに大きな力が加わると、上腕骨の近位端(肩に近い部位)が骨折する「上腕骨近位端骨折」を負うことがあります。特に高齢者や骨粗しょう症のある方は骨がもろくなっており、わずかな衝撃でも骨折につながるリスクが高いでしょう。
ここでは、上腕骨近位端骨折の特徴や症状について解説します。
上腕骨近位端骨折とは?
上腕骨とは二の腕の骨のことをいい、上腕近位端骨折とは肩関節に近い二の腕の上部の骨が骨折することをいいます。
上腕骨近位端骨折は、肩の動きに大きく関わる部位が骨折するため、機能障害が残ることが少なくありません。
交通事故では転倒して肩を地面に打ち付けたり、手を突いただけでも上腕骨近位端骨折が生じてしまうことがあります。
上腕骨近位端骨折の症状
上腕骨近位端骨折の症状は、肩患部の強い痛みや腫れがみられます。
上腕骨近位端骨折による骨のずれ(転位)が大きい場合や関節部分まで骨折が及んでいる場合には、関節の機能に重篤な影響を及ぼすことがあります。放置すると、関節拘縮や肩関節の変形、神経麻痺などの後遺症が残るおそれもあるので、適切な治療が必要です。
上腕骨近位端骨折の治療法
上腕骨近位端骨折による骨のずれ(転位)がないなら、骨折箇所の固定を行います。骨のずれが小さい場合には、ずれた骨をもとに戻したうえで固定し、治癒を待つことになるでしょう。固定期間は大体4~8週間程度が多いです。
もっとも、骨折のずれが大きい場合には、4週間程度の入院治療ののち、大体2~3ヶ月程度で骨が癒合することになるでしょう。
また、肩関節の可動域を回復させるための積極的なリハビリが不可欠です。回復の程度によっては、後遺障害が残り、等級認定の対象となる可能性があります。
上腕骨近位端骨折で後遺症が生じたら後遺障害の認定を受けよう
交通事故で上腕骨近位端骨折を負った場合、肩の動かしづらさ(機能障害)、正しくくっつかずに変形・本来とは違うところで骨が癒合して異常な動きをしめす偽関節(変形障害)、痛み(神経障害)といった後遺症が残ることがあります。
このような後遺症が残った場合には、後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けましょう。
後遺障害に該当すると判断されると、症状の程度に応じて認定される等級に応じて、請求できる金額が増額するのです。
後遺障害認定の申請方法
後遺障害の認定を受けるためには、以下に示す手順に従う必要があります。
- 速やかに医師の診断を受ける
- 後遺障害診断書などの必要書類を取得する
- 自賠責保険会社に後遺障害の申請を行う
- 自賠責保険会社から後遺障害の認定を受ける

この手順は被害者請求という方法です。
被害者請求は、被害者が主体的に後遺障害申請の手続きを進める方法といえます。申請書類の吟味ができる分、後遺障害認定率を上げるための工夫が可能です。
その一方で、被害者請求は手間がかかる方法ともいえるのですが、弁護士がサポートすることでその負担を大きく軽減できます。

