交通事故の示談|手続き開始時期と期間、示談内容のポイント
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新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。
交通事故の示談交渉は、ひとつひとつが重要なプロセスです。
プロセスのひとつでも誤った認識でおこなってしまうと、結果的に受け取れる示談金は低くなってしまうでしょう。
交通事故で被害者という立場に置かれただけでも、被害者やその家族は大変な苦労をともないます。
にもかかわらず、示談金が本来より低額になってしまえば、それは被害者の損害が賠償されたことにはなりません。
当記事では、交通事故の被害者が、示談交渉の手続きにおいて失敗しないようポイントごとに解説しています。
示談手続きにおいて不安をお持ちの被害者の方は、納得の解決が得られるようぜひご一読ください。
目次
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示談交渉の手続き
示談成立までの流れ
交通事故の示談交渉に関する手続きは、大まかに次の通りです。
示談成立までの流れ
- 交通事故発生
- 治療開始
- 治療の終了・症状固定日確定
- 後遺障害等級認定の申請(後遺症が残った場合)
- 示談交渉の手続き開始
- 示談案の検討
- 示談案に合意(示談成立)
示談の手続きはいつ始める?
示談の手続きを始めるのは、すべての損害が明らかになり、示談金の算定が出来るようになったときです。ケガが完治した場合には治療終了時点、後遺症が残った場合には後遺障害等級認定の結果通知後となります。
死亡事故の場合は、四十九日の法要代も示談金として請求が可能であることから、四十九日が終わった段階となるでしょう。
このころには、示談金の請求を行う遺族も冷静に示談交渉が可能となるので、示談手続きを開始することになります。
示談手続きの開始時期
事故の結果 | 手続き開始時期 |
---|---|
完治した | 治療終了 |
後遺症がある | 後遺障害等級認定の結果通知後 |
死亡事故 | 四十九日などの法要後 |
示談の手続き期間はどれくらい?
事故発生から示談開始までの期間
示談手続きまでにかかる時間は、交通事故の被害によって変わります。治療に時間を要することもあれば、後遺障害等級認定に時間がかかることもあるのです。
後遺障害の認定にかかる期間は、ほとんどのケースで2ヶ月程度とされています。その一方で、複数個所の後遺障害等級認定が見込まれる場合や、高次脳機能障害といった等級認定の判断に時間がかかるケースは、事故日から示談開始まで1年以上かかることも十分あります。
示談手続開始から終了までの期間
示談手続開始から終了するまでの期間は、事故によって千差万別で、相手方との争いが少ないほど早く終わります。
示談とは、事故当事者同士の話し合いによって争いを解決する方法です。いいかえれば、お互いで納得できる示談内容が決まれば示談は終了となります。
加害者である交通事故の相手方から示談案の提示を受けると、示談手続きスタートです。加害者の多くは任意保険に加入しているので、加害者が加入している任意保険会社が示談案の提案を行ってくるでしょう。
被害者は示談案を確認してください。示談案への疑問は相手方の任意保険会社にたずねましょう。このやり取りを繰り返し、双方で一定程度の譲歩をしながら合意を目指します。
示談案が確定したのであれば、確定した内容で示談書が作成され、任意保険会社から送付されるでしょう。示談書に署名押印を行い任意保険会社に返送すると、指定した口座に示談金が振り込まれ、示談は終了となります。
示談手続きが長引くケース
相手方の主張や認識と差異がある場合、示談は長引く恐れがあります。たとえば次のようなケースです。
- 過失割合でもめている
交通事故における被害者の過失割合に応じて示談金が減額となるため、もめることが多くなるのです。過失割合の判断は明確な基準がないことも原因となります。
(関連記事『交通事故の過失割合でもめる3パターン&対処法』) - 損害額が大きい
損害額が大きいと示談金も大きくなるので、相手方が少しでも示談金を下げようと抵抗してくるため、長引きやすくなります。特に、死亡事故では請求金額が大きくなりやすいので、長引く可能性が高いでしょう。
(関連記事『死亡事故の慰謝料相場はいくら?遺族が請求すべき損害賠償金の解説』) - 相手方が任意保険に加入していない
相手方が任意保険に加入していないと、直接相手方に請求を行うことになりますが、相手方自身に損害額全額を支払う資力がないことが多いため、示談金額をどうするかがもめやすくなります。
(関連記事『交通事故相手が無保険でお金がない!賠償請求時の対処法6つ』)
もめやすいポイントと対処法の解説記事『交通事故の示談交渉で保険会社ともめる原因とトラブル解決方法』も併せてお役立てください。
示談には一定程度の譲歩が必要ですが、被害者にとって譲れない部分があるのも事実です。相手方との示談手続きを適切に行いたいなら、弁護士への相談をおすすめします。
示談内容が提示されたら確認すること
示談交渉が始まると、加害者が加入している任意保険会社は損害賠償金額を計算し、すでに支払われた損害賠償金以外の部分を示談金として被害者に提示してくるでしょう。
任意保険会社から示談金が提示されたら、被害者が確認しなければいけないことはおおきく以下の2つです。
- 示談金の項目
- 示談金の金額
示談金の項目となるもの
- 治療費
診察費用、入院代、手術代など治療のためにかかった費用 - 入通院交通費
入院や通院の際に発生した交通費 - 入通院付添費用
入院や通院の付添が必要な場合に発生する費用 - 入院雑費
入院中の日用品や通信費など - 休業損害
ケガの治療をするために仕事ができなくなったことによる損害 - 逸失利益
被害者に後遺障害が残った、または、死亡したことで仕事により得られたはずの利益が得られなくなったという損害 - 将来介護費
将来にわたり介護により発生する費用 - 装具・器具等購入費
義手や義足などの作成、購入費用 - 葬儀関係費用
葬儀代や四十九日といった法要の費用 - 入通院慰謝料
ケガの治療をするために入院や通院を行うことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料 - 後遺障害慰謝料
後遺障害を負ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料 - 死亡慰謝料
被害者が死亡したという精神的苦痛に対する慰謝料 - 物損に関する費用
自動車の修理代や代車費用など
示談金とは、治療費や慰謝料などすべてひっくるめたお金の総称です。
示談案に書かれた支払い項目に抜けがないか、しっかり確認をしましょう。
示談金の金額や計算方法についてもかならず確認してください。
たとえば、休業損害請求に関する注意点の一部を例示します。
- 有職者の場合は、有給休暇を使って通院しても、別途休業損害を請求できる。
- 専業主婦・専業主夫の休業損害は不十分な金額提示がされやすい。
- 休業損害は請求書類が不十分だと適正に受けとれない可能性がある。
休業損害は職業や家庭での役割に応じた適正な日額を知ることがポイントになります。また、給与所得者が休業損害を請求する際には、勤め先に休業損害証明書を作成してもらうなどの手続きが必要です。
示談金がいくらぐらいになるのか、日々の生活に直結しやすい休業損害請求については関連記事をお役立てください。
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示談金を計算する3つの基準と注意点
示談金額を算定する方法は、誰が算定するかで様々です。
示談金の計算基準には、以下の3つがあります。
- 自賠責基準
自賠責保険が保険金を計算する際に利用する計算基準 - 任意保険基準
任意保険会社が示談金を計算する際に利用する保険会社独自の計算基準 - 裁判基準
裁判において損害賠償金額を決める際に利用する計算基準
弁護士が示談金の金額を決める際にも利用するため弁護士基準とも呼ばれる
相手方の自賠責保険会社が計算するときには自賠責基準、任意保険会社が計算するときには任意保険基準となるので、同じ交通事故でも、金額が変わる可能性があります。
そして、交通事故の被害者にとって極めて重要な計算方法は、裁判基準です。3つの基準を順番にみていきましょう。
(1)自賠責基準
自賠責保険は加入が強制されている自動車保険であるため、加害者が加入している自賠責保険会社に対して請求を行うことが可能です。
しかし、自賠責保険の支払い基準は公正な基準で定められており、交通事故被害者に最低限の補償を行うことを目的とすることから、結果的にその金額は低いものになります。
たとえば、入通院慰謝料を自賠責基準で受け取る場合は、原則1日あたり4300円(事故日が2020年3月31日以前に起きた場合は4200円)で計算されます。
死亡した場合の本人に対する慰謝料は、400万円となっています。
自賠責基準の金額は、自賠責保険の支払い基準に定められたものになり、交渉という概念も存在しません。つまり被害者は、最低限この支払い額は請求できるということになります。
なお、事故により仕事に行けなかった場合の休業損害については、自賠責保険の支払い基準ですと、1日あたり原則6100円(事故日が2020年3月31日以前に起きた場合は5700円)になります。
(2)任意保険基準
自賠責保険会社に対して請求を行っても不十分である部分については、任意保険会社に請求することになります。ただし、自賠責保険会社に対して先に請求する必要はないので、任意保険会社だけに請求することも可能です。
任意保険基準については、そもそも一般公開されていません。よって、正確なデータで計算基準をお伝えすることができません。
ただ、以前に任意保険が基準としていた旧任意保険基準が現在でも参考にされているといわれています。
その基準によれば、自賠責基準と、のちにお伝えする裁判基準のあいだをとった金額であるとされています。
しかし実際の示談交渉の場では、自賠責保険の支払い基準で示談交渉をしてくる担当者も少なくないでしょう。
ここまでお伝えした、自賠責保険の基準・任意保険の基準については、以下の参考記事を一読されることをおすすめします。
(3)裁判基準
裁判基準は、示談交渉を弁護士がおこなう際や、裁判で争う場合に使用する計算基準です。