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後遺障害認定を受けるための注意点
後遺障害の認定を受けるためには、以下の点に注意する必要があります。
- 早期に医師の診断を受ける
- 後遺障害診断書を正確に作成してもらう
- 後遺障害の申請書類を丁寧に作成する
- 書類の作成や申請方法に疑問がある場合に弁護士に相談する
自賠責保険会社が認定した後遺障害等級に納得がいかない場合は、異議の申し立てが可能です。
交通事故による上腕骨近位端骨折で認められる後遺障害等級は?
交通事故により上腕骨近位端骨折を負った場合、以下のような後遺障害が生じる可能性があります。
- 肩が以前よりも動かなくなった(機能障害)
- 骨折箇所がうまくくっつかずに変形している(変形障害)
- 肩の痛みが引かない(神経障害)
それぞれの後遺障害について、認められる可能性がある後遺障害等級を紹介します。
機能障害(肩が動かしづらい・動かない)
上腕骨近位端骨折を負ったことで肩の動かしづらさが残ったり、ひどい場合は肩が動かなくなったりすることもあります。そうした肩の動かしづらさは機能障害といわれ、後遺障害8級6号、10級10号、12級6号に認定されるものです。
等級 | 症状 |
---|---|
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の関節の機能に障害を残すもの |
3大関節とは、「肩関節」、「肘関節」、「手関節」のこと
8級6号の「用を廃したもの」とは、たとえば肘関節の可動域が骨折していない腕と比べて10分の1以下程度となったり、人工関節や人工骨頭を挿入したことで可動域が2分の1以下になった場合です。
10級10号の「著しい障害を残すもの」とは、たとえば肘関節の可動域が2分の1以下になったり、人工関節や人工骨頭を挿入し、可動域が2分の1以下にならなかった場合をいいます。
12級6号の「障害を残すもの」とは、関節の可動域が4分の3以下になった場合です。
変形障害(変形した・変な動きをする)
上腕骨近位端骨折が正しく癒合しないことで、変形してしまうことがあります。また変形した結果、本来はくっつくはずのところが関節のようになってしまい、動いてしまうのです。上腕骨近位端骨折による変形障害は、後遺障害7級9号、8級8号、12級8号認定を受けられる可能性があります。
等級 | 症状 |
---|---|
7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
7級9号の「1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは、以下のいずれかに該当し、かつ、常に硬性補装具を必要とする場合です。
- 上腕骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
- 橈骨及び尺骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの
8級8号「1上肢に偽関節を残すもの」とは、以下のいずれかに該当するものといいます。
- 上腕骨の骨幹部等に癒合不全を残し、常に硬性補装具を必要とはしない
- 橈骨及び尺骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残し、常に硬性補装具を必要とはしない
- 橈骨及び尺骨のいずれか一方の骨幹部に癒合不全を残し、時々硬性補装具を必要とする
12級8号「長管骨に変形を残すもの」とは、以下のような症状などとなっています。
- 上腕骨の変形が外見からわかる
- 橈骨及び尺骨の変形が外見からわかる
- 上腕骨、橈骨、又は尺骨の骨端部に癒合不全を残す
神経障害(痛みが取れない・しびれている)
上腕骨近位端骨折による骨折箇所が癒合しても、痛みやしびれといった神経症状が残ってしまうことがあります。こうした神経症状は後遺障害12級13号または14級9号認定を受けられる可能性があるものです。
等級 | 症状 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残す |
14級9号 | 局部に神経症状を残す |
痛みが残っていることが画像所見などから客観的に明らかにできる場合には「医学的に証明できるもの」として12級13号の認定を受けられます。
客観的な証明ができないものの、交通事故の態様・治療内容・治療中における症状の変遷などから痛みが残っていると判断できる場合には、14級9号の認定がなされるでしょう。
交通事故による上腕骨近位端骨折で後遺症が残ったらいくら請求できる?
後遺障害等級認定を受けることで請求額が増加
交通事故で後遺症が残った場合、後遺症の症状が後遺障害に該当すると認定されることで後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できます。
上腕骨近位端骨折に関する後遺障害慰謝料について
後遺障害慰謝料は、後遺障害を負ったことで生じる精神的苦痛に対する損害賠償金です。逸失利益は、後遺障害が原因で将来的に得るはずだった収入が減ったことに対する損害賠償金となります。
後遺障害慰謝料の金額は、認定された等級に応じて異なり、具体的な金額は以下の通りです。
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
10級 | 550万円 |
12級 | 290万円 |
14級 | 110万円 |
なお相手の任意保険会社が提示してくる後遺障害慰謝料は、こうした慰謝料額よりも低額と予想されます。なぜなら、相手の任意保険会社はあくまで自社基準にのっとった金額算定をするからです。
弁護士や裁判所といった損害賠償請求の実務を知り尽くした、法的に適正な金額を算定する立場とは違うことを知っておきましょう。

そして、相手の任意保険会社の言うままに示談を受け入れると損をする可能性が高いです。弁護士を立てて増額交渉をしていく必要があります。
上腕骨近位端骨折に関する逸失利益について
逸失利益とは、本来は得られるはずだった将来の収入が後遺障害によって減ったことへの補てんとして請求します。
逸失利益の金額は、後遺症の程度や、年齢、職業、事故前の収入などによって異なります。くわしい金額を知りたい場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。
後遺障害等級認定を受けなくても請求できる損害
交通事故により腕骨折となり、後遺症が残った場合には、以下のような損害についても請求が可能です。
費目 | 内容 |
---|---|
治療関係費 | 治療費、入院費、通院交通費、装具代など |
休業損害 | 治療のために仕事を休んだことによる減収 |
入通院慰謝料 | 治療期間に負った精神的苦痛に対する金銭 |
物的損害 | 自動車や自転車の修理費、壊れた衣類代など |
具体的にどのような損害をいくら請求できるのかについては、専門家である弁護士に相談すべきでしょう。
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弁護士費用に不安がある方へ
アトム法律事務所は、依頼時に原則として費用のかからない料金体制をとっています。弁護士費用をお支払いいただくタイミングは、示談が成立して示談金額が確定してからです。
ここで「弁護士費用特約」に注目しておきたいと思います。

弁護士費用特約とは、被害者の弁護士費用を保険会社が補償してくれるというものです。補償額は約款次第によるものの、法律相談料10万円、弁護士費用300万円を上限とする場合が多いといえます。
弁護士費用特約の有無 | 弁護士費用の請求先 |
---|---|
あり | 被害者の保険会社 |
なし | 被害者本人 |
ほとんどの交通事故の弁護士費用は、弁護士費用特約の補償範囲内におさまります。そのため、被害者は追加請求されることなく、自己負担金0円で弁護士を立てることができます。
もっとも、損害賠償金額が数千万円におよぶときには注意が必要です。弁護士費用特約の補償上限を超えた分は、被害者に請求することになります。
しかし弁護士により実現した増額分とご自身の負担する弁護士費用を比べたとき、弁護士費用を払ってでも弁護士に依頼するほうが得をすることが大多数です。

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了