自賠責保険が支払う最低限の補償・任意保険会社が支払う保険金という概念と違い、れっきとした損害賠償金だと思ってもらえるとわかりやすいかもしれません。
つまりその計算基準は、もっとも高額に算出される仕組みになっているのです。
たとえば入通院慰謝料は、通称、赤い本と呼ばれている民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準という書籍に記載されている別表により、金額を算定します。
(関連記事『交通事故の慰謝料計算機|示談前に確認できる簡単計算ツール』)
死亡慰謝料については、被害者が一家の支柱であれば2800万円、母親・配偶者であれば2500万円、その他でも2000万円~2500万円という高額基準になっています。
被害者が弁護士に示談交渉を委任した場合は、より裁判基準に近い金額で保険会社と合意にいたることが期待できます。
慰謝料の計算方法をもっと詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故の慰謝料を正しく計算する方法』を併せてお読みください。

【注意】示談金はいくらであっても成立する
示談交渉で確定する示談金は、いくらであっても成立することをご存知でしょうか。その理由は、合意の原則にもとづいているからです。
示談交渉とは当事者同士の話し合いをいい、成立にはただひとつ、当事者間の合意があれば十分なのです。
しかしその合意が、本当に被害者にとって納得の解決といえるかどうかは自問自答する必要があります。
仮にも加害者側から不当に低額な示談金を提示されたり、本来もらえる金額との著しい相違があった場合は、納得してはいけません。
被害者が納得してしまえば、そこで示談が成立してしまいます。
被害者ご自身で判断ができかねるときは、弁護士に相談しましょう。
示談前であれば間に合います。
被害者が知識なく示談をしてしまうと、結果的に損をすることも考えられます。
示談交渉のプロセスにおいては、プロの第三者に相談することが非常に重要といえるでしょう。
示談金の請求は時効にも注意
保険会社との示談交渉がまとまらないとき、被害者はそのままご自分で交渉を継続するか、弁護士などに相談するか迷われるかと思います。
しかし、どの手続きを希望した場合であっても、示談金の請求には時効期限があることを知っておかなければなりません。
時効は、被害者を救済するという側面もありながら、権利を行使できるのにもかかわらず、行使しないでいる者を保護する必要はないという意味合いもあります。
せっかくの権利を行使せぬまま、うっかり消滅させないよう注意しましょう。
治療費や慰謝料等の人損部分に関する損害賠償金は、5年で消滅時効にかかります。一方、自動車の修理費用や代車費用などの物損部分については3年です。
また、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時を起算点としています。
第七百二十四条の二
民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
示談手続き・交渉プロセスについては弁護士に相談
弁護士に依頼するメリット
示談金額が高額になる可能性が高い
弁護士に依頼することで、弁護士が裁判基準にもとづいて示談金の計算を行い、請求を行ってくれます。
一方、相手方である任意保険会社は任意保険基準により計算された示談金の支払いを提案してくるでしょう。
しかし、専門家である弁護士からの請求であれば法的根拠が存在するため譲歩してくる可能性が高くなります。
そのため、弁護士に依頼すると示談金が高額になる可能性が高くなるのです。

示談手続きを弁護士が行ってくれる
弁護士に依頼すると、弁護士が示談交渉を代わりに行ってくれるので、任意保険会社からの連絡も弁護士が対応してくれます。
そのため、任意保険会社との示談交渉によるやりとりでストレスを感じることもなくなり、治療に専念することが可能です。
また、弁護士は示談手続きの流れを理解しているので、スムーズに示談交渉を進め、速やかに妥当な解決を行ってくれるでしょう。
依頼するならアトム法律事務所へ
弁護士に依頼を行うなら、交通事故事件の経験がある弁護士に依頼しましょう。
過去の経験から、適切な示談金を得られるよう手続きを行ってくれるでしょう。
アトム法律事務所では、人身事故の被害者相談を無料で受け付けています。
交通事故事件を多く取り扱っているので、経験豊富な弁護士に相談することが可能です。
その後の弁護士費用について心配な方は、被害者ご自身が加入している任意保険会社に相談してみてください。
弁護士費用特約の付帯があれば、ぜひ利用するといいでしょう。
ご自身の契約車のみならず、ご家族名義の車に付帯されていれば、利用できる場合があります。
弁護士費用特約に関する記事は、『交通事故の弁護士費用特約を解説|使い方は?メリットや使ってみた感想も紹介』が参考になります。
まとめ
- 示談交渉の手続きはひとつひとつが重要なプロセスである
- 示談金は、第一に当事者の合意で確定する
- 示談金は、裁判基準で計算すると高額になる
- 弁護士に示談手続きを依頼すると、裁判基準に近い示談金が得られる
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了